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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科56巻6号

2021年06月発行

雑誌目次

特集 ACL再断裂に対する治療戦略

緒言 フリーアクセス

著者: 黒田良祐

ページ範囲:P.758 - P.758

 Anterior cruciate ligament(ACL)再建術は1980年代に始まり,いくつもの改良を経て現在に至っています.しかしながら,現状のACL損傷に対する再建術と周術期管理(主にリハビリテーション治療)において解決できていない問題点が主に2つあります.

 1つは,ACL再建術後に残存する不安定性(pivot-shift)です.2000年以降に行われた比較的新しい手技でのACL再建術においても術後に約20%でpivot-shift test陽性の膝が残存していることがわかっています.Pivot-shift test陽性所見は,患者の主観的機能評価に反映すること,また,さらには早期に変形性関節症を誘発することに強く関連しています.もう1つの問題点は“Secondary ACL injury”です.これは,ACL再建術後の再断裂例と反対側の健常膝に新たに発生したACL断裂例を含めた表現です.2014年にPaternoらは,ACL再建術後,約2年間に29.5%の患者がSecondary ACL injuryを起こしたと報告しています.これは驚くべき数値であり,不可避かつ深刻な問題であり,解決しなければならない喫緊の課題です.

ACL再断裂の現状

著者: 田代泰隆

ページ範囲:P.759 - P.764

 Anterior cruciate ligament(ACL)再建術後の再断裂は,術後の最も大きな合併症の1つであり,数〜20%近い頻度で発生し得る.再断裂は術後1年程度までの特に競技復帰後早期に発生しやすく,疫学的には活動性が高いことや若年齢,特に骨端線閉鎖前の小児が危険因子とされる.単純な外傷によっても生じ得るが,生物学的には血行不良などによる移植腱治癒の遷延やバイオメカニカルには過度な負荷やストレス・摩擦などが素因となって,移植腱の治癒不良の影響下でも生じ得る.再断裂の背景や要因を理解し,手術やリハビリテーション,復帰時期など,可能な限り再断裂の予防に努めることが重要である.

ACL再再建術のタイミング(一期的か二期的か?)と移植腱の選択

著者: 中瀬順介 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.765 - P.771

 前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)再再建術では,十分な病歴聴取と対側膝を含めた身体所見の確認を行い,綿密な術前計画の下に手術に臨む姿勢が必要である.術前検査として3次元CTは必須であり,初回骨孔位置,インプラントの残留と骨孔拡大の有無を確認し,自らの力量に鑑みて,手術のタイミングや移植腱の選択を行うことが必要である.解剖学的ACL再再建術が可能で,移植腱を強固に固定できるのであれば,できるだけ一期的再再建を行う.移植腱の選択においては,それぞれの利点と欠点を把握して,固定方法を含めて検討する必要がある.

再再建方法(ハムストリング)

著者: 近藤英司

ページ範囲:P.773 - P.778

 膝前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)再再建術では,骨孔位置不良,骨孔拡大および移植腱の選択などが問題となる.骨孔位置が正しく骨孔拡大が少ない例では,同じ骨孔を使用する.著しい骨孔拡大があり骨孔の重複が予想される例では,骨移植後,二期的に手術を行う.骨孔の大きさ,形態に合わせ腸骨より骨柱を採型し骨移植を行う.移植腱は,力学的強度の高い膝屈筋腱ハイブリッド代用材料を第1選択としている.本法は,二期的手術により再再建術においても初回手術と同様の解剖学的2束再建術を行うことができる.

再再建方法(膝蓋腱)

著者: 武冨修治

ページ範囲:P.779 - P.787

 膝前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)再再建術の際には初回再建時の骨孔および骨孔拡大による骨欠損や内固定材の遺残などのさまざまな治療上の問題点が存在する.経過が長い場合は半月板損傷や軟骨損傷を伴っていることや脛骨のanterior subluxationを生じていることなども問題となり得る.術前に3次元CT(3D-CT)を撮像し,初回再建時の骨孔および遺残した内固定材の評価を行うことが非常に重要である.筆者は再再建術の際は骨付き膝蓋腱(bone-patellar tendon-bone graft:BTB)を用いた解剖学的長方形骨孔ACL再建術を行っている.再再建術時の骨孔作製位置は初回手術の骨孔や骨欠損などにより変化する.術前評価を十分行い,想定される状況に応じた準備を行う必要がある.

関節外組織の補強

著者: 星野祐一 ,   長井寛斗 ,   松下雄彦 ,   黒田良祐

ページ範囲:P.789 - P.794

 前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)再建術術後の再断裂は現状で不可避かつ深刻な術後合併症である.ACL再断裂に対する治療を初回受傷と同一に行っても再受傷を繰り返してしまうことが危惧され,再ACL再建術時には追加処置も検討される.近年,再認識されているのが関節外組織の補強術であり,中でも高度な臨床研究において再断裂率の減少を確認された手術法が外側関節外腱固定術(lateral extraarticular tenodesis:LET)である.ここでは関節外組織の補強術の歴史的背景と実際の手術法を紹介する.LETは適応を十分に検討すれば,臨床上有効なACL再再建時に用いることのできる追加治療と考えられる.

関節外靱帯(ALL)再建

著者: 野崎正浩

ページ範囲:P.795 - P.797

 近年,前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)再建術の優れた成績が報告される一方で,ACL再建術後の再断裂は未だ解決の必要のある課題である.ACL再建術後の再断裂は10〜16%と報告され,そこにはさまざまな要因が関係している.再断裂症例に対する治療では再断裂に至った要因に対するアプローチが非常に重要であり,特にpivoting sportsへの復帰に際して再断裂を来した症例や,重度の回旋不安定性を認める症例では,ACL再再建術時に前外側靱帯(anterolateral ligament:ALL)再建術を追加することにより,良好な成績が得られることが報告されている.本稿ではACL再断裂症例に対するACL再再建術にALL再建術を追加する術式について,その適応,手術手技について述べる.

再再建術におけるリハビリテーション

著者: 津田英一 ,   木村由佳 ,   逸見瑠生

ページ範囲:P.799 - P.805

 膝前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)再再建術後のリハビリテーションのゴールは基本的には再建術後と同様で,膝関節機能の回復,スポーツパフォーマンスの回復,安全なスポーツ復帰である.ACL再建術の件数増加に比例して再再建術数も増加しており,手術治療では様々な工夫が推奨されているが,再再建術に特化したリハビリテーションは確立されていない.再建術後のリハビリテーションプロトコルを基本として,患者個々に再再建膝に生じやすい膝関節機能の障害,再受傷に至った動作特性や背景など諸因子を明らかにし,必要に応じてプログラムを修正し提供する.

視座

論文を発表するということ

著者: 坂井孝司

ページ範囲:P.755 - P.755

 Peer reviewを経て英文論文として雑誌にacceptされることは貴重な経験であると思う.「こういった経験を若いうちからするのが望ましい」と講演させていただいていると,関連病院に在籍するある先輩から「では論文を発表するメリットについてどのように若い医師に説明するのか?」と問われた.博士課程に進む医師にとって,英文論文として形にすることは当然最終的な目標となる.一方で医学博士を念頭においていない医師にとってはどうか.国際的に自分の業績をアピールし得る,留学の際にも役立つ,なども考えられたが,海外にまったく興味がなく専門医試験で手一杯の若手には響かない.私の場合は若いころに「せっかく学会で発表したのだから英文論文としてまとめるように」と別の先輩から指導いただき,それに何の疑問を挟むことなく,というより,多忙過ぎて疑問をもつ余裕もない状況であった.現時点で若い医師には,「ある課題に対するレポートのように,1つ1つまとめていくのがよいと思う」と控えめな言い方に終始していて,「メリットは?」に対する明確な回答にはなり得ていない.

 ある事象に着目して,仮説をたて,実験計画を練り,基礎実験あるいは臨床的検証を行って,仮説が証明されるような結果が得られれば,喜ばしいことである.あるいは,他に展開しそうな意外な結果が得られた場合のほうが(いわゆるserendipity)わくわく感が大きいかもしれない.論文を発表するというのはその先にあり,いくらよい着想をしても,よい結果が得られても,わくわく感が得られたとしても,論文として投稿し,acceptが得られないと,研究を仕上げたことにはならず,オリジナリティは得られにくい.論文を発表することの重要性はこの点にあると思う.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・33

英語論文査読の対応 ②何がpeer review systemを支えているのか?

著者: 堀内圭輔 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.806 - P.809

 Peer review systemの根底を支えているのが“査読者”であることは間違いありません.しかし,医師・研究者がなぜ査読を引き受けるのか,一顧されたことはあるでしょうか? 著者の立場からすれば,投稿した論文に速やかに適切な査読者が割り当てられるのは当然,と考えがちです.しかし,一歩下がって考えると,この状況は必ずしも普通ではないことがわかります.今回は,peer review systemに関するアンケート調査1)やその他の報告2-4)を紹介しつつ,peer review systemの現状と問題点などを取り上げます.編集者や査読者とのやり取りをする上でも,peer review systemの理解は決してマイナスになりません.

臨床経験

化膿性関節炎に対する持続局所抗菌薬灌流療法の治療経験

著者: 郷野開史 ,   善家雄吉 ,   田島貴文 ,   鈴木仁士 ,   佐藤直人 ,   酒井昭典

ページ範囲:P.811 - P.817

背景:化膿性関節炎は感染制御に難渋することが多い.本報告の目的は近年,骨・軟部組織感染症に対する有用性が報告されている持続局所抗菌薬灌流(CLAP)療法の化膿性関節炎に対する治療効果を報告することである.

対象と方法:当院で化膿性関節炎に対してCLAP療法を行った4症例(男性:78歳,83歳,女性:35歳,77歳),4関節(膝2例,肩2例)である.手術術式は,洗浄・デブリドマンを施行後,関節内に注入用ラインと排液ラインを留置し,ゲンタマイシン硫酸塩(GM)の持続注入を行った.

結果:注入ラインの留置期間は平均6.8日(4〜14日)だった.局所感染制御は良好(1例追加処置あり)で,有害事象は認めなかった.

まとめ:本法は化膿性関節炎に対する有用な治療法の選択肢の1つと考える.

糖尿病性凍結肩に対する関節鏡視下関節包切離術および頚椎神経根ブロック下授動術の短期治療成績の比較

著者: 倉品渉 ,   笹沼秀幸 ,   飯島裕生 ,   西頭知宏 ,   中間季雄 ,   竹下克志

ページ範囲:P.819 - P.824

背景:研究の目的は糖尿病性凍結肩(DM-FS)に対する関節鏡視下関節包切離術(ACR)と頚椎神経根ブロック下授動術(MUC)の治療成績を比較することである.

対象と方法:対象はDM-FS21肩で,授動術方法によってACR群(10肩)とMUC群(11肩)に分類した.評価項目は術後6カ月,12カ月の肩関節可動域,疼痛スコア,ASESスコア,constantスコアとし,2群間で比較した.

結果:2群ともにすべての術後スコアは術前に比べて有意に改善した.術後6,12カ月のACR群の疼痛スコアはMUC群より有意に低値であった.また,術後12カ月のACR群のASES scoreとconstantスコアはMUC群より有意に高値であった.

結論:DM-FSに対するACRはMUCより高い臨床成績が得られた.

妊産婦の妊娠6カ月における腰部・骨盤帯痛に関連する因子

著者: 松田陽子 ,   対馬栄輝 ,   葉清規 ,   村瀬正昭 ,   大石陽介

ページ範囲:P.825 - P.830

背景:妊娠6カ月における腰部・骨盤帯痛に関連する因子を探索し,推定する.

対象と方法:妊娠約6カ月の妊産婦18名に対し,腰部・骨盤帯痛の有無,基本情報,脊椎骨盤アライメントを評価した.腰部・骨盤帯痛の有無での評価項目の比較,および腰部・骨盤帯痛に関連する因子について解析した.

結果:多重ロジスティック回帰分析の結果,出産歴,腰椎前弯角,胸椎後弯角が有意に関連する因子であった.

まとめ:初産婦の妊娠6カ月に脊椎アライメントを評価することは,腰部・骨盤帯痛のマネジメントの一助になると考える.

症例報告

距骨骨軟骨病変に対し関節鏡視下に骨接合術を施行した2例

著者: 中嶋望 ,   北原貴之 ,   草野雅司 ,   北圭介

ページ範囲:P.831 - P.835

 距骨骨軟骨病変(osteochondral lesion of the talus)に対して,関節鏡視下に骨接合術(arthroscopic reduction and internal fixation)を施行した2例を報告する.症例1は15歳男性,距骨滑車前外側に骨軟骨骨折を認め,前外側ポータルより吸収性ピンで固定した.症例2は15歳女性,陳旧性の距骨滑車内側の骨軟骨病変に対して,脛骨内果に5mm径の骨孔を作製し,そこから吸収性ピンで固定した.従来の治療として,骨片が小さければ骨穿孔術が行われてきたが関節面の整合性・軟骨の温存という観点からも可能な限り骨接合を行うことが望ましいと考える.本術式は関節鏡により低侵襲に行うことが可能であり,有用である.

外傷性橈尺骨癒合症に対する回外筋機能を温存した近位橈骨切除術の1例

著者: 小西麻衣 ,   藤原達司 ,   田中綾香 ,   松村宣政 ,   大浦圭一郎 ,   西井孝

ページ範囲:P.837 - P.842

 外傷性橈尺骨癒合症に対し,回外筋温存を目的とした近位橈骨切除術を施行した1例を経験した.31歳男性,右肘terrible triad injury術後6年6カ月で,近位橈尺骨癒合症の加療目的に当院紹介となった.これに対し,回外筋機能を温存する目的に,橈骨粗面近位で橈骨切除術を行った.術後6カ月,骨癒合の再発はなく,回内外自動運動はそれぞれ80°,90°と良好な結果であった.症例は限られるが,近位橈骨切除術において回外筋機能を温存することで,治療成績の改善が期待される.

書評

別冊『呼吸器ジャーナル』COVID-19の病態・診断・治療—現場の知恵とこれからの羅針盤 フリーアクセス

著者: 二木芳人

ページ範囲:P.810 - P.810

 新型コロナウイルス感染症がパンデミックを生じて早1年になろうとしている今日,世界の診断確定感染者数は1億人を超え,死者も220万人を上回り,まだまだ感染収束には程遠い感がある.本書が上梓された2021年1月中旬,わが国でも第3波の真っ只中であり,これからもこの感染症とは長い戦いを余儀なくされるであろうと考えられる.

 われわれは,この感染症とはすでに1年以上の戦いを繰り広げてきたが,当初全く未知のウイルス感染症であった本症も,多くの基礎的研究・臨床的経験が積み重ねられた結果,かなりの情報がすでに得られ,病態の理解も進んだと考えられる.その結果として,かなり効率的な予防や診断・治療が実施可能となっており,ワクチン接種も昨年末から急速に世界に普及し,わが国での実施もまさに目前である.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.753 - P.753

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.843 - P.843

あとがき フリーアクセス

著者: 松本守雄

ページ範囲:P.846 - P.846

 2021年のゴルフマスターズ・トーナメントで松山英樹選手が日本人として初めて優勝し,久しぶりの明るいニュースに日本中が沸きました.私もダイジェストを見ましたが,屈指の難コースに世界中から選ばれた名選手が苦戦を強いられていました.ボールがフェアウェイを捉え,グリーンを捉えていれば良いのですが,必ずしもそうはならず,各選手が困難な位置からのリカバリーショットを強いられる場面も少なくありませんでした.そのような中でピンチになっても冷静にリカバリーショットを打ち,スコアをまとめる力のある選手が上位に来るという結果になりました.ゴルフと一緒にすると不謹慎かもしれませんが,われわれ整形外科医の手術にも相通ずるところがあるように思います.手術は常に順調に推移するとは限らず,術中あるいは術後経過観察中に不具合を生じてやり直し(いわゆるリカバリーショット)を強いられることも少なくありません.その際,いかに冷静に最善の策をとれるかが患者の方々への結果となって現れると思います.

 今回の特集は神戸大学の黒田良祐先生にご企画いただいた「ACL再断裂に対する治療戦略」です.ACL再断裂という困難な状態に対していかに対応すべきか(いかに最善のリカバリーショットを打つべきか),経験豊かな先生方に病態やリハビリテーションも含めた治療法の実際をわかりやすく解説していただいています.視座では山口大学の坂井孝司先生にさまざまなハードルを乗り越えて英語論文を書く意義について,防衛医科大学校の堀内圭輔先生にはすでにおなじみの連載で英語論文を書く際の留意点についてそれぞれ論じていただきました.臨床経験3編,症例報告2編もいずれも大変興味ある論文です.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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