視座
論文を発表するということ
著者:
坂井孝司1
所属機関:
1山口大学大学院医学系研究科整形外科
ページ範囲:P.755 - P.755
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Peer reviewを経て英文論文として雑誌にacceptされることは貴重な経験であると思う.「こういった経験を若いうちからするのが望ましい」と講演させていただいていると,関連病院に在籍するある先輩から「では論文を発表するメリットについてどのように若い医師に説明するのか?」と問われた.博士課程に進む医師にとって,英文論文として形にすることは当然最終的な目標となる.一方で医学博士を念頭においていない医師にとってはどうか.国際的に自分の業績をアピールし得る,留学の際にも役立つ,なども考えられたが,海外にまったく興味がなく専門医試験で手一杯の若手には響かない.私の場合は若いころに「せっかく学会で発表したのだから英文論文としてまとめるように」と別の先輩から指導いただき,それに何の疑問を挟むことなく,というより,多忙過ぎて疑問をもつ余裕もない状況であった.現時点で若い医師には,「ある課題に対するレポートのように,1つ1つまとめていくのがよいと思う」と控えめな言い方に終始していて,「メリットは?」に対する明確な回答にはなり得ていない.
ある事象に着目して,仮説をたて,実験計画を練り,基礎実験あるいは臨床的検証を行って,仮説が証明されるような結果が得られれば,喜ばしいことである.あるいは,他に展開しそうな意外な結果が得られた場合のほうが(いわゆるserendipity)わくわく感が大きいかもしれない.論文を発表するというのはその先にあり,いくらよい着想をしても,よい結果が得られても,わくわく感が得られたとしても,論文として投稿し,acceptが得られないと,研究を仕上げたことにはならず,オリジナリティは得られにくい.論文を発表することの重要性はこの点にあると思う.