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文献詳細

雑誌文献

臨床整形外科56巻8号

2021年08月発行

文献概要

視座

遺伝子治療リバイバル

著者: 西田康太郎1

所属機関: 1琉球大学大学院医学研究科整形外科学講座

ページ範囲:P.975 - P.975

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 1990年代は遺伝子治療関連の研究が隆盛を極めた.かくなる私も留学先で椎間板に対する遺伝子治療プロジェクトを任され,一心不乱に研究に打ち込んだ.そんな中,1999年ウイルスベクターに対する免疫反応のために死亡事故が発生した.さらに2002年には免疫不全患者に対する遺伝子治療で白血病の発症が報告された.そのようなこともあって,遺伝子治療は勢いを失い,ES細胞やiPS細胞を中心とした幹細胞研究へと研究の方向性はシフトしていった.

 ところがその後20年近くが経過し,図らずも再び遺伝子治療が脚光を浴びることになった.新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの登場である.それどころかmRNAワクチンは,今や世界中に広く受け入れられ,その目覚ましい効果からパンデミックに対抗する唯一の手段として,人類の希望の光となっていると言っても過言ではない.詳しいことは知らないが,ウイルスの一部のタンパクをコードするmRNAをリポフェクション法で筋肉細胞に導入し,導入されたmRNAが機能することでわれわれの細胞自身がウイルスのタンパクを産生,免疫を賦活化するというものだそうだ.厚生労働省の遺伝子治療の定義は「疾病の治療や予防を目的として,遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること」とある.DNAとRNAの違いはあれど,mRNAワクチンはまごうことなき遺伝子治療である.かの有名なiPS細胞だって山中因子4種類を細胞に導入して作成するという.山中因子も遺伝子なので,iPS細胞を用いた治療も立派なex vivo遺伝子治療の一種という見方もできる.臨床研究で目覚ましい効果が報告された脊髄性筋萎縮症に対する遺伝子治療薬,ゾルゲンスマが本邦でも認可された.がんに対する遺伝子治療が保険適用外治療として日本国内でも既に多数実施されている.同じくがんに対する遺伝子治療と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法の治験も始まっている.ウイルスを運ぶためのベクターの開発や,多くの研究/失敗から得た貴重な知見や工夫の積み重ねから,さまざまなタイプの遺伝子治療が開発され,今度こそ本当に役に立つ遺伝子治療ワールドが花開こうとしている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1286

印刷版ISSN:0557-0433

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