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特集 外傷性頚部症候群—診療の最前線
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著者: 遠藤健司1
所属機関: 1東京医科大学整形外科学分野
ページ範囲:P.1301 - P.1301
頚髄は脊髄の中で最も脳に近いため,前庭神経核,脳幹網様体,三叉神経脊髄路核など脳幹からの影響を最も受けやすい部位といえます.その中でも頚部伸筋群は,頭部の姿勢保持のため頚髄から脳幹にかけて多くのシナプスが存在するため,頚部外傷で頚部伸筋群に刺激を受けると,従来の脊髄・神経根の圧迫を中心とした神経症候学では評価できない自律神経刺激症状を含めた多様な症状を呈することがあります.小児にみられる原始姿勢反射である緊張性頚反射(tonic neck reflex)も,生後6カ月から11カ月に認められ,頚髄と前庭神経を通じて発生します.むち打ち損傷を契機として発症した慢性頚部痛は多様で,事故被害者である場合はさらに事故による心因性反応,金銭的補償の問題も発生します.それ以外にも,神経症状,MRIなどの画像診断では説明できない,ファシア由来の筋膜性疼痛,脳脊髄液減少症による疼痛など,疼痛の発症機序は不明な点が多くあります.
近年,慢性疼痛に関する医学が進歩したため,炎症を伴った組織損傷と別な機序で発生する疼痛が存在することがわかりました.特に外傷を契機とした疼痛感作による慢性疼痛は,組織損傷から乖離した疼痛であります.今後,慢性疼痛をどのように評価していくかは,賠償医学という観点から法曹界の協力を得ながら検討する必要はあります.
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