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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科55巻4号

2020年04月発行

雑誌目次

特集 人工関節周囲感染の現状と展望 国際コンセンサスを踏まえて

緒言 フリーアクセス

著者: 田中康仁

ページ範囲:P.310 - P.310

 超高齢時代になり,わが国における人工関節置換術の手術数は増加し,さらに糖尿病や人工透析などのリスクを抱えた症例の割合も高くなっている.それに伴い感染症を起こす割合も増加してきている.人工関節の手術における手術部位感染(SSI)は重大な問題であり,起こしてしまった時のショックは,患者は当然のこと,医師にとっても非常に大きいものがある.

 急性期の感染であれば診断は比較的容易であるが,慢性化させないための適切な初期対応が非常に重要になってくる.また,遅発性感染の場合には炎症反応が乏しく診断に難渋することも多い.さらに起炎菌が明らかにならないことも多く,治療法の標準化が強く求められてきた.そこで2013年に米国フィラデルフィアでJavad Parvizi先生らが中心となり,第1回人工関節周囲感染(PJI:periprosthetic joint infection)に関するコンセンサス会議が開かれ,204の設問に対する回答が示された.これによりPJIに関して,診療で疑問に思われる事項に対する標準的なコンセンサスが全世界に普及し,整形外科全体に大きな恩恵を及ぼすことになった.

International Consensus Meeting(ICM)概説・ICM翻訳本出版の経緯

著者: 宗本充 ,   田中康仁

ページ範囲:P.311 - P.313

 2013年,Musculoskeletal Infection Society(MSIS)総会で第1回International Consensus Meeting(ICM)on PJI(periprosthetic joint infection)が開催され,会議に出席した専門家によりPJIに関する204の設問に対してコンセンサスがまとめられた.2018年に開催されたICM on Musculoskeletal Infectionでは,PJIのみならず,筋骨格系の感染全般に対する予防,診断,治療などに関する652の設問のコンセンサスが作成された.ICMの内容はWebに英語で掲載されており閲覧可能であるが,質問と推奨の部分を翻訳した日本語版が出版されている.

抗菌薬の適正な使用,手術室での予防

著者: 山田浩司

ページ範囲:P.315 - P.319

 2018年に国際コンセンサスが全面改訂された.予防抗菌薬は第一世代セフェムが,βラクタム薬アレルギー患者ではバンコマイシンが推奨された.予防抗菌薬の術後追加投与の必要性の有無については明言を避け,予防を目的とした抗菌薬の局所投与は十分なコンセンサスが得られなかった.その他,さまざまな手術部位感染(surgical site infection:SSI)対策があり,本稿では特に重要と思われる対策を取り上げたが,概ね2015年に作成された骨・関節術後感染予防ガイドラインと同様の内容であった.SSIのおよそ半数は,エビデンスに基づいた対策で予防できる.是非これらのガイドラインをご確認いただき,エビデンスに基づいたSSI対策を導入していただきたい.

人工関節周囲感染(PJI)の患者リスク因子—第2回国際コンセンサスを踏まえて

著者: 井上大輔 ,   加畑多文 ,   楫野良知 ,   大森隆昭 ,   上野琢郎 ,   吉谷純哉 ,   上岡顕 ,   山室裕紀 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.321 - P.327

 人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)は,いったん発生すると治療に難渋する病態である.PJIの発症を予防するためには,どのような患者リスク因子が存在しているのかを,さまざまなガイドラインを参考にしながら,把握しておく必要がある.なぜなら,対策を講じることでPJI発症のリスクを減じることが可能な場合があるからである.2018年に第2回International Consensus Meeting(ICM)が開催され,それに伴いガイドラインが改正された.改正に伴い,PJIにおける患者リスク因子に関する項目も増加している.本稿では,第2回ICMで議論された内容をもとに,PJI発症における代表的な患者リスク因子を概説する.

人工関節周囲感染に対する分子生物学的迅速診断

著者: 崔賢民 ,   稲葉裕

ページ範囲:P.329 - P.334

 感染症診断は分子生物学的な技術の進歩により,その感度と迅速性において飛躍的な発展を遂げることが可能となった.人工関節周囲感染患者における感染診断においても,リアルタイムPCRやマルチプレックスPCRによる細菌性DNAの同定,次世代シークエンサーを用いた全網羅的な原因菌の同定,POCT(point of care testing)型遺伝子検査による特定の遺伝子領域の同定は,より高い精度で迅速な診断を可能とすることが期待されている.近年,分子生物学的な手法を用いた診断は,さまざまな分野において感染症診療に不可欠な技術となっており,今後のエビデンスの構築とともに,PJIの診断および治療への応用が期待される.

人工関節感染の病理組織学的診断

著者: 稲垣有佐 ,   ,   宗本充 ,   内原好信 ,   田中康仁

ページ範囲:P.335 - P.338

 人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)の診断において,新規診断法が実用化される今日においても,病理組織学的診断は重要な位置を占め,Proposed 2018 International Consensus Meeting Criteria for PJIにおいても診断項目となっている.一般的なパラフィン固定の永久標本に加え,人工関節周囲感染が疑われる症例から採取された標本は,凍結標本として処理され,術中迅速診断に活用される.主に多形核白血球の浸潤を評価する病理組織学的診断の精度は,検体を採取する部位,検体数,処理法,検者などに依存している.Chloroacetate esterase染色は多形核白血球の視認性を向上させる方法である.

ヨード担持抗菌インプラントの基礎研究と臨床応用

著者: 楫野良知 ,   加畑多文 ,   白井寿治 ,   多賀正 ,   井上大輔 ,   加藤貴士 ,   上岡顕 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.339 - P.343

 整形外科手術における周術期手術部位感染症は,いったん発症すると治療に難渋し,いまだに解決されていない問題の1つである.この問題に対する1つの解決策がインプラントへの抗菌活性の付与である.第2回 International Consensus Meetingでも取り上げられた抗菌インプラントの1つとして,われわれはヨード担持抗菌インプラントの研究開発を行ってきた.本稿では,当科でこれまでに行ってきた基礎研究の結果と,臨床応用された場合の有効性について報告する.

治療Debridement, Antibiotics, and Implant Retention (DAIR)—一期的再置換術または二期的再置換術

著者: 内山勝文 ,   池田信介 ,   山本豪明 ,   福島健介 ,   森谷光俊 ,   高平尚伸 ,   髙相晶士

ページ範囲:P.345 - P.351

 2013年に世界で初めてのInternational Consensus on Periprosthetic Joint Infectionが開催され,整形外科医のみならず,感染症専門医,リウマチ専門医,放射線科専門医,病理学,薬理学の一流の研究者が一堂に会し,長時間にわたり多くの論文を吟味してコンセンサスが作成された.2018年に第2回International Consensus Meeting Musculoskeletal Infection(2018 ICM)が再度フィラデルフィアで開催され,新たな整形外科感染症に関するコンセンサスが報告された.私自身も国際コンセンサスミーティングに参加し,大変貴重な経験をした.人工関節周囲感染の治療についてはDebridement, antibiotics, and implant retention(DAIR),一期的再置換術,二期的再置換術について,第1回よりさらに細かい内容につき議論された.エビデンスを構築しがたい質問にまで方向性が示されており,今後の整形外科感染症治療において参考になると思われる.しかしながら人工関節周囲感染の治療については,今後さらに新たな治療法の確立が必要であると考える.

海外留学レポート

アメリカ留学・Asia Traveling Fellowshipを経験して

著者: 齋藤亘

ページ範囲:P.352 - P.354

 私は日本脊椎脊髄病学会からチャンスを頂き,Asia Traveling Fellowshipとして2018年10月29日〜11月5日に.シンガポール国立大学病院(National University Hospital, Singapore:NUHS),2018年11月11日〜11月17日に韓国ソウルにある慶熙大学病院を訪問しました.本稿ではその時の体験と,以前に経験したアメリカ合衆国での留学とを比較して,海外留学の魅力をお伝えできればと考えています.

特別リレー寄稿

お皿の骨が割れました—南極医療事情(後編)

著者: 町田浩道

ページ範囲:P.356 - P.360

はじめに

 私は日本南極地域観測隊(Japanese Antarctic Research Expedition:JARE)第55次(2013〜15年)越冬隊員の町田(外科医)と申します.越冬中は整形外科疾患が多く,国内の整形外科医の支援を受け適切な対応ができました.急性期の治療だけでなく,リハビリテーション(リハビリ)も経験しました.南極ならではの苦労はありましたが,整形外科医に支えられて難局に対処したことで,昭和基地のバリアフリー化や南極リハビリの可能性も示唆されました.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・20

Figure作成の心得—②適切な画像処理

著者: 堀内圭輔 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.362 - P.367

 Figureをデジタル画像として扱うようになってから,さまざまな画像処理が容易にできるようになりました.その恩恵によって,以前は困難だった高度で複雑なFigureを,誰でも作れるようになりましたが,データを美しく提示しようとするあまり,つい過剰に画像処理をしがちではないでしょうか.また,時折ニュースを賑わしているように,論文画像の捏造や改竄が,昨今大きな問題となっています.あらぬ誤解を受けないようにするためにも,適切な画像処理を理解しておくことは重要です.

 今回は,論文を準備するうえで必要と考えられる,画像処理についてお話しします.

やりなおし! 医療制度 基本のき・4

医療安全—「書く」ことが大事!

著者: 高橋真

ページ範囲:P.368 - P.369

 昨今は,関節腔内注射後や術後の「感染」も訴訟の対象となり得る.その発症を予防する目的で行われた,消毒法も含めた手技的な問題においては,2016年WHO,2017年CDC(米国疾病対策予防センター)のガイドラインから大きく逸脱したものでなければ,多くの場合は無責となるか,たとえ有責となっても一部容認となることが多い.たとえば関節腔内注射では,消毒を行っても完全に滅菌できるものではなく(除菌率97.3%),注射による化膿性関節炎が数千例に1回は発症するとされている.このような医事紛争では,これらの診療行為を「説明したか」,「記録したか」が争点となる場合が多い.

 ここでの「説明」とは患者の自己決定権確保のためのもので,適正な説明の欠如や誤った説明がなされれば,それはすなわち説明義務違反となり,それにより適正な医療を選択できなかった精神的慰謝料や,さらにそのために不良な結果が招来され死亡や健康被害が生じた場合は,その被害に対し賠償の責任が生じてくる.「記録」とは説明や処置も含めた診療行為のカルテへの記載である.

臨床経験

術前の患者申告による既往歴から漏れ落ちる潜在性糖尿病はどの程度存在するか?—当院の脊椎手術症例データから

著者: 須賀佑磨 ,   重松英樹 ,   田中誠人 ,   川崎佐智子 ,   山本雄介 ,   田中康仁

ページ範囲:P.371 - P.374

背景:糖尿病は脊椎手術の術後感染の予後不良因子であり,術前に糖尿病を把握することは合併症回避のために重要である.

対象と方法:当院で腰部脊柱管狭窄症,頚椎症性脊髄症と頚椎後縦靱帯骨化症に対して手術を施行した302例を対象に,本人の認識しない糖尿病の割合を調査した.

結果:「糖尿病リスク群」の49.7%(145例中72例),「糖尿病を強く疑われる」の17%(88例中15例)は,糖尿病未治療であった.

まとめ:術前に糖尿病の有無を把握することは良好な術後成績を得るために重要であり,潜在性糖尿病が24%程度存在していた.

腰椎側方進入椎体間固定術による術直後の硬膜管拡大に関する解析

著者: 檜山明彦 ,   加藤裕幸 ,   酒井大輔 ,   渡辺雅彦

ページ範囲:P.375 - P.379

目的:腰椎側方進入椎体間固定術(lateral lumbar interbody fusion:LLIF)による間接除圧に関わる影響因子について検討することを目的とした.

対象と方法:椎間不安定性を伴う腰部脊柱管狭窄症やすべり症患者59例85椎間を対象に,MRIを用いて硬膜管面積や硬膜管前後径を術前後で比較した.

結果:LLIFにより硬膜管面積は術直後37.7%増加した.硬膜管面積がより狭い症例のほうが術後の拡大率が高く,硬膜管面積の拡大率とケージの設置位置との間に相関関係が認められた.

まとめ:硬膜管面積の拡大(間接除圧)には,ケージの設置位置が重要であることが改めて示唆された.

症例報告

対麻痺を来したLeriche症候群の1例

著者: 木村光宏 ,   三崎智範 ,   上田康博 ,   松本直幸 ,   大橋義徳 ,   宇賀治修平 ,   西田聡 ,   山口航

ページ範囲:P.381 - P.384

 症例は68歳男性.肺癌の治療のため呼吸器内科に入院していた.化学療法開始後9日目の朝に突然,腰殿部から両下肢全体の激しい痛みと歩行障害が出現した.転移性脊椎腫瘍による対麻痺が疑われ,当科に紹介された.両下肢全体に冷感を認め,造影CTでは腎動脈下で腹部大動脈の閉塞があり,Leriche症候群と診断された.心臓血管外科医により緊急手術が行われ,両下肢痛と対麻痺は速やかに改善した.担癌患者で対麻痺が出現した場合には,転移性脊椎腫瘍とともに本症候群の鑑別も必要と思われる.

上腕骨近位部の骨表面に発生したグロムス腫瘍の1例

著者: 杉浦喬也 ,   生田国大 ,   新井英介 ,   酒井智久 ,   小池宏 ,   西田佳弘

ページ範囲:P.385 - P.388

背景:爪下以外に発生するグロムス腫瘍は稀であり,特徴的な画像所見がないため診断に難渋することも多い.

症例:15歳,男性.1年前から投球時に左肩関節前方の疼痛が出現した.CT,MRIでは上腕骨近位骨幹端に皮質を圧排する腫瘍病変を認めた.病変は増大を示し,疼痛が持続していた.臨床診断として血管腫を疑い腫瘍切除を施行した.術後病理診断はグロムス腫瘍であり,術後1年現在,再発を認めず無症状である.

まとめ:グロムス腫瘍は手指または浅層発生が主体であるが,上腕骨近位部骨表面に発生した稀なグロムス腫瘍の1例を経験した.

書評

これでわかる!抗菌薬選択トレーニング—感受性検査を読み解けば処方が変わる フリーアクセス

著者: 青木眞

ページ範囲:P.389 - P.389

 2016年5月に開催された先進国首脳会議,通称「伊勢志摩サミット」で薬剤耐性(AMR)の問題が取り上げられ,当時の塩崎恭久厚生労働大臣のイニシアチブの下さまざまな企画が立ち上げられた.国立国際医療研究センターにある国際感染症センターの活動も周知のとおりである.

 にもかかわらず,広域抗菌薬の代表とも言えるカルバペネム系抗菌薬の消費が,日本だけで世界の7割を占めるという状況から,(一部の意識の高い施設を除いて)大きく変わった印象が現場に少ない.もちろん,最大の原因は「感染症診療の原則とその文化」の広がりが均一でないことによる.しかし,さらに突き詰めると,実は「抗菌薬感受性検査の読み方」が十分に教育できていないことも大きな理由の1つである.感受性検査の結果をS,I,Rに分類して単純に「Sを選ぶ」ことに疑問を抱かない問題と言ってもよい.1つひとつの症例で,ある抗菌薬が選ばれる背景には,感受性が「S」であること以外にも,微生物学的・臨床的・疫学的など多くの理由がある.その理解なしに,適切な抗菌薬の選択は不可能あるいは危険なのである.評者も,群馬大におられた佐竹幸子先生らとともにNPO法人EBICセミナーの一環として「抗菌薬感受性検査の読み方」シリーズを10年以上にわたり講義してきた.その講義は現在,日本感染症教育研究会(通称IDATEN)に引き継がれている.しかし,そのエッセンスを伝える書物は本書の発行まで皆無であった.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.307 - P.307

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.390 - P.390

あとがき フリーアクセス

著者: 松本守雄

ページ範囲:P.394 - P.394

 中国武漢で新しい感染症として見つかった新型コロナウイルス(COVID-19)感染がグローバリゼーションを背景に全世界に広がり,社会に大きな負のインパクトをもたらしている.本邦では感染拡大防止のために,各種水際対策,指定伝染病決定,個人のスタンダードプリコーション奨励,大規模集会の自粛,体調不良者の自宅待機などが打ち出されているが,これらがどこまで効力を上げるかは今後を待たなければならない状況である.COVID-19の死亡率はSARS,MERSほどは高くないものの,高齢者やcompromised hostなどでは致死的になるリスクが高い一方,無症候性あるいは症状の軽微な感染者も存在し,感染拡大の一因になっているとされる.多くの医療機関は本症への準備・対応に忙殺されており,学術集会や講演会なども次々と延期・中止になっており,医学・医療界に及ぼす影響も甚大である.今回のCOVID-19感染のように,人類は既存の,あるいは新種の微生物との戦いを有史以来続けてきた.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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