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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科56巻12号

2021年12月発行

雑誌目次

特集 整形外科手術に活かす! 創傷治療最新ストラテジー

緒言 フリーアクセス

著者: 田中克己

ページ範囲:P.1412 - P.1412

 近年,創傷に対してはさまざまな角度からの取り組みが行われており,その考えは各種の治療や手術において適用されることで,これまで以上に効果的に,安全な医療につながってきている.

 創傷に関しては,以前より多くの理論とそれに応じた処置が開発され,現在に至っている.しかし,創傷を取り巻く環境も多様化しており,年齢構成の変化,各種病態に伴う創傷の難治化,医療の地域偏在化など,さまざまな課題を抱えながら治療に当たらなければならない.そこで,創傷治療における従来の考えと合わせて最新の理論と技術を導入することで,効果的な医療につなげることが必要となる.

創傷治癒の基礎

著者: 光井俊人 ,   日原正勝 ,   覚道奈津子

ページ範囲:P.1413 - P.1417

 創傷とは外的,および内的要因から生じた損傷のことをいい,創と傷で分けられる.創は皮膚の連続性の破綻を伴う損傷であり,傷は皮膚の連続性を損なわない損傷である.しかし,ほとんどの創傷は決まった過程を経て治癒に至ることが知られている.創傷治癒過程について理解することは,外傷を診る科にとっては重要である.日常に遭遇する創傷は,ほとんどが,修復という過程で治癒していくため,本稿では主に修復の過程についての基本を説明することとする.

急性創傷と慢性創傷

著者: 大浦紀彦 ,   加賀谷優 ,   森重侑樹 ,   高田太一 ,   毛利美貴 ,   木下幹雄

ページ範囲:P.1419 - P.1422

 急性創傷は,正常の治癒機転が働き,2,3週間で治癒に至る創傷である.慢性創傷は治癒までの期間がさらに長いものをいい,治癒機序が外部要因や内部要因などによって障害されたものをいう.急性創傷は自然に治癒に至るが,急性創傷の中にも汚染創や骨・腱露出症例など難治化しやすい創傷があるので,注意が必要である.難治性創傷の治療では,難治化した原因を探求し介入をした上で,局所的なwound bed preparationを行う.

保存的治療と創傷被覆材

著者: 安田浩

ページ範囲:P.1423 - P.1430

 創傷の治療では外科的療法,保存的治療が挙げられるが,近年保存的治療は陰圧閉鎖療法や新しい外用薬,創傷被覆材が利用可能となって進歩を遂げている.基本的な創傷管理は以前は乾燥・消毒の時代であったが,30年ほど前より適切な湿潤環境を維持することで創傷の治癒が促進されるという考えに大きく転換された.現在ではその考えをもとにさまざまな材料が使用可能となっている.他方,多くの治療法があることで,創傷の状態に合わない治療を選択するとかえって治癒を妨げる結果となる.そのため各種創傷被覆材の特徴を理解した上で創傷の状態を評価し,適切な材料を用いることが早期治癒へ向かうポイントとなる.

デブリドマンとWound Bed Preparation

著者: 島田賢一

ページ範囲:P.1431 - P.1438

 創傷を扱う外科医にとって,デブリドマンとwound bed preparation(WBP)は必須の技術である.デブリドマンは日常の手術・処置で頻用されているが,近年さまざまなデブリドマンの方法が開発され,臨床応用されている.本稿においては整形外科領域で有用と思われる,局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:NPWT)を用いたデブリドマンと,超音波を用いた機器によるデブリドマン(ultrasonic-assisted wound debridement:UAWD)について述べる.

骨折の治療と骨粗鬆症

著者: 酒井昭典 ,   善家雄吉 ,   山中芳亮 ,   田島貴文 ,   辻村良賢 ,   濱田大志

ページ範囲:P.1439 - P.1446

 超高齢社会のわが国において,骨粗鬆症性骨折を治療する機会が増えている.骨粗鬆症があると,同じ転倒による受傷であっても骨折の転位が大きくなり,保存治療や経皮的鋼線刺入固定法では経過中に再転位を来しやすい.骨折の背景に骨粗鬆症があることを考慮し,低侵襲で,かつ骨折部に対する固定力が十分ある治療法を選択する.高齢者の骨折治療にあたっては,併存する軟部組織損傷のダメージコントロールに留意し,必要があれば創外固定を用いて二期的に行う.また二次骨折予防のために骨粗鬆症に対する薬物治療を開始し,継続する.

末梢神経障害に対する治療の現状

著者: 柿木良介 ,   田中寛樹 ,   原佑紀子 ,   橋本和彦 ,   大谷和裕 ,   赤木將男 ,   貝澤幸俊 ,   池口良輔

ページ範囲:P.1447 - P.1454

 人工神経は最近の末梢神経外科分野での大きなトピックである.現在人工神経は,知覚神経の短い欠損に対して神経欠損補填材料として,また神経縫合補助材料,神経癒着防止材料,有痛性神経腫の形成防止材料としての使用が考慮されており,一部臨床使用もなされている.しかし末梢神経の長い欠損,特に運動神経欠損に対しては,未だ遊離自家神経移植がゴールドスタンダードである.自家神経移植に匹敵する人工神経を開発するための研究もなされている.われわれの最近の研究知見を交えて,現在の人工神経の状況を報告する.

骨軟部感染症に対するCLAPの治療

著者: 圓尾明弘

ページ範囲:P.1455 - P.1460

 骨軟部組織感染症は,病巣の血流が悪く死腔も多いので,経静脈的な抗菌薬が移行しにくい.そのためわれわれは骨と軟部にアミノグリコシド系のゲンタマイシンを持続注入するCLAP(continuous local antibiotics perfusion)で感染を制御している.汚染の強い感染リスクの高い開放骨折に予防的に使用したり,骨接合後や人工関節置換術後の感染にもインプラントを温存して感染を制圧したり,重症軟部組織感染症にも応用したりしている.最近の取り組みを紹介する.

重度四肢外傷に対する治療戦略—長崎大学病院におけるOrthoplastic Team Approach

著者: 宮本俊之

ページ範囲:P.1461 - P.1466

 重度四肢外傷における治療は受傷直後の蘇生から始まり,確定的デブリドマン,早期の根治治療(骨再建+軟部再建)後に速やかに機能訓練に移行できるシームレスな治療戦略が必要である.その治療戦略を試行錯誤を繰り返しながら進化させている,長崎大学病院におけるorthoplastic team approachを紹介する.

難治性潰瘍への対応

著者: 辻依子 ,   寺師浩人

ページ範囲:P.1467 - P.1471

 難治性潰瘍は何らかの創治癒阻害因子によって,創治癒が遅延した状態である.正常な創治癒過程に戻すためには,創治癒阻害因子を評価・介入し,創傷治癒機転が稼働する環境を整備する必要がある.そのためにはTIME理論に基づいた創傷管理が重要となる.

創傷治療における再生医療

著者: 藤井美樹 ,   田中里佳

ページ範囲:P.1473 - P.1478

 慢性創傷の創傷面(wound bed)ではさまざまな疾患の影響により,通常の創傷治癒過程が破綻している.線維芽細胞,ケラチノサイトや血管内皮細胞の増殖と遊走が低下するだけでなく,創傷治癒促進に重要な役割を担うサイトカイン分泌も低下している.これら細胞レベルでの微小環境(microenvironment)における創傷治癒過程の破綻は,一般の創傷管理では改善が困難であり,advanced therapy(補助治療)として再生医療による治療が選択肢となる.Microenvironmentの創傷治癒遅延の原因を理解し,それらを是正することが再生治療の役割の1つであると考える.

 再生医療とは,臓器や組織が損傷,または機能低下や機能不全に陥った場合に「生体材料」「細胞成長因子」「細胞移植」を活用し,組織・臓器を修復・再生させる治療法のことである.しかしながら,慢性創傷は再生医療のみで治療できることは決してなく,基礎疾患のコントロールや末梢血行再建などを実施し,適切なwound bed preparationを施してこそ効果を発揮する治療であることを理解するべきである.

ケロイド・肥厚性瘢痕の原因と治療

著者: 小川令

ページ範囲:P.1479 - P.1484

 ケロイド・肥厚性瘢痕は,創傷部位すなわち創傷治癒過程で生じた肉芽組織から形成された真皮様組織や周囲皮膚の真皮で持続する炎症により発症・増悪する.この炎症は張力で悪化することが知られており,関節部位の手術創から生じたケロイド・肥厚性瘢痕はリハビリテーションでさらに悪化し難治となる.ケロイド・肥厚性瘢痕を予防するためには,切開線の向きや縫合方法を理論的に考えることが大切である.さらに術後創を安静に保ち,炎症をできるだけ早期に収束させることが重要である.ケロイド・肥厚性瘢痕を発症した場合は,まず副腎皮質ステロイドテープ剤による治療を行う.種々の要因で効果が得られにくい場合は,専門的加療ができる施設で,手術および術後放射線治療などが行われる.

視座

EBMの物足りなさ—EBMからNBMへ

著者: 斎藤充

ページ範囲:P.1411 - P.1411

 「それ,ガイドラインにのっとった治療ですか?」「はい,エビデンスレベルの高い研究論文をもとに治療をしています」.よくあるやりとりである.しかし,日々,患者さんと接するほど,個々の多様性を感じるようになり,ガイドライン通りの治療に限界を感じることもまれではない.

 Shojaniaはシステマティックレビューの結論は,その後2年で20%が覆されることを報告している.臨床研究による知見(エビデンス)は常に暫定的であるからこそ,ガイドラインは一定の周期で改訂され続ける.私が研修医のころは,手術の際に局所を希釈イソジン洗浄するなど愚かな行いと揶揄された.しかし,今やガイドラインでも,それを推奨するに至っている.先輩はやみくもに新しい取り組みをしたわけではなかったのである.

調査報告

セメントレスカップのスクリュー固定に関する健康被害

著者: 濱田英敏 ,   安藤渉 ,   高尾正樹 ,   本橋智 ,   菅野伸彦

ページ範囲:P.1485 - P.1492

背景:人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)におけるセメントレスカップ固定を目的としたスクリューやドリル操作に伴う健康被害に関する国内外の文献をレビューすること.

対象と方法:「人工股関節置換術」「スクリュー」「ドリル」「合併症」「出血」などの用語を組み合わせ,文献データベースを用いて,国内外の文献検索を行った.

結果:術中の血管損傷が生命を脅かした症例,手術の十数年後に症状が顕在化し再手術に至った症例などが報告されていた.

まとめ:人工股関節全置換術におけるスクリュー使用は潜在的な血管損傷リスクを伴っていることが示唆された.

境界領域/知っておきたい

術後せん妄への対処

著者: 寺田整司

ページ範囲:P.1494 - P.1496

はじめに

 整形外科手術においても,高齢者の占める割合は非常に高い.最近では90歳どころか100歳で手術を受ける人もまれではない.本稿では,術後せん妄の問題を取り上げる.

最新基礎科学/知っておきたい

立位CTによる下肢関節機能評価

著者: 名倉武雄 ,   金田和也 ,   山田祥岳 ,   陣崎雅弘

ページ範囲:P.1498 - P.1500

はじめに

 運動器疾患の診断には単純X線撮影が,依然gold standardとして用いられている.とりわけ整形外科において取り扱う運動器疾患においては,臥位ではなく立位での撮影により,病態や診断がより明確となるものが多い.これは立位または荷重位にすることで,脊椎・関節がより生理的な位置となり,症状・病態を反映するためである.そのため立位CT検査が可能となれば,有用性は極めて高く,従来のX線に取り替わる画期的な診断装置となり得る.

 このような背景をもとに,われわれは2013年より東芝メディカル(現・キヤノンメディカルシステムズ)と全身用立位CTの開発に着手した.既存の320列CT(Aquilion ONE)を改良することで動態撮影も可能なプロトタイプを開発し,2017年5月より慶應義塾大学病院に導入した1).本稿では全身用立位CTの紹介,および関節機能評価の例として下肢アライメント評価について述べる.

Debate・6

左下腿に発生した傍骨性骨肉腫—液体窒素処理骨再建 vs. 血管柄付き腓骨移植

著者: 松峯昭彦 ,   山本憲男 ,   阿江啓介

ページ範囲:P.1501 - P.1505

症例:60歳,男性

主訴:左下腿腫瘍

現病歴:20代の頃から左下腿の腫瘤に気づいていた.2年ぐらい前から増大傾向が出現したため近医受診し,当院を紹介された.自発痛はなく,通常の日常生活を送っている.

臨床経験

高齢者の化膿性脊椎炎における総合医療介入の有効性に関する後ろ向き臨床研究

著者: 吉崎秀和 ,   ,   小野智美 ,   長谷部弘之 ,   伊東学

ページ範囲:P.1507 - P.1513

背景:高齢者の化膿性脊椎炎の治療は困難であり,その原因に低栄養がある.

対象と方法:高齢の化膿性脊椎炎症例に対し,従来の整形外科医療に経腸栄養と薬剤の適正化という総合医療を追加介入し,その臨床効果を検討した.整形単科群と総合医療併用群の2群間で,血清アルブミン値およびBarthel indexの改善度を評価した.

結果:血清アルブミン値ならびにBarthel indexともに,総合医療併用群のほうが統計学的有意差をもって改善した.

まとめ:高齢者の脊椎感染症に対する栄養管理や薬剤の適正化など,総合医療は患者の臨床成績の改善に寄与した.

症例報告

橈骨遠位端骨折に伴い,尺骨茎状突起骨片が遠位橈尺関節内に陥入した1例

著者: 北村昂己 ,   高橋仁 ,   新井隆仁 ,   佐久間詳浩 ,   高山篤也

ページ範囲:P.1515 - P.1519

 橈骨遠位端骨折に伴い,尺骨茎状突起骨片が遠位橈尺関節内に陥入した症例を経験したので報告する.86歳女性,屋内で転倒し受傷.画像所見で左橈骨遠位端骨折と,遠位橈尺関節内に陥入する骨片を認めた.術中所見で,三角線維軟骨複合体と連続している尺骨茎状突起骨片が,遠位橈尺関節に陥入していることが確認され,整復内固定し,遠位橈尺関節の不安定性は改善した.陥入するメカニズムは,橈骨遠位端の骨片の橈側,近位への転位により,三角線維軟骨複合体を介した茎状突起が遠位橈尺関節内に陥入したと推測した.

書評

—こころとからだにチームでのぞむ—慢性疼痛ケースブック フリーアクセス

著者: 矢吹省司

ページ範囲:P.1493 - P.1493

 本書は,慢性疼痛患者を診療する医療者が参考にできる事例集が中心となっている.8章から成っており,1章:慢性痛を知る,2章:慢性痛をどう評価するか,3章:慢性痛の臨床—エビデンスの治療と原則,そして4〜8章:ケースブック,という構成である.

 まず,慢性痛を理解し,どのように評価し,そしてどのような治療があるのかを1〜3章で知ることができる.これらの章の各項目には,「Point」があり,その項目のまとめが記載されている.そこを読んでいくだけでも内容をある程度理解できるようになっている.そして4章:ICD-11分類に基づく慢性痛,5章:精神疾患と併発する慢性痛,6章:ライフステージと慢性痛,7章:臨床で気を付けたい慢性痛,および8章:慢性痛診療のアプローチで,具体的に事例を挙げて病態の評価の結果とそれをもとにどのような治療方針を立てるかについて記載されている.共通していることは,(1)いち医師だけでの評価や治療では限界がある,(2)多くの専門家がそれぞれの視点で評価し,それをカンファレンスでディスカッションすることで的確な治療方針が見えてくる,そして(3)多面的に治療することで複雑な慢性痛であっても改善(痛みの程度そのものに変化がなくてもADLやQOLは改善)できる可能性がある,ということである.

INFORMATION

第16回骨穿孔術研究会 フリーアクセス

ページ範囲:P.1519 - P.1519

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1409 - P.1409

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1521 - P.1521

あとがき フリーアクセス

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.1524 - P.1524

 日本の将来を左右する衆議院選挙が行われました.政治家の方々には是非とも日本を良くしていただきたいと思います.国家の根幹をなすものとして,教育と医療の重要性が真っ先に挙げられますが,最近では安全保障も極めて重要となってきました.国民の生命と財産を守り抜いていただきたいと思います.

 さて,新型コロナウイルス感染症の第5波がようやく沈静化してきました.居住地域や勤務先における規制も相当緩和されたのではないでしょうか? 若い先生たちを見るにつけ,コロナ前のように通常通りの懇親会や宴会をしたいという欲望を肌でひしひしと感じている今日この頃です.うまくストレス(コロナ疲れ)を解消してくれていればいいし,ピンチをチャンスとして研究に勤しんでくれていると一安心ですが——.2回目のワクチン接種完了者が70%を超え,いつの間にか先行していた英国や米国を抜いてしまいました.3回目の接種も全員を対象とすることになり,日本がいち早くコロナの沈静化,克服にたどり着くのではないかと期待します.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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