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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科58巻1号

2023年01月発行

雑誌目次

特集 医師の働き方改革 総チェック

緒言 フリーアクセス

著者: 伊藤淳二

ページ範囲:P.5 - P.5

 医師の働き方改革実施まであと1年に迫ってまいりました.着々と準備されている施設もあれば,どうやって手を付けたらいいかお困りの施設もあろうかと思います.

 「働き方改革」,「時間外労働時間の制限」という言葉を耳にしたとき,手術中でも手を下ろして交代しなければいけないのか,との極論もあったようですがそういう意味ではないことは明白です.今まで問題視しなかった医師の労働時間を把握し,効率的な就労時間と休息の確保,自己研鑽とのすみ分けなどを行い,医師の生活の質の向上に寄与するシステムを構築するための通過点である,と捉えていただきたいと思います.

総論

医師の働き方改革の現状と課題—厚生労働省が示す2024年からの働き方改革と整形外科医の勤務実態について

著者: 土屋明大

ページ範囲:P.7 - P.13

2024年4月以降の医師の働き方に関して厚生労働省やさまざまなメディアから発信がされている.本稿では厚生労働省の資料をもとに現時点での医師の労働時間管理に対する基本的なポイントを解説していく.各医療機関は医師の労働時間の線引きを明確にしたうえで,時間外労働上限規制に従って医療機関勤務環境評価センターに申請し,その結果を踏まえて都道府県が指定する.スムーズに働き方改革を実施するためには医療機関だけではなく,勤務医1人ひとりが働き方改革の意義と必要性について理解し,組織全体として主体的に取り組む必要がある.

病院の機能別の対応

都市部の急性期総合病院における働き方改革への取り組み

著者: 三上容司

ページ範囲:P.15 - P.22

2024年4月から実施される勤務医の時間外労働時間上限規制に向けての都市部急性期総合病院における取り組みと今後の課題について述べた.ICカードを導入して医師の労働時間を把握し,36協定を締結した.タスク・シフト/シェアについては,日本整形外科学会が提案した10項目中7項目を実施した.特定行為研修を実施し特定看護師を院内に配置し,診療看護師育成の支援を行った.薬剤師,医師事務作業補助者の活用,院内ICT環境の整備を進めた.整形外科の働き方改革は,病院一丸となった働き方改革と多角的に連動しながら進める必要がある.

地方の総合病院の立場からの医師の働き方改革

著者: 石井政次

ページ範囲:P.23 - P.29

2024年4月から医師の働き方改革が施行される.地方の医師不足の病院の立場としては,大学との関係は非常に重要であり,大学からの応援を得るためには宿日直許可が重要課題となる.宿日直許可がなければ,大学からの応援勤務がすべて時間外勤務となり,時間外勤務が超過し,応援の縮小が危惧される.時間外勤務を行うには36協定の取得が必要であり,また医師の確保のためには今後増えてくる女性医師へのフレキシブルな対応も大切である.少ない医師の勤務負担を軽減するには医師から他職種へのタスク・シフト/シェアが重要となる.

地方の小規模病院における整形外科医の働き方改革

著者: 大塚博徳

ページ範囲:P.31 - P.37

今後の超高齢社会において,整形外科という診療科は,地域や病院の規模に関係なく必要とされる仕事量や時間が増えていくことが予想される.整形外科医師の負担軽減には,他職種へのタスク・シフト,タスク・シェアが有用であり,スタッフとのコミュニケーションの向上と連携の強化が重要である.その結果,医師にしかできない業務に集中できる環境づくりが可能となり,医師の働きがいの向上につながる.

ダイバーシティの見地から

女性医師の立場から整形外科医の働き方改革を考える

著者: 山内かづ代

ページ範囲:P.39 - P.42

国内の整形外科男女共同参画関連調査ならびにシンポジウムより,整形外科における働き方の特徴および課題として,勤務時間,場所,長時間労働(救急・緊急),仕事内容(高い専門性,手術研鑽),風土,上司・職場の理解,キャリアの継続,重労働が挙げられた.わが国の働き方改革を契機に,多様な視点,立場からの意見交換と改善策の取り組みを検討し,男女問わず医学生,研修医に魅力を伝え,若手医師を支援することで,整形外科医療と整形外科医全体のキャリア形成が双方にとって有益となる良好な循環をもたらしたい.

女性整形外科医のパートナーの立場から整形外科医の働き方改革を考える

著者: 鉄永智紀 ,   鉄永倫子 ,   尾﨑敏文

ページ範囲:P.43 - P.47

長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現などを目指し,2019年4月から働き方改革関連法が施行され,2024年4月より医師の働き方改革が開始される.整形外科の中で女性整形外科医が占める割合は小さい.女性整形外科医が働きやすい環境を構築するためには,男性整形外科医の働き方改革も必要である.女性整形外科医をパートナーとしている筆者の経験も交えて,現在の課題と今後必要となることについて述べる.

働き方改革の手法

医師事務作業補助体制の効果と適正な運用法—医師が知っておくべきこと

著者: 今田光一

ページ範囲:P.49 - P.54

2008年から導入された医師事務作業補助制度は,書類作成や電子カルテ入力などの代行業務を行うことで医師の過剰労働の改善や医療安全,患者満足度に大きく貢献しているが,不適切な運用で医師法に抵触する事例も散見されるようになっている.事務的業務であっても医師しか行えないものもあり,医師がキーボードに一切触らずに業務を完結できることは絶対にない.医師は「医行為」の知識と代行業務の可能範囲,そして遵守すべき代行手順を熟知し,事務職やほかの医療職に指導できる知識を備えたうえで,タスク・シフト/シェアの主導的役割を果たすよう努めなければならない.

クリニカルパスを活用した業務の効率化と医療の質を担保した働き方改革

著者: 勝尾信一

ページ範囲:P.55 - P.60

日本にクリニカルパス(以下,パス)が導入されてから20年以上が経過し,年々導入施設は増えてきているが,未だ根強い誤解で導入されていない施設も多い.パスは単なる診療計画表ではなく,患者状態と診療行為の目標,評価・記録を含み,分析して医療の質の改善を図るものである.多職種で話し合ってパスを作成する,患者情報を多職種で共有しながらパスを使用する,使用後に分析して改善策を提案する,というサイクルを回すことで,医療の質を担保しながらも業務の効率化を図るツールとなる.

病院総合医によるフロアマネジメント

著者: 園田幸生

ページ範囲:P.61 - P.67

病院総合医は多職種協働のチーム医療を推進するフロアマネジメントを担当病棟にて行い,医療職の働き方改革を実践している.整形外科領域では,患者の多くは高齢者であり,多様な併存疾患をもち,かつ介護度も高いため,プロアクティブな医療・ケアが必要であり,病院総合医は多職種協働でこれらにタイムリーに対応している.専門医が専門性の高い治療により専念できるような労務環境を整えていくためには,病院総合医のような「高齢患者を守る存在」が必要であり,整形外科医の働き方改革を推進する方法の1つとして考えている.

救急部門の医師交代勤務が整形外科医の働き方改革を支える

著者: 福岡敏雄

ページ範囲:P.69 - P.73

医師の働き方改革を進めるには,救急診療や夜間休日の診療の維持が課題になる.当院の病床数は1,000床を超え,年間入院患者3万人,うち救命救急センターからが約1万人である.整形外科関連の救命救急センターの受診状況を調査したところ,整形外科受付の受診患者は全体の10%と比較的多いが,入院を要したのはその8.3%であり救急受診患者全体の入院率(約25%)に比べると低かった.また,実際に整形外科医の診察を要したのは29%で,緊急手術を要したのは平均月10件程度,深夜帯は月に2,3件であった.この結果に基づいて,2022年中に深夜帯はコンサルトと緊急呼び出し体制とする方針である.働き方改革への取り組みは,全病院的な協働をもって可能となる.具体的に進める中で,それぞれの診療科の救急や夜間業務担当者の役割の大きな変化を引き起こしており,これからも慎重に緻密に進める必要があると感じている.

特定行為看護師による外科系医師のタスク・シフト

著者: 今井晋二

ページ範囲:P.75 - P.84

2024年4月から医師の働き方改革が施行される.医師の労働時間削減には,タスク・シフト/シェアが重要である.2015年に看護師特定行為研修制度が創設され,特定行為として38行為21区分が定められている.2019年に特定行為研修における特定行為のパッケージ化が行われた.滋賀医科大学では全特定行為38行為21区分と全領域別パッケージを開講し,特定行為の活動のアウトカムを評価するためにデータの収集分析を行っている.特定行為看護師が新たな医療の担い手になれるか否かは,わが国の医療のあり方を考えるうえで重要と考える.

—C-2水準でのサブスペシャルティ研修を目指す整形外科専門医へ—C-2水準に適合した手外科専門医取得のプロセスを考える

著者: 新関祐美

ページ範囲:P.85 - P.91

専門医を取得後,高度な技能を取得するための研鑽として年1,860時間までの時間外労働勤務が認められるC-2水準は,本稿が出版される2023年1月には初回審査が始まっている.C-2水準を理解し,どのように生かしていくかを,われわれ整形外科医自身が考えていかねばならない.要点は,B水準とどう使い分けるか,人事異動のフローにどう組み込むか,働き方改革の推進と修練の両立についてゴールをどう描くか,である.ここでは,C-2水準の指定要件,日本手外科学会認定手外科専門医の取得要件を説明し,C-2水準を念頭に置いた研修について示す.

大腿骨近位部骨折の早期手術・骨折リエゾンサービスを意識した働き方改革

著者: 山本智章

ページ範囲:P.93 - P.98

2022(令和4)年度の診療報酬改定で大腿骨近位部骨折患者の受傷後48時間以内の早期手術治療と,術後の二次性骨折予防に対しての評価が新設されて加算算定が可能となった.医師の働き方改革が迫る中でこの改定が整形外科医にとって,多診療科での協働と多職種連携によるタスクシェアの推進に寄与することを期待する.

視座

書道のすすめ

著者: 宮腰尚久

ページ範囲:P.1 - P.1

 私が小学生の頃の習いごとといえば,習字か算盤であった.秋田の田舎で育ったからかもしれないが,周りには学習塾はなく,友達は皆,とりあえず習字と算盤をやっていた.あの頃,学校でも習字の時間というものがあって,担任の先生が皆の作品を,毎月,『書友』という雑誌に投稿してくれた.『書友』では,優秀作品が写真で紹介される.時に自分の作品が『書友』に掲載されるのは誇らしいものであった.学年が進むにつれて,習字は書道となり,書体は楷書から行書,草書へと変化し,習いごとが競技となる.私も片手間ではあったが,高校1年まで書道を続けていた.

 その後は現在に至るまで,書道とはまったく縁がなく,体育会系整形外科にどっぷりとつかっていた.当教室には,さまざまなスポーツで一流を極めた選手が多く,学生との試合でも決して負けることがない.そのため,運動ができないと整形外科には入局できないのではという,あらぬ誤解を学生に抱かせてしまっている.しかし残念なことに,2020年からのCOVID-19によって,体育会系整形外科の栄光ある活動は完全に停滞してしまった.

Lecture

整形外科専門医試験に関する最近の動向

著者: 谷口昇

ページ範囲:P.99 - P.104

はじめに

 令和2年度と3年度の日本整形外科学会専門医試験は,新型コロナウイルス感染拡大に伴い,各都道府県に設けられた会場でcomputer based testing(CBT)方式で行われた.筆答試験120問に引き続き行われていたビデオ問題と症例問題による口頭試験がなくなり,筆答試験100問のみと簡略化されたのが主な変更点である.令和3年度の専門医試験委員会委員長を務めた経験より,CBT方式に移行した整形外科専門医試験に関する最近の動向について解説したい.

最新基礎科学/知っておきたい

椎間板性腰痛のメカニズム—椎間板に発現する疼痛関連物質とマクロファージの働きに着目して

著者: 宮城正行 ,   内田健太郎 ,   井上玄 ,   高相晶士

ページ範囲:P.106 - P.109

はじめに

 腰痛の原因として,椎間板由来,椎間関節由来,仙腸関節由来,椎体由来,筋・筋膜由来があるとされるが,そのうち椎間板由来のものは13〜39%と報告されている1,2).椎間板性腰痛のメカニズムとして,①椎間不安定性が生じる箇所に,②微小神経線維が侵入し,③椎間板内に疼痛関連物質が発現すること,が疼痛発生に関与していると考えられており3),その詳細な機序についてわれわれはさまざまな研究を通して明らかにしてきた.特に,マクロファージが疼痛関連物質発現に重要な働きをしている可能性が高く,本稿では椎間板内に発現する疼痛関連物質とマクロファージの働きを中心に詳述する.

症例報告

大腿骨顆部脆弱性粉砕骨折に対して一期的人工膝関節置換術を施行した1例

著者: 鈴木駿介 ,   山田仁 ,   荒文博 ,   紺野愼一

ページ範囲:P.111 - P.114

背景:骨粗鬆症や変形性膝関節症(膝OA)を有する,高齢者の大腿骨顆部脆弱性粉砕骨折に対する観血的整復固定術(ORIF)は,強固な固定や早期歩行を得ることが難しい.症例:78歳女性.膝OAと骨粗鬆症を伴うAO分類33C3.1の骨折に対して受傷後10日に腫瘍用人工膝関節置換術(TKA)を施行し,術後10日で歩行器歩行訓練を開始した.術後2年6カ月時点で,関節可動域は0〜100°,杖歩行可能であった.まとめ:高齢者の大腿骨顆部脆弱性粉砕骨折に対する一期的TKAは早期歩行が得られ,高齢化の進む現代社会においては,介護予防に有用な治療選択肢の1つと考えられる.

書評

問題解決型救急初期診療 第3版 フリーアクセス

著者: 藤井達也

ページ範囲:P.105 - P.105

 「これから動悸の患者さんが来るから,ACLS見直しておいて」.

 初期研修医だった僕は上級医に言われ,ACLSのテキストを見直していた.「意識があるということは脈あり・頻脈だな」と思い頻脈プロトコールを頭に入れた.すると心電図モニターを確認すると洞調律の78歳男性だった.僕は脈あり・頻脈のフローチャートの最初でつまずき,頭が真っ白になりそうだった.しかし,過去カルテを見にいくときに本書の「動悸」の項目を開いた.まずは「問診」「心電図」と記載がある.「それで具体的には何をきくのか?」と思い次のページを見ると,「安静時の動悸か?」「労作時の動悸か?」「既往歴」「家族歴」と書かれている.ふむふむ.30秒でざっと確認し現場に戻る.診察や検査を終え無事に上級医へプレゼンできた.

臨床整形超音波学 フリーアクセス

著者: 福井勉

ページ範囲:P.117 - P.117

 序文にもあるが,本書は若手整形外科医を中心に執筆されている.まだ新しい技術ともいえる超音波を利用した診断や治療が千万無量に書かれている書籍である.また,超音波を共通言語として理学療法士とタッグを組むと記載されている,今までにはない書籍である.

 章の構成は「1.はじめの1歩」,「2.ネクストステップ」,「3.新たな技法」,「4.マスターへの道」,「5.PTに学ぶ身体所見」,「6.理学療法における超音波の活用法」となっている.どの章もインパクトが強いが,4章で語られる「神経の攻めかた」などは,整形外科医はもとより理学療法士にも深く参考になると考えられる.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.2 - P.3

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.4 - P.4

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.119 - P.119

あとがき フリーアクセス

著者: 山本卓明

ページ範囲:P.122 - P.122

 新年おめでとうございます.昨年は,コロナ第8波,ウクライナ情勢,円安・インフレ,閣僚のドミノ辞任,そして何より,FIFA World Cupでドイツ&スペインに歴史的勝利!など激動の1年でした.今年はどのような年になるのでしょうか.1つ言えるのは,「社会情勢は常に変化する」でしょうか.

 さて本号の特集は,「医師の働き方改革 総チェック」です.まさに,医師の生活形態に黒船襲来,といった感があります.私が医師になった1990(平成2)年,いわゆる平成バブル時代は,「日中は診療,夜から研究」「土日はアルバイト」という生活で,夜遅くまで仕事・研究に没頭するのが美徳といった風潮がありました.某栄養ドリンクのCMでは,「24時間戦えますか!ビジネスマ〜ン」という曲(音痴な私が歌っても,ああ!とお分かりになる方もおられると思います)が堂々と流れており,社会全体が,がむしゃらに頑張る時代だったように思います.しかし,当然の帰結ですが長時間労働や過労死が問題となり,その風潮が見直され,今の医師の働き方改革につながったと思います.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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