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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科55巻7号

2020年07月発行

雑誌目次

特集 脊椎手術—前方か後方か?

緒言 フリーアクセス

著者: 水谷潤

ページ範囲:P.778 - P.778

 今回,「脊椎手術—前方か後方か?」というタイトルで特集を組まさせていただく機会を得た.


 脊椎手術においては,原則は前方法,後方法そのいずれも,利点と欠点が存在し患者さんの病態に応じて適切に使い分けることが必要であるが,術者の哲学,手術を行う施設環境などから,術者の得意な方法によって決定されることも多いと思われる.

頚椎OPLLに対する手術—後方法の立場から

著者: 國府田正雄 ,   安部哲哉 ,   船山徹 ,   高橋宏 ,   野口裕史 ,   三浦紘世 ,   俣木健太朗 ,   柴尾洋介 ,   河野衛 ,   江藤文彦 ,   山崎正志

ページ範囲:P.779 - P.784

 後方法で対処可能な頚椎OPLLは,K-line(+):椎弓形成術で十分除圧が得られる,K-line(+)・OPLL最大圧迫高位の椎間可動域大:椎弓形成術の成績が劣り後方固定追加を要する,K-line(−)・頚椎アライメント前弯:後方除圧固定術で良好な成績が得られる,などである.一方,後方法で対処困難なOPLLは,K-line(−)・アライメント後弯:後方除圧固定術では対処しきれず,前方除圧固定術の適応,頚椎矢状面アライメント不良例:固定追加しても矢状面アライメント悪化は防止できない,などである.

頚椎OPLLに対する手術—前方法の立場から

著者: 相庭温臣 ,   門田領 ,   望月眞人

ページ範囲:P.785 - P.792

 頚椎後縦靱帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:頚椎OPLL)に対する前方法(前方除圧固定術)は,脊髄・神経根の解剖学的な位置や形態を取り戻し,固定によって脊髄にとって安定的な環境を構築することにより,良好な成績が期待できる優れた手技である.骨化巣開削を適切かつ安全に行うためにはアプローチや椎体展開の習熟が不可欠である.また,骨化占拠率の高い症例には硬膜欠損がみられるため,術中のくも膜温存への配慮や術後の髄液漏に対する対処が必要となる.

頚椎後弯変形に対する矯正固定術—前・後合併手術はどういう時に必要か?

著者: 宮本裕史

ページ範囲:P.793 - P.798

 頚椎後弯変形に対する固定アンカーとしては,固定力に優れる頚椎椎弓根スクリューが適している.頚椎後弯変形が非整復性の場合,前方解離や椎間関節切除が必要である.脊柱管矯正を合併している症例では,後弯を整復する前に必ず椎弓形成術などの後方除圧を行ってから後弯を矯正することにより,医原性の脊髄損傷を回避できる.また,術前C4/5椎間孔狭窄合併例では,予防的椎間孔拡大術を併用しておく.治療アルゴリズムに則って術式を決定することで,本疾患に対して良好な成績を得た.

頚椎症性脊髄症に対する手術方法—前方法,後方法のDecision Making

著者: 吉井俊貴 ,   平井高志

ページ範囲:P.799 - P.803

 Cervical spondylotic myelopathy(CSM)に対する術式として,前方除圧固定術と後方椎弓形成術が代表的であるが,術式選択に関して明確な指標はない.われわれは,前向き比較研究で,術後5年においては,前方法が椎弓形成術よりも成績が良好であることを確認している.また椎弓形成術の中で成績不良となる因子として,術後の脊髄前方圧迫残存があげられる.前方圧迫残存はModified K-lineを使用して,ある程度,予測可能であり,術式選択の具体的な指標として有用である.ただし前方法は合併症発生率とコストが高く,術式選択の際にはこれらを含め総合的に判断する必要がある.

胸腰椎移行部破裂骨折に対するligamentotaxisを用いた後方固定術

著者: 近藤章

ページ範囲:P.805 - P.809

 胸腰椎移行部破裂骨折に対するligamentotaxisを用いた後方矯正固定術は現在広く行われている.これは,骨折した椎体の上下隣接椎体へ椎弓根スクリューを挿入して,骨折により生じた後弯変形を整復し,また,頭尾側へ牽引することにより前縦靱帯,後縦靱帯の緊張を利用して圧潰している椎体の形状を整復するものである.良好な整復が得られる一方で後方のみで手術を終えるので,前方法,前方後方法に比べて低侵襲な手技と言える.本稿ではその原理,留意すべき点などにつき概説する.

胸腰椎移行部破裂骨折に対する前方除圧椎体置換術

著者: 中島宏彰 ,   今釜史郎 ,   安藤圭 ,   小林和克 ,   町野正明 ,   金村徳相

ページ範囲:P.811 - P.817

 胸腰椎移行部は脊椎椎体骨折が最も起こりやすい場所で,陥入骨片による高度な脊柱管狭窄や,不安定性の高い症例では,前方固定術の適応がある.普段から目にすることが多い後方手術と異なり,前方手術は術野の展開からいくつかの手技上のtipsが存在する.横隔膜,胸膜の解剖を理解し,安全かつ低侵襲に展開が行えるようになると,高齢者に対しても本術式を行い,強固な内固定を行うこともできる.神経除圧に関しても,後方からの除圧と異なり,前方から麻痺の原因となっている骨片を直接摘出できることが,前方除圧の大きな魅力である.一方で,前方からの除圧操作を不適切に行うと麻痺を悪化させる危険性もあり,除圧操作は容易ではない.本稿では,胸腰椎移行部における脊椎前方への低侵襲なアプローチにつき解説するとともに,前方除圧の実際につき詳細を説明する.

成人脊柱変形に対する後方矯正固定術—上下関節突起切除と後方椎体間固定による矯正

著者: 中尾祐介

ページ範囲:P.819 - P.824

 成人脊柱変形手術の目標は良好な全脊椎アライメントを獲得することである.特に矢状面においてはL4-S1に大きな前弯を獲得することが重要である.L4/5とL5/S1に上下関節突起の切除と後方椎体間固定を行いL4を水平化したのち,尾側から鉛直線に平行に立ち上げたロッドにL3より頭側の椎体をtranslationしていくことにより,矢状面,冠状面ともに良好な矯正が得られる.

成人脊柱変形に対するLIFとPPSを用いたCircumferential MIS

著者: 石原昌幸 ,   齋藤貴徳

ページ範囲:P.825 - P.837

 成人脊柱変形(adult spinal deformity:ASD)による矢状面および冠状面のバランス不良は腰背部痛や姿勢異常に加え,立位保持困難によるADL制限,胃食道逆流症などの腹部症状や呼吸機能障害に伴うQOL低下ももたらす.病態の始まりは椎体変形ではなく椎間板腔の変性,椎間板レベルでの変形であるため椎体間レベルでの解離および矯正が基本となる.低侵襲での多椎間の椎体間解離および椎体間固定が可能な側方経路腰椎椎体間固定(lateral lumbar interbody fusion:LLIF)の導入により,近年ASDの矯正固定術において劇的な低侵襲化が獲得された.このLLIFによる椎体間解離により柔軟性も得られ,後方は経皮的椎弓根スクリュー(percutaneous pedicle screw:PPS)手技であっても十分な矯正が達成される症例も少なくない.後方要素の骨癒合を有する症例や医原性後弯症例においては骨切りを必要とするためPPSでは対応困難であるが,それ以外の大半のASD症例ではLLIFとPPSを用いた矯正手技circumferential minimally invasive surgery(cMIS)がよい適応と考えられる.

論述

骨粗鬆症性椎体骨折の骨癒合に影響を及ぼす因子

著者: 岩田玲

ページ範囲:P.839 - P.845

 高齢者人口の増加に伴い骨粗鬆症性椎体骨折の治療機会が増えている.骨粗鬆症性椎体骨折の予防に主眼を置いたガイドラインはすでに作成されているが,骨折治療には明確な治療指針がない.本論文では代表的な骨癒合に影響を及ぼす因子として,骨粗鬆症治療薬の選択,椎体骨折治癒に影響を与える機械的要素,年齢や併存疾患,投薬内容,および装具治療について述べる.骨粗鬆症性椎体骨折に対する治療選択の参照にしていただきたい.

連載 やりなおし! 医療制度 基本のき・7

学校保健—運動器健診の進めかた

著者: 森山正敏

ページ範囲:P.846 - P.849

 わが国の学校保健制度は昭和33年に制定された学校保健法により構築され,伝染病やう歯対策に始まり,戦後の混乱期に認められた児童生徒の多くの健康問題の解決をはじめ,以後さまざまな課題について適切な対応により大きな成果を上げてきた.しかし,社会状況の大きな変化により,われわれを取り巻く環境も著しく変貌し,青少年の健康にかかわるさまざまな問題が起こっている.平成20年の中央教育審議会答申「子どもの心身の健康を守り,安全・安心を確保するために学校全体としての取り組みを進めるための方策について」では,子どもの健康を取り巻く状況について懸念を示し,その中で過度の運動・スポーツによる運動器疾患・障害を抱えている子どもがみられるとしている.

 今の子どもの身体活動には二極化がみられ,それぞれに健康上の問題がある.すなわち運動不足による体力,運動能力の低下とともに肥満などの生活習慣病の増加があり,一方,運動のしすぎによるスポーツ傷害が後を絶たないばかりか,取り返しのつかないまでに進行した障害を目にすることも少なくない.学校検診において平成6年に旧文部省体育局長通知として「脊柱および胸郭の検査の際には併せて骨・関節異常および四肢の状態にも注意すること」と明記されたが,法的拘束力がなかったためほとんど実施されなかった.

いまさら聞けない英語論文の書き方・23

英文症例報告執筆マニュアル(2)

著者: 堀内圭輔 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.850 - P.853

 前回は,症例報告をする意義,そしてさまざまな注意点を述べましたが,今回はより具体的に,英文症例報告の書き方をお話しします.症例報告は,原著論文や総説に比べ,書式は多分に形式的で,各項目に書くべきことも流れも大体決まっています.これらを理解できれば,スムーズに執筆ができるはずです.

臨床経験

固定用インプラントを使用しない鏡視下二重束前十字靱帯再建術—治療成績と文献的考察

著者: 大歳憲一 ,   加賀孝弘

ページ範囲:P.855 - P.862

目的:固定用インプラントを使用しない鏡視下二重束前十字靱帯再建術の治療成績を報告すること

対象と方法:膝前十字靱帯損傷と診断された12名13膝を対象とした.再建靱帯は,両端に締結した高強度糸を大腿骨側,脛骨側の皮質骨上で締結し固定した.

結果:術後,自覚的・他覚的な膝関節不安定性は消失し,全例受傷前のスポーツに復帰した.

結語:本術式は,何らかの理由で固定用インプラントを使用できない症例や,インプラントによる合併症を呈した,もしくは合併症の発生が危惧される症例に対して有用な方法である.

小児期の股関節手術既往患者に対する人工股関節全置換術の成績

著者: 中北吉厚 ,   老沼和弘 ,   二宮太志 ,   三浦陽子 ,   東秀隆 ,   白土英明

ページ範囲:P.863 - P.867

背景:発育性股関節形成不全(developmental dysplasia of the hip:DDH)に対して小児期に骨切り術などが施行され,後に末期股関節症となり人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)に至ることがあるが,その成績の報告は少ない.

対象と方法:当院で行ったDDH由来のTHA2,606関節を対象とし,小児期の手術既往のある群と手術既往のない群で比較・検討した.

結果:手術既往あり群は有意に若年で,手術時間は長く,出血量は多く,術後成績はやや劣る結果であった.

まとめ:小児期股関節手術の既往のある症例がTHAを要する場合,比較的若年での手技的に困難なTHAとなり,術後成績も劣る傾向になる.

成長期アスリートにみられた腰仙部障害—「その他」に分類される腰痛

著者: 福田雄介 ,   酒井紀典 ,   後藤強 ,   手束文威 ,   高田洋一郎 ,   西良浩一

ページ範囲:P.869 - P.873

背景:成長期アスリートにみられる腰痛の原因としては,腰椎分離症・椎間板ヘルニア・終板障害がほとんどを占めるが,それ以外の原因について言及されることは少ない.

対象と方法:ある一定期間において,腰痛を主訴に受診した成長期アスリートのうち,症状に一致する画像所見を呈し,腰椎分離症・椎間板症・ヘルニアおよび終板障害を除いた腰仙部障害について後ろ向きに調査した.

結果:腰痛を主訴に受診した18歳以下のアスリート全86例(男性62例,女性24例)中,上記3疾患以外に,腰痛の原因疾患(画像所見を伴った病態)を診断できた症例は,Bertolotti症候群を含む横突起形態異常によるもの5例,仙骨疲労骨折3例,胸腰椎移行部の二分脊椎1例であった.

まとめ:いまだ認識度が低い病態も多いが,少なくとも上記疾患などについて我々は認識すべきである.

症例報告

低リン血症の精査で診断されたPhosphaturic Mesenchymal Tumorの2例

著者: 野﨑達也 ,   齋藤健一 ,   小濱一作 ,   越浩美 ,   柳川天志 ,   筑田博隆

ページ範囲:P.875 - P.880

背景:Phosphaturic mesenchymal tumor(PMT)はtumor induced osteomalacia(TIO)を来す稀な疾患で,疼痛や骨折を主訴に整形外科を受診する機会も多い.しかし診断が困難で治療までに時間を要することが問題の1つである.

症例:症例1は踵部の疼痛,症例2は全身の疼痛を主訴に整形外科を受診したが,診断までに1年以上を要した.精査の中で外傷歴のない多発骨折,低リン血症を指摘され,fibroblast growth factor-23(FGF23)高値,腫瘍の確認からTIOの診断に至った.治療後疼痛は速やかに改善した.

まとめ:TIOは整形外科医が遭遇する可能性のある疾患で,本疾患を疑う際には血清リンの測定が有用と考える.

胸椎前側弯症に対し後弯形成を試みた1例

著者: 畠山拓人 ,   渡辺航太 ,   鈴木悟士 ,   辻収彦 ,   名越慈人 ,   岡田英次朗 ,   八木満 ,   中村雅也 ,   松本守雄

ページ範囲:P.881 - P.884

 胸椎前側弯症は,呼吸機能と矢状面アライメントに障害を来すことが多い.しかし保存療法には抵抗性で,手術でも正常な後弯を獲得することは困難である.今回われわれは,35°の胸椎前側弯を伴う14歳の思春期特発性側弯症例に対し,Ponte骨切り術を併用した後方アプローチ単独で30°の胸椎後弯を獲得し,良好な脊椎アライメントと呼吸機能の改善を認めた1例を経験した.

書評

プロメテウス解剖学アトラス 胸部/腹部・骨盤部 第3版 フリーアクセス

著者: 池上浩司

ページ範囲:P.885 - P.885

 『プロメテウス解剖学アトラス』の『胸部/腹部・骨盤部』は初版が2008年,第2版が2015年の発行であり,初刊行から12年,第2版から5年の歳月を経ての改訂である.『解剖学総論/運動器系』『頭頸部/神経解剖』がそれぞれ2017年,2019年に第3版に改訂され,残るはこの1冊のみと待ちに待った待望の改訂版である.他の巻と合わせて3巻で1500ページ,他の解剖学アトラスの2倍以上と,圧倒的情報量を誇る邦訳プロメテウスの第3版(原書第4版)がここにようやく完成した.

 本書の特徴の第一は初版から続く圧倒的美しさのイラストであろう.人体はある種の芸術作品であると感じることが多いが,本書の図はそれをさらに強く感じさせてくれる.爽やかさすら感じさせるイラストは,勉強というよりも写真集を眺めるように学ぶことを可能にしてくれる.他のアトラスの2倍を超えるページ数故に可能となる,詳細な,それでいて簡潔な説明の数々はもはや「アトラスを超えた読み物」とも言えよう.とりわけ心電図の解剖生理学的解説,疾患例のみならず診察や治療術の例示,各種読影法などの臨床医学的内容は,解剖学を学ぶ低学年学生にとっては学びの目的を明確にし,臨床を学ぶ高学年学生や研修医にとっては臨床で遭遇するさまざまな問題の本質的理解の助けになるはずである.

INFORMATION

第47回関東膝を語る会 フリーアクセス

ページ範囲:P.809 - P.809

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.777 - P.777

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.887 - P.887

あとがき フリーアクセス

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.890 - P.890

 新型コロナウイルス感染症の脅威はだいぶ収まってきているようですが,仕事面,生活面で種々の制限がいまだにかかっていることと思います.そんななか,皆様はいかがお過ごしでしょうか.ワクチンや抗ウイルス薬のない現状では,ウイルスから逃げるしかなく,日本人のDNAである規律正しさや清潔好きなど民度の高さが,第1波を凌げた一因かもしれません.第2波,第3波への備えを十分に怠らないようにしないといけませんが,1日も早く有効なワクチンや抗ウイルス薬が出現することを切に願っております.

 仏教詩人の坂村真民氏の「広いお胸」の一節に,“嵐はかならず去る 火はかならず消える 夜はかならず明ける このことがわかれば大抵のことは解決する”とあります.常に前向きな姿勢で,事に臨んでいきたいと考えております.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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