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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科57巻6号

2022年06月発行

雑誌目次

特集 高齢者足部・足関節疾患 外来診療のコツとトピックス

緒言 フリーアクセス

著者: 山口智志

ページ範囲:P.733 - P.733

 わが国は高齢化率が29.1%に達する,世界有数の超高齢社会です.そんな中,2022年4月に日本医学会連合より「フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言」が発表されました.宣言では,80歳での活動性の維持を目指す「80GO(ハチマルゴー)」運動が提唱されています.足腰の健康を守り,生活の質を向上させる整形外科医の役割はこれまで以上に重要になります.

 足部・足関節疾患の診療が苦手な先生方は少なくないと感じます.その理由の1つは,疾患の数が多いため,そもそも診断に難渋することが少なくないことです.また,疾患によって治療方針も異なります.そのため,足の診療ではまず疾患を知っていることが大前提になります.そのうえで,適切な診断と病態の把握のもと,患者さんの背景を考慮して治療の選択肢を提示することは,患者さんの年齢にかかわらず同様です.また,他部位の整形外科疾患と同様,足の疾患でもリハビリテーションを含めた保存療法は非常に重要です.すべての患者さんがリハビリテーションで通院できるわけではありません.外来診療でホームエクササイズを指導できるよう,医師も知識を持っておく必要があります.

変形性足関節症

著者: 神崎至幸 ,   黒田良祐

ページ範囲:P.735 - P.740

変形性足関節症は高齢者の後足部変性疾患の代表であり,しばしば外来でも目にすることと思われる.初期の変形であれば足関節の内反を代償して距骨下関節が外反するため,リハビリテーションやアーチサポートなどの保存療法も効果的である.しかし,病期が進行するとその代償機能も働きにくくなり,保存療法の効果が薄くなってくる.したがって初期の変形にこそ積極的な保存療法を行うべきであり,保存療法が無効な末期の変形に対しては手術を考慮すべきである.

外反母趾の外来診療のコツ—高齢者に着目して

著者: 木村青児 ,   山口智志

ページ範囲:P.741 - P.745

外反母趾は高齢者に多くみられ,症状も症例によって多彩である.外反母趾に対する保存療法にはさまざまな方法があるが,効果的かつ患者に受け入れ可能な方法を選択するために,問診で靴を含めた生活習慣を把握すること,詳細な視診と触診で痛みの部位や原因を明らかにすることが重要である.患者の症状は何か,治療のゴールをどこにするかを明確にする必要があり,患者の生活様式や背景に合わせたテーラーメイド治療が求められる.

高齢者扁平足の外来診療

著者: 高倉義幸

ページ範囲:P.747 - P.755

高齢者における扁平足は,主として後脛骨筋腱機能不全が原因で起こり,変形が進行すると内側の距骨および舟状骨が接地しての痛みや外果と踵骨の衝突痛が出現し,歩行障害を呈する.この高齢者の進行した扁平足は,ほとんどの場合が非可撓性の変形で,治療は手術療法が適応となる.ここでは術前症例や手術療法を希望しない高齢者に対する外来診療においてできる保存療法とそのコツに重点を置いて説明する.

強剛母趾

著者: 天羽健太郎

ページ範囲:P.757 - P.762

強剛母趾は人種に関係なく,高齢化に伴って増加すると考えられ,高齢化社会を迎えたわが国では臨床現場で多く遭遇する可能性がある.特徴的な母趾中足趾節(MTP)関節の背屈制限と痛みを生じる.病態としては①関節内と②関節外とに分けて考え,理解していく.病態を理解したうえで,特徴的な身体所見や画像検査で状態の確認作業を行っていく.高齢者に特徴的な加齢性の変化がどこまで病的なものとして症状に関与しているかを考えながら,強剛母趾の状態を見極めることが一歩上をいく診療となる.

高齢者の足部・足関節スポーツ障害・外傷

著者: 田中博史

ページ範囲:P.763 - P.766

高齢者の足部・足関節スポーツ障害・外傷に対する外来での診察や保存療法のポイントについてそれぞれ解説する.外来診察ではスポーツ障害・外傷だけではなく,高齢者特有の加齢変化も念頭に置いた問診や足部・足関節の機能評価,特に筋力評価を重視した診察,高齢者でよく認める変形性関節症や骨脆弱性骨折を意識した画像評価などが重要である.保存療法では特に運動療法がスポーツ復帰に向けては重要で,可動域,タイトネス,筋力,協調性などの機能評価を十分に行い,必要に応じた要素を自主訓練も含めて行うことが重要である.

足底腱膜炎

著者: 牧昌弘 ,   生駒和也 ,   細川俊浩 ,   原佑輔 ,   外園泰崇 ,   高橋謙治

ページ範囲:P.767 - P.772

足底腱膜炎に対する基本的な治療は運動療法と装具療法であり,その治療成績は良好であるが,1〜2割が難治性であると言われている.われわれの施設では難治性足底腱膜炎の半数は高齢者であったが,治療成績と年齢に相関は認めなかった.したがって高齢者であっても,早期から積極的な運動療法や装具療法が必要である.

アキレス腱症の診断と治療

著者: 岡田洋和

ページ範囲:P.773 - P.780

アキレス腱の痛みや腫れはスポーツや日常生活においてよくみられる.最近の病理組織学的研究によりアキレス腱の障害は腱の炎症ではなく,不完全な治癒反応よる腱の変性によるものとされる.アキレス腱の障害は,解剖学的な部位によって2つに分類され,大きく分けて踵骨とアキレス腱の付着部に病変を持つアキレス腱付着部症とアキレス腱の踵骨への付着部から2〜6cm近位に病変を持つ非付着部症(アキレス腱症)に分けられる.診断は身体所見に加え超音波検査,MRIが有用で,治療は保存治療が第1選択となる.

糖尿病性足部障害

著者: 門野邦彦

ページ範囲:P.781 - P.787

わが国では社会の高齢化と生活習慣病の増加により,高齢者糖尿病患者が増加している.糖尿病足病変の治療において,高齢患者では,視力障害などによるセルフケア困難,動脈硬化などによる足部血流の低下,他の大血管障害の併存などに注意する必要がある.足部に壊死や感染を生じた場合,切断が必要となるが,高齢者ではもともとの歩行能力,生活状況などを考慮し,機能的な足部が残るように配慮せねばならない.もしも糖尿病足病変を生じたのが非機能肢である場合,一期的大切断も考慮される.糖尿病足病変は,いったん治癒後も再発のリスクが高く,長期的にケアを継続していくことも重要である.

足関節骨折

著者: 松井健太郎

ページ範囲:P.789 - P.793

足関節果部骨折は高齢女性に多い骨折である.高齢者足関節果部骨折診療における臨床判断のポイントは,安定型外果単独骨折と不安定な果部骨折に対する保存治療と手術リスクを評価したうえで,適切な手術方法を選択することである.

高齢関節リウマチ患者の足診療

著者: 矢野紘一郎

ページ範囲:P.795 - P.799

現在,関節リウマチ(RA)患者の高齢化が進んでいる.また,高齢発症RA(EORA)も増えており,診断未確定の状態で足専門医師の外来に受診することもある.EORAは若年発症RAとはやや異なっており,大関節発症が多い,自己抗体陽性率がやや低いなどの特徴がある.高齢であっても,保存治療は基本的に非高齢患者と同様に行う.ただしRA患者の胼胝は重度変形が原因であることが多いため,高齢者であろうとも手術治療を検討する必要がある.RA患者の手術時年齢も高齢化してきている.

高齢者の靴

著者: 小久保哲郎

ページ範囲:P.801 - P.807

高齢者では足部・足関節の形態が変化して靴の問題が多くなる.靴関連の設問を含む自己記入式足部足関節評価質問票(SAFE-Q)を用いた調査から,高齢の足部・足関節疾患患者の靴について考察した.60歳以上のほうが60歳未満より靴関連スコアが有意に低くなっていた.また,女性のほうが男性よりスコアが低く,前足部疾患の患者のほうが後足部,足関節疾患の患者より低かった.保存療法ではSAFE-Q靴関連スコアは約20〜30%で改善が期待できる.足部・足関節疾患患者と高齢者の靴で考慮すべきポイントを提示した.

視座

「自己肯定感」に思うこと

著者: 川島寛之

ページ範囲:P.727 - P.727

 自己肯定感とは,「自分自身を価値のある存在として肯定できる感情のこと」と定義されている.つまり,仕事や収入,家庭環境など自分自身の日常に対して満足できている場合に,その人の自己肯定感は高くなると考えられる.ただし,自分自身の日常に満足できるかどうかは,それぞれの人がどれくらいの向上心を持って生活しているかによって,その評価は変わる.つまり,向上心が非常に強い人の場合,一生懸命に頑張っても自分自身に満足できず,自己肯定感を感じにくいこともあるだろう.一方で,向上心の弱い人は,自己満足しやすく,自己肯定感を感じやすいかもしれない.実際に「実力が伴わない人ほど自己肯定感が高い」などの心理学調査結果もあるという.

 自分自身に自信が持てず,価値がない人間だと思いこむことはだれしもあるのではないだろうか.かく言う私自身も,日頃の診療や研究の中で,間違った判断をしたり,思った通りのことが実践できなかったりして,自らを見失いそうになることもしばしばある.しかし,反省して下を向いているばかりでは,物事を前進させることはできず,同僚や後輩,さらに家族の活力まで低下させてしまうことになりかねない.周りを牽引する立場の者としては,できることなら自己肯定感を高い状態に維持し,自信を持って過ごすことができればと思う.

Lecture

脊髄損傷の病態解明と新規治療法の開発

著者: 小早川和 ,   幸博和 ,   岡田誠司 ,   前田健 ,   中島康晴

ページ範囲:P.809 - P.813

はじめに

 1906年にノーベル生理学・医学賞を受賞したスペインの神経解剖学者Cajal博士により発達後の神経細胞(ニューロン)の成長と再生が否定されて以来,一度傷ついた脊髄は再生不能と考えられてきた.しかし近年の研究により外傷後の脊髄にも実際には可塑性が存在し,組織学的自然修復が起こることが明らかとなった.

 本稿では,近年の研究で明らかになった脊髄損傷後の病態と自然修復メカニズム,およびそれらに基づいて考案された治療法についてわれわれの研究結果も交えて解説する.

臨床経験

骨幹端掌側皮質破壊を伴うAO分類type C3橈骨遠位端骨折に対する治療戦略—掌側皮質連続性獲得の有用性について

著者: 松尾知樹 ,   土田芳彦

ページ範囲:P.815 - P.820

骨幹端掌側皮質破壊を伴うAO分類type C3橈骨遠位端骨折8例を対象とした.まず創外固定牽引による骨長維持を行い,ハンド用ミニプレートにより掌側皮質を整復固定して連続性の回復と安定化を獲得した.そのうえで掌側部をヒンジや壁として用いて,各種手法を用いて関節内外の整復操作を施行した.全例において,術後の関節外アライメントは正常範囲内,関節内step-offは1mm以内であった.最終観察時,Mayo Wrist Scoreは平均85点で,全例で骨癒合し,矯正損失は認めなかった.同骨折に対する同手術法は有効な戦略になり得る.

症例報告

初診時に整形外科を紹介受診した敗血症性肺塞栓症の2例

著者: 栗山恭明 ,   高橋博之 ,   金淵龍一 ,   古口昌志

ページ範囲:P.821 - P.825

敗血症性肺塞栓症(septic pulmonary embolism:SPE)は,菌塊が肺動脈に塞栓し,肺塞栓や肺膿瘍を形成する比較的稀な呼吸器疾患であり,整形外科診療でSPE患者を診察する機会は少ない.SPEは整形外科でなじみのある肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)と症状が類似しているが治療法は異なり,注意が必要である.

上腕骨骨幹部骨折術後偽関節に対して腸骨移植を併用したダブルプレート固定を施行した1例

著者: 窪野はな ,   久島雄宇 ,   伊佐治雅 ,   尼子雅敏 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.827 - P.831

上腕骨骨幹部骨折術後に偽関節が生じ,術後15年で腸骨移植を併用したダブルプレート固定を行った症例を経験した.上腕骨骨幹部骨折術後偽関節の治療法として,骨移植併用のプレート固定は髄内釘など他の術式よりも良好な成績が報告され,さらには近年,1枚よりも2枚のプレートを用いて固定するとより高い固定性が得られるという報告も散見される.本例でもロッキングプレートを2枚用いたダブルプレート固定を行い,術後7カ月で骨癒合が得られた.本法は上腕骨骨幹部骨折後偽関節に対する有用な治療方法の1つとなり得ると考えられた.

書評

—トップジャーナルに学ぶ—センスのいい科学英語論文の書き方 フリーアクセス

著者: 倉本秋

ページ範囲:P.814 - P.814

 本書の著者であるジャンさんとの出会いは,1980年代後半までさかのぼる.当時私が勤務していた東大病院分院の助教授から,ジャンさんを紹介された.知り合って10年間は,2週間に1回程度おしゃべりの機会を持ち,論文ができたら校閲してもらっていた.その後,私の職場は高知大,そして高知医療再生機構へと変わったが,投稿論文は全てジャンさんの手を経ており,今では機構が販売する学内委員会Web審査システムの英文マニュアルまで校正をお願いしている.

 今回,『トップジャーナルに学ぶ センスのいい科学英語論文の書き方』を読み進めながら,30年以上前にレトロな東大分院の建物で教えてもらっていたことは,ステップⅠの「英語のマインドをつくる」に述べられている内容であったと気付いた.確かに,科学論文を書こうとする日本人は皆,英作文はできる.しかし残念なことに,「(日本の)学校英文法」とは似て非なる,「英文」を構成する法則,コンセプトの理解は欠落している.native speaker(以下,native)が学ぶようなparagraph writingの概念を教える授業は,日本にはないからである.そこをすっ飛ばして中学から大学まで英語を学んだ若い研究者たちは,卒前,あるいは卒後しばらくして初めての論文を完成させる.「事実は現在形で」とか,「受動態は少なめがよい」とかいう先輩の指示だけを道標に.“paragraph”を日本語の「段落」に置き換えただけの頭では,「ミニエッセイ風」などの構成は思いも至らない.このような前提を知らないと,nativeのproofreadを受け取ったとき,その朱字を許容し難い場合がある.nativeも,日本人の文の順序や改行を怪訝に思いながら,校正と格闘する羽目になる.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.728 - P.729

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.730 - P.730

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.833 - P.833

あとがき フリーアクセス

著者: 山本卓明

ページ範囲:P.836 - P.836

 「ファンは宝物」.日本ハム新庄監督が掲げた今年のスローガンです.「もっと!もっと!もっと!」(ホークス),「頂点を,つかむ.」(ロッテ),「譲らない!」(楽天)など,目指す目標を掲げたものが多いなか,まったく別の角度からのアプローチです.同監督は,シーズン開幕前は多くのメディアに出演し,「1年間トライアウトです」「優勝は目指しません」など,多くの鮮烈な言葉でも話題を集めました.

 この原稿を書いているのが5月9日ですので,開幕してほぼ1.5カ月です.多くの野球解説者の予想通り(?),現在11勝24敗で最下位です.ただ宣言通り,ファンが面白いと思う野球もしてくれていると感じます.例えば,「外野手の返球にこだわり1点を防ぐ野球」「ファーストストライクから積極的に打ちにいく」「日替わり打順」などなど.その根底には,多くの選手にチャンスを与えたいというポリシーがあるとのことです.そして何よりも彼は,もの凄い努力の人,準備の人,であるようです.「大きな目標を持って,自分だけに勝ちゃいいの.自分に勝てれば,誰に負けてもいいんだよ.自分に勝つことが一番難しいけど,一番楽しいからさ」「いろんなことに挑戦して,すべて成し遂げていくためには,日々ストイックになって,自分に負けずに勝ち続けないといけない」と,インタビューに答えています.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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