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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科58巻2号

2023年02月発行

雑誌目次

特集 外反母趾診療ガイドライン改訂 外反母趾治療のトレンドを知る

緒言 フリーアクセス

著者: 渡邉耕太

ページ範囲:P.127 - P.127

 外反母趾は足部疾患の中で,最も多い治療対象となる病態の1つである.変形は母趾が外側を向くという,見た目にもわかりやすい特徴があり,患者さんの間でもこの病名はよく浸透している.しかし,病態は複雑で症状は多彩である.痛みの部位はバニオンのほか,足底の胼胝や第2趾の背側,趾間などと症例によって異なる.手術治療は現在200種類以上あるといわれているが,このことはゴールデンスタンダードな方法がないという一面も示している.手術適応は保存治療の無効なものとされているので,保存治療はほぼすべての患者に行われる.しかし,どのような病態にどのような治療が最もよいのかや,保存治療の限界などはいまだ不明である.

 「外反母趾診療ガイドライン2022(改訂第3版)」が2022年6月に刊行された.作成のために第2版以降の2013〜2018年末の文献を検索し,さらに過去のガイドラインやハンドリサーチによる文献を加えて分析評価した.ガイドライン内では臨床的重要課題をclinical question(CQ)として設定した.これは患者にとって何が(どんな介入が)最もよいアウトカムをもたらすのかという視点から作成された疑問文である.このような視点により,第3版ではCQは前版から大きく変更された.診療ガイドラインは,医療行為について現在のエビデンスを評価し,患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示するものである.

外反母趾診療の歴史

著者: 奥田龍三

ページ範囲:P.129 - P.135

1950年代の病理解剖学的研究により外反母趾における母趾中足趾節(母趾MTP)関節とその周辺組織の形態や組織的異常が明らかとなった.同じ頃,X線学的研究により外反母趾角や第1-第2中足骨間角が考案され,変形の病態や程度が定量的に評価できるようになった.これらの基礎的研究成果は,その後の外反母趾診療の発展に多大な貢献をした.1950年以前の手術療法の多くは母趾MTP関節部の処置によるものであったが,その後,第1中足骨骨切りと遠位軟部組織処置を組み合わせた術式が次々と開発され,今日では骨切り部位により遠位,骨幹および近位に分類され,外反母趾矯正術の主流となっている.

外反母趾の疫学,病態,診断

著者: 窪田誠

ページ範囲:P.137 - P.143

外反母趾の疫学,病態,診断について概説した.外反母趾は非常に有病率が高く,65歳以上では,全体で30〜40%,女性では35〜50%,男性でも20%程度とされている.近年,外反母趾に関する3次元的な病態の解明が進み,第1足根中足関節でのhypermobility,第1中足骨頭の回旋,種子骨の外側偏位などが特に注目されている.評価法は,本邦ではJSSFスケール,SAFE-Qが広く用いられている.臨床の現場では,これらの基本的事項について外反母趾患者に正しく伝える必要がある.

保存療法

著者: 田中博史

ページ範囲:P.145 - P.149

外反母趾に対する保存療法は一般的には最初に選択されることが多い.具体的には靴指導,運動療法,装具療法,薬物療法などが行われている.「外反母趾診療ガイドライン2022(改訂第3版)」では運動療法と装具療法の有用性についてCQを設定し,検討した.軽度から中等度の外反母趾に対して,運動療法や装具療法単独での変形矯正効果や除痛効果を認める質の高いエビデンスは十分ではなく,推奨文として「軽度から中等度の外反母趾に対して運動療法を行うことを弱く推奨する」「軽度から中等度の外反母趾に対して装具療法を行うことを弱く推奨する」とした.

遠位骨切り術

著者: 渡邉耕太

ページ範囲:P.151 - P.155

第1中足骨遠位骨切り術は,外反母趾に対する手術治療の主要な術式である.多くの術式が報告されているが,それらの特徴を踏まえた比較検討の情報は不足している.今回の外反母趾診療ガイドライン改訂では,CQを「遠位骨切り術を行う場合,どのような術式が推奨されるか」と定め,CQの小項目として3つ設定した.遠位骨切り術式間の比較,経皮的手術の検討,内固定法の検討を行い,それぞれに対し推奨文と推奨度,エビデンスの強さを決定した.これらの推奨文が適応される対象は軽度から中等度の外反母趾であり,重度例についてはさらなる検討とエビデンスの蓄積が必要である.

近位骨切り術

著者: 西山隆之

ページ範囲:P.157 - P.160

第1中足骨近位骨切り術は外反母趾に対する代表的な術式の1つである.骨切りのデザインは多岐にわたるが,それらの比較検討の情報は少ない.今回の「外反母趾診療ガイドライン」改訂では,CQを「近位骨切り術を行う場合,どのような術式が推奨されるか」と定めた.近位骨切り術式間の比較検討を行い,それに対しての推奨文と推奨度,エビデンスの強さを決定した.

骨幹部骨切り術

著者: 平尾眞

ページ範囲:P.161 - P.166

「外反母趾診療ガイドライン2022(改訂第3版)」では,scarf骨切り術,水平骨切り術,Ludloff骨切り術,extended-chevron骨切り術,第1中足骨回転骨切り術に着目して,バックグラウンドクエスチョン(BQ)としては,適応・術式・合併症について検討し,クリニカルクエスチョン(CQ)としては,「骨幹部骨切り術を行う場合,どのような術式が推奨されるか」について検討した.「外反母趾変形に対してscarf骨切り術と同様にextended-chevron骨切り術,Ludloff骨切り術を行うことを弱く推奨する」と結論づけた.

第1中足骨の骨切り部位の違いによる比較

著者: 福士純一

ページ範囲:P.167 - P.172

①軽度から中等度,②中等度から重度,の外反母趾において,異なる骨切り部位での臨床成績を比較した報告について,システマティックレビューを行った.軽度から中等度の外反母趾における骨切り術の報告は10編で,遠位,骨幹部,近位,いずれの部位での骨切り術も同等の成績であった.中等度から重度の外反母趾での報告は4編で,対象患者の中心は重度に近い中等度の外反母趾ではあるが,いずれの部位での骨切り術も同等の成績であった.外反母趾角(HV角)が40°を大きく超えるような重度の変形に対して,今後の比較研究が望まれる.

第1中足骨骨切り術以外の術式

著者: 垣花昌隆

ページ範囲:P.173 - P.179

第1中足骨骨切り術以外の術式のうち,母趾MTP関節固定術は,重度の外反母趾に適応がある.第1TMT関節固定術はLapidus法とも呼ばれるが変法が多数ある.中等度から重度の外反母趾で特に第1TMT関節の不安定性(hypermobility)が存在する症例によい適応がある.遠位軟部組織手術は,近年単独で行われることはほとんどなく,中足骨骨切り術やTMT関節固定術に併用して行われる.母趾MTP関節の軟部組織の拘縮解除や弛緩した組織に緊張を与えるために行われる.

外反母趾に合併する病態に対する術式

著者: 野澤大輔

ページ範囲:P.181 - P.186

「外反母趾診療ガイドライン2022(改訂第3版)」では,外反母趾に合併する病態として第2趾MTP関節脱臼,ハンマー趾,内反小趾を取り上げ,background question(BQ)を作成した.いずれの病態も保存療法の効果の少ない場合に手術が適応となる.MTP関節脱臼の主原因は,蹠側板損傷であり,関節形成と中足骨短縮骨切りを併用する.ハンマー趾は,PIP関節拘縮の有無により腱移行と関節手術を選択する.内反小趾は中足骨骨切り術が行われる.

論述

日本整形外科学会股関節疾患評価質問票メンタル項目18番の問題点

著者: 平尾利行 ,   老沼和弘 ,   三浦陽子 ,   白圡英明 ,   妹尾賢和 ,   齋藤彰誉

ページ範囲:P.187 - P.189

背景:人工股関節全置換術(THA)術後1年の日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(JHEQ)メンタル項目で低い点数を選択する原因を明らかにすること.対象と方法:当院にて2015年3月〜2019年12月にTHAを施行し,術後1年JHEQの疼痛および機能が満点であった512例を対象とした.術後1年JHEQメンタル項目である14〜20番の点数を比較した.結果:18番はすべての項目に対し有意に低値を示した.まとめ:18番は解釈によっては状態が良くても低い点数を選択してしまう可能性がある.

調査報告

少年野球選手の肘関節痛に関わる危険因子

著者: 小関弘展 ,   梶山史郎 ,   西山裕太 ,   水上諭 ,   砂川伸也 ,   森川明典 ,   北村英利 ,   山口和博

ページ範囲:P.191 - P.197

目的:少年野球検診データより肘関節痛に関連する因子を検討した.対象と方法:少年野球選手216例を対象とし,肘痛なし群(98例)と肘痛あり群(118例)に分け,各項目を分析した.結果:肘関節痛(現在・過去)の有訴率は54.6%であった.肘関節痛に関与する因子として,身長,体重,野球歴,複数ポジションの兼任が抽出され,horizontal flexion testとmoving valgus stress testの陽性率が高かった.まとめ:少年野球選手の肘痛に関連する危険因子を解析し,検診において陽性率が高い診察手技を示した.

境界領域/知っておきたい

周術期の急変・心肺蘇生法の最新

著者: 栗田昭英

ページ範囲:P.198 - P.202

はじめに

 整形外科領域における周術期の急変において,最も関心が高い疾患は急性肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)であろう.本稿では,実際の症例を提示しながらPTEの急性期の対処法について解説していく.

臨床経験

特発性脊髄硬膜外血腫の治療方針の検討

著者: 渡邉健斗 ,   喜多晃司 ,   海野宏至 ,   佐藤昌良 ,   湏藤啓広

ページ範囲:P.203 - P.209

背景:特発性脊髄硬膜外血腫は稀な疾患であり,治療方針は定まったものがない.対象:本邦での特発性脊髄硬膜外血腫の報告40編118症例を集積し,自験例2例も加えた120症例を検討した.方法:保存加療群と手術加療群に分け,年齢,性別,併存疾患,血腫の高位,血腫の広がり,膀胱直腸障害の有無,Frankel分類を検討した.結果:血腫の高位は頚椎高位が有意に多く,膀胱直腸障害は手術加療群で有意に多く,その他は有意差を認めなかった.まとめ:初診時にFrankel分類B以下,膀胱直腸障害を認める症例は手術加療となる可能性が高い.

骨粗鬆症と血清亜鉛値の関連

著者: 高桑昌幸 ,   富田智貴 ,   岩本潤

ページ範囲:P.211 - P.217

骨粗鬆症診療の中で亜鉛欠乏症の存在が提起されている.われわれは当院を受診し,血清亜鉛値を測定し得た女性39名に対し,亜鉛欠乏と骨密度などとの相関を調査した.その結果,血清亜鉛値と大腿骨骨密度および血清カルシウム値とに有意な相関を認めた.高齢者ではカルシウム摂取不足が注目されることが多いが,骨粗鬆症診療においては亜鉛についても留意すべきである.

症例報告

踵骨前方突起偽関節に対し鏡視下骨片摘出術を施行した1例

著者: 𠮷本有佑 ,   松原秀憲 ,   引地俊文 ,   下川寛右 ,   土屋弘行

ページ範囲:P.219 - P.223

踵骨前方突起骨折はしばしば見逃され,症候性の偽関節を生じる.小骨片では摘出術の適応があるが,鏡視下で摘出を行った報告は少ない.今回,踵骨前方突起偽関節骨片を鏡視下で摘出した.術後1年で走行時の疼痛はなく,良好な成績を得た.鏡視下骨片摘出術は詳細な観察が可能かつ,低侵襲で踵骨前方突起偽関節の治療に有用な可能性がある.

書評

問題解決型救急初期診療 第3版 フリーアクセス

著者: 増井伸高

ページ範囲:P.190 - P.190

◆何を指標に選ぶか?

 2020年代以降は救急のマニュアル本が非常に充実しています.研修医は数十冊以上の中から何を買うか迷ってしまうでしょう.上級医だってオススメ本を知る必要があります.数あるマニュアル本から皆さんは何を指標に選んでいますか?

 「先輩研修医に聞く」「書店で読み比べる」「Amazonの★の数」いずれも悪くありません.しかし,私のオススメは「増刷数の多いものを選ぶ」という戦略です.

アナトミー・トレイン[Web動画付] 第4版—徒手運動療法のための筋膜経線 フリーアクセス

著者: 園部俊晴

ページ範囲:P.225 - P.225

 近年,「筋膜(myofascia)」や「膜(fascia)」という用語は,医療だけでなく,一般にも認知され,コンビニに並ぶ雑誌にすら「筋膜」という言葉を目にするようになりました.そして,これまでわからなかった筋膜や膜に由来する病態が徐々に明らかになり,整形外科医を含め,運動器にかかわる医療者が,筋膜や膜の臨床的意義を認識するようになってきました.本書『アナトミー・トレイン』は,その先駆け的存在であったと,多くの医療者が認めるところです.

 臨床の世界は,どれだけ経験を重ねても,学べば学ぶほど奥が深く,発見の連続であるといえます.筋膜や膜が関与する病態については,最近になってわかってきたことが多く,その顕著な例といえるでしょう.これまで,腰部の障害や病態が原因と思われていた下肢の痺れや痛みも,筋膜へのアプローチによって改善することを,臨床では多く経験します.つまり,実は筋膜の病態であったと確認できることが多くあるのです.その他,筋や腱,靱帯,滑膜,脂肪体が原因と思われた病態が,実は筋膜や膜の病態であることも珍しくありません.こうした発見は,本書に書かれている身体の膜の構造と機能を理解することでひもとけることでしょう.

グラント解剖学図譜 第8版 フリーアクセス

著者: 荒川高光

ページ範囲:P.227 - P.227

 解剖学を学ぶための書籍には,教科書的な書籍とともに図譜の書籍(いわゆるアトラス,実物写真などを含む)が存在する.解剖学をしっかり学びたい人にとっては,1冊で全てを網羅してほしいというのが本音であろうが,人体のしくみを1冊に収めるとなるとその書籍のボリュームは手に取れる常識的なサイズではなくなってしまう(古くなるが,第38版の“Gray's Anatomy”のボリュームを見てほしい).

 解剖学の図譜には手書きのイラストが多く,写真だけで構成されているものは少ない.写真で伝える解剖学的情報は説得力が大であることは言うまでもない.しかし,実物標本の写真化には,標本の作製に関する倫理的問題があるほか,三次元で存在する実体を写真にする際に,どうしても見せられない部分が出てくる.手書きの図譜は,読者の理解を助けるために写真に写らないところを表したり,着色したり,許される範囲でデフォルメすることが可能である.その反面,手書きの図譜で問題となるのは「実物との違い」である.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.124 - P.125

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.126 - P.126

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.229 - P.229

あとがき フリーアクセス

著者: 土屋弘行

ページ範囲:P.232 - P.232

 2022年を振り返りますと,日本および世界でいろいろなことが起こりました.大きな出来事と言えば,ロシアによるウクライナ侵攻,安倍晋三元首相の暗殺事件,約32年ぶりの円安,冬季オリンピックで過去最多の18個のメダル獲得,サッカーW杯で日本がドイツとスペインに勝利,でしょうか.また,コロナがいまだ収まらずにいますし,中国による尖閣諸島周辺での領海侵入と北朝鮮による弾道ミサイル発射が止まりません.日本の安全保障や持続的な経済発展のために,是非とも日本政府には頑張って欲しいものです.自らの努力も必要ですが,2023年が素晴らしい年になるように切望します.

 一方で,整形外科の基礎研究と診療は絶え間なく進歩を続けています.本誌を毎号購読していただいている皆様におかれましては,それを実感していただいているのでないでしょうか.ロボット支援手術の普及,関節リウマチ・骨粗鬆症・慢性疼痛に対する薬物療法の進歩,がんロコモ,骨軟部感染症に対する抗菌薬による持続灌流療法,抗菌インプラント,種々のガイドラインの改訂など,枚挙に暇がありません.学会活動,教育研修会,本誌の購読などを通じて,整形外科のアップデートを図っていただければと思います.整形外科では手術療法に目が向きがちですが,本誌では,診断や薬物療法をはじめとする保存療法にも力を入れていきたいと思います.加えて周辺領域におけるトピックスの掲載も試みておりますので是非とも知識を増やし,診療の一助にしていただければ幸いです.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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