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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科57巻8号

2022年08月発行

雑誌目次

特集 整形外科ロボット支援手術

緒言 フリーアクセス

著者: 赤澤努

ページ範囲:P.935 - P.935

 整形外科の手術技術は長年にわたり着実に進歩してきた.近年急速に進歩してきたのがコンピュータ支援手術であり,その代表はナビゲーション手術である.そして,そのナビゲーション手術を発展させたロボット支援手術が,全国ですでに開始されている.

 手術ロボットは過去数十年間で急速な発展を遂げた.1985年に産業用ロボットPUMAの利用によって,ロボットが定位を補助する脳神経外科生検手術を実現した.ロボット技術が外科手術に活用されたのはこれが初となり,医療用手術ロボットの発端と言える.その後,数十年の急速な発展を経て,手術ロボットは今や脳神経外科,泌尿器科,消化器外科,胸部外科,血管インターベンションなどの手術において幅広く活用されている.

整形外科手術支援ロボット開発の歴史

著者: 髙尾正樹

ページ範囲:P.937 - P.940

整形外科におけるロボットは1980年代後半に開発が進み黎明期を形成したが,さまざまな問題によりその市場は拡大しなかった.2010年代に入り,ロボットの製品化と開発企業の大企業による買収が進み,先進国各国で年平均30〜40%の市場拡大が予測されている.股関節や膝関節の人工関節置換術,脊椎の椎弓根スクリュー挿入に臨床応用されている.現在主流となっているロボットは,ドリルガイドスリーブや骨切除ジグの位置や向きを制動するなど間接的に手術の支援を行うが,ロボットは患者に対して骨切除などの直接的な操作は行わないセミアクティブと分類されるシステムとなっている.

股関節編

股関節におけるナビゲーションとロボット支援手術

著者: 池裕之 ,   稲葉裕

ページ範囲:P.941 - P.946

現代の外科治療において,安全で精度の高い手術治療が求められており,ナビゲーションシステムやロボットを使用するコンピュータ支援手術が注目されている.人工股関節全置換術にナビゲーションシステムやロボットを使用することでインプラント設置精度が向上するが,導入コストなどの問題により使用率はいまだ低い.人工股関節全置換術のさらなる成績向上が期待される中で,コンピュータ支援手術の普及・発展が望まれる.

—ロボティック・アーム手術支援システムを用いた,人工股関節全置換術の実際—Mako®によるロボット支援THA

著者: 佐藤敦子 ,   松原正明

ページ範囲:P.947 - P.955

Mako®ロボティック・アーム支援システムはCT画像をもとにした術前計画に従って大骨の位置情報と正確な臼蓋リーミングならびにカップ設置を制御するセミアクティブ・システムである.2021年末にVer.4.0となり,カップの設置精度誤差は角度1.3°,位置1.3mm程度と高精度の設置ができるだけでなく,大腿骨側のレジストレーションを行うことで,頚部骨切り高位の決定やステム前捻角,脚長・オフセットの変化も術中にリアルタイムに認識できるようになった.さらに術前計画では事前にインピンジの有無の確認や骨盤の前後傾についても考慮できるようになっており,今後長期経過を見ていく必要はあるものの,短期的には良好な成績が報告されており,安全で質の高い手術を提供する有効な手術支援ツールである.

膝関節編

ROSA®によるロボット支援TKA

著者: 植原健二 ,   小谷貴史 ,   仁木久照

ページ範囲:P.957 - P.962

人工膝関節TKA支援ロボット(ROSA®)はロボティックアームを有するロボティックユニットと術野とROSAの位置情報を認識するオプティカルユニットからなる.術者の計画した骨切り平面へロボティックアームがカッティングブロックを移動し,これに従って術者が骨切りを完了する.従来のjigを用いて行う手術方法から大きく変更することなく行える.この特徴はROSAの開発コンセプトである“surgeon center=術者中心“に象徴される.術者はロボットを操作して手術をするというより,ROSAという正確かつ優秀な助手とともに手術を遂行していくと言える.

CORITMによるロボット支援TKA

著者: 二木康夫

ページ範囲:P.963 - P.967

近年,全世界的にコンピュータ支援整形外科(CAOS)による人工膝関節全置換術(TKA)が増えている.CAOSの種類はさまざまであるが,本邦では2019年からロボット支援技術が導入された.ロボット支援TKAは他のCAOSとは一線を画し,骨切り精度の向上により軟部組織バランスとアライメントの調整を術者の思いどおりに再現することが可能である.次世代型ロボット支援手術システムCORITMを用いれば前十字靱帯(ACL)や膝内側側副靱帯(MCL)を最大限温存し,狭いストライクゾーンにインプラントを設置することが可能である.本稿ではCORIを用いたACL温存TKAを紹介するとともに今後の可能性や課題について述べる.

Mako®によるロボットアーム支援下TKA

著者: 石田一成 ,   柴沼均 ,   黒坂昌弘 ,   中野直樹 ,   松本知之 ,   黒田良祐

ページ範囲:P.969 - P.974

Mako®を用いた人工膝関節全置換術では,CTを用いた術前計画をもとに,術中軟部組織バランス評価を加味して手術計画を最終決定し,ロボットアームによる骨切りを行う.高い設置精度,軟部組織バランスの改善,関節周囲組織への低侵襲化,良好な超短期臨床成績と,医療費への好影響が報告されている.本稿では手術手技の解説と,現在の課題や注意点について述べる.

上肢編

ロボット支援上肢手術

著者: 内藤聖人

ページ範囲:P.975 - P.979

近年,整形外科分野において手術支援ロボットが実臨床で使用されている.一方,上肢手術では,手術用ロボットシステムda Vinci®シリーズ(INTUITIVE社,California)が海外では応用されているが,本邦での臨床応用にはいくつもの障壁がある.本稿では,筆者が経験したda Vinciロボットを用いた上肢手術の実際と課題について紹介する.さらに,課題解決の鍵となり得る“腔”と“遠隔手術”について提言する.

脊椎編

脊椎手術におけるナビゲーション支援とロボット支援手術

著者: 金村徳相 ,   伊藤研悠 ,   都島幹人 ,   富田浩之 ,   長谷康弘 ,   大出幸史 ,   大内田隼 ,   中島宏彰 ,   今釜史郎

ページ範囲:P.981 - P.996

ナビゲーション支援脊椎手術は術中3D画像装置により大きく進化し,脊椎手術の安全性や侵襲低減化に寄与してきたが,視覚的支援のみで手技自体を直接支援しない.最新IT技術を備えた脊椎手術支援ロボットは脊椎ナビゲーション機能を基本に多軸性ロボットアームがインストゥルメント手技を強固に保持することで,手術操作のばらつきを抑えることが期待されている.本邦でも2021年より臨床使用が開始されたが,本邦での普及のためには手術侵襲低減化,合併症回避,治療の質的向上などの検証とともに費用対効果の改善が望まれる.

MazorXTMによるC-armを用いたロボット支援脊椎手術

著者: 鳥居良昭 ,   赤澤努 ,   仁木久照

ページ範囲:P.997 - P.1003

Mazor XTM Stealth EditionによるC-armを用いたロボット支援脊椎手術は,CT画像を取り込ませた専用ソフトウエアにて精密な術前計画が可能である.術中準備に時間は要するが,従来手術に比してより正確なスクリュー挿入が可能である.

ExcelsiusGPS®によるロボット支援脊椎手術

著者: 川口善治 ,   牧野紘士

ページ範囲:P.1005 - P.1010

2021年12月よりExcelsiusGPS®(グローバスメディカル社)のロボット支援脊椎手術を開始した.本システムの利点は,①一体型カメラスタンドを有するコンパクトな設計となっている,②移動可能なロボティック・ベースステーションがある,③タッチ式スクリーンモニターを使用できる,④高剛性のロボットアームとエンドエフェクタが備わっている,⑤統合された各種インプラントと手術器械類が使用可能である,等である.脊椎ロボットは稼働が始まったばかりで,今後の進展が期待される一方,検証も必要である.

境界領域/知っておきたい

慢性疼痛治療におけるマインドフルネス

著者: 田中智里 ,   藤澤大介

ページ範囲:P.1012 - P.1016

はじめに

 本邦における大規模調査1)にて,慢性疼痛の有病率は全成人の22.5%と報告され,推定患者数は2300万人を超える.疼痛部位は腰(64.1%),肩(47.9%),膝(25.6%)の順に多く,運動器関連疼痛が慢性疼痛のほとんどを占める.慢性疼痛保有者の65%が医療機関を受診し,受診先は80%以上が整形外科であった.しかし医療機関を受診した患者のうち70%以上が治療に満足していないとの結果も示されており,慢性疼痛に有効な医療体制の構築が急がれている2)

 痛みは情動や認知を含む多面的な体験であり,侵害受容性疼痛の要素が大きい急性痛に比べて慢性疼痛では心理社会的な要因による修飾が大きい.解剖学的な変化にみあわない疼痛や抑うつ,不安などの苦悩が持続していることが多い.慢性疼痛の治療では複数の診療科が分野横断的に介入する集学的治療が重要とされ,薬物療法,インターベンショナル治療,リハビリテーションと並んで心理的アプローチが重視される3).マインドフルネス療法はそのような心理的アプローチの1つである.

臨床経験

CTを用いた人工骨頭置換術前後の短外旋筋群の評価—後外側アプローチと共同腱温存後方アプローチの比較検討

著者: 横山勝也 ,   鵜養拓 ,   渡辺雅彦

ページ範囲:P.1017 - P.1020

目的:通常の後外側(PL)アプローチと共同腱温存後方(CPP)アプローチによる人工骨頭置換術(BHA)前後の短外旋筋断面積・脂肪変性を,computed tomography(CT)を用いて評価した.対象と方法:術前と術後6カ月後にCTを施行し,短外旋筋断面積とCT値を計測し,PL,CPPの2群に分け比較検討した.結果:PL群では術後の外閉鎖筋,内閉鎖筋の断面積,CT値が術前に比べ低下していた.CPP群では温存した内閉鎖筋は断面積,CT値の術後変化はなかった.まとめ:CPPはPLに比べ内閉鎖筋断面積が保たれ,脂肪変性することなく温存することができていた.

骨粗鬆症性椎体骨折に対する保存治療—診療報酬制度からみた治療戦略

著者: 藤原啓恭 ,   松本由紀子 ,   森口悠 ,   小田剛紀

ページ範囲:P.1021 - P.1024

背景:骨粗鬆症性椎体骨折の地域連携システムを診療報酬制度から検討する.対象と方法:当センターで入院加療を行った144例を対象とし,平均在院日数,平均包括出来高差額,平均日当点,神経合併症発生率,手術施行率を調査した.結果:平均在院日数は10.7±6.6日,平均包括出来高差額は−11,942円,平均日当点は4,433点であった.神経合併症発生は遅発性に2.1%認め,手術が施行された.まとめ:今回設定した地域医療連携システムの地域医療に対する貢献度は高いと考えるが,標準的な診療行為およびシステムの見直しが必要であると考えられた.

症例報告

整形外科疾患による慢性疼痛を契機として自殺企図に至った7例

著者: 松本匡洋 ,   日野耕介 ,   臼井健人 ,   津村碧 ,   若山悠介 ,   竹内一郎 ,   稲葉裕

ページ範囲:P.1025 - P.1027

整形外科疾患による慢性疼痛を原因として自殺企図に至る患者がいることはあまり知られていない.本報告の対象は整形外科疾患による慢性疼痛が自殺企図の原因と考えられた7症例(男性6例,女性1例)である.刺創が4例,急性薬物中毒・入水・縊頚がそれぞれ1例ずつであった.主訴は下肢痛,歩行障害などと歩行に関するものが多く,男性・症状増悪後3カ月以内の症例では自殺リスクが高くなると考えられた.いずれの症例も器質的疾患だけではなく,心理社会的な要因などさまざまな要因が重なっており,多職種が関わるチームでの集学的治療が望まれる.

胸髄症を呈し緊急手術を要した胸椎黄色靱帯内血腫の1例

著者: 撫井貴弘 ,   田中誠人 ,   西納卓哉 ,   森田修蔵 ,   北條潤也 ,   林宏治 ,   中島弘司 ,   田中康仁

ページ範囲:P.1029 - P.1032

緒言:今回われわれは,胸髄症を呈し緊急手術を要した胸椎黄色靱帯内血腫の稀な1例を経験したので報告する.症例:51歳男性.歩行時に右下肢のしびれと脱力感を自覚し救急搬送となった.右下肢不全麻痺,膀胱直腸障害を認め,画像所見でTh11/12高位に腫瘤性病変を認めた.同病変による胸髄症と診断,緊急手術を施行した.病理検査で黄色靱帯内血腫と診断した.術後再発なく経過良好である.考察:理学所見より高位診断を行い,画像診断で早期に病変を同定し,適切なタイミングで手術加療を行うことが重要であると考えられた.

超高齢者に発症した脱分化型骨外性粘液性軟骨肉腫の1例

著者: 國島麻実子 ,   山田仁 ,   渡邉一男 ,   荒文博 ,   紺野愼一

ページ範囲:P.1033 - P.1037

背景:高齢化社会では,速やかな意思決定が困難な場合があり,稀少がんの治療において難渋した.症例:92歳女性に発生した脱分化型骨外性粘液性軟骨肉腫(Dediff EMC)である.近医では高齢を理由に精査加療が行われず,腫瘍は増大した.当科で生検後に治療方針を提示したが,本人は認知症で意思決定ができず,家族も遠方で治療方針検討に1カ月を要した.その間に,腫瘍部が自潰して感染した.連日洗浄処置を行ったが,局所制御ができず,腫瘍広範切除術を施行した.術後は長期処置を要したが,創は治癒した.まとめ:高齢や認知症を合併している患者でも,悪性腫瘍に対しては可能な限り早期に治療に介入する必要がある.

書評

医学英語論文 手トリ足トリ—いまさら聞けない論文の書きかた フリーアクセス

著者: 岡田保典

ページ範囲:P.1039 - P.1039

 「医学英語論文」を書くことは,医師であれば誰もがごく普通に考えることではあるが,実際には必ずしも多くの医師が英語論文を書いているわけではない.そもそも医師が英語論文を書く理由は何なのか.本書では,「Ⅰ 論文を書く前に」において,このような根本的な疑問に答えることからスタートして,「医学英語論文」を書くことの意義や考え方について述べ,「Ⅱ 英語論文の『作法』」と「Ⅲ 英語論文の基本構造とその対策」において論文の書き方に関する基本的かつ実際的な注意点が丁寧に(まさに手トリ足トリ)解説されている.

 本書は,優れた研究実績を有する整形外科専門医である防衛医科大学校整形外科学講座の堀内圭輔准教授が執筆した著書であり,同講座千葉一裕教授の監修のもとに発刊されている.この手の本でよく見られる便利な英文表現や英文法の解説書ではなく,(1)英語論文作成の作法・決まり事の理解,(2)指導医,共同研究者,編集者,査読者,読者などの論文作成にかかわる人々とのコミュニケーションの重要性,(3)英語論文として発表することによる視野の拡大と充実した医師・研究者生活指向の必要性を若手医師・研究者に伝えることを主眼としている.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.932 - P.933

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.934 - P.934

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1041 - P.1041

あとがき フリーアクセス

著者: 松本守雄

ページ範囲:P.1044 - P.1044

 本稿執筆中の現在は梅雨の半ばで蒸し暑い日々が続いている.新型コロナウイルス感染症がやや沈静化し,社会が正常化していくと思いきや,ロシアのウクライナ侵攻,世界的なインフレや食糧不足,物価高騰,電力供給不足など社会が安定化する兆しが見えない.筆者の病院では節電を目的として体調に問題がない教職員は下りにはすべて階段を使用するという活動を開始したが,エレベーターが当たり前となっている教職員にはなかなか浸透しない.電気や食料は黙っていても手に入るものだと思っていたが,もはやこれまでの常識が通用しない時代になりつつあるということを認識する必要があるのだと思う.

 出だしから暗い話で恐縮であるが,このような閉塞感を打ち破るのは新しい考えや技術革新である.本号では「整形外科ロボット支援手術」と題して聖マリアンナ医科大学の赤澤 努先生に特集をご企画いただいた.昨今のコンピュータテクノロジーや機械工学の進歩で,四肢関節や脊椎疾患に対するさまざまな手術支援ロボットが開発され,本邦にも導入されてきている.手術支援ロボットにより人工関節設置やスクリュー挿入の精度を上げ,安全性と手術成績の向上が期待される一方で,高い導入コストや診療報酬での償還が不十分などの課題もある.本特集ではこのようなロボット支援手術の歴史,現状,手術手技の実際,課題などについて各領域におけるロボット支援手術のエキスパートの先生方にご執筆をいただいており,現状を理解するうえで網羅的で有用な内容になっている.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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