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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科58巻10号

2023年10月発行

雑誌目次

特集 腱板断裂の治療戦略

緒言 フリーアクセス

著者: 伊﨑輝昌

ページ範囲:P.1197 - P.1197

 関節鏡視下手術は腱板断裂手術のゴールドスタンダードとなっている.術後の再断裂は臨床成績と必ずしも関連しないものの,“修復”を目的とした手術であれば,可能な限り避けることが望ましいと考える.小・中断裂については安定した臨床成績が得られているが,大・広範囲断裂に対する治療戦略はまだ確立されていない.2014年に保険収載されたリバース型人工肩関節は,高齢者の一次修復困難な腱板断裂患者にとって福音となっているが,若年者や上肢を酷使する患者には人工関節以外の手術が必要である.

 本特集では,腱板断裂手術において一次修復を促進させる工夫や,一次修復が困難または不可能な腱板断裂に対する人工関節以外の治療法について,経験豊富な肩関節外科医の先生方に執筆をお願いした.

一次修復を促進させる治療

低い修復張力下での肩鏡視下腱板修復術—Ignore Anatomy, Avoid Tension

著者: 三宅智

ページ範囲:P.1199 - P.1203

断裂した腱板は時間の経過とともに退縮し,その張力は上昇していくことが知られている.発症から外科的介入するまでにある程度の時間を要するという,肩腱板断裂の臨床的特徴を考慮すると,修復張力の重要性は明白かもしれない.腱板修復術の治療成績をさらに向上させるためには,フットプリントの解剖学的元位置に腱板を整復固定することに拘らず,腱の退縮に伴って上昇した張力に応じて,フットプリントを内方化し,修復張力を最小化すべきと考える.

PGAシートを用いた腱板修復術—適応と限界

著者: 横矢晋

ページ範囲:P.1205 - P.1210

われわれは広範囲腱板断裂に対して術後再断裂率の低下を目的に,また修復可能なサイズの腱板断裂に対しては修復腱板の早期成熟を目的に,ポリグリコール酸(PGA)シートを補強する術式を行っている.PGAは細胞外基質産生に優れ,腱細胞の成長に有利に働くとされており,また生体親和性に優れている特徴がある人工生体材料である.PGAシートを修復した腱板の表層に補強することにより周囲の環境からの細胞や線維組織の導入がなされるだけでなく,PGAシートそのものがアンカーに付着する糸やテープからの応力集中を分散させる効果もある.

腱板断裂修復術におけるBone Marrow Stimulation—適応と限界

著者: 柴田光史 ,   伊﨑輝昌

ページ範囲:P.1211 - P.1215

腱板断裂に対する関節鏡視下腱板修復術後の再断裂率を低下させるために骨髄刺激法(bone marrow stimulation)が注目されている.骨髄刺激法は上腕骨の腱板停止部に径の細い骨孔を数カ所開けることで,骨孔から成長因子や骨髄間葉系幹細胞等を流出させる簡便な手技である.腱板修復術に併用することにより腱-骨付着部の癒合率を向上させる可能性があるが,腱板修復方法によっては筋腱移行部に再断裂が生じる可能性があるため注意が必要である.

一次修復不能腱板断裂に対する治療

腱板断裂に対するPartial Repair法—適応と限界

著者: 石垣範雄

ページ範囲:P.1217 - P.1222

Partial repair法はtransverse force coupleとsuspension bridge systemを再建する一次修復不能な腱板断裂の治療法であり,腱板断端が残存している症例であればほとんどすべての症例に適応がある.しかし小円筋断裂を伴う症例,肩甲下筋腱の上1/2以上が欠損している症例および上腕二頭筋長頭腱(LHB)断裂症例では十分な注意が必要である.今回の調査では短期および長期成績の調査で良好な肩関節機能が得られており,有効な治療法の1つであると思われた.

鏡視下肩上方関節包再建術におけるグラフトマネジメント—コツとピットフォール

著者: 長谷川彰彦 ,   三幡輝久

ページ範囲:P.1223 - P.1231

鏡視下肩上方関節包再建術は,一次修復困難な腱板断裂に対してMihataが考案した関節温存手術である.本術式ではグラフトの治癒が治療成績に影響を及ぼすため,肩関節鏡手技のみならず,大腿筋膜グラフトのマネジメントが治療成績に大きく影響する.本稿では,鏡視下肩上方関節包再建術のための大腿筋膜グラフト作成から肩峰下腔へのグラフト挿入と固定に至るまで,筆者らの手術法を紹介しながら,本術式のコツとピットフォールについて述べる.

棘下筋回転移行術—コツとピットフォール

著者: 安里英樹

ページ範囲:P.1233 - P.1238

一次修復不能な腱板広範囲断裂に対する治療戦略として,棘下筋回転移行術を紹介する.棘下筋回転移行術は,断裂した棘下筋を再利用し腱板機能再建を行う筋弁術である.腱板機能再建術としての棘下筋回転移行術の力学的原理を踏まえた本術式および術後療法のコツとピットフォールについて説明する.また,日本脳炎の後遺症として右片麻痺を患っている61歳男性が左肩腱板広範囲断裂による偽性麻痺を生じた症例に対して,本術式を施行し腱板機能を再獲得できた症例を供覧する.

大・広範囲腱板断裂に対する一次修復術—鏡視下棘上筋・棘下筋腱前進術(ARCA)のコツとピットフォール

著者: 森原徹 ,   古川龍平 ,   木田圭重 ,   高橋謙治

ページ範囲:P.1239 - P.1248

腱板断端を剥離し30N以下の腱緊張で,大結節付着部まで引き出すことが不可能な症例には,棘上筋,棘下筋の起始部を肩甲骨内側縁および後面から剥離し,菱形筋と連続性を保持したまま外側に前進するDebeyre-Patte変法を行ってきた.現在,完全鏡視下に棘上筋は肩甲骨内側縁と上縁から,棘下筋腱は肩甲骨内側縁から剥離し,同筋腱断端を外側に前進し,一次修復術である全鏡視下腱板筋前進術(ARCA)を行っている.

前上方腱板広範囲断裂に対する鏡視補助下小胸筋移行術—コツとピットフォール

著者: 山門浩太郎

ページ範囲:P.1249 - P.1255

鏡視補助下小胸筋移行術は,修復不能の肩甲下筋断裂(単独の肩甲下筋断裂あるいは前上方広範囲断裂)のうち,リバース型人工肩関節置換術の適応とならない症例に対する比較的低侵襲な術式である.手技の要諦は,小胸筋腱を烏口突起より骨腱移行部を温存したまま採取し,共同腱後方ルートより小結節にノットレスアンカーを用いて固定するところにある.また,腱採取をミニオープン下に行うことで採取と剥離が安全に施行可能となり,関節内導入とグラフト固定を鏡視下に行うことで,低侵襲化に加えて後方腱板修復操作が容易となる.

腱板大・広範囲断裂に対するEx-Medialization—適応と限界

著者: 水城安尋

ページ範囲:P.1257 - P.1263

筆者は一次修復不可能な腱板断裂に対して,上腕骨頭上方のボリュームを減少させ,従来法より内側にフットプリントを移動することで腱板を修復するEx-medializationを開発した.この手法は従来の鏡視下腱板修復術の拡張で,簡便かつ特別な器具や準備が不要であり,前上方断裂や骨頭の上方化を伴う症例にも適応できる.また,重度な可動域制限の懸念もない.徐々に適応の拡大を図っており,以前はリバース型人工関節を検討していた症例に対しても適応でき,一次修復不可能な腱板断裂に対して,まず取り組むべき手法と考えている.

視座

臨床試験に挑む

著者: 田仲和宏

ページ範囲:P.1192 - P.1193

 標準治療とは,患者に真っ先に行うべき現時点で最良の治療であり,確固たるエビデンスに支えられている(はずである).質の高いエビデンスは検証的な第III相ランダム化比較試験とそのメタアナリシスによって構築される.その昔,医局の先輩に,ある疾患に対する2つの治療法の優劣について,ランダム化比較試験をやって検証すべきと意見したところ,「そんな患者が可哀想なことはできない」と否定され,根拠不明の治療を受けさせられる患者のほうが可哀想だと思った記憶がある.

 その後,世の中はEBMの時代になり,ガイドラインが整備され,多くの医師がエビデンスを重視するようになったが,実際にランダム化比較試験を行うのは容易ではない.むしろ,臨床研究法の施行による縛りや試験プロトコルと同意文書の作成,倫理審査などクリアすべきハードルが上がった分,以前よりもランダム化比較試験の実施は難しくなっている.できればやらずに済ませたいところであるが,やらなければ患者に最良の治療を届けられないから,やむを得ず行うのである.したがって,立案する試験の科学的・倫理的rationaleが重要であり,患者への十分な説明と同意取得が必須となる.

Lecture

「整形外科卒後研修Q&A」改訂の変遷・ねらい・今後

著者: 赤澤努

ページ範囲:P.1265 - P.1267

「整形外科卒後研修Q&A」とは

 1972(昭和47)年より卒後教育研修等委員会(津山直一委員長)が発足し,各地で研修会が行われるようになった.その上で認定医試験が行われるようになれば,このような問題が出るであろうとの予測のもと,1976(昭和51)年に津山委員長より,全国の先生方に問題・解答・解説の執筆が依頼された.卒後教育研修等委員会は,1980(昭和55)年より認定医制度委員会とQ&A委員会に分かれた.集められた問題は,Q&A委員会にて整理・修正され,1979(昭和54)年1月(53巻1号)〜1982(昭和57)年12月(56巻12号)まで日本整形外科学会雑誌に連載された.

 連載終了後,これらを1冊の本としてまとめたいという希望が委員会にあり,1988(昭和63)年度より開始された認定医試験の教材として「整形外科卒後研修Q&A」は1985(昭和60)年に山内裕雄委員長のもと,初版が刊行された.初版発刊後38年が経過しているが,現在でも整形外科専門医を目指す若手医師の必読の書であるとともに,専門医取得後も知識の整理・確認を行うための教材として活用されている.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方<特別編>

Paper Millsがもたらす危機

著者: 堀内圭輔 ,   千葉一裕

ページ範囲:P.1268 - P.1272

 昨今話題となっている“Paper Mills”の問題はご存知でしょうか.普段あまり耳にされないかもしれませんが,出版界・学術界では大きな問題となっています1-4).“Paper Mills”を直訳すると「製紙工場」ですが,ここでは「利潤を目的に,論文を大量に捏造する組織」を意味します.日本語では「論文工場」と言ってもよいかもしれません.明るみには出ない組織ですので,全貌は解明されていないのが現状です.今回は過去3年間にわたり連載させていただいた「いまさら聞けない英語論文の書き方」の特別編として,Paper Millsの実態とその対処を,筆者の経験を交えつつご紹介します.日本の医師・研究者にとっても,護身のために必要な知識です.なお,“Paper Mills”に対する適当な日本語がないため,本稿では「論文工場」と表すことにします.また,論文工場で作成されたと疑われる論文は「偽造論文」と表記します.

臨床経験

更年期世代の女性を中心とした手・手指疾患に対するエクオールの可能性

著者: 下江隆司 ,   曽根勝真弓 ,   木戸勇介 ,   松山雄樹 ,   村田顕優 ,   山田宏

ページ範囲:P.1275 - P.1278

近年,女性の手指疾患に対するエクオールの効果が注目されてきている.今回,自験例についてその有効性を調査した.新規にエクオールを摂取した45〜60歳の26例を対象として,狭窄性腱鞘炎,絞扼性神経障害,手指の変形性関節症による症状の改善有無,また改善時期を調査した.手指の症状は61.5%,他の更年期症状は87.5%の症例で改善した.症状が改善した時期は,摂取開始から1〜2カ月で95.5%を占めていた.更年期世代の女性で比較的早期・軽症の手疾患に対してエクオールが有効な可能性が示唆された.

成人ばね指に対する手根管部ハイドロリリースの実際

著者: 高桑昌幸 ,   和泉俊平 ,   野原佑月 ,   菊入孝紘

ページ範囲:P.1279 - P.1283

われわれは,成人ばね指例に対して,A1 pulley部の症状にかかわらず手根管部のエコー観察経験からばね指罹患指の屈筋腱と正中神経がインピンジメント(腱が正中神経に当たる,腱と神経の癒着により腱が神経を牽引変形させる)や絞扼する症例で疼痛例が多いことを見出し,同部のハイドロリリースを施行して有効な除痛結果を得てきた.ほぼ生理的食塩水にても即時効果として罹患指の除痛を得,テーピング治療との併用にて改善していく症例が多い.本稿ではその実際を提示し,単なる腱鞘部へのステロイド薬注射のみならず,新たな観点からばね指の保存療法を推奨したい.

症例報告

大腿骨頚部骨折を誘因として発症したたこつぼ型心筋症が疑われる患者の周術期管理

著者: 喜多晃司 ,   海野宏至 ,   渡邉健斗 ,   佐藤昌良 ,   森本政司 ,   湏藤啓広

ページ範囲:P.1285 - P.1289

たこつぼ型心筋症(TCM)の発症にはストレスの関与が報告されている.今回大腿骨頚部骨折が誘因と考えられるTCMを発症した患者における周術期管理を経験した.TCMの治療は一般的に1カ月程度の安静で軽快することが多いが,突然死に移行する症例もあり,急性期管理が重要である.一方,大腿骨近位部骨折は手術までの待機期間が合併症と死亡率のリスク増加に関与すると報告されている.術前検査でTCMと診断された患者の周術期管理を行い,循環動態安定,疼痛コントロールに加えストレス緩和に重点を置くことで再発なく安全に手術を行うことが可能であった.

書評

AO法骨折治療Foot and Ankle—英語版Web付録付 フリーアクセス

著者: 田中康仁

ページ範囲:P.1274 - P.1274

 「こんな本が欲しかった」と考えるのは私だけではないと思います.AO Traumaによるエビデンスに基づいた治療体系は,骨折治療のスタンダードであることに異論のある方はあまりいないのではないでしょうか.足・足関節は外傷の好発部位であり,今回この部位に特化した教科書の日本語訳が出版されました.外傷を治療する整形外科医にとり,必携の書であると考えます.

 本書の最大の特徴は,各項が症例提示を基本として編集されていることです.各章は脛骨遠位部から始まり,果部,踵骨,距骨,中足部,中足骨,最後は足趾と種子骨まであり,各章でははじめにそれぞれの部位の骨折が概説され,その後,59例ものありとあらゆる骨折の実例が網羅されています.それぞれの症例では術前計画,手術室のセットアップ,手術法,ピットフォールと合併症,代替テクニック,術後管理とリハビリテーションについて,具体的に詳細に記載されています.

筋疾患の骨格筋画像アトラス フリーアクセス

著者: 大澤眞木子

ページ範囲:P.1284 - P.1284

 筋疾患のCT・MRIどう撮る,どう読む,どう生かす? その答えがちりばめられ思わず手に取り,眺め,引き込まれ,胸に抱えて歩きたくなる書である.筋画像検査の意義や役割を十分理解するのに役立つ.筋画像では,ベットサイド診察では十分に評価できない深部の筋群や頸部・体幹筋の評価をすることができる.日常診療に欠かせない待望の筋画像アトラスであり厳選された骨格筋CT・MRI画像を多数掲載し,健常骨格筋画像もイラスト付きで解説され,画像を見てどこにその筋肉があるかわかるようになる.難病からよくある疾病まで筋疾患の遺伝子異常を含む最新情報,分類,臨床特徴,筋組織,遺伝子異常,免疫性筋疾患における多様な抗体も豊富に記載され,さらに,類似疾患は鑑別点が挙げられており,筋疾患を学ぶ教科書としても最適である.

 目次は,第I編「総論」として第1章「診療に役立つ筋画像検査」,第2章「ルチン撮像法」,第3章「筋画像データーベースIBIC-NMD」,第II編「疾患各論」として第4章「後天性疾患」,第5章「遺伝性筋疾患」〔1.筋ジストロフィー,2.先天性ミオパチー,3.遠位型ミオパチー,4.ミトコンドリア病,5.代謝性ミオパチー(糖原病,脂質代謝異常症など),6.特殊なミオパチー〕,第6章「神経原性疾患」〔1.運動ニューロン病(左右差を持った特徴的な筋萎縮所見が診断の助けとなるポストポリオ症候群も含む),2.末梢神経疾患(Charcot-Marie-Tooth病),3.その他の神経原性疾患,4.首下がり症候群〕,第III編「骨格筋量定量法」として第7章「CT,MRIによる骨格筋量定量法」,第8章「神経筋疾患領域におけるMRIと臨床試験」からなる.

INFORMATION

第48回日本足の外科学会学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.1264 - P.1264

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1194 - P.1195

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1196 - P.1196

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1291 - P.1291

あとがき フリーアクセス

著者: 松山幸弘

ページ範囲:P.1294 - P.1294

 今号は腱板断裂の治療戦略をテーマに特集が組まれた.腱板断裂でも早期であれば一次修復が可能な症例もある.しかし多くの症例で時間が経過しており,一次修復が不可能な状況になっている.一次修復ができる症例はどのような症例で,再断裂をいかに防ぐか.一次修復が不可能な症例はどのように再建するのか.術後再断裂率を低下させるために,骨髄刺激法(bone marrow stimulation)やポリグリコール酸(poly-glycolic acid:PGA)シートを自家由来の骨髄間葉系幹細胞とともに棘下筋欠損部に充填することも行われている.さらに一次修復が困難と判断した症例に対するpartial repair法や,大腿筋膜グラフト,棘下筋回転移行術,また小胸筋移行術などについても,肩関節治療のスペシャリストがそのポイントをわかりやすく解説してくれている.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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