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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科57巻2号

2022年02月発行

雑誌目次

特集 ロコモティブシンドローム臨床判断値に基づいた整形外科診療

緒言 フリーアクセス

著者: 松本守雄

ページ範囲:P.121 - P.121

 本邦では高齢化が急速に進行しており,直近の高齢化率は29.1%と3割に達しようとしています.生産年齢人口の減少,医療・介護などの社会保障上の負荷増大などにより,社会の持続性を維持することが困難となりつつありますが,これらの問題を解決するために高齢者の自立した生活,可能な限りの社会参加が望まれます.そのためには運動器が健全であり,自ら動けることが必要です.

 ロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)は,現在のような超高齢社会における運動器の重要性を予見し,2007年に日本整形外科学会が提唱した概念です.その後,さまざまな知見が積み重ねられ,2013年に立ち上がりテスト,2ステップテスト,ロコモ25質問票からなるロコモ度テストが提唱され,その後2015年にそれぞれのテストの臨床判断値が定められ,ロコモの定量的かつ科学的な評価が行えるようになりました.当初,ロコモ度は2までの設定でしたが,2020年にロコモ度3が策定され,手術などの整形外科的介入の効果の評価,ロコモとフレイルや運動器不安定症との関係の整理などが可能となりました.

超高齢社会におけるロコモティブシンドロームの意義

著者: 江畑功

ページ範囲:P.123 - P.127

日本は世界有数の超高齢社会へとなってきている.しかし平均寿命と健康寿命の差は男性で約9年,女性で約12年と言われており,その間は何らかの介護や支援を必要としているものと考えられる.近年では要支援・要介護になる原因の第1位は運動器の障害であり,これらへの対策は急務となっている.外傷や疾病の予防や治療は重要であるが,運動機能の維持のためには若年層からの予防的取り組みが必要である.日本整形外科学会は2007年に「ロコモティブシンドローム」を提唱し,広く啓発に努めてきた.まさに若年層からの運動習慣が大事であることをアピールしており,超高齢社会においてその意義は非常に大きい.

新臨床判断値ロコモ度3の策定の背景と意義

著者: 大江隆史

ページ範囲:P.129 - P.132

この論説ではロコモティブシンドロームの評価方法であるロコモ度テストの意味と2020年9月に発表された新判断基準ロコモ度3について述べる.「ロコモ度3」はロコモが進行し,社会参加に支障を来した状態である.その臨床判断値は,立ち上がりテストで両脚30cmができない,2ステップテストが0.9未満,ロコモ25が24点以上,のいずれか1つを満たすものである.

臨床判断値に基づいた疫学調査—ROAD Studyより

著者: 吉村典子

ページ範囲:P.133 - P.137

地域住民コホートROADに実施したロコモ度テストの結果から,ロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)の有病率を推定したところ,ロコモ度1以上該当は全体の70%,ロコモ度2以上該当は全体の25%,全体の約1割がロコモ度3に該当することがわかった.さらに,同対象者の6年間の追跡結果から,要介護発生にロコモ度がどの程度影響を及ぼしているかを解析したところ,ロコモ度0に対して,1,2は有意なリスクの上昇を認めなかったが,ロコモ度3の場合,要介護のリスクが約3.6倍になることを報告した.

ロコモ度テスト10000人調査の背景と実施概要

著者: 石橋英明

ページ範囲:P.139 - P.145

ロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)対策は,超高齢社会・日本の重要課題である.ロコモの判定は3テストから構成されるロコモ度テストを実施し,臨床判断値を用いて非該当,ロコモ度1,2,3を決定する.日本整形外科学会は,20〜80代の性別,年齢階層,地域を均等化した8,681人を対象としてロコモ度テストを行い,背景データとともに集計した.この「10000人調査」の結果は,日本人のロコモ度テスト標準値やロコモ度別該当率の推計につながり,ロコモ対策の基盤となるデータとなることが期待される.

ロコモ度テスト1万人調査の調査結果と今後の展望

著者: 山田恵子

ページ範囲:P.147 - P.152

2017〜2019年に全国大規模横断調査(ロコモ度テスト1万人調査)を行い,ロコモ度テストの年代・性別参照値を作成し,性別・年代が移動機能低下に及ぼす影響も検討した.3つのテストで移動機能は男女ともに20代が最も高く,30〜40代の壮年層でも徐々に低下し,60歳以上では加速して低下した.しかし,低下の仕方については,テストごとに少しずつ異なる特徴があった.よって評価には,各テストの特性と,評価する対象群の性・年齢をよく把握する必要がある.さらに現在はこのデータを活用して,移動機能の低下と関連する因子の検討が進行している.

ロコモティブシンドロームと腰部脊柱管狭窄症

著者: 藤田順之

ページ範囲:P.153 - P.158

腰部脊柱管狭窄症患者では,殿部から下肢の疼痛やしびれ感が生じ,時に移動機能が低下し,生活活動や社会参加が制限されることもある.本稿ではこれまでに報告されている研究結果から,①腰部脊柱管狭窄症とロコモの関連,②ロコモの観点からみた腰部脊柱管狭窄症手術の有用性について概説する.臨床判断値として,ロコモ度3が新たに導入されたことにより,今後,腰部脊柱管狭窄症患者のロコモ度はその重症度の指標となり,また,手術などの治療介入の目安となることが期待される.

脊柱変形とロコモティブシンドローム

著者: 八木満

ページ範囲:P.159 - P.163

 身体的フレイルの重要な原因となるロコモ度は成人脊柱変形(adult spinal deformity:ASD)患者では進行している場合が多い.一方,ASD患者では体幹筋量の低下があるが,サルコペニアと呼ばれる全身性の筋量低下や筋力低下は認めない.歩行能力に代表されるロコモティブシンドロームによる移動機能の低下は,手術により改善するが,これらの患者は合併症発生リスクが高く,治療の選択には十分な検討が必要である.

下肢変形性関節症に対する人工関節置換術のロコモ度改善効果

著者: 加畑多文 ,   大森隆昭 ,   高木知治 ,   楫野良知 ,   井上大輔 ,   山室裕紀 ,   谷中惇 ,   片岡大往 ,   齊木理友 ,   柳裕 ,   加藤仁志 ,   黒川由貴 ,   八幡徹太郎 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.165 - P.170

ロコモティブシンドローム発症の原因となり得る下肢変形性関節症に対する人工関節置換術での治療介入が,どれくらいロコモティブシンドロームを改善させるかを前向きに調査した.人工股関節置換術・人工膝関節置換術のいずれの症例においても,ロコモ度の改善効果が認められ有効であった.改善が認められなかった例の多くは,術前からロコモ度が進んだ状態であった.このことからも,ロコモ度が進行する以前からの積極的な手術介入が有効であることが示唆された.

がん患者におけるロコモ度評価

著者: 古矢丈雄 ,   佐藤雅 ,   志賀康浩 ,   穂積崇史 ,   弓手惇史 ,   大鳥精司

ページ範囲:P.171 - P.176

がん患者の増加により,一般整形外科医にとってもがんの治療歴のある患者や治療中のがん患者の運動器の諸問題について診療する機会が多くなっている.がん患者の移動機能を評価する目的で,外来通院中のがん患者に対しロコモ度テストを施行した.がん患者群は2ステップテスト,立ち上がりテスト,ロコモ25のいずれも非がんコントロール群に比較し移動機能が低下しているという結果であった.ロコモ度判定ではロコモ度2を示した患者の割合はがん患者群では51%,非がんコントロール群では13%と,たとえ通院治療レベルであってもがん患者はロコモティブシンドロームの割合が高いことが明らかとなった.

視座

低侵襲脊椎手術とは?

著者: 高橋寛

ページ範囲:P.117 - P.117

 近年,低侵襲脊椎手術に関する学会発表を聴いていていくつか疑問に思うことがある.

 筆者は今まで低侵襲脊椎除圧術としてはmicro-endoscopic discectomy(MED),micro-endoscopic laminectomy(MEL)を行ってきた.これらの手技は近年,tube-assisted surgeryとされ,full-endoscopic spine surgery(FESS)と区別されている.両者の違いは,皮切の大きさ,水中手術かどうか,麻酔方法,アプローチ方法などであろうか?

論述

大腿骨内側上顆に血流シグナルを認める変形性膝関節症の特徴とその経過

著者: 岩崎翼 ,   川端聡 ,   岩崎敬

ページ範囲:P.177 - P.181

背景:大腿骨顆部特発性骨壊死症(ON)は内側上顆骨皮質部に血流シグナルを呈する.変形性膝関節症(OA)においても血流シグナルを有する症例を稀に経験する.本研究ではその特徴と経過について検討した.対象と方法:対象者を4群に分類し,初回・3カ月時の理学所見・臨床スコアを調査・比較した.結果:血流シグナルを有するOAはONと比較し,初回の臨床スコアが高値,3カ月の血流速度が低値であった.介入前後比較では他の対象群と異なり,調査項目に有意差を認めなかった.まとめ:血流シグナルの有無はOAの治療成績に影響し得る.

Lecture

後外側骨片を伴う不安定型大腿骨転子部骨折の治療

著者: 徳永真巳

ページ範囲:P.183 - P.192

後外側骨片とは

 近年,大腿骨転子部骨折の後外側(postero-lateral:PL)骨片が着目されており,全大腿骨転子部骨折中48.3〜88.4%に存在すると報告されている1-4).以前よりJensen分類において近位の骨頭頚部骨片と骨幹部骨片の2つの主骨片のほかに,大転子のPL骨片と小転子を含む後内側骨片が存在することが指摘されていた.PL骨片を伴う3-part骨折をJensen分類type 3,後内側骨片を伴う3-part骨折をtype 4,PL骨片と後内側骨片を有する4-part骨折をtype 5とし,これらは不安定型骨折とされた5).この4-part theoryは3D-CTでも確認されて,中野6)が3D-CT分類を提唱した.PL骨片と後内側骨片が一体となった特徴的なバナナ形状を呈する後方骨片を3-part Bとし4-part骨折と同様に不安定型であるとした(図1).同様に正田7),Choら4),Liら8)は3D-CTを使用して,後外側骨片をそれぞれの骨折型分類として報告されている.

 一方,Hsuら9)は単純X線で遠位主骨片の外側壁損傷に着目し,外側壁の幅が20.5mm以下であれば二次的外側壁損傷が起こりやすいとして,不安定な骨折型とした.これはAO/OTA分類に反映され,PL骨片を含む後方骨片により遠位主骨片の外側壁が20.5mm以下であればAO/OTA 31A2に分類し不安定型とみなしている.これらはsliding hip screw固定の外側壁損傷による術後不安定性を考慮している.

症例報告

内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術(MED)後に椎間板から発生した腰椎偽痛風の1例

著者: 道振康平 ,   奥山邦昌 ,   二宮研 ,   菊池謙太郎 ,   萩原健 ,   青松修二 ,   野崎拓人 ,   谷口巧 ,   今本多計臣

ページ範囲:P.193 - P.197

症例は61歳女性で,腰椎椎間板ヘルニアにて内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術を行った.術後症状は改善したが,術後22日目に下肢痛が増悪し,MRIで椎間板ヘルニアの再発と椎間から硬膜外に囊胞性病変およびepidural gasを認めた.感染を疑い病変部を穿刺しピロリン酸カルシウム結晶が検出され,椎間板ヘルニアの再発および偽痛風と診断した.病変部を洗浄し,トリアムシノロンアセトニド(ケナコルト-A®)を投与し,囊胞性病変はほぼ消失したがepidural gasと椎間板ヘルニアは残存し,症状の改善は不良であった.再手術(後方進入椎体間固定術)を行い,良好な術後経過を得た.

急性発症したArachnoid Webの1例

著者: 百田吉伸 ,   田中誠人 ,   山本雄介 ,   須賀佑磨 ,   川崎佐智子 ,   重松英樹 ,   田中康仁

ページ範囲:P.199 - P.202

背景:Arachnoid webの症状の進行は比較的緩徐であることが一般的である.症例:22歳女性.特に誘引なく両下肢に違和感を自覚し,5時間ほどで急速に下半身の脱力・感覚障害・排尿障害が進行し,歩行困難となった.まとめ:症状の急性増悪を示すarachnoid web症例を経験した.術中エコーが本疾患の診断に有用であった.Arachnoid webは術前画像での確定診断が困難な場合が多く,鑑別疾患の特性を熟知しておく必要がある.

びまん性特発性骨増殖症に伴う第12胸椎椎体骨折(新AO分類Type B3)に対して保存療法を行った1例

著者: 本田賢二 ,   飯田仁 ,   曽根由人 ,   荻田恭也 ,   田中康仁

ページ範囲:P.203 - P.207

びまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)に伴う脊椎椎体骨折は一般的に手術が推奨される.保存療法では遅発性神経麻痺などの合併症が多くなるが,適切な安静臥床肢位や離床時期,コルセットの工夫などは確立されていない.DISHに伴う第12胸椎椎体骨折(新AO分類Type B3)に対して合併症なく保存療法で治癒した1例について報告する.DISH関連椎体骨折にも保存療法で合併症なく治癒する症例が存在する可能性がある.

腓骨神経麻痺による下垂足に対しBridle法を行った1例

著者: 島野隼 ,   菅沼省吾 ,   野村一世 ,   高田宗知 ,   島貫景都 ,   藤田健司 ,   高川真伍 ,   有藤賢明 ,   佐野経祐 ,   安竹秀俊

ページ範囲:P.209 - P.212

症例は27歳,女性.左下腿を下にして横座りをしてから左下肢のしびれと下垂足が出現した.前医で腓骨神経麻痺と診断され3カ月間経過観察されたが,症状が軽快しないため当科を紹介受診した.発症後6カ月時に神経剥離術を行ったが改善が認められなかったため,発症後11カ月時にBridle法を施行した.術後1年の時点で歩容は大幅に改善した.本法は腓骨神経麻痺による足関節背屈障害に対して有効な術式と考えられた.

書評

救急外来,ここだけの話 フリーアクセス

著者: 増井伸高

ページ範囲:P.182 - P.182

◆Controversyは159個

 救急外来はギモンでごった返している.

・「敗血症性AKIを併発している患者への造影CTは?」

・「ビタミンB1はどの程度投与すればいいのか?」

・「急性虫垂炎と診断したら,抗菌薬投与で一晩経過をみてもよいか?」

臨床研究21の勘違い フリーアクセス

著者: 菊地臣一

ページ範囲:P.213 - P.213

 昔日,己の臨床研究デザインの拙さをイヤと言うほど突き付けられたことがありました.臨床研究デザインの基本を学ばなければ世界で闘うことはできないと思うきっかけになった,恥ずかしい,そして悔しい痛切な経験でした.この本を手にしたとき,わが国の臨床研究の水準もここまできたのかと,万感胸に迫るものがあります.今の私には,わが国における臨床研究の現状がどのくらいかわかりません.したがって,以下に記すことが見当違いであれば見逃してください.

 病院に勤務しながら独りで臨床研究をしていた頃の話です.当時,回帰曲線の作成をコンパス,糸,そして手計算でやっていました.自ら理解して実践しないと論文作成は不可能でした.今は,キーボードに触れるだけで,一瞬でできてしまいます.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.118 - P.119

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.120 - P.120

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.215 - P.215

あとがき フリーアクセス

著者: 松山幸弘

ページ範囲:P.218 - P.218

 今回の特集に,前・日本整形外科学会理事長の松本守雄先生がロコモティブシンドロームを組まれた.このロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)は,2007年に日本整形外科学会理事長であった中村耕三先生が提唱した概念で,その後,さまざまな知見が積み重ねられ,2013年に立ち上がりテスト,2ステップテスト,ロコモ25質問票からなるロコモ度テストが提唱された.当初,ロコモ度は2までの設定であったが,2020年にロコモ度3が策定され,このロコモ度3がすなわち要介護に突入するもので,フレイルでいうと身体的フレイルに該当する.

 フレイル,サルコペニア,ロコモはしばしば混同されて使用されるが,3者にはそれぞれ異なった定義があり,相違点を十分に認識することが重要である.運動器とは骨,関節,神経を含めたものであり,この運動器に障害が起きると関節の痛みや可動閾制限が生じ,筋力が低下し,バランス能力が低下する.その結果,歩行能力が低下し,日常生活に制限を来す.すなわち要支援・要介護が必要となる.ご存知のように日本は超高齢社会に突入しており,平均寿命は男性で81.25歳,女性で87.32歳と世界第1位であり,また65歳以上の高齢者は29.0%を占めている.男性で約9年,女性で12年と言われている健康寿命との差をいかに減らすかが重要であり,ここがわれわれの出番ではないだろうか.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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