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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科56巻9号

2021年09月発行

雑誌目次

特集 膝周囲骨切り術を成功に導く基礎知識

緒言 フリーアクセス

著者: 中村立一

ページ範囲:P.1106 - P.1106

 かつては「膝の骨切り術=高位脛骨骨切り術(high tibial osteotomy:HTO)」だったが,近年では解剖学的な膝形状維持および関節面水平化を目的に,個々の変形中心に応じた「膝周囲骨切り術(around-knee osteotomy:AKO)を使い分けることが推奨されている.この術式の進化と裏腹に,AKOの複雑化に困惑する医師が増えたのも事実だが,いかに複雑化しようとも「普遍的な基礎知識」があり,それに従い確実に手術を行うことがAKO成功の鍵である.従来の教科書や雑誌の特集では術式別の縦割り的解説が一般的だが,本特集では術式各論には触れずに,AKOの「普遍的な基礎知識」をさまざまな視点から横断的に網羅した.

 まずAKOの基礎への理解を深めるために,AKOの未来的展望(中山寛先生)と歴史的展望(近藤英司先生)を対比して解説していただいた.また半月板フープの概念で大きく変わったAKOの適応とタイミングや(秋山武徳先生),半月板治療から見たAKOの必要性(古賀英之先生)は近年の最大のトピックである.画像検査では3次元CTや画像解析ソフトなどの発展がAKOに多大な貢献をしたのは確かだが,今こそ古典的撮影法の基礎を再確認する必要がある(田畑悦子先生).またその画像をいかに評価して術前計画を行うかが極めて重要である(小川寛恭先生).

未来を見据えた膝周囲骨切り術のさまざまな応用

著者: 中山寛

ページ範囲:P.1107 - P.1114

 膝周囲骨切り術(AKO)の最大のメリットは膝関節を温存できることである.近年,より解剖学的な膝関節面の再建を行うことが推奨されるようになり,骨切り術も多様化してきている.適切なAKOで下肢アライメントを矯正し,半月板・軟骨といった関節内組織へのアプローチを加えれば,膝関節再生・再建はさらに充実するものと考える.

歴史に学ぶ膝周囲骨切り術を成功に導くためのコツ

著者: 近藤英司

ページ範囲:P.1115 - P.1124

 膝周囲骨切り術の最大の特徴は,関節温存ができる点にあり,これにより関節可動域も温存され,重労働やスポーツへの復帰も可能である.変形性膝関節症に対する膝周囲骨切り術は,高位脛骨骨切り術および大腿骨遠位骨切り術などがある.良好な成績獲得のためには,正しい適応,術前計画,正確な手術手技,後療法が必要であり,歴史からその合併症を学ぶことができる.現在,膝周囲骨切り術には多くの術式があり,新しい知見が多い分野である.本稿では,膝周囲骨切り術を成功に導くためのコツについて述べる.

最新の知見に基づいた膝周囲骨切り術の適応とタイミング

著者: 秋山武徳

ページ範囲:P.1125 - P.1130

 膝周囲骨切り術(AKO)では,患側コンパートメント以外にはOAがなく,関節温存を強く望む,比較的若く,活動的な変形性膝関節症(膝OA)患者が基本的な適応となる.生理的な関節面傾斜を目指して,脛骨のみならず大腿骨をも含む膝周囲の変形中心に骨切りが行われるため,変形中心や患者特性による多種多様の術式が選択でき,その適応はより複雑化している.アライメント異常と半月板逸脱があり,痛みと10mL以上の水腫が続く症例では,より早期膝OAのタイミングでAKOが適応と考えられるようになった.

半月板損傷治療からみた膝周囲骨切り術の必要性

著者: 古賀英之

ページ範囲:P.1131 - P.1137

 中高年の半月板損傷は変性を基盤としていることが多く,また下肢アライメント異常を伴うことが多いため縫合術の成績は下がる.われわれは下肢アライメント異常を伴う変性半月板損傷に対しては,可能な限り強固な縫合術を行い,半月板逸脱を伴う症例ではセントラリゼーション法による逸脱の整復を行った上で,中間アライメントを目指した膝周囲骨切り術を併用し,良好な成績を収めている.

撮影法で変わる膝周囲骨切り術の画像評価と求められる撮影技術

著者: 田畑悦子 ,   中村立一

ページ範囲:P.1139 - P.1145

 膝周囲骨切り術(AKO)では術前計画から術後評価まで,再現性の高いX線画像が必要となる.X線斜入や被写体回旋によるエラーを避け,確実に触知できる膝蓋骨を正面の基準として垂直に入射することが重要である.屈曲拘縮膝で得られる特有の拡大現象も知る必要がある.さらに下肢全長X線像では荷重負荷による関節開き角や膝屈曲角の変化が術前計画を左右するが,下肢全長3D-CTはこれを補正するツールとなる.ここでは,エラー回避と再現性向上を目指した撮影方法に加え,生じたエラーに対する解釈法をX線受像の基礎的な理論を踏まえて述べる.

エラーを最小限にする膝周囲骨切り術の術前計画

著者: 小川寛恭

ページ範囲:P.1147 - P.1152

 膝周囲骨切り術は下肢アライメントを矯正することでさまざまな症状を改善する手術であるが,術後下肢アライメント(lower limb alignment)が治療成績に直結する.手術では骨の矯正(bony correction)のみを行うが,実際にはbony correctionに軟部組織による影響(soft tissue correction)が加わり,これらの合計が最終的な矯正角度(global correction)となり下肢アライメントが矯正されることになる.Bony correctionは適切な手術手技で正確に得ることができるが,soft tissue correctionは術前の軟部組織の状態を評価・把握して予測する必要がある.Soft tissue correctionの正確な予測は下肢アライメント矯正エラーを最小限にするために極めて重要である.

膝周囲骨切り術の合併症回避に必要な解剖学

著者: 岡崎賢

ページ範囲:P.1153 - P.1158

 内側側副靱帯浅層の遠位付着部の近位部は半膜様筋腱に粗に結合しており,付着部遠位部は骨に強固に結合している.膝窩動静脈は膝窩筋の表面にあり,膝窩筋の起始部を剥離して,膝窩筋と骨との間を展開する.前脛骨動脈と深腓骨神経は,脛骨骨幹部の外側を走行しており,ロッキングプレートの遠位スクリュー刺入時に注意する.浅腓骨神経は腓骨外側前方の筋膜直下にあり,腓骨骨幹部の展開や閉創時に注意する.腓骨動静脈は腓骨の内側後方にある.大腿骨遠位骨切り時には,内外側上膝動脈,下行膝動脈に注意する.大腿骨遠位骨幹部と膝窩動静脈の間には介在組織がなく,後方の展開には細心の注意を払う.

骨折治療に学ぶ膝周囲骨切り術におけるプレート固定法の原理

著者: 五嶋謙一

ページ範囲:P.1159 - P.1165

 近年,膝周囲骨切り術が飛躍的に普及したのも,骨折治療での画期的進歩であったロッキングプレートの出現である.ロッキングプレートはスクリューとプレートがロッキングし角度安定性を有することで強固な固定が得られるが,AKOで用いる場合も,本来の固定原理を忘れずに正しく使用することが重要である.本稿ではAKOにおけるロッキングプレート固定の原理,および注意点について述べる.

膝周囲骨切り術における人工骨の役割

著者: 藤間保晶

ページ範囲:P.1167 - P.1173

 内側楔状開大式高位脛骨骨切り術をはじめとする骨切り部の開大操作を伴う膝周囲骨切り術では開大部の補填材として人工骨が広く使用される.人工骨は骨切り術に適した特性をもつものを選択し,人工骨の果たす役割を理解して使用する.骨切り開大部における荷重伝達能を最大限に発揮できるよう術前作図に基づいて人工骨は採型し,矯正アライメントを維持するべく開大部への挿入方向,設置も正確に行う必要がある.

骨癒合を妨げない膝周囲骨切り術の後療法—イーラス(enhanced recovery after surgery:ERAS)・プロトコルの導入による安全な加速化リハビリテーション

著者: 中村立一 ,   塚本和也

ページ範囲:P.1175 - P.1180

 さまざまな専用ロッキングプレートの出現により,膝周囲骨切り術(around-knee osteotomy:AKO)の後療法は加速化傾向にある.しかし良好な長期成績獲得には,術後早期後療法による偽関節や矯正損失などの合併症の回避が必須である.関節外手術のAKOでは,屈曲可動域は自然と得られるため無理な屈曲訓練の必要はない.また,通常歩行では立脚時の膝屈曲で近位骨片後方の沈みを誘発する可能性があり,伸展位からの歩行訓練が推奨される.ここでは,消化器外科領域におけるイーラス(enhanced recovery after surgery:ERAS)・プロトコルの概念から,これらの安全な加速化リハビリテーションの方法を紹介する.

視座

リモートのpros and cons

著者: 中島康晴

ページ範囲:P.1105 - P.1105

 つい先日,あらためてリモートの威力を実感した.6月にアジアパシフィックの学会(the 13th Combined Meeting of APSS-APPOS,於 神戸)を共同主催した折の話で,もちろんコロナ禍であるため学会はリモート開催である.画面上には,東は日本・オーストラリアから,西はインドやパキスタンまで多くの人種の顔々が並び,皆が同じプレゼンテーションを視聴し,リアルタイムで意見交換することができた.わずか2年前にはリモートで学会を行うことなど想像もしていなかっただけに,コロナ禍で一層進歩した通信技術にあらためて感心したのである.ほかにもproは多い.まず学会場への移動の負担が圧倒的に少なく,かつ時間的自由度も高い.育児・介護のため,あるいは交代の医師がいないなどの理由で学会参加できなかった方が参加できるようになった.同様に,以前は1時間の会議でも1日仕事になることが少なくなかったが,リモート会議であれば移動時間を有効利用できるし,移動にかかる経費も削減できる.

 一方,consも数え上げたら切りがない.声は聞こえているし,顔も見えているものの,何かが足らない後味が残るのは私だけではないだろう.その場の空気感,あるいは雰囲気が伝わらないとでも言うのであろうか,本来のコミュニケーションは同じ空間を共有してはじめて成り立つとつくづく感じるのである.そのため,リモートは意見をぶつけ合う場面や微妙なことを話し合う場面には向いていないと個人的には思う.また,現地が少なくなると,現地参加を前提とした行事は縮小せざるを得ない.学会で言えばハンズオンセッションや,企業の展示がそれにあたり,学会の予算を考えると深刻な話である.加えて,学会のリモート開催にはそれなりに費用がかかることも挙げられる.回線障害のリスクを下げるためには見合った設備や機材が必要となるため,学会規模によっては予算的に難しい場合も少なくない.

検査法

骨盤骨折手術における単純X線透視像での最適なTeepee viewの描出方法

著者: 弓指恵一 ,   小杉健二 ,   善家雄吉 ,   濱田大志 ,   岡田祥明 ,   酒井昭典

ページ範囲:P.1181 - P.1184

 Teepee view(TPV)とは,下前腸骨棘から上後腸骨棘へ向け照射することで描出される,涙滴形の単純X線透視像である.骨盤骨折のlow route創外固定や各種内固定の小侵襲アプローチの際に,透視でTPVを描出し,スクリューを挿入することが標準的な方法として広く用いられている.骨外への逸脱や関節内穿破といった危険性を回避するために,確実にTPVを描出することが必要不可欠である.そこで本稿では,骨盤骨折治療の際に,誰もが実施できる安全なTPVの描出方法を解説する.TPVの描出は骨盤骨折の各種固定法の習得に必須であり,解剖学的な理解と透視操作に精通する必要がある.

Lecture

成長期野球選手における肘離断性骨軟骨炎

著者: 田鹿毅 ,   高岸憲二

ページ範囲:P.1185 - P.1193

はじめに

 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(肘osteochondritis dissecans:OCD)は若いアスリート,特に野球や投てき,体操,重量挙げなどのオーバーヘッドスポーツ選手に好発し,初期では臨床症状に乏しく,無症候性のまま長期間経過する1).進行すると変形性肘関節症を来すため,本症の早期発見,早期治療介入が望まれる.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・36【最終回】

あとは書くだけ

著者: 堀内圭輔 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.1194 - P.1196

 本連載では,英語論文の基本構造から,さまざまな決まりごと,さらには編集者とのやり取りの仕方など,なかなか教わることのできない知識をわかりやすくお伝えすることに腐心しました.これまでの内容をご理解いただければ,もはや若手医師・研究者が,英語論文を書き始めない正当な理由は思いつきませんが,それでも,まだためらっている方のために,今回はQ&A形式で対策案を提示していきます.

臨床経験

脊髄モニタリングの波形低下に適切に対処し神経合併症を防止し得た症候性側弯症の1例

著者: 定拓矢 ,   山本雄介 ,   重松英樹 ,   田中誠人 ,   川崎佐智子 ,   田中康仁

ページ範囲:P.1197 - P.1202

 側弯症の矯正手術は,術後麻痺が生じる危険性があるため,神経モニタリングの併用が推奨されている.神経モニタリングの主な波形低下の原因として,矯正操作,除圧操作,椎弓根スクリュー(pedicle screw:PS)の逸脱などが報告されている.本症例はPS挿入時に神経モニタリングの波形低下を認め,PSを抜去して対応し神経合併症を防止し得た症候性側弯症(syndromic scoliosis)の1例である.

症例報告

急性白血病治療後に発症した二次性軟部肉腫の2例

著者: 竹本直起 ,   林克洋 ,   山本憲男 ,   武内章彦 ,   三輪真嗣 ,   五十嵐健太郎 ,   米澤宏隆 ,   森永整 ,   荒木麗博 ,   淺野陽平 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.1203 - P.1207

 二次がんの危険因子には,放射線治療,化学療法,骨髄移植などがあり,造血器悪性腫瘍の治療はこれらを複数含むためリスクが高い.白血病治療後に,進行性の軟部肉腫を発症した2例を経験したので報告する.2症例とも原発巣は深部から発生し,初診時に既に遠隔転移を来していた.1例は診断治療開始後1年で有病生存であるが,1例は診断治療開始から19カ月後に多発肺転移・肝転移のため死亡した.造血器悪性腫瘍治療後の症例は,二次がんを念頭に,早期発見,加療を開始する必要があると考えられた.

書評

がん薬物療法副作用管理マニュアル 第2版 フリーアクセス

著者: 柴田伸弘

ページ範囲:P.1208 - P.1208

 がん診療のチームにおいて薬剤師の存在感は非常に大きなものとなっている.有能な薬剤師がいると診療は非常にスムーズになり,より高いレベルでのチーム医療が可能となる.われわれ腫瘍内科医の立場からすると薬剤師は医師と患者の架け橋のような存在であり,がん診療チームの要といっても過言ではない.本書の編集・執筆には現場で活躍する経験豊富な薬剤師,中でもエキスパートであるがん専門薬剤師が多く携わっており,非常に実戦的で読み応えのある内容になっている.

 本書の各論は主に症状・徴候から,原因となり得る薬剤と有害事象の頻度や好発時期・特徴,評価のポイント,対策のまとめが続く.各章の最初に「初期対応のポイント」,所々に「ひとことメモ」「Clinical Pitfalls & Pearls」があるのがうれしい.また,CTCAE以外のスケール,なかなか手元にないがん以外のガイドラインに関する記載は現場で役に立つことは間違いない.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P. - P.

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1103 - P.1103

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1209 - P.1209

あとがき フリーアクセス

著者: 酒井昭典

ページ範囲:P.1212 - P.1212

 盛夏の候,皆様お元気でお過ごしのことと拝察いたします.COVID-19の感染がこんなに長引くとは思いませんでした.無観客でのオリンピック・パラリンピック開催,デルタ株感染拡大を伴った第5波の到来など,想像を絶した事態になりました.先が見えず心が晴れない感じがあります.リモートでの会議や講演も日常のこととして受け入れられるようになってきました.そんな中,今月号の視座では,日本整形外科学会理事長の中島康晴先生から「リモートのpros and cons」について述べていただきました.相手の表情や語気の微妙な変化は対面でしか感じとれないものがあります.今後はオンラインとオンサイトそれぞれの良さを活かしていくことが望まれるかと思います.

 今月号の特集は,「膝周囲骨切り術を成功に導く基礎知識」です.中村立一先生にご企画いただきました.とてもタイムリーで貴重な内容から構成されています.従来行われてきた高位脛骨骨切り術(HTO)に大腿骨遠位骨切り術(DFO)が加わり,骨切りは閉鎖式(closed wedge)か開大式(open wedge)か選択して組み合わせます.また,以前から行われていたHTOには,膝蓋骨低位の発生予防目的で脛骨粗面下で骨切りするなど,術式にバリエーションが増えました.骨切り術の適応,術前計画,画像評価法,手術手技,人工骨の役割,後療法など,手術を成功に導くためのコツを述べていただきました.骨の矯正とともに軟部組織の矯正にも留意する必要があります.アライメントを整えることは,損傷した半月板や関節軟骨の修復・再生にとって大きな利点となります.今月号の特集を通して,下肢アライメント矯正と膝関節内環境改善により,変形性膝関節症の進行予防につながることを願っています.また,Lecture,連載,検査法,臨床経験,症例報告においても,皆の役に立つ,インパクトのある有意義な論文をご寄稿いただきました.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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