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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科55巻6号

2020年06月発行

雑誌目次

特集 各種骨盤骨切り術とそのメリット

緒言 フリーアクセス

著者: 山本卓明

ページ範囲:P.682 - P.682

 変性性股関節症の原因として,わが国では臼蓋形成不全が最多(80%程度)であることは周知の事実である.そのため,関節症進行の予防を目的とした保存療法を含めた多くの治療法が提唱されてきた.

 そのうち,外科的治療法として骨盤骨切り術が考案され,日本においてもアプローチの違いなどを含め複数の術式が開発された.それぞれの術式の目指すところは,骨盤被覆および関節不安定性の改善で,完全に一致している.また,どの術式も良好な術後成績が報告されている.骨盤骨切り術の有用性は実証済みであり,多くの施設で本手術が行われている.

寛骨臼回転骨切り術

著者: 中村茂

ページ範囲:P.683 - P.687

 寛骨臼回転骨切り術は側臥位で行い,X線透視装置は使用しない.大転子を骨切りせずに前方進入と後外側進入とを合併して進入する.腸骨,坐骨,恥骨の骨切り線すべてを確実に直視する.骨切りは弯曲ノミで行い,回転する寛骨臼側に内板の一部が付くようにする.寛骨臼の回転移動後は,Kirschner鋼線で仮固定しX線撮影で確認したのちにポリ乳酸スクリュー2〜3本で内固定する.腸骨,恥骨,坐骨の3点でしっかりと骨切り部が接触し,骨切り部が安定していることが重要である.

寛骨臼移動術の特徴とそのメリット

著者: 本村悟朗 ,   中島康晴

ページ範囲:P.689 - P.692

 寛骨臼移動術(transposition osteotomy of the acetabulum:TOA)は1956年に西尾によって考案された骨盤骨切り術であり,寛骨臼を外側から掘り出し回転移動させる術式である.原法では大転子の切離を行い腸骨外板を露出させることにより,良好な視野の下で骨切りすることが可能となり,骨切り後の回転移動も行いやすくなる.大転子切離を行うことで得られるメリットがある一方で,術後は大転子部の骨癒合も考慮した後療法が必要である.そこで,2011年から大転子切離を行わずに関節の前後方向から腸骨外板の骨切りを行うことを試み,現在は標準術式として行っている.

Curved Periacetabular Osteotomyの特徴とそのメリット

著者: 木下浩一 ,   山本卓明

ページ範囲:P.693 - P.697

 Curved periacetabular osteotomyは寛骨臼形成不全に対して行われる骨盤側骨切り術の1つである.その特徴は仰臥位で恥骨,内板を骨切りして行うことである.メリットは小皮切で行えること,外転筋群を一切剥離しないため,術後の中殿筋機能や移動骨片の血流に有利であることなどが挙げられる.一方で外側大腿皮神経障害,坐骨骨切りを直視下に行えないことによる坐骨の疲労骨折,遷延癒合,骨産道への影響などのデメリットがある.

Spherical Periacetabular Osteotomy(SPO)

著者: 原俊彦

ページ範囲:P.699 - P.704

 Spherical periacetabular osteotomy(SPO)は,前方アプローチでquadrilateral surface(QLS)を切骨せずに寛骨臼を刳り抜き骨頭の被覆を改善させる手術であり,この点で他の術式と差別化される.よって,前方アプローチとQLSを切骨しないことのメリットを理解することが同手術の理解に繋がる.技術的に難しい点はQLSと寛骨臼窩間を切骨することだが,手技の工夫で安全な切骨を可能にしている.

ナビゲーション支援による寛骨臼回転骨切り術

著者: 池裕之 ,   大庭真俊 ,   稲葉裕

ページ範囲:P.705 - P.712

 近年,手術治療では高度な日常生活動作の改善が望まれ,より安全で正確な低侵襲手技が求められている.正確な手術を行うために,コンピュータ支援技術を用いた術前計画・術中支援が行われるようになっている.本稿では,コンピュータナビゲーションシステムを用いた寛骨臼回転骨切り術について,われわれの取り組みを紹介する.

CTベースト・ナビゲーションを用いたCurved Periacetabular Osteotomy

著者: 徳永邦彦 ,   平岩利仁 ,   堂前洋一郎 ,   宮坂大

ページ範囲:P.713 - P.721

 CTベースト・ナビゲーションを用いたcurved periacetabular osteotomy(CPO)の概要を述べ,術後2〜9年経過した47例50股の臨床成績を調査し,ナビゲーションを用いたCPOが有用であることを示した.しかし,現時点では回転骨片の至適設置位置が明確ではなく,実際にナビゲーションを使用して骨切りできるのが腸骨とquadrilateral surfaceのみであり,回転骨片のリアルタイムな追尾も不可能など,現行のナビゲーションシステムには多くの問題が存在している.

最新基礎科学/知っておきたい

共振周波数解析装置による新しい人工股関節カップ設置強度評価法

著者: 菊池駿介 ,   三上勝大 ,   中島大輔

ページ範囲:P.722 - P.725

 本邦では毎年約50,000人の患者が人工股関節置換術を受けており,今後も増加傾向であると予測されている.今後,件数の増加および高齢化に伴い多数回手術や脆弱骨に対する手術など厳しい条件下の手術も増加すると考えられるが,①術中骨折や,②術後初期のインプラントのゆるみ,③人工股関節カップ設置時のスクリュー血管穿破などの合併症が,このようなハイリスク手術で多く発生することが報告されている1).カップを例にした場合,これらの合併症には,①骨折は,設置強度がわからないことによる過剰な打ち込み操作,②ゆるみは十分な設置強度が得られていないこと,③血管穿破は設置強度に自信がないケースで使用するスクリューが関連する2).したがって,これらの合併症予防には,まずそもそものインプラント設置強度を誰もがわかる形で定量的に評価する手法の確立が求められる.

コラム

怖い!熱中症

著者: 高橋真

ページ範囲:P.726 - P.727

 救急医療において,患者情報が不正確で,外傷か疾病かの判断が難しいケースもある.誤った情報でⅢ度の熱中症(いわゆる熱射病)の診断が遅れ,医師の過失を指摘されたケースを紹介する.

 身体は放熱量が少ない冬仕様からすぐに夏仕様に替えられないため,5月でも気温の高い日・湿度の高い日などには熱中症を認めることがある.O県立高校2年生男子Aは剣道3段で主将を務めていた.平成21年8月22日の朝9時から剣道7段と5段の顧問教員2人が部員を指導.外気温は30℃近く,剣道場は窓全開,扇風機を回し,部員は水分を摂り保冷剤で体を冷やして練習していた.Aは他の部員より多く打ち込み稽古をさせられ,「もう無理です」と訴えても稽古を続けていた.途中から竹刀を落としたのにも気付かず構える仕草などもしていた.教員の1人がAを蹴ると,Aはフラフラと歩き壁に額を打ち頭部からの出血も認めた.11時55分頃休憩に入り,教員らはAに水分を摂らせて冷却したが,嘔吐し声掛けに応じなくなったため,12時10分頃に救急車を要請し同54分に病院へ搬入された.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・22

英文症例報告執筆マニュアル(1)

著者: 堀内圭輔 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.728 - P.731

 科学論文,医学論文にはさまざまありますが,医師であれば大抵の場合,最初に書く論文は症例報告です.これまでの連載で論文執筆の基礎をご理解いただいたかと思いますので,今回と次回の2回にわたり,症例報告執筆に必要な知識,ならびにその書き方をなるべく具体的にお話しします.症例を与える立場にある上級医にとっては既知のことばかりかもしれませんが,本連載はもともと研修医・専修医が対象ですので,ご容赦ください.研修医に症例報告を指導する際に,この記事をぜひお渡しください.

やりなおし! 医療制度 基本のき・6

交通事故診療

著者: 山下仁司

ページ範囲:P.732 - P.733

 交通事故診療は損害賠償事案でもあるため,医学的対応のみならず法律的背景の理解も必要であり,最近は弁護士からの照会なども増えてきている.本稿では,交通事故診療における留意点について述べる.

臨床経験

MIRAGE(Magnify the Interest Range of Gradient Effect) CTを用いた骨感染巣の同定の試み

著者: 立花章太郎 ,   圓尾明弘 ,   大島隆司 ,   古賀敬章 ,   宮秀俊 ,   村津裕嗣

ページ範囲:P.735 - P.740

目的:CT値関心領域を色相勾配で強調するmagnify the interest range of grandient effect(MIRAGE)CTを用いて骨感染巣を可視化できるか否かを検討した.

対象と方法:骨感染症例7例,骨折後の遷延癒合2例を対象とした.各症例の単純CT画像の,100〜900HUのCT値の領域に青から桃色の色相勾配を加える画像処理を行いMIRAGE CTを作成した.

結果:感染巣のCT値は630〜720HUの赤色に描出され,感染の治療に伴い消退した.

まとめ:MIRAGE CTは骨感染の疾患活動性を反映する可能性が示唆された.

骨片の転位のある骨性槌指に対する経皮的伸展位固定法の治療成績

著者: 弓削英彦 ,   小島哲夫 ,   小川光

ページ範囲:P.741 - P.746

背景:腱性槌指に対し当院で行っている経皮的DIP関節伸展位固定法を骨性槌指に応用し,その治療成績を報告する.

対象と方法:当方法で手術を施行した骨性槌指71例を対象とした.治療成績を検討した.

結果:治療成績は90%が成績良好であった.

まとめ:当方法での治療成績は諸家の骨性槌指の術後成績と比較しても,同等以上の成績であった.成績不良例を検討すると,掌側亜脱臼位固定,偽関節が成績不良因子と考えられた.当方法は小侵襲かつ簡便で,骨性槌指に対し有用な手術方法であると思われた.

症例報告

首下がり症候群に対し頚椎胸椎後方固定術を行った4例

著者: 田中信行 ,   古川満 ,   佐藤圭悟 ,   佐々木遼 ,   板橋正 ,   萩原健 ,   河野友祐 ,   菊池謙太郎 ,   鎌田修博 ,   奥山邦昌

ページ範囲:P.747 - P.753

 首下がり症候群に対して,前方固定術,後方固定術,前後合併手術の報告があるが明確な手術適応はなく,固定範囲に関しても一定の見解がない.われわれは首下がり症候群に対しC2から上位胸椎までの後方固定術を行い,良好な結果を得た4例を経験した.主に頚椎パラメーターの異常であり,頚椎の後屈で前方注視が可能な症例には頚椎胸椎後方固定術がよい適応と考えられる.

仙骨U字型骨折に対して,S2-Alar-Iliac Screwを用いて腰椎骨盤固定術を施行した1例

著者: 板橋正 ,   古川満 ,   大木有佑 ,   河野友祐 ,   菊池謙太郎 ,   栩木弘和 ,   奥山邦昌

ページ範囲:P.755 - P.759

 高所からの墜落など高エネルギー外傷に伴い発生する仙骨U字型骨折は,spino-pelvic dissociationと表現される脊椎と骨盤が解離した不安定な骨折型である.そのため脊椎と骨盤を強固に連結固定する腰椎骨盤固定術(spino-pelvic fixation)が適応となる.本症例の70歳男性は飲酒後歩行中に転倒し,軽微な外傷による仙骨U字型骨折を発症したため,骨脆弱性が高いと推察された.このため強固なアンカーとして両側2本ずつS2-alar-iliac screwを挿入して腰椎骨盤固定術を施行し,術後経過は良好であった.

腰椎すべり症に対しXLIF®による間接除圧効果が得られず再手術を要した1例

著者: 池尻正樹 ,   重松英樹 ,   田中誠人 ,   川崎佐智子 ,   須賀佑磨 ,   山本雄介 ,   田中康仁

ページ範囲:P.761 - P.765

 症例は71歳女性.L4変性すべり症に対して他院でExtreme lateral interbody fusion(XLIF)®を施行され,腰痛と下肢痛が残存し当院を受診した.直接除圧と後側方固定術でサルベージ手術を行った.XLIFによる間接除圧(indirect decompression:IDD)は広く普及しているが,除圧不足で追加手術を要した報告も散見される.本症例は骨性外側陥凹狭窄とケージの沈降を認めていた.過去の報告によると,骨性外側陥凹狭窄はIDD不良因子であり,また高さ12mm以上のケージとケージの椎体前方1/5設置は終板損傷のリスクが高い.IDD効果を得るには術前の画像評価とケージ設置位置が重要である.

MRI上腫瘍性病変が明瞭ではない胸腰椎椎体骨折を初発とした多発性骨髄腫の経験

著者: 向畑智仁 ,   木下知明 ,   鎌田尊人 ,   中村伸一郎

ページ範囲:P.767 - P.771

目的:胸腰椎椎体骨折を初発とし,MRI上,腫瘍性病変が明瞭ではない多発性骨髄腫を3例経験したので報告する.

対象と方法:当院で胸腰椎椎体骨折と診断された患者のうち,多発性骨髄腫であった症例のMRIを調査した.

結果:胸腰椎椎体骨折4,344例の内,多発性骨髄腫は9例であった.そのうち3例ではMRI上,腫瘍性病変を示唆する所見は明瞭ではなかった.

考察:多発性骨髄腫は初期にはMRI上,腫瘍性病変の存在が不明瞭なことがある.良性の骨粗鬆性椎体骨折と考えられる症例であっても,多発性骨髄腫の可能性を念頭に置き診断にあたる必要がある.

書評

スポーツリハビリテーションの臨床 フリーアクセス

著者: 山崎哲也

ページ範囲:P.772 - P.772

 近年,スポーツ医学の発展は目覚ましく,特にスポーツ外傷・障害における診断,治療は飛躍的に進歩してきている.しかし,われわれスポーツ整形外科医が,一人のアスリートを,外傷・障害から元のスポーツレベルまで復帰させるのは不可能であり,理学療法士によるリハビリテーションの介入,それこそ本書に記載されているスポーツリハビリテーションが不可欠と考える.

 現在,スポーツ整形外科やスポーツクリニックあるいはスポーツリハビリテーションを開設,標榜している診療所,病院が数多く存在するが,各施設により疾患あるいは種目別で得手不得手があるのも事実である.そのような状況のなかで,本書を執筆しているのは同一の施設,すなわち“横浜市スポーツ医科学センターのリハビリテーション科”に在籍する理学療法士の諸氏達である.そのため,本書の内容は,「総論(スポーツ選手のリハビリテーションの考え方)」からはじまり「部位別」,「競技別」の各項目において,ほぼ一貫したコンセプトで論じられ,かつ記載方法も統一された読みやすいものとなっている.具体的には,本書全体にわたり各項目の小見出しが同一であり,「フローチャート」および「ツリーダイアグラム」などの図表に関しても項目や色彩が統一され,写真もすべて撮影方法(背景や色調およびカメラの位置など)がほぼ同様のものとなっている.

INFORMATION

第7回SKJRC SEMINAR フリーアクセス

ページ範囲:P.766 - P.766

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.681 - P.681

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.773 - P.773

あとがき フリーアクセス

著者: 松山幸弘

ページ範囲:P.776 - P.776

 今回は山本卓明先生が各種骨盤骨切り術の特徴とそのメリットについて特集を組んでくれた.骨盤骨切り術はまさに日本人にぴったりあった手術手技の1つと思う.

 骨盤の解剖を熟知し,そして画像イメージだけに頼らず,ノミの進み具合を手で感じながら骨を切って行く.この手技は繊細さと大胆さの双方を持ち合わせたスペシャリストのみが行える,匠の技の匂いが強い.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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