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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科57巻7号

2022年07月発行

雑誌目次

特集 整形外科医×関節リウマチ診療 今後の関わり方を考える

緒言 フリーアクセス

著者: 持田勇一

ページ範囲:P.841 - P.841

 関節リウマチ(RA)診療を取り巻く環境の変化の中,整形外科医の役割も大きく変化しており,今後整形外科医がRA診療にどう取り組んでいくべきか? 手術治療ではどのような変化が予想され,いかに取り組むべきか? また内科をはじめ他科と連携を取り合い,お互いの弱い部分を補いながら,いかに診療の質を高めていくか? 積極的に考え,診療システムを構築していくことが重要になると考えます.本特集では横断的なテーマを“整形外科医のリウマチ診療への今後の関わり方”とし,内科の先生方にもご寄稿をお願いして,RA診療における整形外科医の理想的な姿も含めてご意見を伺いました.

 RA診療における集学的治療については以前より議論がありますが,本特集でも阿部・川人・北の3人の先生方が述べられています.特に川人先生の“内科的・外科的なアプローチのバランスのうえに最適なRA治療が完成し,双方向でのRA診療を行える環境と関係性を築き上げることが必要”とのメッセージはとても重要と考えます.また北先生は整形外科医とRA専門医,他領域内科医との理想的な連携について非常に明快に示されています.

整形外科医の関節リウマチ診療への今後の関わり方—リウマチ専門病院の立場より

著者: 阿部麻美

ページ範囲:P.843 - P.846

複雑化する関節リウマチ(RA)の世界において,早期診断・早期治療のために,関節超音波検査を含め,さまざまな機器を使いこなしながら患者の状態に合わせ,薬物治療,手術,保存的治療,リハビリテーションなどの治療方針を組み立てることが重要である.患者本人も自覚を持って検査や投薬治療,手術治療,リハビリテーションに参加し,その必要性を理解し,患者個々の目標に向けて実現していくことが,未来のRA治療に結びつくと考えられる.

今後のリウマチ診療における整形外科リウマチ医の役割について

著者: 森優

ページ範囲:P.847 - P.851

関節リウマチ(RA)の薬物治療は生物学的製剤や,分子標的製剤の導入により急速な進歩を遂げた.これらが関連する重篤な感染症などの副反応は懸念事項であるが,RAの疾患活動性のコントロールは劇的に改善している.その結果,RAの整形外科手術は減少傾向ではあるものの,難治性のRA症例の存在もあり,一定数の整形外科手術は今後も継続するものと予想される.また,重要な周辺疾患である骨粗鬆症の治療や,RAに加えて脊椎関節炎などの治療においても運動器全般について精通した整形外科的治療アプローチの重要性は継続すると考える.

今後のリウマチ診療において,整形外科医がどのように関わっていくか—整形外科を専門とする実地医の果たす役割

著者: 桃原茂樹

ページ範囲:P.853 - P.859

関節リウマチ(RA)はwindow of opportunity(治療機会の窓)を逃さないために早期診断・早期治療が求められている.そして,わが国ではRA患者が整形外科を受診する機会は日常診療では実際に非常に多いと思われる.特に発症前や超早期の時点では近隣の開業施設や病院を受診する可能性が極めて高く,この疾患に対する予防や早期の治療機会を失わないためにも,整形外科医はRAに対して常に造詣を深めておく必要があると思われる.

今後のリウマチ診療において,整形外科医がどのように関わっていくか—リウマチ外科医の立場より

著者: 針金健吾 ,   持田勇一 ,   稲葉裕

ページ範囲:P.861 - P.869

関節リウマチ(RA)に対する手術は近年減少傾向にあるとの報告が多い.われわれの施設では手術件数は年間80〜100件で推移しているが,その内訳は膝や股関節などの大関節手術が減少し,足趾や手指などの小関節手術の割合が増加している.生物学的製剤時代の昨今,RA薬物治療に関わる整形外科医は減少していると思われるが,適切なタイミングで手術を勧めることができるのは整形外科医によるRA診療の利点である.また内科医や開業医で薬物療法を行っている症例でも,関節注射や定期的な関節評価などにRA整形外科医が介入し,治療困難症例を少しでも減らせるような連携が今後ますます重要である.

集学的アプローチの必要性からみた整形外科リウマチ専門医のニーズ—内科医の立場から

著者: 川人豊

ページ範囲:P.871 - P.876

関節リウマチは,よりよい予後とADLを目指すうえで,薬物治療のみでは不完全であり,非薬物治療,外科的治療が必要であることが,診療ガイドラインで示されている.また,医師とともに,看護師,薬剤師,理学療法士,作業療法士,医療ソーシャルワーカーなどの多職種のメディカルスタッフによる集学的治療の実践により,初めて関節の機能を低下させない治療が可能となる.集学的アプローチの必要性からは,リハビリテーションや手術に関わる整形外科リウマチ専門医の関わりは極めて重要であり,そのニーズは今後増加すると考えられる.

今後のリウマチ診療において,整形外科医がどのように関わっていくか—リウマチ内科医の立場より

著者: 北靖彦

ページ範囲:P.877 - P.881

古くは整形外科医が関節リウマチ(RA)治療の中心であったが,強力な薬剤の登場でRAの手術は減少してきている.しかし,RA患者が最初に受診するのは整形外科医が多く,関節診療についてはリウマチ内科医よりも精通しているので重要な役割がある.整形外科医で薬物療法も行うことは十分に可能だが,難治例や副作用発現時はリウマチ内科や他領域内科医に依頼できる体制が必要である.整形外科で手術後はリウマチ内科医で治療したり,リウマチ内科医で治療し安定した後の維持療法はクリニックの整形外科で行ったり,患者本位の密な連携が重要である.

関節リウマチ診断における筋骨格超音波検査と関節液検査の使い方

著者: 三好雄二 ,   横川直人

ページ範囲:P.883 - P.890

関節炎の正確な診断が関節リウマチ(RA)診療には不可欠である.筋骨格超音波検査(MSUS)と関節液検査は炎症性関節炎の有用な補助検査である.MSUSの滑膜炎所見は検査者間一致率が高く,身体診察よりも感度が高い.Subclinicalな滑膜炎を検出することでより精度の高いRA診断ができる.RAの重要な鑑別診断である結晶誘発性関節炎のゴールドスタンダードは関節液の鏡検である.令和4年度診療報酬改定で偏光顕微鏡を用いた関節液検査が保険収載された.関節液の結晶検査が本邦で広く利用されることが望まれる.

今後のリウマチ診療において,整形外科医がどのように関わっていくか—関節リウマチ患者の呼吸器感染症マネジメントの観点から

著者: 林俊誠

ページ範囲:P.891 - P.894

関節リウマチ患者の呼吸器感染症マネジメントを適切に行うには,まず非感染症の可能性を十分に否定したうえで,病原体を意識した病歴聴取と検査を行うことが必要である.関節リウマチの治療薬は細胞性免疫不全の原因となることが多いので,細胞内潜伏感染を来す細菌(レジオネラ菌,結核菌)やウイルス(サイトメガロウイルス),真菌(ニューモシスチス属,アスペルギルス属,クリプトコックス属)による呼吸器感染症を想定すべきである.これらの病原体の関与を疑ったら呼吸器内科医や感染症内科医に積極的にコンサルトして欲しい.

視座

師の教えとパワハラ・アカハラ

著者: 相澤俊峰

ページ範囲:P.837 - P.837

 教師の質の低下が言われて久しい.中学や高校の教師に限ったことではない.自分も大学医学部の教授=教師であるが,昔自分が習った医学部のいわゆる名物教授たちや,自分の教室の先輩教授たちより質が落ちているとの自覚がある.彼らには圧倒的な知識があった.自分の専門分野以外にも博識であった.翻って自身を省みると恥ずかしくなる.専門分野が細分化され勉強すべきことがらが多くなったためか,ある分野のある領域には非常に詳しいが,それ以外の知識は若いころからアップデートされないという医師が多くなった.

 僕が指導を受けた国分正一名誉教授は「教え厳しからざるは師の怠りなり」と言って,術前カンファレンスや論文の指導を厳しく行った.もともとは東北大学病理学実習室の入口に書いてあったものと記憶する.厳しいとは何か? 理不尽な要求,無理な高い要求をすることではない.妥協を許さないことである.論文であれば,ある一定のレベルに到達しなければ,何度でも書き直させる.何度も書き直させるということは,こちらも何度も読むということで,膨大な時間を要する.日頃の仕事や研究に費やす時間が増えると,後輩のために何度も論文を読んで指導する時間を惜しみ,「なあなあ」で済ませがちである.指導医に直してもらいました,と言って持ってくる論文を読むと,論理が間違っている,体裁が整っていないものがほとんどである.指導医が厳しく指導することを怖がっているようにも思える.ロジックの間違い,あるいは書式や体裁の間違いなら,専門的な知識がなくても指摘できる.「論文の書き方」の講義をしたり,図表の書き方を医局で説明したりしているが,一朝一夕では身につかないようだ.実際の論文で何度も根気強く指導するしかない.

臨床経験

前十字靱帯再建術患者の術前待機期間が膝関節の関節内軟部組織損傷や身体機能に及ぼす影響—術前リハビリテーション非実施症例の特徴

著者: 藤田慎矢 ,   田中創 ,   碇博哉 ,   松田秀策 ,   徳永真巳 ,   吉本隆昌

ページ範囲:P.897 - P.902

背景:前十字靱帯再建術(ACLR)症例の術前待機期間が膝関節内軟部組織損傷や身体機能に及ぼす影響について調査した.対象と方法:術前リハビリテーション(以下,術前リハ)を実施していないACLR患者95例を対象とした.受傷から手術までの待機期間が6カ月未満の早期群と6カ月以上の遅延群に分類し,両群間の半月板・軟骨損傷の有無,各種身体機能を評価した.結果:遅延群で軟骨損傷の発生率が高く,身体機能に改善を認めた.まとめ:術前待機期間が6カ月以上になると,術前リハを実施しなくても身体機能が改善したが,軟骨損傷の発生率は増加した.

椎弓形成術後の局所アライメント変化は全脊椎アライメントへ影響を及ぼすか?

著者: 百田吉伸 ,   重松英樹 ,   田中誠人 ,   山本雄介 ,   須賀佑磨 ,   川崎佐智子 ,   田中康仁

ページ範囲:P.903 - P.907

背景:椎弓形成術(laminoplasty:LP)後の頚椎アライメント変化が,胸椎以下のアライメントにどのような影響を及ぼすかについては明らかではない.対象と方法:対象は当院で2010〜2017年度にLPを行った症例で術後2年間追跡可能であり,データを収集可能であった62例で,ΔC2-7Cobb≦−5°と>−5°の2群間比較を行った.結果:頚椎アライメントは有意に変化したが,胸椎以下のアライメントに有意差は認めなかった.結論:頚髄症性脊髄症(CSM)に対するLP後に後弯進行を来す症例では,頚椎後弯は脊椎全体ではなく局所で代償されると考えられた.

大腿骨近位部骨折に対する術後早期足関節運動による術後DVT予防の試み

著者: 喜多晃司 ,   海野宏至 ,   渡邉健斗 ,   佐藤昌良 ,   森本政司 ,   湏藤啓広

ページ範囲:P.909 - P.914

目的:大腿骨近位部骨折の周術期における深部静脈血栓症(DVT)の発生リスクは高く,十分な対策が必要である.従来の予防法に加え,足関節運動による予防対策を行い,DVT発生頻度を評価した.対象と方法:当院で手術を行った160例を対象とし,予防あり群は術直後に他動的に足関節背屈・底屈を行い,下肢静脈エコーにて新規DVTの有無を評価した.結果:新規DVTはあり群80例中3例(3.75%),なし群80例中24例(30.0%)で発生し,あり群で有意にDVT発生率が低く(p<0.001),多変量解析では,予防の有無が抽出された(p<0.005).まとめ:術直後からの足関節運動はDVTの発生を防ぐ可能性がある.

症例報告

人工膝関節置換術後合併症の膝窩動脈仮性動脈瘤に対し,Stent graft(Viabahn)で治療した2例の経験

著者: 中村肇 ,   城田和明 ,   戸塚裕一 ,   伊藤英人 ,   津久井亨 ,   小倉跡夢

ページ範囲:P.915 - P.918

人工膝関節置換術(TKA)後に合併した膝窩動脈仮性動脈瘤の2例に対して,stent graft(VIABAHN®)の留置で治療した.術後9日目と7日目の発症で,両症例ともリハビリテーション中に膝窩部の高度の腫脹と疼痛を生じた.局所麻酔下に大腿動脈を順行性に穿刺し,stent graft(VIABAHN®)留置を行った.術後はクロピドグレルの投与と,膝関節の90°以上の屈曲を制限し,リハビリテーションと生活を継続している.術後それぞれ22カ月と15カ月を経過するが,stent graftの閉塞などは認めていない.

長母指屈筋に限局したフォルクマン拘縮の1例

著者: 徳本泰將 ,   佐々木亨 ,   白坂律郎

ページ範囲:P.919 - P.922

長母指屈筋(FPL)腱のみに限局したフォルクマン拘縮を経験した.症例は47歳男性.機械に前腕部を挟まれて受傷.前腕掌側の腫脹のみで,明らかな骨折はなく手指手関節の動きも良好であった.受傷後3カ月で母指のみの屈曲拘縮を認め,FPLに限局したフォルクマン拘縮の疑いで,受傷後2年で長母指屈筋付着部剥離術を行い良好な改善を得た.

書評

医学英語論文 手トリ足トリ—いまさら聞けない論文の書きかた フリーアクセス

著者: 齋藤琢

ページ範囲:P.924 - P.925

 このたび僭越ながら,『医学英語論文 手トリ足トリ いまさら聞けない論文の書きかた』(堀内圭輔先生 著)の書評を書く機会をいただいた.著者は慶應義塾大学のご出身であり,同大学整形外科で活躍されたのち,現在は防衛医科大学と慶應義塾大学の両方で後進の指導にあたっておられる.著者は留学先でADAM17など細胞外ドメインの切断プロテアーゼを研究し,帰国後も素晴らしい分子生物学研究をされていた.私はポスドクの頃に骨格形成や関節疾患においてNotchシグナルを扱っていたが,NotchとADAMの関係が深いことから,著者から遺伝子改変マウスをご供与いただき,さまざまなご指導をいただきながら共同研究を進める幸運に恵まれた.整形外科で分子生物学をたしなむ人は非常に限られている.著者は私より4学年先輩であり,整形外科医でありながら分子生物学に精通し,精力的に研究を続けておられる姿は,所属する医局こそ違えど常に励みであった.

 英語論文の執筆に関する本は数多出版されているが,本書は単なるハウツー本ではない.もちろん論文の構成に関して第Ⅲ章で十分に説明されており,ここを読むだけでも論文とは何かが明確に理解でき,初めての人でも論文を書こうという気になるだろう.第Ⅱ章の様式に関する知識も秀逸である.たかが様式と思う若手もいるかもしれないが,私も査読をしていて,優れた研究内容がいい加減な様式で叙述された例をみたことはない.第Ⅳ章ではFigureの作成,画像データやReplicationの考え方が記載されているが,誰もが抱く疑問を取り入れつつ,非常にわかりやすく記載されている.

第7回SKJRC SEMINAR フリーアクセス

ページ範囲:P.923 - P.923

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.838 - P.839

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.840 - P.840

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.927 - P.927

あとがき フリーアクセス

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.930 - P.930

 風薫る5月,新緑が眩しく過ごしやすい季節になり,皆様はいかがお過ごしでしょうか.5月19〜22日,第95回日本整形外科学会学術総会が神戸市で開催されました.現地開催は2019年以来で,参加者は5,000人を超えました.これだけの規模の学会は,コロナ禍に襲われてからは国内の整形外科関連では初めてだと思います.各会場は活気に溢れ,ランチョンセミナーは満席で立ち見も出るほどでした.会長の配慮により,学会1日目にはアルコールなしではありますがいわゆる全員懇親会が催され,2,000人超の参加があったそうです.皆さんが,この学術総会の開催を待ちわびていたのがよくわかりました.外国人講演者の現地参加は叶いませんでしたが,来年以降は是非とも,これまでの通常開催ができることを願っています.しかし,コロナ禍でのオンライン会議やオンデマンド聴講などの利便性をわかってしまいましたので,今後はそれらをどのように取り入れて会員の利便性を配慮していくのかが課題となります.

 国際学会の参加も徐々に可能になっているかと思います.愚生は3月下旬のシカゴで開催されたAAOS(American Academy of Orthopaedic Surgeon)の年次総会に参加してきました.出国に際しては,前日あるいは当日の陰性証明書,米国側から要求される宣誓書と承諾書が必要で,帰国に際しては出発72時間以内の陰性証明書と日本到着地でのPCR検査などが必要でした.面倒くさいですが,しばらくはこのような条件付きでの出張になるのではないかと思います.5月中旬のタイ出張では,ワクチンを3回接種していれば日本出国時の陰性証明書は不要でした.ただ,6月以降は訪問国によっては到着時のPCR検査が免除されるなど規制が緩和されることになっています.徐々に国際学会への参加も活発になるかと思います.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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