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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科58巻12号

2023年12月発行

雑誌目次

特集 がん時代の整形外科必携! 骨転移診療アップデート

緒言 フリーアクセス

著者: 河野博隆

ページ範囲:P.1411 - P.1411

 骨転移と聞くと身構えてしまう整形外科医は多いと思います.これまで長きに渡り整形外科医にとって,「がん」は専門家が対応する特殊領域でした.日本では,医療の発展によりがん以外の要因での死亡が減り,男性の3人に2人以上が,女性の2人に1人以上が生涯で一度はがんに罹患するがん時代を迎えました.がん患者数が増加しているばかりでなく,がん治療の進歩に伴って,がんを持ったまま生活する期間が大幅に延長しています.多くのがんで骨転移が発生し,骨転移を持ったまま生活している方も激増しているのです.

 骨転移は疼痛の原因になるばかりでなく,病的骨折や脊髄麻痺が生じると移動が困難になり,日常生活は大きく制限されます.がんが影響して移動機能に障害がある状態は「がんロコモ」と定義され,がん患者の生活だけでなくがん治療の継続にも大きな影響を及ぼすことが明らかになりつつあります.骨転移は,このがんロコモの大きなテーマの1つです.

骨転移治療総論

骨転移診療で整形外科医に何が求められているか

著者: 森岡秀夫

ページ範囲:P.1413 - P.1418

がん時代に入り,これまでがんとかかわりが少なかった診療科もがん診療に積極的に関与している.整形外科においても2018年にがんロコモの概念が提唱され,がんに関連する運動器の諸問題への取り組みが積極的に開始され,このようなことを包摂した新たな分野が腫瘍整形外科学(onco-orthopaedics)である.骨転移診療は,以前からある整形外科腫瘍学(orthopaedic oncology)と新しい分野である腫瘍整形外科学との共通の領域である.骨転移の患者数の多さから考え,骨という臓器を熟知したすべての整形外科医に,この分野での診療が国民から求められている.

骨転移診療ガイドライン改訂のトピックス

著者: 篠田裕介

ページ範囲:P.1419 - P.1422

骨転移診療ガイドライン第2版では,Clinical Question(CQ)が第1版の26項目から41項目に大幅に増加した.整形外科治療の重要性が認知されたこともあり,整形外科作成委員は3人から21人(協力委員を含む)に,整形外科治療に関わるCQも3項目から10項目以上とかなり充実した.さらに,この7年間で新規の薬物療法,放射線治療に関するエビデンスなども蓄積されており,整形外科医が骨転移診療に関わる際には,ぜひ一度読んでおきたい内容が詰まっている.本稿では,第2版の改訂内容のトピックスと,整形外科医が知っておくべきCQについて簡単に内容を紹介する.

整形外科医のための骨転移診療概論

著者: 髙木辰哉

ページ範囲:P.1423 - P.1429

整形外科医が骨転移診療に貢献できる部分は大きい.現代のがん診療では,通院可能が求められ,診療の継続,介護負担の減少などからも,がん患者が動けることが重要になる.がん診療医やメディカルスタッフと連携し,基本的な知識を持って少しずつでも経験を積んでいただくことが求められる.骨転移を含むがんの運動器診療,骨転移と向き合うスタンスについて,骨転移診療の進歩と現状から,診療における基本的な考え方や指標,原発不明への対処,職種・診療科横断的な診療について記す.この特集企画から骨転移診療に目を向けていただく整形外科医が増えることを祈っている.

骨転移におけるロコモティブシンドローム

著者: 中田英二 ,   堅山佳美 ,   明﨑禎輝 ,   濱田全紀 ,   藤原智洋 ,   国定俊之 ,   尾﨑敏文

ページ範囲:P.1431 - P.1438

がんは高齢者に多いため,ロコモティブシンドロームが発生しやすい.がんの切除を行う患者の約9割は,ロコモを合併している.したがって,がん患者では,適切ながんロコモのスクリーニングが重要である.また,最近,がん治療は外来に移行しつつあり,がん患者が日常生活動作を維持することが求められ,がんロコモ予防に対する社会のニーズが増えている.したがって,各施設において,診療科横断的にがんロコモ予防に取り組む体制を構築することが重要である.

骨転移手術各論

脊椎転移手術のTips & Pitfalls

著者: 古矢丈雄 ,   志賀康浩 ,   白谷悠貴 ,   俊徳保 ,   大山秀平 ,   大鳥精司

ページ範囲:P.1439 - P.1446

がんの骨転移は脊椎に好発する.脊椎転移は病的骨折や脊柱管内への浸潤により局所痛,脊柱の不安定性,神経障害を引き起こす.保存療法抵抗性の疼痛,脊椎不安定性を伴う病態,進行性の神経障害は脊椎手術の適応となる.手術は姑息的手術と根治術に大別され,個々の症例によって術式が検討される.手術の適応,術式選択においては,原発科や関連診療科との連携をとりながら,がん種,腫瘍の局在,不安定性の有無,神経症状,腫瘍学的予後,全身状態,患者の希望などを総合的に判断し,治療計画を立てる.

四肢病的骨折の手術法—骨接合ではなく置換術?

著者: 田中太晶

ページ範囲:P.1447 - P.1451

転移性骨腫瘍のマネジメントについては整形外科単独ではなく多職種専門家から構成されるmultidisciplinary teamによって介入すべきであるが,いったん病的骨折などを認めた場合には外科的治療を選択することが多い.下肢長管骨,特に大腿骨近位部転移性骨腫瘍に対しては髄内釘による骨接合および腫瘍切除を伴う大腿骨近位置換術があり,選択に際してはがん腫,予後,骨転移部位などを考慮し,インプラント生存期間>患者の生存期間となるよう留意することが大切である.大腿骨近位置換術は早期荷重,十分な耐用性を有することから有力な選択肢となり得る.

骨転移の病的骨折手術—通常の骨折手術とここが違う

著者: 籾井健太

ページ範囲:P.1453 - P.1460

骨転移治療はがん患者の長期生存に伴い重要性が高まっており,病的骨折の手術は患者の移動能力や生活の質を向上させる.手術では,がんの種類や進行度に合わせて適切な方法を選択する必要があり,インプラントや固定法の選択にも注意が必要である.また,患者の予後や全身の状態も考慮し,手術法や治療計画を適切に調整する必要がある.実際の症例を紹介し,手術や治療効果,いかにして患者の運動能力や生活の質向上につなげるかを提示する.骨転移の病的骨折手術は,がん治療の一環として重要な要素を占める1つである.

病的骨折手術における骨セメント使用の意義

著者: 野田知之 ,   中田英二 ,   尾﨑敏文

ページ範囲:P.1461 - P.1465

病的骨折に対し,骨折部を安定化させる目的で内固定に骨セメントを併用することで,内固定単独に比べ,術後早期の痛みの改善,早期機能回復が得られる可能性がある.一方,欠点として,セメント漏出による痛みと神経損傷の可能性,手術時間延長,侵襲の増大がある.したがって,骨セメントを併用する場合,その扱いに習熟しておくことが好ましい.

骨転移集学的治療各論

骨転移画像診断の注意点

著者: 勝俣恵 ,   高田晃一 ,   山本麻子

ページ範囲:P.1467 - P.1473

骨転移の画像診断において存在/広がりの評価に最も有用なモダリティは基本的にMRIであるが,臨床現場においてより撮影頻度が高いモダリティは一般的にCTである.CTで見逃してはいけない骨転移について今一度確認されたい.骨転移と誤りやすい良性病変について注意すべきポイントや鑑別に有用となる検査方法,骨転移画像診断のツールとして近年実用化が進んでいるDWIBSについても紹介する.

脊椎転移に対する新たな放射線治療—SBRTと通常照射はここが違う

著者: 伊藤慶

ページ範囲:P.1475 - P.1480

脊椎転移のうち,有痛性病変,転移性脊髄圧迫などを対象に従来の緩和照射(ここでは通常照射と呼ぶ)は行われてきた.これについては,確かな有効性と安全性が高いエビデンスレベルで証明されている.一方,近年では放射線治療の技術革新に伴い,定位放射線治療(SBRT)が脊椎転移に対しても用いられるようになった.極めて高い局所制御割合を示すSBRTが,患者にどのような恩恵をもたらすのか.本稿では,適応病態ごとにSBRTと通常照射の成績の違いを比較し,臨床現場におけるSBRTの活用法を提案する.

整形外科医が骨修飾薬を活用するために知っておきたいこと

著者: 原仁美

ページ範囲:P.1481 - P.1486

骨修飾薬(BMA)はがんの骨転移による骨関連事象(SRE)を抑制する効果がある.日本では,主にゾレドロン酸とデノスマブが使用されており,近年はデノスマブの使用割合が高い.骨転移患者数の多いがん種に対するBMAの有効性,BMAの有害事象,BMAの投与間隔の延長と投与期間についてまとめた.今後は未解決事項が明らかにされ,がん治療の変化に応じてBMAの使い方も進化していく可能性がある.

—骨転移でも大活躍—画像下治療(IVR)の役割とは

著者: 山本真由 ,   和田武 ,   近藤浩史

ページ範囲:P.1487 - P.1491

本邦において,ラジオ波焼灼療法(RFA)は肝細胞癌に対して主に行われてきたが,2021年12月24日にCool-tipTM RFAシステムEシリーズ(Covidien)を用いたRFAの適応拡大がなされた.われわれは,当院の整形外科と連携して2022年から治療を開始し,初期経験としては良好な治療成績を得ている.本稿では,骨軟部領域におけるRFAの保険適用および,RFAの役割について議論する.

視座

整形外科Common Diseaseとしての関節リウマチ

著者: 高橋伸典

ページ範囲:P.1407 - P.1407

 私が医者になった1997年頃は関節リウマチに対する薬物治療が,今思えばずいぶんと貧弱な時代でした.関節リウマチは関節炎と関節破壊がエンドポイントであり,関節を主座とする疾患ですので,今も昔も診療の主体は整形外科になることが多いです.整形外科医になって1年目の私が見様見真似で投薬していたのを思い出しますし,当時多くの整形外科医は関節リウマチをcommon diseaseととらえて同様にしていたと思います.その後メトトレキサートと分子標的薬という,整形外科医にとってはやや敷居の高い薬剤が全盛となって現在に至りますが,その間に関節リウマチの薬物治療はリウマチ専門医が行うべきという流れができてしまいました.次々と新しい薬剤が登場して,新しい薬剤は旧い薬剤よりベターであり,最終的には薬物治療がすべてを解決してくれるという幻想の中でこの流れが生まれたと思います.

 しかしここまでに14剤と多くの分子標的薬が登場しましたが,大筋において治療効果に差がないことが示されました.つまり,すべての薬剤を知らなくても関節リウマチ治療は成立するということになります.リウマチ専門医としてはやや寂しい気はしますが,メトトレキサートと1剤目の分子標的薬までの初期治療においては専門医を必要としないのが現在の関節リウマチ診療であるといえます.もし初期治療が効果不十分なら,またはそもそも診断が難しい症例は,リウマチ専門医が生きる場所になります.しかしこと初期治療に関していえば,今や関節リウマチは整形外科のcommon diseaseの1つとして再び戻って来たと感じています.

論述

機械学習モデルを用いた手根管開放術後の電気生理学的重症度とCTSI-JSSHの変化予測の試み

著者: 金谷貴子 ,   高瀬史明 ,   乾淳幸

ページ範囲:P.1493 - P.1497

背景:機械学習(ML)にて手根管症候群術後変化を予測した.対象と方法:術前の年齢,性別,運動神経終末潜時,感覚神経伝導速度,CTSI(carpal tunnel syndrome instrument)の日本手外科学会版を説明変数として,術後1年の電気生理学的重症度(Stage 1〜5),CTSI変化量を予測した.結果:二値分類モデル(Stage 1〜3 or 4〜5への変化予測)での正答率/AUCはLogistic回帰;0.81/0.84,Random forest;0.83/0.86,LightGBM;0.87/0.86であり,CTSI変化量予測回帰モデルでR2=0.68であった.電気生理学的重症度予測モデルでR2=0.24であった.まとめ:ML応用の可能性を示した.

Lecture

Projection Based AR技術の手術への応用

著者: 赤石渉

ページ範囲:P.1499 - P.1503

Projection Based ARとは

 コンピュータシミュレーションはハードウェア,ソフトウェア,インターフェイス,ネットワークの発展に伴い,そのシステム形態によりvirtual reality(VR:仮想現実),augmented reality(AR:拡張現実),mixed reality(MR:複合現実),substitutional reality(SR:代替現実)といったさまざまな呼称が出現しており,現在はこれらを全て含めたものとしてextended reality(XR)と呼ばれ,定着しつつある.

 ARは,「現実世界にデジタル情報を付加することで現実世界を拡張認知可能とする」技術であると定義されている.大きく分けて,タブレット,スマートフォンなど,端末側にカメラとディスプレイが搭載され,カメラで撮影した現実世界の画像に,デジタル画像を液晶画面に重ね合わせ表示させるimage overlay型AR(ポケモンGOなど)と,プロジェクターを用いて体表などの現実世界側での投影面をインターフェイスとするprojection based ARいわゆるプロジェクションマッピングが知られる.

境界領域/知っておきたい

今押さえておきたいPICS(集中治療後症候群)

著者: 伊藤惇亮 ,   川上途行

ページ範囲:P.1504 - P.1508

はじめに

 集中治療室(intensive care unit:ICU)における急性期治療は集中治療科や救急救命科,麻酔科が担うことが一般的となっている.ICU退室後については,各診療科が主治医として診療を引き継ぐことが多い.整形外科領域では外傷患者がそれにあたる.本稿では,重症患者が急性期治療後も長期にわたって抱え得る集中治療後症候群(post intensive care syndrome:PICS)について,リハビリテーションの視点を交えつつ概説する.

症例報告

21G針で摘出した指尖部異物の1例

著者: 田中利和

ページ範囲:P.1509 - P.1511

59歳男性.1年前に受傷した右示指に長径5mm程度の針状の異物がみられた.局所麻酔下に21G針内に異物を回収することが可能であった.術後針穴のみで縫合処置は必要なかった.この方法は指尖部異物摘出の1方法となり得る.

書評

AO法骨折治療Foot and Ankle—英語版Web付録付 フリーアクセス

著者: 山口智志

ページ範囲:P.1492 - P.1492

 一読した感想は,「今すぐ買うべし!」である.本書は,待望の足部・足関節骨折の手術治療に特化したテキストである.これから骨折治療を学ぶ後期研修医から指導医,足の外科の診療,研究に携わるエキスパートなど,経験によらずあらゆる整形外科医,外傷医にとって必携の書と断言できる.

 足部・足関節骨折の手術は専門性が高く,治療法を学ぶ上でいくつかの問題がある.まず,足部・足関節は多くの関節から成る複合体である.例えば,足関節骨折とリスフラン関節骨折ではまったく異なる評価,治療戦略が必要である.しかし,ベテランの医師であっても全ての部位の骨折治療を経験することは容易ではない.経験がない骨折では,アプローチすらわからないことも少なくない.加えて,足部・足関節骨折の手術は決して簡単ではない.足関節果部骨折は,骨折手術の入門編として後期研修医が執刀することも多い.しかし,十分な整復が得られず短期間で変形性関節症に至る症例も少なからず存在する.

—入職1年目から現場で活かせる!—こころが動く医療コミュニケーション読本 フリーアクセス

著者: 竹林崇

ページ範囲:P.1498 - P.1498

 医療において,コミュニケーションは基盤となる知識および技術である.どれだけ確実性の高い医療技術があったとしても,それを施術してその後のサポートを行う医療従事者に対する納得と信頼を得られなければ,対象者はそれらの技術は選ばないかもしれない.また仮に選んだとしても,医療従事者に対する不信は,対象者の心身の予後を悪化させる可能性もある.これらの観点から,医療者がコミュニケーションを学ぶことは,エビデンスや知識・技術を学ぶことと同様,非常に重要なものであると考えている.

 しかしながら,医療者におけるコミュニケーションについては,養成校などでも特化した授業が少なく,また経験的に実施してきた先人も多いため,エビデンスを基盤としたコミュニケーション技術に対する教育はいまだに確立されていない.一方,情報化の時代がさらに加速する昨今,医療事故やミスに関する報道が一気に加熱することで医療に対する対象者の不信感が過去に比べて膨らんだという社会的背景もあり,コミュニケーションや接遇に対する必要性がより一層重視されている.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1408 - P.1409

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1410 - P.1410

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1513 - P.1513

あとがき フリーアクセス

著者: 酒井昭典

ページ範囲:P.1516 - P.1516

 10月初旬までの暑さがうそのように涼しさを超えて寒くなってきました.しのぎやすい秋の季節が思いのほか短く,駆け足のように冬がやって来そうな勢いです.夏が長くなったように感じます.地球温暖化・気候変動の時代の中で,日本らしい「四季」が失われて「二季」になりつつあるのでしょうか.四季折々の自然の変化を味わう楽しみが減ってしまうのではないかと心配になります.

 今月号の特集「がん時代の整形外科必携! 骨転移診療アップデート」は,河野博隆先生にご企画いただきました.がん患者の原発巣は各診療科でコントロールされ,多くの部位で生命予後は改善しています.がん治療を受けながら仕事や生活との両立支援を求める患者が増えています.がんの骨転移による病的骨折や脊髄麻痺など運動器の障害は患者のQOLを大きく損ないます.そこで,本特集では,整形外科医の果たすべき役割や骨転移診療について概説していただくとともに,がんロコモの予防への取り組み,がんの脊椎転移と四肢骨転移に対する手術法の考え方や工夫,骨転移画像診断の注意点と新しい放射線治療,骨修飾薬の活用,2022年から保険適用となった骨軟部領域へのRFAについて論じていただきました.最新の医療技術に関する情報を沢山盛り込んでいただき,読み応えのある内容となっています.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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