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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科56巻5号

2021年05月発行

雑誌目次

増大号特集 整形外科 外来・当直 エマージェンシーマニュアル 座談会

整形外科 外来・当直 自分でどこまでやる? 困ったときどうする? フリーアクセス

著者: 最上敦彦 ,   志村有永 ,   鶴上浩規 ,   佐々木響子

ページ範囲:P.423 - P.427

—外来・当直を担当すると,現場で判断に困ることが実にたくさんあると思います.「教科書どおりやったのにうまくいかない,何をどう上級医に相談すればよいのか,痛がる患者さんをこのまま帰してよいのか,患者さん・家族にどのように説明すればいいのか」….このような臨床現場において,「自分でどこまでやる? 困ったときどうする?」をテーマに,本誌特集号の企画を最上敦彦先生にお願いしました.その答えが,この『整形外科 外来・当直 エマージェンシーマニュアル』な訳ですが,まずは最上先生から特集のポイントを簡単にご説明ください.

外傷編

外傷初期診療のみかた/[COLUMN]いつでも,どこでも基本はJATEC

著者: 鈴木雅生 ,   塩田浩平

ページ範囲:P.429 - P.440

基本方針

 脳は頭蓋骨,肺・心臓は胸郭,腹部臓器は腹腔・後腹膜腔という“ブラックボックス”に囲まれて存在しているため,その外見上の損傷よりも実際の臓器損傷は大きい傾向にある.そのため損傷を過小評価しやすく,ひとたび見逃すと致命的となる.

 われわれ整形外科医は四肢外傷治療を専門とするため,変形や損傷が目立つ四肢に目をとられがちになる.しかし,四肢外傷が出血性ショック以外で致命的となることはない.たとえ血行再建を必要とするGustilo分類3Cの開放骨折であったとしても,「頭部体幹損傷のほうがGolden hourが短い」ということをわれわれ整形外科医は忘れてはいけない.

 

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年5月まで)。

肩の外傷

肩の外傷のみかた

著者: 寺田忠司

ページ範囲:P.441 - P.442

解剖学的特徴

 肩関節は鎖骨,肩甲骨,上腕骨の3つの骨から構成されており(図1),それらの連結からなる関節と,周辺の筋,腱,靱帯,関節包とともに構成される機能的関節(第2肩関節)との複合によって,人体の関節の中で最大の運動領域を有する1)

 肩峰と烏口突起は,鳥口肩峰靱帯で連続し,肩関節の頭側を覆い,肩峰下滑液包と腱板を介して上腕骨頭との間で関節様構造を形成し,第2肩関節あるいは肩峰下関節と呼ばれている2)

鎖骨骨折—遠位端骨折を含む

著者: 寺田忠司

ページ範囲:P.443 - P.445

鎖骨骨折を疑う事前情報

 鎖骨骨折は小児から高齢者まで,幅広い年齢層に発生する.

受傷機転:多くは交通事故,転落,転倒,スポーツなどの外傷である.自転車,バイクなどによる転倒では肩を強打することによって,鎖骨骨幹部骨折,鎖骨外側端骨折,肩鎖関節脱臼,肩峰骨折,上腕骨近位端骨折,腱板断裂などが多く発生する.

肩鎖関節脱臼/[COLUMN]肩鎖関節脱臼と思ったら…

著者: 和田知樹

ページ範囲:P.446 - P.449

 肩鎖関節脱臼は転倒や交通外傷のほか,スポーツなどでも起こりうる一般的な外傷であるため,救急外来では比較的遭遇しやすい.また緊急手術に至ることもほとんどないため,落ち着いて診断・初療をすることが求められる.

 本稿では急性の肩鎖関節脱臼について解説する.

肩甲骨骨折/[COLUMN]ネジ一本勝負! 烏口突起骨折の「イイトコどり治療法」

著者: 守屋秀一

ページ範囲:P.450 - P.453

肩甲骨骨折を疑う事前情報

 通常でも高エネルギー外傷でも「肩から落ちた」ことが受傷機転であることが多い.また,高エネルギー外傷であればバイタルサインと麻痺の有無を必ず確認し,事前情報で肩甲骨単独外傷との情報であっても頭部外傷や脊椎,胸郭も含む損傷を念頭に対応に臨む.

肩関節脱臼/[COLUMN]コンタクトスポーツ選手の反復性肩関節脱臼手術は悩ましい

著者: 糸魚川善昭

ページ範囲:P.454 - P.457

肩関節脱臼を疑う事前情報

疼痛部位・変形:肩関節脱臼には大きく分けると前方,後方脱臼があるが,95%以上の症例で前方に脱臼する.脱臼している状態では肩はほとんど動かすことができず,強い痛みを伴うことが多いが,整復されると痛みがほとんどなくなるか,あっても軽度の痛みが残る程度となる.後方脱臼は変形がみられにくいため見逃されやすい脱臼で,注意を要す.また頻度は稀であるが下方脱臼することもあり,その場合は上腕を挙上した状態で,通常は前腕を頭に置いた状態で受診してくる.

上腕骨近位端骨折/[COLUMN]除外診断が大事!—リウマチ性多発筋痛症(PMR)と元気よく誤診され,ステロイド投与開始一歩手前でなんとかなった頚椎化膿性脊椎炎のお話

著者: 田村竜

ページ範囲:P.458 - P.461

上腕骨近位端骨折を疑う事前情報

 外傷を契機にした肩関節周囲の疼痛および肩関節の可動制限を認める際に本骨折を疑う.

受傷機転:高齢者症例においては低エネルギー外傷による受傷が大半で,立位からの転倒が最も多い.高齢者症例においては,低エネルギー外傷による受傷が大半で立位からの転倒が最も多い.

 

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年5月まで)。

上腕—肘の外傷

上腕—肘の外傷のみかた/[COLUMN]肘関節をまたぐ創外固定の“設置位置”について心がけていること

著者: 森谷史朗

ページ範囲:P.462 - P.464

解剖学的特徴1,2)

 上腕から肘の外傷において念頭に置くのは,上腕動脈と3本の神経(橈骨・正中・尺骨)の損傷である.

 上腕動脈は上腕の近位2/3では上腕骨の内側を走行し,肘部では前方へ位置し,その間,正中神経と伴走する.そのため,転位の大きい小児上腕骨顆上骨折や成人上腕骨遠位端骨折では,近位骨折端により上腕動脈や正中神経が損傷されやすい.

上腕骨骨幹部骨折

著者: 島村安則

ページ範囲:P.465 - P.467

上腕骨骨幹部骨折を疑う事前情報

疼痛部位・変形:上腕中央付近での腫脹ならびに強い疼痛を認める.時には「肩痛」「肘痛」などの主訴で来院することもあるため,上腕骨近位部ならびに肘関節部を直接触診し,同部に痛みがないことを確認する.なお多発骨折の場合では骨折部で大きく変形・回旋していることもあるが,単発骨折の場合は上肢の自重により比較的外観上の変形は少ない.

受傷機転:本骨折は主に2つの受傷機転がある.1つは交通事故や墜落など高エネルギーにより生じる場合である.もう1つは野球における全力送球や腕相撲といった,上腕の捻転力によるものである.したがって比較的若い年齢層に発生しやすいとされるが,高齢者など骨脆弱性を伴う場合にも生じることがある.

肘関節脱臼および脱臼骨折—肘靱帯損傷・Terrible triad injuryを中心に

著者: 楢﨑慎二 ,   今谷潤也

ページ範囲:P.468 - P.471

肘関節脱臼および脱臼骨折を疑う事前情報

 転倒・転落などにより肘関節の著明な疼痛・変形・腫脹や可動域制限を認める場合,肘関節脱臼・肘関節脱臼骨折をまず考慮する.

肘頭骨折

著者: 森谷史朗

ページ範囲:P.472 - P.474

肘頭骨折の概要・特徴

受傷機転:肘頭骨折は肘後方への直達外力または上腕三頭筋の牽引力による介達外力で受傷する.前者は滑車切痕の陥没・傾斜・粉砕を伴うことがあり,後者は通常横骨折となる.

受傷頻度:肘周辺骨折の約10%を占め,本損傷の22%に同側上肢の合併損傷を認め,6.4%が開放骨折であったとする疫学研究もある.

成人橈骨頭骨折

著者: 森谷史朗

ページ範囲:P.475 - P.477

成人橈骨頭骨折の概要・特徴

 成人橈骨頭骨折は20〜60歳の女性に多く,肘関節周囲骨折の中で約3割を占める,比較的よく遭遇する骨折である1)

受傷機転:転倒,転落により肘伸展位で手をついて受傷するが,初療時には次の3つの主な受傷機序を考える.

Monteggia骨折/[COLUMN]陳旧性Monteggia骨折治療は万全の態勢で臨むべし

著者: 吉田史郎

ページ範囲:P.478 - P.480

Monteggia骨折

 橈骨頭脱臼を伴う尺骨骨折をMonteggia骨折と呼ぶ.受傷機転によって骨折型あるいは橈骨頭の脱臼方向が変化すると考えられ,転落の際に手をつき受傷するケースが多い.

好発年齢:4〜10歳とされている.初診時に尺骨骨折のみに目をとられ,橈骨頭の脱臼が見逃されることが多い外傷である.

前腕—手の外傷

前腕-手の外傷のみかた/[COLUMN]自分の手の動きを言語化してみよう

著者: 筒井完明

ページ範囲:P.481 - P.482

解剖学的特徴

 手は人間が生活するうえで常に最前線に位置するため,最も外傷に遭遇しやすい器官である.被覆する軟部組織が薄いため,神経・血管,腱,骨・関節が容易に,そして複合的に損傷されることが多く,初期に適切な治療がなされていないと腱癒着,関節拘縮,知覚異常などの後遺障害を残しやすい.

 前腕から手にかけて構造的には,前腕骨が2個,手根骨が8個,5個の中手骨および14個の指骨と計29個の骨が存在し1),それらが靱帯で連結して関節を形成し,これに筋・腱・神経など多くの組織が共同的に働くことで,複雑な運動連鎖によって意図した機能を発揮することができる.

両前腕骨骨折

著者: 鈴木啓介

ページ範囲:P.483 - P.484

疼痛部位・変形および受傷機転

症状:前腕の変形を伴う疼痛と腫脹,また骨折部での軋轢音がみられる.

受傷機転:高所からの墜落や交通事故など高エネルギー外傷が多く,前腕での直達外力が含まれる.

Galeazzi骨折

著者: 佐藤亮

ページ範囲:P.485 - P.486

Galeazzi骨折の概要

 典型的なGaleazzi骨折は,橈骨遠位1/3の単独骨折に遠位橈尺間関節(DRUJ)の破綻を合併した骨折である.前腕骨幹部骨折の約23%を占めるとされる.逆にDRUJ破綻は橈骨単独骨折中7〜25%に発生するとされるが,まれに前腕両骨骨折および尺骨単独骨折にも合併しうる1)

 小児でDRUJ脱臼の代わりに尺骨遠位端が骨折するGaleazzi類似型骨折が多いとされ,骨端線損傷を伴うために成長障害を来しやすい(図1).

橈骨遠位端骨折/[COLUMN]若手医師の皆さんへ—整復,診察,開放骨折の診断について

著者: 筒井完明

ページ範囲:P.487 - P.490

橈骨遠位端骨折を疑う事前情報

 立位からの転倒による受傷が最多であり,低エネルギー外傷による骨折は女性で多く発生し,男性は転落や交通事故などの高エネルギー外傷が多い1)

TFCC損傷

著者: 高野岳人

ページ範囲:P.491 - P.493

TFCC損傷を疑う事前情報

 三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex:TFCC)とは手関節尺側の橈骨・尺骨・月状骨・三角骨に存在する靱帯・線維軟骨複合体のことである.TFCCの機能には,尺骨手根骨間の支持性,遠位橈尺関節(DRUJ)間の支持性,尺骨と尺側手根骨の荷重伝達・分散・吸収などがある.

 TFCC損傷を起こした場合,手関節尺側部痛を呈するが,同部の痛みを呈する疾患はその他にも尺骨突き上げ症候群や尺側手根伸筋腱腱鞘炎および脱臼などがある.

舟状骨骨折/[COLUMN]舟状骨骨折を見逃すな!

著者: 林洸太

ページ範囲:P.494 - P.497

舟状骨骨折を疑う事前情報

受傷機転:舟状骨骨折の多くは,スポーツ中(59%),または手関節背屈位,いわゆるoutstretched handでの転倒(35%)などの低エネルギー損傷によって生じる1)

疼痛部位・変形:手関節橈側の疼痛と腫脹,手関節伸展負荷による疼痛を主訴とする場合が多い.

月状骨脱臼・周囲脱臼

著者: 松井裕帝

ページ範囲:P.498 - P.500

月状骨脱臼・周囲脱臼を疑う事前情報

一般的に高エネルギー外傷(機械巻き込みや狭圧損傷など)

疼痛部位・変形:手関節遠位を中心とした著明な腫脹と圧痛

中手骨骨折

著者: 黒田拓馬

ページ範囲:P.501 - P.503

中手骨骨折を疑う事前情報

 手部の腫脹があれば,まずは中手骨骨折を疑う.直達外力による受傷のほかに,ファイター骨折と呼ばれる壁や人を殴るなどを原因とした第4,5中手骨頚部骨折,ボクサー骨折と呼ばれる第2,3中手骨骨幹部骨折は知っておくとよい1)

指骨骨折/[COLUMN]大丈夫,いけるだろう,は禁物

著者: 鈴木宣瑛 ,   川瀨大央

ページ範囲:P.504 - P.505

指骨骨折を疑う事前情報

 手指は外傷を受けやすい部位であり,労働作業中やスポーツ活動中の受傷が多い.受傷機転は,プレス機などによる圧挫,ハンマーなどによる叩打,ドアなどによる挟撃が多く,特に電動のこぎりやプロペラでの受傷は開放骨折が多い.

 指節部や指節間関節に腫脹や変形があれば本外傷を疑い,出血を伴う創や爪脱臼があれば開放骨折を疑うことが重要である.

指関節内骨折

著者: 林悠太

ページ範囲:P.506 - P.512

第1CM関節脱臼骨折(Bennett骨折,Rolando骨折)

 第1CM関節脱臼骨折(母指中手骨基部関節内骨折)のうち,部分関節内骨折はBennett骨折,完全関節内骨折はRolando骨折と呼ばれている.

腱損傷/[COLUMN]腱の状態は必ず直視し,推測で診断してはならない

著者: 川瀨大央 ,   鈴木宣瑛

ページ範囲:P.513 - P.516

腱損傷を疑う事前情報

 腱損傷には3つの型がある.ナイフなどの鋭利なもの,または電気鋸などの非鋭利なものにより皮膚・皮下組織とともに損傷される「断裂」,変性などで弱化した腱が軽微な外力で断裂する「皮下断裂」,急激・強力な張力により腱が骨付着部で損傷する「裂離」である.本稿では主に断裂について述べる.

化膿性屈筋腱腱鞘滑膜炎/[COLUMN]腱鞘の感染が生んだ悲劇

著者: 筒井完明

ページ範囲:P.517 - P.519

化膿性屈筋腱腱鞘滑膜炎の概要

 化膿性屈筋腱腱鞘滑膜炎は重症化すると重篤な機能障害を残す緊急性の高い疾患である.

受傷機転:穿通性外傷(咬創,刺創)が誘因の場合もあるが,原因不明なこともある.患指は腫脹し,軽度屈曲位を呈していることが多い.

爪下血腫

著者: 黒田拓馬

ページ範囲:P.520 - P.521

爪下血腫を疑うとき

 指先を挟むなどの鈍的外傷による受傷が多く,指尖部に疼痛を有する.外観上,変形を伴うことは稀であるが,強い腫脹を認める場合には末節骨骨折の合併も念頭に置く必要がある.

指輪外し

著者: 高野岳人

ページ範囲:P.522 - P.523

事前情報

 指輪はごく一般的な装飾品であるが,時として深刻な医学的問題を起こすことがある.

 主にファッション目的で一時的に装着している場合と,結婚指輪など一度装着したあとは長期にわたり外さず生活している場合があるが,特に問題となるのは後者である.

股関節の外傷

股関節外傷のみかた/[COLUMN]股関節痛=大腿骨近位部骨折?

著者: 前原孝

ページ範囲:P.524 - P.525

解剖学的特徴

 本章では,股関節周囲の外傷として大腿骨近位部骨折と股関節脱臼骨折,人工股関節置換術後の大腿骨骨折を取り上げる.

大腿骨近位部骨折:AO分類1)で31A:trochanteric region fracture(転子部領域の骨折),31B:neck fracture(頚部骨折),31C:Head fracture(骨頭骨折)と分類されており(図1),転子下骨折は小転子直下から5cmの範囲に生じた骨折という認識が一般的と思われる2)

—大腿骨近位部骨折—大腿骨頚部骨折/[COLUMN]大腿骨骨幹部骨折に合併する近位部骨折

著者: 上原健敬

ページ範囲:P.526 - P.529

大腿骨頚部骨折を疑う事前情報

 高齢者の転倒・転落後に歩行不能となった場合は,大腿骨近位部骨折を強く疑う.比較的若年者であっても,階段からの転落などで受傷することもあり,外傷後の股関節痛があれば必ず想起すべき骨折である.

—大腿骨近位部骨折—転子部骨折/[COLUMN]膝が痛いというけれど…

著者: 山川泰明

ページ範囲:P.530 - P.533

転子部骨折を疑う事前情報

疼痛部位・変形,受傷機転:高齢者が立った高さなどからの転倒後に股関節付近を痛がっている場合は大腿骨近位部骨折を疑う.

 下肢は外旋位となっていることが多く,短縮を伴う場合は脚長差を認めることがある.

—大腿骨近位部骨折—転子下骨折/[COLUMN]大腿骨転子下骨折は待機手術? 緊急手術?

著者: 保利忠宏

ページ範囲:P.534 - P.537

大腿骨転子下骨折を疑う事前情報

 大腿骨転子下骨折の受傷機転は,若年者では高エネルギー外傷,高齢者では骨粗鬆症をベースとしたいわゆる‘ground-level falls’によるものも多い.最近では,ビスフォスフォネート製剤の長期服用による非定型骨折の混在が指摘されており,前2者よりも軽微な外力で生じることを念頭に置く必要がある.

 下肢は短縮・外旋し,大腿骨近位部の著明な腫脹を認めることが多い.骨折部は高度に転位することが多く,骨片端による皮膚障害や神経血管障害の有無も注意深く観察する必要がある.

 

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股関節脱臼骨折/[COLUMN]理想の指導医とは?!/[COLUMN]初療室の患者さんからみた私

著者: 分島智子

ページ範囲:P.538 - P.542

股関節脱臼骨折を疑う事前情報

受傷機転:股関節は強固な靱帯,筋肉,関節包に支持されている安定した球関節であるため,脱臼には非常に大きな外力を要する.そのため股関節脱臼および脱臼骨折の多くは高エネルギー外傷である.

 股関節脱臼には後方脱臼と前方脱臼がある.前方脱臼には上方脱臼と下方脱臼があり,それぞれ恥骨上脱臼,閉鎖孔脱臼と呼ばれる.脱臼方向から受傷時の肢位と力のベクトルを推測することが可能であり,股関節屈曲内転位で後方に力が加わると後方脱臼,股関節伸展外転位で過伸展されると恥骨上脱臼,股関節屈曲外転位で開排位強制されると閉鎖孔脱臼となる(図1).とくにダッシュボード損傷(座位でダッシュボードに膝が強打されて後方への軸圧がかかる)による後方脱臼が多い.恥骨上脱臼はスポーツなど低エネルギー外傷で起こることもある.

大腿骨ステム周囲骨折/[COLUMN]ステム周囲骨折は術中Stability testとインプラントの準備を忘れずに

著者: 神田章男

ページ範囲:P.543 - P.546

大腿骨ステム周囲骨折を疑う事前情報

 人工股関節全置換術,大腿骨人工骨頭置換術などの大腿骨近位部人工物置換術後患者が転倒などで受傷する.

 受傷機転には転倒による直達外力や下肢のねじれがある.歩行困難なため救急搬送されることが多く,事前情報では大腿骨近位部骨折と同様に,大腿近位部に疼痛,下肢短縮,変形を認め,歩行困難と情報提供される.第一に大腿骨近位部骨折を疑うが,大腿骨近位部の手術歴を聴取することにより本外傷を疑うことになる.

膝の外傷

膝の外傷患者のみかた/[COLUMN]必ず自分の目で確かめること!

著者: 前川尚宜

ページ範囲:P.547 - P.549

解剖学的特徴(図1,2)

 膝関節は荷重関節であると同時に可動性を有する関節である.膝関節を構成する骨としては,大腿骨顆部,脛骨プラトー,膝蓋骨からなり,大腿脛骨関節(FT関節)および大腿膝蓋関節(PF関節)を形成し,内外側のFT関節面の間には半月板が存在している.これらの組織で下肢への荷重を支えるという役割を担っている.

 可動性に加え運動時の安定性が必要と言える膝関節では,前十字・後十字靱帯,内外側側副靱帯などの靱帯が運動時の安定性を維持する構造物と言え,筋体としては前方では大腿四頭筋が膝蓋骨を介して膝蓋腱として脛骨粗面に停止している.

膝靱帯損傷・半月板損傷/[COLUMN]ACL損傷はエピソードで9割診断できる—MRIでは不安定性は評価できない

著者: 齋田良知

ページ範囲:P.550 - P.552

膝靱帯損傷・半月板損傷を疑う事前情報

 患者が膝関節外傷後の膝痛を訴え受診した場合,鑑別疾患として膝関節周囲の骨折・靱帯損傷・半月板損傷などを疑うべきである.

 受傷機転を確認し損傷組織を事前に推測することにより,身体所見や画像所見確認の際に評価すべきポイントがわかり,より正確な診断が可能となる.

 

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大腿骨遠位部骨折/[COLUMN]どんなときも膝窩動脈損傷に注意

著者: 小西浩允

ページ範囲:P.553 - P.557

大腿骨遠位部骨折を疑う事前情報

疼痛部位・変形:膝関節周囲の疼痛・腫脹を訴え,歩行困難の状態となっている場合,本疾患を念頭に置く必要がある.

 遠位骨片は大腿四頭筋の収縮により頭側へ転位することが多く,健側に比して患側下肢は短縮する傾向にある.ただし,Hoffa骨折のようないわゆるAO Type Bの部分関節内骨折の場合は,患肢短縮が起こらないため注意が必要である.

 

*本論文中、[▶動画]マークのある図につきましては、関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年5月まで)。

脛骨プラトー骨折

著者: 前川尚宜

ページ範囲:P.558 - P.561

脛骨プラトー骨折を疑う事前情報

 若年者では交通外傷,高所転落,スポーツ関連などの高エネルギー外傷に伴う以下の所見があれば積極的に疑う.

膝蓋骨骨折/[COLUMN]小児の膝X線撮影

著者: 中野健一

ページ範囲:P.562 - P.563

膝蓋骨骨折を疑う事前情報

受傷機転:膝蓋骨は膝関節前面に位置するため,膝屈曲位での転倒,交通事故や転落による直接の打撲など,膝前面への直達外力を受けて骨折する.上記受傷機転での外傷後に膝蓋骨の腫脹,圧痛および疼痛が認められれば本疾患を念頭に置くべきである.

外傷性膝蓋骨脱臼/[COLUMN]X線撮影で異常のなかった外傷性膝蓋骨脱臼

著者: 大林治

ページ範囲:P.564 - P.565

受傷機転・変形

 スポーツなどで膝関節軽度屈曲,大腿骨内旋時に,膝外反と大腿四頭筋の収縮が加わることにより膝蓋骨が外側に偏位した状態.

足の外傷

足の外傷のみかた

著者: 原口直樹

ページ範囲:P.566 - P.568

解剖学的特徴

 足関節は脛骨(天蓋と内果)および腓骨(外果)が形成するほぞ穴構造(果間関節窩,ankle mortise)に距骨がはまり込む,非常に安定した構造を持っている.

 外側靱帯は捻挫などで損傷しやすいが,内側の靱帯(三角靱帯)は強靱で,足関節の安定性に大きく関与している.腓骨と脛骨は,脛腓骨靱帯結合において4つの靱帯(前下脛腓靱帯,後下脛腓靱帯,骨間靱帯,横靱帯)により結合している.それより近位では骨間膜が脛骨と腓骨を結合している(図1).

足関節骨折—併発靱帯損傷を含む

著者: 伊勢福修司

ページ範囲:P.569 - P.572

足関節骨折を疑う事前情報

受傷機転:交通事故や重量物の下肢への落下などの直達外力による受傷もあるが,転倒,階段の踏み外し,スポーツ中のクロスプレイなどによる足関節への介達外力による受傷が大部分である.すなわち,足部が下腿に対して内外反,回旋を強制されることにより,あるいは足部が固定され下腿より近位が動かされることにより足関節を構成する骨・靱帯が破綻する.上記の外力に軸圧が加わり損傷形態が修飾されることがある.

疼痛部位・変形:足関節の疼痛を訴え,起立・歩行が困難になる.足関節周囲の腫脹がみられ,さらに足部まで広がる.脱臼骨折では,下腿に対して足部が内反や外反,底屈し背側に転位するなどの明らかな変形を呈する.

ピロン骨折

著者: 依光正則

ページ範囲:P.573 - P.576

ピロン骨折を見逃さないための病歴聴取

病歴聴取:診断は,詳細な病歴聴取と身体所見の評価から開始する.受傷機転から外力の大きさとそれに伴う骨および周囲軟部組織へのダメージを推測することができる.加えて,基礎疾患や喫煙習慣の聴取は,その後の治療戦略に影響する可能性がある.開放骨折では,受傷場所も必ず聴取する.汚染の種類や程度が異なると,後の抗菌薬投与に大きく関係するためである.

受傷機転:若年者の本外傷の受傷機転の多くは,高所転落や交通外傷などの高エネルギー外傷である.一方,高齢者では,転倒や軽微な転落によっても関節面の粉砕を伴うことがある.外観上は,短縮,回旋,角状変形のどのような変形も来しうるため,果部骨折との鑑別は困難であり,受傷機転が本骨折を疑うもっとも有用な情報となる.

足部外傷—リスフラン損傷ほか/[COLUMN]上級医には躊躇なく相談を

著者: 熊野穂積

ページ範囲:P.577 - P.579

足部外傷を疑う事前情報

 本外傷を疑う情報としては,足部に外力(直達または介達)がかかった場合だけでなく,多発外傷の際にも疑う.疼痛部位や変形は足趾から前足部,中足部,後足部に及ぶが,同側の長管骨(大腿骨や下腿骨)骨折や全身の損傷があれば隠されてしまうことを意識する.

受傷機転:足背部への重量物の落下などの直達外力と,足趾や前足部からの軸圧や回内外,内外転による介達外力の2つがある.外力の方向と大きさにより損傷はリスフラン関節,楔状骨,舟状骨,立方骨などの中足部だけでなく,ショパール関節や足関節に及ぶこともあり,これらの同時損傷もまれではない.

距骨頚部骨折/[COLUMN]距骨頚部脱臼骨折の整復なんて簡単だ!?

著者: 土井武

ページ範囲:P.580 - P.582

距骨頚部骨折を疑う事前情報

 距骨頚部骨折症例はほとんど高エネルギー外傷であり,距腿関節を過背屈し軸圧がかかることで生じると言われている1).脱臼を伴う場合には足関節・足部に変形があるが,視診のみでは足関節脱臼骨折などとの鑑別は難しい.よって画像による診断に頼ることとなる.

踵骨骨折/[COLUMN]踵骨骨折の見逃しに注意

著者: 諸橋達

ページ範囲:P.583 - P.587

踵骨骨折を疑う事前情報

疼痛部位・変形:足関節周囲(特に外果の周囲)に疼痛を生じ歩行困難となることが多い.外果下端やや遠位の踵骨外側壁に膨隆を認め,外果の輪郭が不明瞭になる.また,足底に出血斑が現れる.

受傷機転:若年者では工事現場での転落や自殺企図などの高所からの転落が多いが,骨の脆弱化が始まる50歳以上では段差での踏み外しによる受傷もある.

アキレス腱断裂/[COLUMN]アキレス腱断裂治療経過中のMRIとスポーツ復帰

著者: 安田稔人

ページ範囲:P.588 - P.591

アキレス腱断裂の事前情報

 受傷前にアキレス腱部や踵骨付着部に痛みを伴う例もあるが,前駆症状を認めないアキレス腱断裂も多い.アキレス腱断裂を誘発する薬剤(ステロイドやニューキノロン系抗菌薬)の使用歴や,アキレス腱断裂との関連が濃厚である脂質異常症の有無をチェックしておく必要がある.

受傷機転:ジャンプや蹴り出しのときに膝関節伸展位で下腿三頭筋が急激に収縮して起こることが多い.近年のNBA(National Basketball Association)選手に対するビデオ解析では,膝関節は軽度屈曲位,股関節は伸展位で足関節背屈位の状態で踏み出すときの受傷が多かったと報告している1)

 

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脊椎の外傷

脊椎の外傷患者のみかた/[COLUMN]困ったときはヒトを呼ぼう!/[COLUMN]かたはらいたい

著者: 石井桂輔

ページ範囲:P.592 - P.594

疫学

 脊椎外傷には主に脊椎損傷と脊髄損傷がある.

 脊椎損傷では身体の支持性が損なわれ,脊髄損傷では運動障害,感覚障害,あるいは自律神経障害が様々な程度で引き起こされる.

 

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頚椎・頚髄損傷/[COLUMN]脱臼が整復されたからといって安心はできない!

著者: 大饗和憲

ページ範囲:P.595 - P.597

頚椎・頚髄損傷を疑う事前情報

 項頚部痛を訴え,四肢の運動麻痺や感覚障害を認める場合は頚椎・頚髄損傷を疑う.また,皮膚に触れるだけでも痛いといった痛覚過敏(allodynia)を呈する場合もある.脊髄の損傷が強い場合には,自律神経の障害から腹式呼吸となっている場合があり,これも本外傷を疑う重要な所見である.

受傷機転:交通事故や転落外傷などで強い衝撃が頭部や頚部に加わった際に起こる.また,高齢者では転倒などの軽微な外傷でも生じる場合がある.頭部や顔面を強打したのちに上記症状を呈している場合は頚椎・頚髄損傷を強く疑う.

 

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胸腰椎損傷/[COLUMN]OPLLを伴った胸腰椎脱臼骨折は普通に整復するとやばい!

著者: 藤由崇之

ページ範囲:P.598 - P.601

胸腰椎損傷を疑う事前情報

疼痛部位:腰背部痛を訴える患者がほとんどであるが,時に骨折部ではなく上殿部痛(関連痛)を訴えることがある.特に,高齢者の骨粗鬆症性椎体骨折患者に多い.

受傷機転:胸腰椎損傷には大きく2種類の受傷タイプがある.1つ目は,交通事故や転落などの高エネルギー外傷であり比較的若年者に多い.もう1つは,転倒や尻餅などの低エネルギー外傷で骨粗鬆症の高齢者に多く発症する.

 

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骨盤の外傷

骨盤外傷の患者のみかた

著者: 神田倫秀

ページ範囲:P.602 - P.604

骨盤外傷の解剖学的特徴

 骨盤を構成する骨形態は左右の寛骨と中央の仙骨から作られており,左右の寛骨を前方では恥骨結合として,後方は仙骨と寛骨が仙腸関節として連結し環状構造を形成している.

 仙骨は左右の寛骨に挟まれていて,X線画像のoutlet viewでは石橋のkey stoneのように骨性安定性があるようにみえる(図1a).しかし,inlet viewでは仙骨の形状がkey stoneとは逆で前方が開いているため,骨盤骨のみでは脊椎からの荷重負荷に対して仙骨は前方に押し出されるように転位する(図1b).

骨盤輪・寛骨臼骨折

著者: 普久原朝海

ページ範囲:P.605 - P.611

 近年は骨粗鬆症に関連した転倒に伴う骨盤外傷も増えているが,本稿では高エネルギー外傷に伴う骨盤外傷について,救急外来での診断・初期治療を解説する.

脆弱性骨盤輪骨折

著者: 吉田昌弘

ページ範囲:P.612 - P.614

脆弱性骨盤輪骨折の概要

頻度特徴:現在65歳以上の人口の増加に伴い本疾患は増加傾向にあり,欧米では2005〜2025年に56%の症例の増加が見込まれている.またその発生頻度はすべての脆弱性骨折の7%を占めており,決して稀な外傷ではないといえる.

小児の外傷

小児外傷のみかた/[COLUMN]ATFL viewを撮ろう

著者: 滝川一晴

ページ範囲:P.615 - P.616

労を惜しまない

 適切な治療を行うためには正しい診断が必須である.低年齢なほど,問診情報を得ることや指示に従う動きから情報を得ることは難しくなるため,小児では特に視触診がカギを握る.患部が衣類で確認できない際は,衣類を脱がし必ず患部の状態を視診する.

 正しい正面および側面のX線像を得ることが診断を行ううえで最も重要なことの1つであるが,疼痛の強い場合などは難しいこともある.労を惜しまず医師が立ち会い,撮影肢位に指示を出すとともに,患肢を動かさずにX線の管球を回転させて撮影する(肘関節周囲の骨折では肩関節を内外旋して肘関節側面像を撮影するのではなく,カセッテを脇にはさみcross tableで側面像を撮影)など,X線撮影時になるべく疼痛を生じさせない配慮が大切である1)

肘内障

著者: 阿南揚子

ページ範囲:P.617 - P.619

肘内障を疑う事前情報

 肘内障(pulled elbow)は乳幼児に多く,典型例では,親が子供の手を引っ張った後に腕を動かさなくなった,などの主訴で病院を受診する.

 痛みは肘・前腕や手関節部に訴え,患肢に触れられるのを嫌がる.圧痛は橈骨頭前外側部にあるが,その他に前腕や手関節などの疼痛部位に圧痛はなく,肘関節を含め腫脹や変形,血流障害などはない.

小児の肘外傷/[COLUMN]骨端線離開は忘れた頃にやってくる

著者: 岡田慶太

ページ範囲:P.620 - P.627

上腕骨顆上骨折

上腕骨顆上骨折を疑う事前情報

 転倒や転落の際に手をついて受傷することで生じる骨折である.特に滑り台や雲梯など高所からの転落後に肘に痛みが出現し,上肢を動かさない時は上腕骨顆上骨折を疑う.受傷直後は腫脹が軽度なこともあるが,時間とともに腫脹が目立つようになる.

 肘内障でも上肢を動かさないため,鑑別診断に挙がるが腫れることはない.肘周辺が腫れている時はまず骨折を疑うべきである.

大腿骨骨幹部骨折

著者: 藤本陽

ページ範囲:P.628 - P.630

大腿骨骨幹部骨折を疑う事前情報

 多くは交通事故が原因であり,歩行者が自動車と衝突することにより直達外力が加わり骨折を来すことが多い.健側に比して患側の大腿部は腫脹が強く,外見上変形が明らかである.

 また,虐待の可能性を常に念頭に置く必要がある.保護者からの情報と受傷した状況との齟齬がないかを確認しながら診察を進める.

骨端線損傷

著者: 藤本陽

ページ範囲:P.631 - P.633

骨端線損傷を疑う事前情報

 骨端線損傷は成長軟骨の障害であり,転位したまま治癒するとその後の成長障害を来すため,初療における骨端線損傷の有無の判断と対処が重要である.時間が経過した本外傷では腫脹が明らかであるが,受傷直後は体表から判別しにくいことも多い.

 小児の骨端線損傷のうち,頻度の高い橈骨遠位(約28%),脛骨遠位(9%)1)と,判断に迷うことが多いと予想される上腕骨近位(2%)についても解説をする.

小児急性塑性変形

著者: 藤本陽

ページ範囲:P.634 - P.635

小児急性塑性変形を疑う事前情報

 ほとんどは前腕に発生する.手をついて受傷することが多く,外見で変形が明らかなことが多いが,画像検査なしに骨折と鑑別することは困難である.

重症四肢外傷

開放骨折/[COLUMN]阻血はないけれど損傷血管をみつけたときどうする?/[COLUMN]新しい手技 CLAP療法ってどうなの?

著者: 佐野善智

ページ範囲:P.636 - P.644

 開放骨折は重症であるほど初期治療が重要となる.しかし,その部位・重症度は多岐にわたり,一括りで対応をマニュアル化することは困難である.

 そのため,受傷時の状況をみてその患者のゴールが見通せる外傷再建医が一貫して治療に携わることが望ましい.

コンパートメント症候群/[COLUMN]“Be vigilant”

著者: 対比地加奈子

ページ範囲:P.645 - P.648

 コンパートメント症候群は,筋膜や骨幹膜に囲まれた筋区画(コンパートメント)内圧が何らかの原因により上昇し,組織の末梢循環が障害されて生じる外科的緊急度の高い病態である.治療の遅れや見逃しにより不可逆的な変化が進むと,著しい機能障害を残すことになる1)ため,外傷の初期治療にあたる医師は,その診断と治療について習熟する必要がある.

塞栓症—動脈 脂肪塞栓/[COLUMN]誰しもが一度は経験する重度四肢外傷アルアルから学ぶ 他科における幅広い知識の重要性

著者: 宇田川和彦

ページ範囲:P.649 - P.652

 重症四肢外傷において考えるべき合併症として,塞栓症を忘れてはならない.とくに,脂肪塞栓症は多発外傷患者における重篤な合併症の1つである.しかし,認知障害やせん妄との鑑別が難しく,外傷後に生じうる可能性を念頭に置き,診療にあたることは極めて重要である.また,重症四肢外傷術後に,その手術操作により動脈塞栓症を生じることもある.診断の遅れが患者の予後に重大な影響を与える合併症であり,血流障害を示唆する所見が少しでもあれば,十分な診察を行った上で積極的な検査を施行すべきである.

 本項では,脂肪塞栓症および動脈塞栓症について述べていきたいと思う.

疾患編

肩の症状を訴える患者のみかた/[COLUMN]肩の痛みと悪性腫瘍

著者: 塩田有規 ,   川崎隆之

ページ範囲:P.653 - P.658

問診

 肩の外来を受診する患者さんの愁訴は概ね疼痛か,運動制限であることが多い.まず主訴を確認し,その症状を誘発する肢位や,誘因となった外傷や動作の有無を問診する.

 また夜間痛の有無やその程度(自発痛で就寝困難,寝返りで起きてしまうなど)を聴取する.

肘の症状を訴える患者のみかた/[COLUMN]小児の肘脱臼整復後の落とし穴/[COLUMN]肘部管症候群様の症状を呈したC8神経麻痺

著者: 岩瀬嘉志 ,   原章

ページ範囲:P.659 - P.669

肘疾患 総論…岩瀬嘉志

問診

疼痛:小児肘内障は手を引っ張られて受傷することが多いが,転んで発症することもある.肘内障で手関節痛や肩関節痛を訴えることもある.

 外傷の覚えがなく肘関節周囲に次第に痛みが出現し,継続ないしは増悪してきたのであれば上腕骨外上顆炎,上腕骨内上顆炎等の局所の炎症や離断性骨軟骨炎,変形性肘関節症などの退行変性,または関節リウマチのような全身性の炎症性疾患が考えられる.

 

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手の症状を訴える患者のみかた

著者: 富田善雅 ,   平澤英幸 ,   浅沼雄太

ページ範囲:P.670 - P.679

総論…富田善雅

問診のポイント

 手は握りやつまみといった単純な運動から楽器や道具を使用するなど,きわめて複雑な運動までを脳と連携して行っている.そのため手は,初めて人が獲得した道具とも言われる所以で,長い人類の歴史は手という道具の獲得により発展してきたともいわれる.

問診・病歴聴取:まず,手の診察をする前には詳細な病歴をとることが大切である.

股関節の症状を訴える患者のみかた

著者: 本間康弘 ,   佐野圭 ,   白銀優一

ページ範囲:P.680 - P.685

問診のポイント

 一般的な問診と同様に,股関節においても「2階建て」構造で体系的問診を行うことが重要になる.まず,「1階」に該当する一般的な問診を必ず行い,次に「2階」に相当する専門的で具体的な問診を行う.専門性が高まる時期もしくは診療に慣れ始める時期には,「1階」をスキップして「2階」に進んでしまうことがしばしば見受けられるが,誤診への近道であるので要注意である.また,適切な問診は診断精度向上の目的のみならず,良好な医師・患者関係を構築する最初のステップとしても非常に重要な意味合いを持つ.

 「1階」として問診すべき事項を図1に示す.愁訴が痛みであるとは限らず,可動域制限やジンジン・ビリビリのような神経疾患を疑う愁訴のこともある.そしてその愁訴が急に生じたのか慢性的に経過しているのか,明らかな外傷の有無などを確認する.さらには,痛みの具体的な場所,安静時痛か可動時痛か,内科的疾患の有無も重要な情報になる.

膝の症状を訴える患者のみかた

著者: 髙澤祐治 ,   西尾啓史

ページ範囲:P.686 - P.690

 膝関節は大腿骨,脛骨,膝蓋骨の3つの骨から構成され,軟部組織(半月,靱帯)によって支持されている関節である.また,大腿四頭筋は人体最大の筋であり,種子骨である膝蓋骨を介し膝蓋腱を経て脛骨粗面へ停止し,膝関節の伸展運動に対して大きな力を発揮する.

 膝の痛みを訴える疾患では,膝関節周囲の解剖学的特徴を熟知し,その膝の痛みが何に起因しているのか,疼痛,腫脹,変形,可動域制限,関節不安定性,歩容などから正確に捉えることが重要となる(表1).また,膝関節の症状が全身疾患(関節リウマチ,神経・筋疾患,代謝性疾患,腫瘍性疾患など)に起因していることもある.さらに,膝関節周辺には,急性外傷(第2章外傷編 膝の項参照)のほか,ランニングやジャンプ動作などを繰り返し行うことによって生じる慢性障害(使いすぎ症候群:overuse syndrome)を生じることがある.問診,視診,触診,さらには様々な徒手検査から,原因となっている組織を判別し,診断に至る.

足の症状を訴える患者のみかた

著者: 松尾智次 ,   武田純

ページ範囲:P.691 - P.696

足のみかた…松尾智次

 足は28個の骨の複合体で多関節,人体で最も末梢にあり,靴など履物の刺激を常に受けるという特徴がある.このため,血流が悪く,腫れやすい,荷重と履物による影響を常に考えながら診療する必要がある.

脊椎の症状を訴える患者のみかた/[COLUMN]前医の情報を鵜呑みにせず,患者さんの神経症状をみる

著者: 野尻英俊

ページ範囲:P.697 - P.704

問診の重要性

 脊椎の症状は,脊椎に起きた炎症が発する侵害受容器の症状と上肢や下肢に放散する神経症状,そして脊椎疾患が関連する心理社会的な痛みなどが多種多様に存在する.診断精度を高めるためには,患者やその家族から的確な情報を得ることが必要である.痛みやしびれの局在,筋力低下や感覚異常の有無,排泄機能の状況を聞くと同時に,その発症時期(急性の痛みなのか,慢性痛なのか),発症機序(外傷歴があったのか,明確な誘因がないのか),発症形態(突然痛くなったのか,数年前から続いていたものなのか),症状の経過(繰り返している,徐々に強まっているなど),症状と関連する動作(安静時痛や自発痛,座位で痛い,臥位で痛いなど)を聞くことが重要である.

 また脊椎の疾患は,神経内科疾患,膠原病,悪性疾患や感染症など関連する疾患が多く,全身状態や既往歴の聴取は必須となる.

 

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—腫瘍が疑われる患者のみかた—骨軟部腫瘍

著者: 窪田大介 ,   髙木辰哉

ページ範囲:P.705 - P.708

 整形外科の日常診療では,四肢や体幹にしこり(以下,腫瘤)があるという患者さんにしばしば遭遇する.筆者も骨軟部腫瘍の知識のない若手時代は,ガングリオンや滑液包炎の疑いとして経過観察したことがあった.

 このような腫瘤の中にはガングリオンや,血腫,滑液包炎,類表皮囊腫(アテローム)などの非腫瘍性病変も多いが,腫瘍性病変,特に悪性骨軟部腫瘍がありうることを忘れてはならない.日常の診療でも,常に悪性骨軟部腫瘍である可能性を考えて対処すべきである.

 

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—腫瘍が疑われる患者のみかた—転移性骨腫瘍

著者: 窪田大介 ,   髙木辰哉

ページ範囲:P.709 - P.713

 日本では,2人に1人が生涯にがんに罹患する「がん時代」を迎えている.さまざまながん種に対する集学的治療の発達により,がん患者の予後は改善され,がんと共存しながら生きる時代となりつつある.それに伴い,がんの骨転移患者が増加しており,整形外科医のがん治療へのニーズは年々高まってきている.

 がんの骨転移は直接的に生命予後に大きな影響を及ぼさないが,がんが骨に転移すると疼痛や病的骨折,脊髄圧迫による麻痺症状,高カルシウム血症などが起こることがあり,患者の日常生活動作(ADL)を低下させる.これによって原発がんに対する治療が困難になると,骨転移は間接的に予後に影響することになる.

 

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スポーツ外傷・障害のみかた

著者: 池田浩

ページ範囲:P.714 - P.720

 スポーツによる怪我は「外傷」と「障害」に大別される.大きな1回の外力が瞬間的に加わった結果として発生するのが「スポーツ外傷」であり,小さな外力が繰り返し一定の部位に加わった結果として発生するのが「スポーツ障害」である.

 スポーツ外傷は,原因が他のプレイヤーとの衝突や転倒によることが多いため,発生頻度はラグビーなどのコンタクトスポーツで高く,代表的な疾患としては,骨折,脱臼,捻挫,靱帯損傷などが挙げられる.

小児の整形外科疾患のみかた/[COLUMN]日々の子どもの診療から思うこと

著者: 坂本優子

ページ範囲:P.721 - P.727

小児整形関連疾患の初療に当たる場合の心得

 日ごろ,成人を相手にすることが圧倒的に多い整形外科医にとって,「小児整形関連疾患の初療の心得」といえば,すなわち「子どもに接する(「診療」でさえない)際の心得」が大切である.

女性の整形外科関連疾患のみかた

著者: 大沢亜紀

ページ範囲:P.728 - P.731

 多くの運動器疾患は生活習慣などの身体の使い方,性ホルモンによる影響を受け,運動器疾患の頻度は疾患により差があり,一般に骨(骨粗鬆症,骨粗鬆症関連骨折),筋肉に関わる疾患(サルコペニア)は女性に多く,脊椎の椎間板変性は男性に多い.関節の弛緩性不安定性に関係すると考えられる膝の靱帯損傷,腰椎すべり症,外反母趾,扁平足障害はエストロゲンが関与しており女性に多い1).女性の健康は,思春期から性成熟期,更年期,老年期に至るまで生涯にわたりエストロゲンに影響されている.

 本稿では女性特有の疾患である女性アスリートの三主徴と,妊婦・授乳婦を診察する上での注意点,妊娠・授乳関連骨粗鬆症について述べる.

—感染症が疑われる患者のみかた—化膿性関節炎/[COLUMN]左側胸部挫傷,左肋軟部打撲

著者: 永山正隆 ,   石島旨章

ページ範囲:P.732 - P.735

化膿性関節炎

概要:感染性関節炎は様々な病原性微生物が関節内に侵入し発症する関節炎である.病原微生物の種類により表1のように大きく分類できる.

 化膿性関節炎は感染性関節炎のなかで最も多く,関節破壊の速度は結核や関節リウマチなどと比較して極めて急速なため早期診断,早期治療が重要である.

—感染症が疑われる患者のみかた—化膿性脊椎(椎間板)炎・腸腰筋膿瘍/[COLUMN]顎関節脱臼の整復,どうやってしますか?

著者: 糸井陽

ページ範囲:P.736 - P.740

 整形外科医が1人当直で遭遇した化膿性脊椎炎・腸腰筋膿瘍のエマージェンシー,すなわち緊急手術や早期穿刺排膿に限定して解説する.敗血症性ショックは本稿の範囲ではないため割愛する.

 当直中に重要なのは,疾患の想起である.本疾患は麻痺以外の自覚症状が軽度のことがあり,特異的症状も限られる.しかし近年,患者が増加しており,脊椎の痛みでは常に鑑別すべき疾患である.

炎症性疾患が疑われる患者のみかた

著者: 松尾智次 ,   金子晴香 ,   石島旨章

ページ範囲:P.741 - P.747

痛風・偽痛風…松尾智次

痛風・偽痛風の特徴

 痛風は,関節腔内の尿酸-ナトリウム結晶の沈殿に起因する,最も一般的には母趾中足指節(MTP)関節における痛みを伴う関節炎を特徴とする(図1).食生活および生活習慣の欧米化に伴い,痛風患者の数は年々増加している.痛風患者は110万人以上,無症候性の高尿酸血症は1000万人以上とされる1).国民生活基礎調査によれば,1986〜2016年の30年間で25.5万人から110.5万人へと約4倍に急増した1)

 高尿酸血症が持続すると,痛風だけでなく,メタボリックシンドロームや尿路結石,腎障害,脳・心血管障害の危険因子となる可能性も指摘されている.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.421 - P.422

コラム 目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.748 - P.748

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.749 - P.749

あとがき フリーアクセス

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.752 - P.752

 今月は増大特集号「整形外科 外来・当直 エマージェンシーマニュアル」(企画:最上敦彦先生 順天堂大学医学部附属静岡病院整形外科)を掲載いたしました.外来や当直など,ひとりで任される新米整形外科医の役に立つような内容をめざし,外傷や症候を扱ううえでまずやるべきこと,先輩に相談するタイミング,患者へのICなどを記載しています.外傷編と疾患編を分け,外傷編では身体の各部位ごとに加えて小児の外傷と重症四肢外傷について,疾患編では部位別症状に加えて腫瘍やスポーツ障害,感染症や炎症性疾患,小児や女性という特性を考慮した内容となっています.いずれの領域も,第一線で活躍している医師によって執筆されており,大いに役立つ骨太の内容になっています.読者の皆様,特に若手医師の皆様におかれましては,バイブルとして頻回に活用していただければ幸いです.

 さて,日本でもコロナ禍は1年以上続いており,様々な領域に影響が及んでいます.特に,学会活動やセミナーなどは多くがオンライン形式となっていますが,現地開催とオンデマンド配信などを組み合わせたハイブリッド形式はまだまだ十分に普及しておりません.今年2月下旬から,医療者への優先ワクチン接種が始まりました.このワクチンがゲームチェンジャーとして大きな期待が持たれています.当初は3月中にも接種は完了するようなことを言っていましたが,実際には5月中にもつれ込みそうです.日本製のワクチンがない現状では,やむを得ないことかもしれません.これから日本国民にワクチン接種が行き渡り,コロナが鎮静化したあとに,学会活動やセミナーが元の状態に戻るのか?という疑問が出てきます.私の個人的な意見ですが,オンラインの利便性を一度覚えてしまうと,無理ではないかと考えます.大きな学会になればなるほど,ハイブリッド開催がその利便性を発揮すると思います.現地開催の良さは十分にありますが,仕事の合間や食事をしながらでも,オンデマンド配信を視聴することの効率性は万人が認めるところだと思います.今後,いろいろな学会が知恵を絞って現地開催とオンデマンド配信の役割を考えていくかと思いますが,非常に楽しみにしております.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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