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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科58巻4号

2023年04月発行

雑誌目次

特集 疲労骨折からアスリートを守る—今,おさえておきたい“RED-S”

緒言 フリーアクセス

著者: 金岡恒治

ページ範囲:P.348 - P.349

相対的エネルギー摂取不足(RED-S)が疲労骨折を招く

 疲労骨折はスポーツ整形外科の分野では頻発する課題で,多くの臨床家が対処してきていることと思います.通常の骨折と異なり,疲労骨折では手術加療を必要とすることは少なく,骨折部への負荷を減らし,骨折癒合に適した環境を提供しながら癒合するのを待つことになります.そのため,十分な休息をとることが困難なスポーツ環境にいる選手に対しては治療は難渋してしまいます.

 またせっかく骨癒合しても,受傷前と同様のスポーツ環境で活動を行うことで再発してしまうこともあります.そのため,われわれ整形外科医師もできるだけ,疲労骨折が生じた選手のスポーツ環境・生活環境を把握し,環境面での改善をアドバイスしていくことも求められてきます.

スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)予防のための栄養の役割

著者: 田口素子 ,   石津達野

ページ範囲:P.351 - P.357

エナジー・アベイラビリティー(EA)の低下した状態が継続することにより,疲労骨折をはじめさまざまな健康障害が引き起こされることが報告されている.その予防のためには毎日の食事から運動量に見合うエネルギーを摂取することに加え,カルシウム,ビタミンD,ビタミンKなどの十分な摂取が必要である.毎食の食事は主食,主菜,副菜,牛乳・乳製品,果物をそろえた「アスリートの食事の基本形」に近づけるように指導する.整形外科医と公認スポーツ栄養士の連携による選手に対する栄養教育が必須である.

RED-Sと婦人科的問題についての解説

著者: 能瀬さやか

ページ範囲:P.359 - P.366

Relative energy deficiency in sport(RED-S)は,身体の生理機能へ影響を与えるのみならず,疲労骨折のリスクを高めるため,パフォーマンスや障害予防の観点からその早期発見と予防が重要となる.女性アスリートでは,RED-Sの状態になると月経不順や無月経などの月経周期異常を認めるため,男性アスリートと比較すると早期にRED-Sの状態に気づきやすい.RED-Sに伴う無月経は,アスリートの骨粗鬆症を招き,競技生活を離れた後の生涯にわたる骨折のリスクを高めるため,10代からのRED-Sのスクリーニングと適切な医学的介入が求められる.

RED-Sと疲労骨折

著者: 鳥居俊

ページ範囲:P.367 - P.372

FATに含まれる問題は男子長距離走選手にも確認され,より包括的な概念として摂取エネルギー不足を起点に視床下部性の内分泌異常により骨量減少を含む多彩な症状・徴候を引き起こすRED-Sが提案された.最近の高校駅伝選手では20年前よりもBMIが低く疲労骨折既往割合は高く,大学生選手を含めて体重や食事の制限をする選手で疲労骨折が多かった.成人の選手では骨量・骨密度の漸減は少なく,低骨量・骨密度は発育途上でのエネルギー不足が原因と考えている.

アスリートにおける疲労骨折の遺伝的リスク

著者: 宮本(三上)恵里

ページ範囲:P.373 - P.378

アスリートにおける疲労骨折の遺伝的リスクに関する研究が,初めて報告されたのは2015年と比較的最近のことである.欧米と日本における2つの大規模なアスリートコホートにより,アスリートの疲労骨折リスクに関与する遺伝子多型が少しずつ明らかとなってきた.今後,ゲノムワイド関連解析などの網羅的な遺伝子解析の導入により,遺伝的背景がアスリートの疲労骨折に与える影響について理解が深まると考えられる.それと同時に,遺伝情報の活用が,実際にアスリートの疲労骨折予防に貢献するのか否か,検証を行っていく必要がある.

疲労骨折の性差

著者: 武井聖良

ページ範囲:P.379 - P.382

疲労骨折の発生頻度は,男性アスリートに比べて女性アスリートに多い.特にクロスカントリー女子選手,新体操女子選手,陸上女子選手で疲労骨折の発生率が高い.近年,男女問わずスポーツにおける相対的なエネルギー不足(relative energy deficiency in sport:RED-S)は,疲労骨折のリスクと考えられている.男性のホルモンと骨代謝の関係についてはさらなる研究が必要である.また,疲労骨折のリスク因子としての身体的特徴は男女で異なり,疲労骨折のリスク因子は男女で分けて検討する必要がある.

持久系競技の疲労骨折

著者: 宮本健史

ページ範囲:P.383 - P.387

疲労骨折は1回の大きな外傷で発症するものではなく,繰り返される骨へのマイクロダメージの蓄積により起こるとされていたことから,長距離ランナーに代表される持久系競技者は,最も発症頻度が高いと考えられていた.しかし,疲労骨折は持久系競技の選手以外にも多くみられる事実から,他の要因があると検討されるようになり,最近では本誌でも特集されているように,相対的な利用可能エネルギー不足が疲労骨折発生の最上流にあると考えられるようになっている.

審美系競技の疲労骨折

著者: 橋本立子 ,   半谷美夏

ページ範囲:P.389 - P.394

審美系競技とは,技の難易度とともに,演技の美しさや芸術性の高さが評価されるスポーツである.これらの競技は,競技年齢が比較的若年であり,トップレベルであるほど身体的に未成熟なうちから高強度の練習を行っていることから,オーバーユース障害の発生が多い.本施設を受診した審美系競技選手においても,足部の疲労骨折が多く,特に新体操選手では第2中足骨疲労骨折が多かった.また,これらの競技では脊椎の伸展可動域の広さが要求されるため,下位腰椎だけでなく,上位腰椎や下位胸椎での分離症の発症にも留意する.

ジュニア選手の疲労骨折

著者: 田原圭太郎

ページ範囲:P.395 - P.400

RED-S(relative energy deficiency in sport)におけるジュニア選手の疲労骨折は,陸上の中長距離などの持久系種目と新体操やフィギュアスケートなどの審美系種目に多くみられる.駅伝の全国大会で行った中学生・高校生・大学生への疲労骨折に関する調査より,男性では食事制限やウエイトコントロールなどが疲労骨折の発症と関連し,女性では中学生の時期の無月経がその後の疲労骨折の発症と有意に関連していた.男女とも発育期の利用可能エネルギー不足は,骨量の増加不足や精神面などへの影響も懸念される.将来的なRED-Sの予防の観点から,ジュニア選手への医学的な啓蒙を特に中学生の時期より選手,指導者,保護者などへ行っていく必要がある.

論述

単一施設での20年間の脊椎内視鏡下手術についての検討 フリーアクセス

著者: 矢渡健一 ,   𠮷田宗人 ,   野村和教 ,   中村陽介 ,   岡田基宏 ,   中山渕志 ,   岡田紗枝

ページ範囲:P.403 - P.410

目的:単一施設で行われた20年間の脊椎内視鏡下手術の変遷について調査した.方法:2001〜2020年に行われた脊椎内視鏡下手術6,721例を対象とし,5年ごとの時系列で4期に分け,症例数や患者年齢分布,主病名,複数椎間症例,手術時間,出血量,合併症率について調査した.結果:後期に行くほど症例数は増加し,年齢分布は高齢化した.また,腰部脊柱管狭窄症の割合と複数椎間症例数も増加し,合併症率は減少した.まとめ:脊椎内視鏡下手術は現在の超高齢社会においても有用な手技と思われた.

調査報告

福井県式乳児股関節脱臼検診「新生児期(出生時退院前)学会推奨項目スクリーニング+1カ月齢での超音波二次検診」のすすめ

著者: 村田淳

ページ範囲:P.411 - P.416

背景:福井県の乳児股関節脱臼検診は小児科・産科婦人科受託の個別乳児健診方式で,近年まで検診項目も開排制限判定のみ,要精検率1%未満で問題症例も多く,学会推奨項目を軸に再構築中である.対象と方法:2014〜2020年度の股関節脱臼検診要精検率を種々の統計により後方視的に分析した.当初1カ月乳児健診の充実を図ったが,現在は産科医療機関での出生時スクリーニング後に1カ月齢で二次検診を行う方式を核としている.結果と考察:要精検率は1%未満から3.5%に増加したが産科医療機関により0〜10%と施設差が大きかった.本法では個別健診方式でも一次検診の詳細な分析が可能である.

Lecture

骨軟部腫瘍で一般整形外科医がおさえておくべきポイント

著者: 筑紫聡

ページ範囲:P.417 - P.420

はじめに

 骨軟部腫瘍は整形外科の日常診療で遭遇する機会の多い疾患である.そのほとんどは良性ではあるが,1%程度に悪性が含まれており,悪性疾患は命に関わるためその扱いに注意が必要なことがある.本稿では骨軟部腫瘍の取り扱いで留意したい点について概説する.

頚部神経根症の症候学—寝違えから両手麻痺まで

著者: 田中靖久

ページ範囲:P.421 - P.430

はじめに

 頚部神経根症は幾多の脊椎疾患の中でも1,2位を争うほどに発生頻度が高いと思われる.神経根圧迫由来の項・肩甲部痛の患者を含めての推測である.日常診療で出合う機会の多い本疾患を正しく理解できれば,頚椎症由来の項・肩甲部痛(頚部痛)の謎を解くいとぐちになり,脊髄症や絞扼性末梢神経障害との鑑別能力が格段に向上する.本稿では,頚部痛から頚髄症に類似する両手麻痺まで頚部神経根症の多様な症候を述べる.

最新基礎科学/知っておきたい

腰痛のメカニズム—椎間関節性腰痛のメカニズム

著者: 鈴木秀典

ページ範囲:P.432 - P.436

はじめに

 1976年にMooneyら1)は椎間関節由来の腰痛の頻度が高いことを報告し,椎間関節ブロックの有効性についても報告した.この報告では「facet syndrome」という用語が用いられ,その後,疼痛源としての椎間関節が広く認識されるようになった.腰椎椎間関節性腰痛を理解するためには,まずその解剖を理解し,力学的な機能解剖についても熟知する必要がある.さらにはその神経支配を理解することで治療法の選択肢がみえてくる.

書評

《ジェネラリストBOOKS》高齢者診療の極意 フリーアクセス

著者: 松村真司

ページ範囲:P.401 - P.401

 「お前は日本人なのに,クロサワを観たことがないのか?」

 留学先の大学院の教室の片隅で,アジアの小国からやってきた友人に当時私が言われた言葉である.動画配信など,ない時代.レンタルビデオ屋から代表作を借り,週末ごとに観た.『用心棒』『七人の侍』『天国と地獄』.衝撃的な面白さであった.いや,面白いだけではない.「生きるとは」「人間とは」といった私たちの根源的な問いに向き合った作品.黒澤映画の偉大さを教えてくれたその友人に後日感謝の念を伝えると,彼は続けてこう言った.

末梢神経障害—解剖生理から診断,治療,リハビリテーションまで フリーアクセス

著者: 三苫博

ページ範囲:P.431 - P.431

 神田隆先生(山口大学神経・筋難病治療学講座特命教授)が編集された本書は,末梢神経障害を,病態生理学を踏まえて包括的に理解し,実践の診療の役に立てることができるという点で,この分野のマイルストーンとなる成書です.神田教授の構想に従い,全国のエキスパートの先生方が分担執筆されています.

 末梢神経疾患は,約1000万人の患者さんがいると推定され,日常高頻度で遭遇するcommon diseaseの一つです.common diseaseといえば,典型的な症状,明解な検査所見から,診断が比較的しやすいというイメージがあるかと思います.しかしながら,末梢神経障害は,診断,治療のアプローチが大変に難しい疾患です.神田教授は,「末梢神経障害は,AがあればBの診断,そして治療Cの実施という一直線の思考では対処できないためである」と,その特徴を喝破しています.

脳卒中の下肢装具 第4版—病態に対応した装具の選択法 フリーアクセス

著者: 大串幹

ページ範囲:P.437 - P.437

 医師として,装具処方を行うにあたっては,患者の状態に最も適していて,そして使い続けてもらえる装具の具体的イメージが浮かびあがってこなければならないと思っている.装具処方の経験がまだ浅い時は,可及的にbestをめざし,結局はbetterなところに落ち着つくのではあるが,先輩医師の処方をまねながら,装具の機能を知ること,患者の身体機能を評価すること,最も使用するシチュエーションに適しているかの検討などのプラクティスを繰り返し,経験値を増やしていくしかない.当時は,文献で数多くの装具があることは知っていても,実物を手に入れることは難しいので,金属支柱・ダブルクレンザックのSLBを基本として,自分なりに使いこなせるプラスチックAFOを1つか2つ持っていればよいとも先輩に諭された気がする.その後,新しい種類の装具を使う機会を一つひとつ得て,処方できる装具の種類が増えていったが,実のところそれが真にbetterな処方になっていたのかは常に疑問であった.

 著者代表の渡邉英夫先生は評者の大学時代の恩師であった.装具療法については,整形外科・リハビリテーション医学で丸々1コマ分の講義があり,歩行サイクルと絡めるなどかなり難しい内容であったと記憶している.しかし同時に,装具や日常の道具を患者の状態に合わせるためのたくさんの「工夫」をされており,装具や道具はそれら単独では「もの」に過ぎないが,患者が装着し使うことで,患者の生活にとって不可欠なもの,身体や生活の一部になることが強く感じられた.評者は患者には今も「装具は装う道具です.眼鏡と同じように使っていただきたい」とお話ししている.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.344 - P.345

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.346 - P.346

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.439 - P.440

あとがき フリーアクセス

著者: 松山幸弘

ページ範囲:P.444 - P.444

 手術は決して容易なことではありませんが,「患者さんを少しでもよくしたい,笑顔を戻してあげたい」といった情熱さえあれば,どんなに忙しくても,また患者さんが合併症にみまわれてお互いにつらい思いをしても,一緒に乗り越えることができる,そんな心意気をもったチームづくりをずっと目指してきました.よいチームをつくるうえで大切な名言があります.「人を熱烈に動かそうと思ったら,相手の言い分を熱心に聞かなければならない」—これはデール・カーネギーが1936年に出版した『人を動かす』の中の一文で,他者を認める重要性を説き続け,大切な12原則を挙げています.

 最も大切なのは,チーム全体の目指すゴールはシンプルで,1つの矢になることです.患者さんの病気を少しでも改善する方向へ導くこと,そして最善の治療法を追求し,最先端医療を取り入れて行くことだと思います.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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