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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科57巻9号

2022年09月発行

雑誌目次

特集 わかる! 骨盤骨折(骨盤輪損傷) 診断+治療+エビデンスのUpdate

緒言 フリーアクセス

著者: 野田知之

ページ範囲:P.1049 - P.1049

 骨盤骨折は骨盤輪損傷と寛骨臼骨折に大別されるが,いずれも整形外科医にとって最も治療に難渋する外傷の代表格と言える.なかでも骨盤輪損傷は生命に危険が及ぶ可能性もあり初期治療においては,救命のための迅速なアプローチも必要となる.以前は救命されても保存的に治療され,疼痛や大きな機能障害を残すことが多かった本損傷であるが,救急医療の発展による救命率の向上と本損傷に対する診断法・治療法の進歩によって,治療成績は飛躍的に向上してきている.しかしながらこの良好な治療成績獲得には,救命から再建・リハビリテーションまでの一貫した治療が,複数の診療科や多職種のチーム医療によって適切に行われる必要がある.

 一施設や一個人で経験できる症例数がそう多くない本損傷の診断や治療は,個々人の経験論に負うところが大きかったり,適応をおざなりにして手術テクニックに偏重した議論が行われたりする傾向があった.本特集では近年注目されてきている初期治療の変化や,麻酔下でのストレス検査による手術適応の決定など,最新の知見やエビデンスをできるだけ紹介いただくようにし,また経験豊富な先生方にご自身の行っている手術法の詳細とその成績についてご執筆いただいた.

骨盤解剖とバイオメカニクス

著者: 依光正則

ページ範囲:P.1051 - P.1055

骨盤外傷の治療に必要な解剖学的な知識とバイオメカニクスについて説明する.骨盤は,仙骨と2つの寛骨で構成される輪状構造で,仙腸関節と恥骨結合で連結される.仙腸関節の靱帯は,強靱でありほとんど動きがないが,動的な安定化機構は二足歩行特有の骨盤形状の維持に大きな役割があるとともに,外力が生じた際に衝撃を吸収する作用がある.小骨盤腔内には重要な神経血管が多く存在しており,損傷されると生命に関わる出血や大きな機能障害の原因となる.これらの解剖を理解することは,適切な治療を行ううえで必須である.

骨盤骨折における分類と画像評価

著者: 吉田昌弘

ページ範囲:P.1057 - P.1066

すべての骨折治療において共通することであるが,正しく画像評価を行い,それを適切な骨折型に分類することは適切な治療方針を決定するために必要不可欠である.画像評価においては現在,3D-CT撮影が比較的容易に施行可能なため,これに頼る傾向にある.しかし,実際骨盤骨折手術加療を行う際はイメージ透視画像を頼りに行うため,単純X線画像の詳細な理解は非常に重要である.また骨盤骨折における分類としては特に高エネルギー外傷においてはAO/OTA分類とYoung-Burgess分類が重要であるが,近年麻酔下でのストレス検査による評価が重要視されてきており,これも治療法に直結するため十分に理解する必要がある.さらには近年の高齢化に伴い症例が増加している脆弱性骨盤骨折の分類(Rommens分類)についてはこれまでの高エネルギー外傷に対する骨盤骨折分類(AO/OTA分類,Young-Burgess分類)とは全く異なるものであり,これも症例の増加も相まって十分に理解する必要がある.

骨盤輪損傷の初期治療,初期固定

著者: 上田泰久

ページ範囲:P.1067 - P.1074

骨盤輪損傷は骨折治療のみならず,ときに集学的治療を必要とする.特に出血性ショックを伴う場合,プロトコルに沿った外傷蘇生と止血操作を行う必要がある.止血のための治療介入には,経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)やpelvic packing,創外固定などが挙げられるが,優劣ではなく相補的に行う必要がある.確定的内固定のタイミングは議論の余地があるが,近年ではearly appropriate careの概念に沿って早期内固定を行うようになってきている.初期治療から内固定まで,施設の人的,物的資源に大きく左右されるため,各施設で適した治療戦略を練る必要がある.

治療方針—手術治療の適応,前方固定の要否

著者: 鈴木卓

ページ範囲:P.1075 - P.1081

骨盤輪骨折の安定性の判断はCT画像を用いても容易ではないことがある.Dynamicな評価法である損傷骨盤に力学的ストレスを加えて骨盤前方部が動揺するかをみるテスト(EUA)は有用であり,それに基づいた手術適応基準がいくつか報告されている.しかし,前方と後方のどちらの固定を優先させるのか,あるいは前後両方の固定の必要性について,統一された基準はいまだ確立されていない.

前方要素の固定法

著者: 前川尚宜

ページ範囲:P.1083 - P.1091

骨盤輪損傷の内固定を行う際には,前方要素と後方要素の固定について考え症例に応じて適宜選択する必要がある.後方要素から固定を行う際には後方要素の固定終了後にEUAを施行し,前方要素の不安定性の評価を行い不安定性のあるものは内固定する.一方で前方要素の固定を先行するという報告もあり,各骨折に応じて戦略を立てる.前方要素の固定方法としては,プレートによる固定や低侵襲な手技(経皮スクリュー固定法:ASIF),創外固定法などが挙げられる.その適応は各手術方法の手術手技に精通したうえで決定する.

骨盤骨折に対する経皮的スクリュー固定術の適応と手術法—ハイブリッド手術室の活用法

著者: 高江洲美香 ,   仲宗根哲

ページ範囲:P.1093 - P.1102

骨盤輪・寛骨臼骨折98例に対してハイブリッド手術室のリアルタイム3Dフルオロスコピックナビゲーションを用いた経皮的骨盤スクリュー挿入(PPSP)を計279本実施した.平均手術時間98分,出血量8.2mLで,挿入精度は99.3%であった.ハイブリッド手術室のリアルタイム3Dフルオロナビは,腸骨稜へのトラッカー設置や煩雑なレジストレーションが不要で,術中の透視画像を見ながら術前計画の軌跡に沿ってガイドワイヤーを挿入するため,安全で正確にPPSPが可能であった.

骨盤輪後方要素の前方からの新しい内固定法:Anterior Sacroiliac Stabilization(ASIS)

著者: 二村謙太郎

ページ範囲:P.1103 - P.1108

仙腸関節脱臼とCrescent骨折に対して,前方から強力に整復し強固に内固定できる新しい術式(Anterior sacroiliac stabilization:ASIS,エーシス)を考案した.ASISは仙骨部に粉砕を有する症例や骨粗鬆症症例に対しても十分な固定力を発揮できる新しい内固定法であり,高エネルギー外傷や高齢者の低エネルギー外傷の両方の場面で汎用性が高い手術方法である.

後方要素後方固定

著者: 神田倫秀

ページ範囲:P.1109 - P.1116

骨盤輪骨折に対する固定方法は複数あり,どの固定方法を選択するかはcontroversyである.後方要素の固定にはスクリュー単独,脊椎インストゥルメント,プレート固定などがあり,これらを使い分ける必要がある.固定方法を選択するうえで,骨盤輪骨折の後方不安定性と骨折型だけでなく局所の軟部組織の状態,他部位損傷も考慮する必要がある.これらの患者の状態とインプラントから得られる固定性を加味して固定方法を選択する.本稿では固定方法のうち後方アプローチで後方要素の固定を行うプレート固定を中心に述べる.

重度骨盤輪損傷に対する脊椎インストゥルメンテーション手術の実際

著者: 伊藤康夫 ,   瀧川朋亨 ,   森田卓也

ページ範囲:P.1117 - P.1124

高エネルギー外傷による骨盤輪損傷は,体幹支持性の喪失のみならず,骨盤内臓器・大血管・神経損傷を合併する.救命処置を優先されることがある重傷外傷である.整形外科医として,重篤な合併症の防止と体幹支持性の獲得のために骨盤輪の再建は重要である.本稿では,脊椎インストゥルメンテーション手術手技を用いた高エネルギー外傷による骨盤輪損傷に対するわれわれの行っている再建手術を紹介する.

骨盤輪骨折の周術期合併症とリハビリテーション

著者: 小久保安朗

ページ範囲:P.1125 - P.1131

骨盤輪骨折は,搬送直後に迅速な救命救急処置を進める技術と,手術治療を行う際には高度な技術が要求される.このため,これらの技術向上に目が向けられがちであるが,致死的合併症が発生すると救命が成功したにもかかわらず再び患者を危険にさらしてしまう.周術期合併症はある程度予測が可能であり,十分な備えが必要となる.また,リハビリテーションがうまく進められないと,社会復帰が遅れ手術治療の利点が損なわれることになるため,患者が社会復帰するまで注意深くリハビリテーションを管理していくことが重要である.

脆弱性骨盤輪骨折

著者: 普久原朝海

ページ範囲:P.1133 - P.1143

骨盤輪骨折は高齢者になるほど発生率が急増する骨折である.特に近年転倒などの低エネルギーで生じる脆弱性骨盤輪骨折の増加が著しい.またADL障害や生命予後は大腿骨近位部骨折と同等の経過をたどり,健康寿命の低下につながる.仙骨骨折は初療時に見逃されやすく,適切な治療を受けるチャンスが失われやすい.初療時に骨折線がなくとも時間経過とともに骨折線がはっきりすることもあり,注意深い経過観察が必要である.早期離床を目的として低侵襲手技による手術も選択される.診断のポイントと手術適応および手術のコツについて述べる.

論述

大腿骨転子部骨折の術前下肢深部静脈血栓症発生に骨折不安定性の有無が与える影響

著者: 内山照也 ,   森本政司 ,   竹上謙次 ,   友田良太 ,   川喜田英司 ,   小野佑太

ページ範囲:P.1145 - P.1152

大腿骨転子部骨折治療において不安定性と深部静脈血栓症発生率の相関を詳しく調べた報告はほとんどない.当院で手術を行った大腿骨転子部骨折患者426例434股(男性96股,女性338股,平均年齢85.6歳)を対象として,不安定性が術前の深部静脈血栓症(DVT)発生に影響を与えるかについて後ろ向きに調査を行った.症例を3D-CT中野分類に基づいて安定型と不安定型の2群に分類し,術前DVTの有無について検討した.結果は,安定型群では219股中36股(16.4%),不安定型群では215股中70股(32.6%)にDVTを認め,統計学的に有意差(p<0.001)をもって不安定型群にDVTが多くみられた.

内側半月板後根断裂の臨床的特徴

著者: 設楽航平 ,   大森康高 ,   杉浦史郎 ,   豊岡毅 ,   大山隆人 ,   中村恵太 ,   松下幸男 ,   佐粧孝久 ,   岡本弦 ,   西川悟

ページ範囲:P.1153 - P.1156

背景:内側半月板後根断裂(MMPRT)は画像診断が主であり,特徴的な臨床所見を挙げた報告は少ない.対象と方法:MRIを施行しMMPRT,その他の内側半月板断裂,内側変性半月板と診断された108例において,BMI,罹患期間,受傷機転の有無,VAS,膝関節屈曲可動域,膝関節伸展可動域を調査し,MMPRTの臨床所見を検討した.結果:MMPRTはその他の2群と比較し,受傷機転が明確で,痛みが強く,膝関節屈曲制限がある傾向が認められた.まとめ:受傷機転が明確で,痛みが強く,膝関節の屈曲制限がある場合MMPRTである可能性が高いことが示唆された.

境界領域/知っておきたい

形成外科からみた創処置に関する基本と禁忌

著者: 髙木誠司

ページ範囲:P.1158 - P.1161

はじめに

 外科医である限り,体表皮膚の創傷処置は知っておくべき基本的事項の1つと考える.本稿では,手術による縫合創,そして術後の創離開や外傷に伴う皮膚潰瘍を念頭に置き,形成外科医としてどのような創処置・創管理を施しているのかについて述べる.ただ,今回記す「創処置」の前提には皮下埋没縫合を含めた形成外科的縫合手技があるので,これについては是非にほかの資料を参照していただきたい.

症例報告

変形性膝関節症として紹介を受けた巨大膝窩囊腫による選択的腓骨神経麻痺の1例

著者: 福島啓太 ,   小宮浩一郎 ,   谷英明

ページ範囲:P.1163 - P.1166

膝窩囊腫により選択的腓骨神経麻痺を生じた稀な1例を経験した.54歳男性.変形性膝関節症(OA)の手術目的で紹介されたが,紹介目的とは異なり腓骨神経麻痺が最も優先度の高い問題点と判明し,囊腫摘出術を施行した.OAや随伴する膝窩囊腫が下肢神経症状を呈することは少ないため,その原因として腰椎疾患を想起しやすい.このような診療バイアスは日常的に遭遇する疾患に内包された稀な病態をマスクする可能性があり,先入観を排除して丁寧に診察を行うことの重要性が再認識された.

書評

医学英語論文 手トリ足トリ—いまさら聞けない論文の書きかた フリーアクセス

著者: 戸口田淳也

ページ範囲:P.1169 - P.1169

 著者の堀内圭輔先生とは整形外科の臨床における専門領域を共有していることから,以前より親交を深めていただいている.同時に基礎生物学の研究にも従事されていることから,私が編集委員を務めている学術誌に投稿された論文の査読をしばしばご依頼申し上げている.大きな声では言えないが,査読者のreviewの質は,いわゆるピンキリである.その中で著者のreviewは,内容を十分理解した上で,研究の目的は論理的なものであるのか,実験計画に見落としがないのか,結果の解釈は妥当であるのか,そして結論は結果から推定されるものなのかという点について,毎回極めて適切なコメントを頂いている.たとえ最終的な意見がrejectであっても,投稿者にとって有用なアドバイスとなるコメントをcomfortable Englishで提示され,いつも敬服していた.本書を一読して,なるほど論文を書くということに対して,このような確固たる姿勢を持っておられるから,あのようなreview commentが書けるのだと納得した次第である.

 著者が述べているように,学術論文とは情報を他者と共有するためのツールである.SNSを介しての情報共有と異なる点は,情報の質,信頼性に関して,複数の専門家が内容を吟味した上で公開されることである.そして公開された情報に基づいてさらに深く,あるいは広く研究が行われ,その成果が再び学術論文として公開されていく.つまり学術論文を書くということは,小さな歩みであるかもしれないが,科学の進歩に貢献するということであり,自分の発見したことを,わくわくする気持ちで文章にするということである(私の大学院生時代のボスは,Nature誌に単独著者でI foundで始まる論文を書かれていた!).

INFORMATION

第13回 日本仙腸関節研究会 フリーアクセス

ページ範囲:P.1144 - P.1144

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1046 - P.1047

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1048 - P.1048

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1171 - P.1171

あとがき フリーアクセス

著者: 松山幸弘

ページ範囲:P.1174 - P.1174

 本号は野田知之先生が骨盤骨折の診断と治療について特集を組んでくださった.この骨盤骨折,特に骨盤輪が破綻した場合の再建が大変重要であることは周知の事実であるが,手技的には大変難易度が高い.しかしここ10年でのIVR領域で行われている血管内治療の進歩,そして画像処理技術やナビゲーション,ロボティックサージャリーの進歩,さらにはインプラントの進歩によって骨盤輪再建はより安全に,確実に行うことが可能となってきた.周知のことではあるが,骨盤輪損傷は体幹支持性の喪失のみならず,骨盤内臓器・大血管・神経損傷を合併することがあり,救命処置が優先されることがある重傷外傷である.整形外科医として,重篤な合併症の防止と体幹支持性の獲得のために骨盤輪の再建は重要であり,この骨盤輪のバイオメカニクス,そして解剖を熟知することが必要となる.

 今回の特集では骨盤輪の解剖,バイオメカニクスから始まり,骨切に対する全身管理,安定化,固定方法も含んだ初期治療,そして骨盤輪再建の手術方法について,救命救急センターで活躍するトップランナーの先生方に論述していただいている.初期研修医,後期研修医,もちろん整形外科専門医にとっても大変魅力的な内容に仕上がっていると思う.特に骨盤輪再建において,その病態に対応した多種多様なアプローチで矯正再建する内容は読み応えがあり,またすぐさま臨床に役立つものと確信している.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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