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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科58巻6号

2023年06月発行

雑誌目次

特集 FRIの診断と治療—骨折手術後感染の疑問に答える

緒言 フリーアクセス

著者: 渡部欣忍

ページ範囲:P.737 - P.737

 骨折関連感染症(fracture-related infection:FRI)は,整形外科医が最も治療に難渋する骨折合併症です.

 2016年のコンセンサス会議を経て,2018年にFRIの診断基準が提唱されました.具体的な診断基準はどのようなものなのでしょうか? FRIに対しては診断やデブリドマンの範囲を予測するために各種画像診断を行いますが,最善の診断法があるのでしょうか?

FRIの診断基準Up to Date

著者: 鈴木卓

ページ範囲:P.739 - P.742

骨折治療に関する手術部位感染(SSI)の診断基準は長らく統一されたものがなかった.このため,2016年12月にAO財団が中心となり,世界中から骨折治療や感染症治療のエキスパートが集まってコンセンサス・ミーティングが開催され,新しい骨折関連感染症(FRI)の基準が策定された.基本項目は人工関節周囲感染(PJI)の基準と一部重なるが,FRI独自の項目もあり,今後の骨折関連のSSI診断の世界標準として,知見を新たにしておく必要がある.

FRIに対する各種画像診断法の現状と課題

著者: 髙木基行

ページ範囲:P.743 - P.750

骨折関連感染症の画像診断法には,単純X線,CT,MRI,シンチグラフィー,超音波,核医学検査,手術時透視装置などがある.いずれの画像診断法にも長所と短所があり,診断,治療のためこれらの検査を組み合わせて用いることが肝要である.骨折関連感染症の中でも重篤な外傷後骨髄炎の実症例を提示し,各画像検査の概要と実際の診断,手術への臨床応用について報告する.診断としては核医学検査の有用性が広く認知されてきており,感染の制御については以前よりも確実性が増してきた感があるが,感染制御後の軟部組織,骨欠損の再建には,いまだ多くの時間と労力が必要なことには変わりがない.

骨折内固定材のバイオフィルム感染—エビデンス・コンセンサスと不明点

著者: 梶山史郎 ,   小関弘展 ,   朝永育 ,   尾﨑誠

ページ範囲:P.751 - P.757

骨折内固定材表面での細菌バイオフィルム形成は,骨折関連感染症を難治化させる主因とされている.近年,細菌バイオフィルムの特性に関する基礎研究が進み,多くの知見が蓄積されている.細菌バイオフィルムに対する抗菌薬の有効性を示す指標として最小バイオフィルム破壊濃度が知られているが,実臨床における骨折関連感染症の病態評価法や治療体系は十分に確立されていない.本稿では,最新のエビデンスとコンセンサスをもとに骨折関連感染症におけるバイオフィルム形成過程,抗菌薬抵抗性,および抗菌薬治療法に関して概説した.

FRIの治療におけるCLAPの役割

著者: 圓尾明弘

ページ範囲:P.759 - P.764

骨折関連感染(FRI)の診断基準やstage分類に基づいた治療指針が近年Metsemakersらのグループによって提唱されている.本稿ではFRIの治療原則を踏まえたうえでcontinuous local antibiotics perfusion(CLAP)が,どのように介入して治療戦略をmodifyできるかを解説する.CLAPによりbiofilmを制圧できる濃度の抗菌薬を,目標とする領域に移行させることができれば,骨折部に最適な内固定を温存,一期的に変換しながら骨癒合を誘導できる.また,必要な組織を温存しながら確実にそこに抗菌薬を灌流する回路を構築するように治療を進めることが治療期間の短縮や機能予後の改善につながると考える.

抗菌薬含有セメント髄内釘の作り方と使い方

著者: 福岡史朗 ,   依光正則

ページ範囲:P.765 - P.770

骨髄炎の治療においては,病巣を清浄化し局所に抗菌薬を投与する必要がある.さらに,癒合が完成していない症例に対しては骨折部の固定も同時に行う必要があることから,治療に頭を悩まされることが多い.抗菌薬含有セメント髄内釘は骨折部の安定性を維持しつつ,局所に抗菌薬を投与できることから,長管骨骨折術後の骨髄炎の治療において大きな利点がある.セメントに含有する抗菌薬の選択には熱耐性と抗菌効果の両方を有することが条件であり,固定強度を担保するための髄内釘の選択と,セメントを固着するための技術を習得することが治療成功の鍵である.

骨折関連感染症(FRI)に対するModern Papineau法による治療

著者: 大野一幸 ,   杉田淳

ページ範囲:P.771 - P.779

Papineau法は人体が元来持っている創治癒能力による治療法で,創部を閉鎖する必要はなく,特別な技術も要しない.Modern Papineau法はこのPapineau法に局所陰圧療法(NPWT)を併用した方法である.第1期は創部の徹底的な搔爬を行い,肉芽形成のために湿潤環境を保持する.肉芽に覆われない組織は再度の搔爬を行う.この時期からNPWTを開始してもよい.第2期は海綿骨移植を行ってNPWTを開始し,早期に移植骨が良好な肉芽に覆われることを促す.第3期は肉芽に分層移植をするか,創の自然治癒を待つ.FRIの治療における習得すべき基本手技である.

FRIにおけるDebridement・死腔の処置・再建前固定(内固定と創外固定)

著者: 佐々木源 ,   渡部欣忍

ページ範囲:P.781 - P.785

デブリドマンの目的は,壊死や感染が拡大する可能性のある創の状態に対して壊死組織や感染した組織を除去することによって,今後生存し得る創に転換させることである.完全なデブリドマンの実行は局所の感染を制御できるといっても過言ではない.感染した組織,血流の悪い組織を徹底的に除去することができてから,次の再建への治療方針を計画することができる.骨欠損が生じた場合には,骨セメントと創外固定器やギプスなどの外固定の使用によって次の骨再建へのfirst stepを行う.

巨大骨欠損の再建—Masquelet法

著者: 新倉隆宏 ,   大江啓介 ,   福井友章 ,   黒田良祐

ページ範囲:P.787 - P.797

Fracture-related infection(FRI)の治療に行き詰まり,難治化したものが慢性骨髄炎,感染性偽関節となる.これらの根治を目指す治療においては,段階的治療が標準的である.すなわち,病巣の骨を広範囲に切除する,その結果生じた巨大骨欠損を再建するというものである.この一連の流れに乗って行う巨大骨欠損再建法がMasquelet法である.骨欠損部に骨セメントを一定期間留置してinduced membraneを形成し,この中に自家海綿骨移植を行うと巨大骨欠損でもよく修復される.

巨大骨欠損の再建—Bone Transport法

著者: 星亨

ページ範囲:P.799 - P.805

骨折関連感染症(FRI)は,急性期に適切な処置が施されなければ,骨癒合が阻害され,感染性偽関節へと進展し,治療は難治化する.感染の沈静化のためには,骨切除を含めた病巣郭清が必要になり,時に10cmを超えるような巨大骨欠損を有する例が存在する.筆者は,巨大骨欠損に対してbone transport(BT)法を用いて,骨再建を行ってきた.BT法は,特殊技術を習得する必要があるが,骨折治療に携わる整形外科医にとっては,習得すべき手技である.

巨大骨欠損の治療—Vascularized Bone Graft

著者: 前川尚宜

ページ範囲:P.807 - P.812

巨大骨欠損の再建法の1つである血管柄付き骨移植は,マイクロサージャリーの技術を要するものの移植骨の血行を温存したまま移植することが可能であり,①骨吸収がない,②感染への抵抗性が高い,③高率な骨癒合率,④骨欠損長に影響されない早期の骨癒合,⑤横径増大が期待できる,⑥骨吸収・再置換のプロセスがなく骨癒合が進む,といった利点を有する.感染例ではその沈静化のため十分なデブリドマンを行う必要があり,結果として大きな骨欠損となる症例がある.その再建には血管柄付き骨移植術は有用な手技であり,再建法を知っておくことは有用である.

FRIにおける抗菌薬の選択—世界の常識と日本の実情

著者: 山田浩司 ,   田中栄

ページ範囲:P.813 - P.819

骨折関連感染症(fracture-related infection:FRI)治療で必要な抗菌薬の基本的な知識を概説した.FRI治療の基本は,適切なデブリドマンと抗菌薬の適正使用である.初動では全力で原因菌を同定し,原因菌不明の戦いは可能な限り避ける必要がある.抗菌薬は,抗MRSA薬のほかにグラム陽性球菌とグラム陰性桿菌(大腸菌,緑膿菌など)で有用な抗菌薬をマスターすべきである.細胞内寄生の問題は,抗菌薬の選択である程度改善できる可能性がある.一方,バイオフィルムが主因の場合は,インプラント抜去を検討する.整形外科感染症領域の抗菌薬の適正使用は,一般社団法人Ortho supportのセミナーが参考になる.

軟部組織欠損を伴ったFRIの治療戦略

著者: 長谷川真之

ページ範囲:P.821 - P.826

軟部欠損を伴ったfracture-related infectionは非常に稀な合併症である.治療の根幹は,適切なデブリドマン,骨安定化の維持,血行のよい組織による早期軟部再建である.そして,プラスアルファの工夫として高濃度抗菌薬局所投与(high CALI)がある.

境界領域/知っておきたい

血友病性関節症の現状と課題

著者: 鈴木仁士 ,   酒井昭典

ページ範囲:P.828 - P.830

はじめに

 血友病は最も代表的な先天性凝固異常症である.令和3年の厚生労働省委託事業の「血液凝固異常症全国調査」では血友病Aが5,124例,血友病Bが1,091例登録されている1).血友病Aでは第Ⅷ因子の活性が,血友病Bでは第Ⅸ因子の活性が低下〜欠乏するために,幼少期からさまざまな出血症状を来すのが特徴である.代表的な出血部位として皮下,筋肉内および関節内が挙げられる.凝固因子活性が<1%であるものを重症,1〜5%であるものを中等症,5%<であるものを軽症血友病という.

 重症および中等症の血友病症例では関節内出血が繰り返されることで関節内の軟骨における細胞外マトリックス(プロテオグリカンなど)の変性を来し,関節軟骨が障害される.さらに関節内出血により関節内の滑膜炎が持続すると,炎症性サイトカインの影響で骨破壊も見られるようになり血友病性関節症に至ると考えられている.

 現在は欠乏もしくは不足している凝固因子を定期的に製剤で補充する定期補充療法の普及により関節内出血や血友病性関節症を来す症例の数は減少傾向にあるものの,20代,30代以降になると血友病性関節症を来している症例も少なくない.血友病性関節症に関する治療や課題について本稿で概説する.

書評

子どもの「痛み」がわかる本—はじめて学ぶ慢性痛診療 フリーアクセス

著者: 余谷暢之

ページ範囲:P.831 - P.831

 子どもの痛みは歴史的に過小評価されてきました.その中で,多くの研究者たちが子どもの痛みについてのエビデンスを積み重ね,「子どもはむしろ痛みを感じやすい」ことが明らかになりました.その結果,諸外国では子どもへの痛みの対応が丁寧に実践されていますが,わが国においては十分に対処されているとはいえない状況があります.著者である加藤実先生は子どもの痛みに真摯に向き合い,丁寧に臨床を重ねられ,さまざまな学会でその重要性を訴えてこられました.その集大成が本書であると思います.

 本書で紹介されている慢性痛は,急性痛とは異なるアプローチが必要となりますが,そもそも小児領域では急性痛,慢性痛という概念すら十分に浸透していない状況です.慢性痛は心理的苦痛や社会的影響を伴い,子どもたちの生活の質に深刻な影響を及ぼす可能性があり,生物心理社会的(biopsychosocial)アプローチが必要となります.3〜4人に1人が経験するとされ決してまれでない慢性痛は,小児プライマリケア診療においても重要な領域ですが,体系立って学ぶ機会が少なく,本書の役割は大きいといえます.

—エビデンスが教える—人工膝関節単顆置換術 フリーアクセス

著者: 松田秀一

ページ範囲:P.833 - P.833

 わが国でも年々手術数が増加している人工膝関節単顆置換術(UKA)であるが,本書はUKAについて全ての情報を網羅しているといっても過言ではない本である.原著はフランス語で書かれているが,この度,塩田悦仁先生の手により日本語に訳され出版された.

 執筆者のリストをみると,UKAに関するエビデンスを自ら発信されている方ばかりで,これを見ただけで,非常にレベルの高い内容であることが予想できる.

慢性痛のサイエンス 第2版—脳からみた痛みの機序と治療戦略 フリーアクセス

著者: 山下敏彦

ページ範囲:P.835 - P.835

 本書『慢性痛のサイエンス』は,私にとって,慢性痛を考え,理解する上での「バイブル」的書籍である.このたび,内容がアップデートされ,ボリュームアップした第2版が出版されたことを大変うれしく思う.

 近年,慢性痛の発生や持続には,単に組織の損傷や脊髄・末梢神経の障害だけではなく,脳の機能不全が深く関与していることが神経科学的研究により明らかにされているが,臨床家にとってそのメカニズムを理解することは決して容易ではない.しかし,本書では,中脳辺縁ドパミン系(mesolimbic dopamine system)や下行性疼痛抑制系といった複雑な神経メカニズムを,明快な図とともに,読みやすい文章で順序立てて解説されており,読み進めるうちに自然と理解が深まってくる.

INFORMATION

第57回日本側彎症学会学術集会 フリーアクセス

ページ範囲:P.827 - P.827

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.732 - P.733

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.734 - P.734

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.837 - P.837

あとがき フリーアクセス

著者: 酒井昭典

ページ範囲:P.840 - P.840

 2023年5月8日,COVID-19が5類感染症へ移行することとなりました.それを受けて,社会も人も動き始めたように思います.4月以降に開催された学会に参加して,COVID-19以前の対面の状況にほぼ戻ったように感じました.活発な質疑応答やフロアでのコミュニケーションは実に有意義です.「学会はこれでなくちゃ」と回顧する先生がたも多いのではないかと思います.このまま規制が緩和され,平穏に社会も人も前進することを祈っています.

 今月号の特集「FRIの診断と治療—骨折手術後感染の疑問に答える」は,渡部欣忍先生にご企画いただきました.骨折手術後の感染は治療に難渋することが多く,多くの整形外科医の頭を悩ませているところです.内固定材料表面でのバイオフィルム形成はFRIを難治性にしている大きな要因です.本特集では,FRIの診断基準と診断法について解説いただき,骨折手術後という特殊な環境下での感染に対するさまざまな対策や工夫を含む最新の治療法について説明していただきました.抗菌薬の選択,CLAP,抗菌薬含有セメント髄内釘,Modern Papineau法,血行のよい組織による軟部組織再建などです.また,巨大骨欠損への対策として,Masquelet法,Bone Transport法,Vascularized Bone Graftの実際を報告していただきました.最新の医療技術に関する情報を沢山盛り込んでいただきました.この特集が,FRIの治療法を選択するうえでの有益な情報提供となれば幸いです.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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