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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科58巻7号

2023年07月発行

雑誌目次

特集 股関節鏡手術のエビデンス—治療成績の現状

緒言 フリーアクセス

著者: 杉山肇

ページ範囲:P.845 - P.845

 股関節鏡手術は21世紀に入り技術の進歩により大きく発展した.さらに,大腿骨寛骨臼インピンジメント(femoroacetabular impingement:FAI)の出現により広く認知され,鏡視下手術の必要性が高まっている.そうした中,今回,「股関節鏡手術のエビデンス—治療成績の現状」として企画を組ませていただいた.本特集では,まだ必ずしも十分でない“エビデンス”に主眼を置きつつ,股関節鏡に関連したさまざまな治療を知っていただけるような構成とした.筆者には新進気鋭の先生方にご参画いただいており,股関節外科医はもちろんのこと,その他の領域の方々にも関心をもっていただけるよう企画している.

 まず,最も大きな適応であるFAIについて,本邦で作成された診断指針の中心である山崎琢磨先生に具体的な診断法を解説していただき,梅津太郎先生には保存療法との比較を踏まえ,FAIの鏡視下手術の成績について成績不良要因を含めてお示しいただいた.また,股関節鏡手術で大きな議論があるスポーツ選手に対する股関節鏡手術では,その適応や境界型寛骨臼形成不全に対する股関節鏡手術,そして股関節唇再建術についてそれぞれの第一人者である山藤崇先生,星野裕信先生,村田洋一先生に解説いただいた.さらに,従来から股関節鏡の適応である化膿性股関節炎やsynovial osteochondromatosisの鏡視下手術について福島健介先生,松下洋平先生に担当いただいている.

大腿骨寛骨臼インピンジメントの診断法—エビデンスに基づいて

著者: 山崎琢磨

ページ範囲:P.847 - P.854

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)の診断において,特異的な身体所見や画像所見はなく,股関節周囲に疼痛を来す他の病態を鑑別し,臨床症状,身体所見,および画像所見より総合的に判定されるべきである.わが国では寛骨臼形成不全を有する症例が多いため,関節不安定性に起因する症状を鑑別する必要がある.FAIに起因する股関節病変と関節不安定性に起因する股関節病変とは異なる病態であり,FAIと関節不安定性のいずれに起因する病態なのかを慎重に見極めることが,的確なFAI診断につながる.

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)に対する股関節鏡視下手術の成績—保存療法との比較を踏まえて

著者: 梅津太郎 ,   大矢昭仁 ,   金治有彦

ページ範囲:P.855 - P.861

2015年に日本股関節学会が大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)の診断基準を発表し,本邦でも積極的にFAI治療が行われるようになった.近年,手術治療は股関節鏡視下手術が主流になりつつあり,おおむね良好な成績が得られている.関節鏡を用いた低侵襲手術でFAIにおける股関節病態の改善と変形性股関節症の発症予防が期待される一方で,術後早期の再手術例や人工股関節置換術へ移行する例も存在し,保存療法で手術を回避できる例も少なくないため,その適応には注意を要する.

アスリートの鼠径部痛に対する股関節鏡手術の意義

著者: 山藤崇

ページ範囲:P.863 - P.868

アスリートに対する股関節鏡手術はfemoroacetabular impingement(FAI)を中心に良好な臨床成績が報告されており,有用な治療選択肢の1つである.しかし,近年,FAIのCam変形が多くのエリートアスリートに存在し,Cam変形は後天的に発生することが示唆されている.また,日本においては,寛骨臼形成不全症を背景とし,不安定性が原因となる股関節関連鼠径部痛も多く存在するため,インピンジメントと不安定性が共存する症例も存在し,欧米と同じ基準で手術適応を決定することが困難である.

境界型寛骨臼形成不全に対する股関節鏡視下手術

著者: 星野裕信

ページ範囲:P.869 - P.873

境界型寛骨臼形成不全に対する股関節鏡視下手術の成績は寛骨臼形成不全のない症例と比較してもおおむね良好であり,股関節温存手術の分野において股関節唇損傷や大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)の治療のために必要な手技である.しかし成績不良となる因子がいくつか報告されており,疼痛の残存や股関節の不安定性を助長して変形性股関節症に進行する症例もみられる.実際の臨床では個々の患者の特徴をよく吟味して適応を決定すれば,低侵襲で良好な結果が得られるため,今後のさらなるエビデンスの蓄積が必要である.

股関節唇再建術・Augmentation

著者: 村田洋一 ,   中島裕貴 ,   内田宗志

ページ範囲:P.875 - P.879

股関節唇は滑らかな関節表面を形成するsealing効果と,大腿骨頭へのsuction効果を有し,股関節の安定性に寄与している.そのため,股関節唇損傷に対する処置として股関節唇形成術が第一選択となる.一方,修復不能なほどに損傷した股関節唇に対しては,デブリドマンではなく股関節唇再建術が選択され,その臨床成績はおおむね良好である.最近注目されているaugmentationは,形成不全または修復不能な関節唇を維持したまま,その背後に再建した股関節唇を移植する処置であるが,バイオメカニクス研究や臨床研究でもその有用性が報告されている.

化膿性股関節炎の鏡視下治療

著者: 福島健介 ,   高平尚伸

ページ範囲:P.881 - P.884

化膿性股関節炎は軟骨損傷,骨髄炎への進展が懸念されるため,発症後可及的早期のデブリドマンが推奨される.治療法としては穿刺および洗浄,観血的手技,関節鏡視下手技が挙げられる.関節鏡視下手技は治療と診断を兼ねることができ,低侵襲なので併存症を有する患者にも導入が可能で非常に有用と考えている.本稿では文献的な総括を含めて化膿性股関節炎の鏡視下治療について概説する.

Synovial Osteochondromatosisの鏡視下手術

著者: 松下洋平 ,   杉山肇

ページ範囲:P.885 - P.890

Synovial osteochondromatosis(SOC)は30〜50代の女性に多く生じる良性の軟骨増殖性疾患であり,股関節は膝関節の次に多く発生する.外科的治療は直視下手術と鏡視下手術に大別される.病変部を完全に取り除くという点では直視下の治療に利があるが,鏡視下手術は比較的低侵襲であり合併症が少なく,診断的治療としての役割も有する.また,近年の股関節鏡手術の技術の改良やディバイスの進化とともに今後更なるSOCに対する股関節鏡手術の成績向上が見込まれる.

股関節鏡手術の術前計画とコンピュータ支援技術

著者: 小林直実 ,   本田秀樹 ,   雪澤洋平 ,   東平翔太 ,   加茂野絵美

ページ範囲:P.891 - P.898

股関節鏡手術,特にFAIに対する骨軟骨形成を中心にコンピュータシミュレーションを用いた術前計画と,計画を可能な限り正確に遂行するためのコンピュータナビゲーション支援手術の実際について詳述する.ナビゲーション支援下cam切除の精度評価,骨盤動態のコンピュータシミュレーション解析研究の結果も紹介する.

低侵襲な手術を目指して—関節包靱帯と股関節包の処置について

著者: 濱田博成 ,   宇都宮啓

ページ範囲:P.899 - P.904

日本では境界型形成不全患者が多く,股関節の安定化には軟部組織による安定性が重要と考えられる.われわれは,股関節の安定性に重要とされる腸骨大腿靱帯(IFL)を可能な限り温存するためにポータル間切開は用いずに,前外側ポータルを15〜25mm程度に延長し,関節唇やCAM病変を適切に処置できるようにして手術を行っており,腸骨大腿靱帯の大部分が温存可能である.股関節周囲の解剖を確認しつつ,われわれの術式を紹介する.

—関節外病変の股関節痛と鏡視下手術①—股関節前面病変:下前腸骨棘炎

著者: 加谷光規

ページ範囲:P.905 - P.908

本稿では股関節前面の関節外病変,特に下前腸骨棘炎について,病態,診断法,治療法そして大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)との鑑別点に関して概説する.

—関節外病変の股関節痛と鏡視下手術②—深殿部症候群—Deep Gluteal Syndrome

著者: 髙田真一朗 ,   内田宗志

ページ範囲:P.909 - P.915

深殿部症候群(deep gluteal syndrome:DGS)は本邦においても比較的認知されるようになってきたが,未だ一般的な理解が浸透しているとはいえない疾患である.殿部痛を訴える患者の中でDGS患者の頻度は決して少なくないと考えられるが,DGSの診断に至らず苦しんでいる患者も少なくない.概念は知っているが診断,治療へのアプローチがわからない,という治療者も多いのではないかと推察する.本稿ではDGSの臨床症状や診断方法,治療法について概説する.

論述

超高齢社会に伴う手術年齢層の変化—奈良医大のデータより

著者: 撫井貴弘 ,   重松英樹 ,   池尻正樹 ,   須賀佑磨 ,   川崎佐智子 ,   田中康仁

ページ範囲:P.919 - P.926

背景:当院における整形外科手術の各分野別に手術時年齢の推移を明らかにする.対象と方法:13年間で手術を施行した12,033例を対象とした.年齢を65歳未満,65歳以上75歳未満,75歳以上の3層に分類,分野を①足・足関節,②手・肘・マイクロ,③脊椎,④肩関節,⑤膝関節,⑥股関節,⑦腫瘍,⑧外傷・その他とした.結果:件数は増加し,年齢層別割合は65歳未満が減少し,65歳以上75歳未満で変化なく,75歳以上が増加した.①,②は65歳以上の割合が増加,③,⑥,⑦は75歳以上の割合が増加した.⑤は65歳未満の割合が増加した.考察:全体の手術時年齢は上昇した.しかし各分野で傾向に違いがみられた.

Lecture

若手整形外科医のための保険診療入門

著者: 城戸優充

ページ範囲:P.927 - P.934

 本稿の目的は,若手整形外科医に対して,保険診療を理解することの重要性を伝えることです.はじめに,日本の医療保険制度,保険診療の頻出用語,医療保険各法の重要事項について図表を用いて概説します.続いて,整形外科分野を中心に,保険診療の基本的事項を紹介します.

 保険医は,医師法,医療法,医療保険各法等の各種関係法令に基づいて診療を行います.医学的に妥当適切な診療,診療報酬点数表に定められた請求を行い,診療の都度,診療報酬請求の根拠をカルテに記載しましょう.

臨床経験

ガイドワイヤーレス経皮的椎弓根スクリュー(PPS)を用いた手術時間短縮と放射線被曝低減の工夫

著者: 酒井翼

ページ範囲:P.935 - P.939

背景:経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入は低侵襲脊椎手術で必須の手技であるが被曝量の問題がある.対象と方法:腰椎変性疾患,脊椎外傷に対しX線透視1台を使用し原則正面像のみでVIPER PRIMETM(DePuy-Synthes社)を37本刺入し,その刺入時間,透視時間,PPS逸脱の有無を従来法40本と比較した.結果:PPS1本当たりの平均刺入時間100秒,透視時間6.4秒と短縮され,PPS逸脱は認めなかった.まとめ:各椎体の解剖とデバイスの特徴を熟知することで,被曝低減と手術時間の短縮は可能である.

書評

医療者のスライドデザイン—プレゼンテーションを進化させる,デザインの教科書 フリーアクセス

著者: 吉橋昭夫

ページ範囲:P.917 - P.917

 本書は,プレゼンテーションを効果的に行うためのデザイン手法を誰にでもわかりやすく紹介したものである.プレゼンテーションは受け手と知見を共有し新たな行動を促すものであり,そのためには適切なデザインが必要である.私は「情報デザイン」の分野で長く教育研究に携わってきたが,本書は情報デザインのエッセンスを凝縮してスライドデザインに投入したものであり,伝えたいメッセージや情報をスライドとして具体化するために必要な内容が存分に盛り込まれている.

 以下は,各Chapterの概要である.

—運動学×解剖学×エコー—関節機能障害を「治す!」理学療法のトリセツ フリーアクセス

著者: 宮武和馬

ページ範囲:P.941 - P.941

 理学療法士は,整形外科医が治せない痛みや機能を治せる力を持っている.私は以前からそう思っている.今まで見てきた数多くの現象から,理学療法の魅力に取りつかれてきた.

 ただ,その一方で,理学療法士が何をどう治しているのか,理学療法士と話していても全く理解できなかった.「ここを緩めたから良くなりました」,「ここが痛いのは,このアライメントが悪いからです」と言われても,原理も含めて納得のいく答えは返ってこなかった.

—エビデンスが教える—人工膝関節単顆置換術 フリーアクセス

著者: 岡崎賢

ページ範囲:P.943 - P.943

 本書は,文字通りUKAの全てを確固たるエビデンスを基に詳しく解説した類いまれなる教科書である.TKAについての同等の質・量を持った教科書は数あれども,UKAにおいてこれほど詳細に書かれた書物を私は知らない.しかもそれが著者のエキスパートオピニオンのみで語られるのではなく,タイトルに「エビデンスが教える」とあるように,全て研究論文や公式資料を基に解説されている点も特筆すべきである.

 内容は隅々まで広く網羅されており,黎明期の開発の歴史などは,それぞれの製品において設計者がどのように考えて作られていったか,消えていったものはどのような経緯で失敗したのかなども詳細に書かれている.オールポリエチレンかメタルバックかモバイルベアリングかといった問題も力学特性やバイオメカニクスの観点から詳細に解説されている.Kozinn・Scottの古典的な適応はどういう経緯で提唱されたのか,Oxfordの哲学とはどのようなエビデンスを基に醸成されたか,フィックスベアリングとモバイルベアリングではどのような考え方の違いがあるのか,その手術手技はどうあるべきかなどはもちろん,最新のconstitutional alignmentの考え方からkinematic alignment UKAの手術手技,ロボット支援のUKA手技までも網羅されている.合併症や失敗の要因とサルベージ手術の考え方も示されている.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.842 - P.843

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.844 - P.844

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.945 - P.945

あとがき フリーアクセス

著者: 仁木久照

ページ範囲:P.948 - P.948

 ローカルなニュースで恐縮です.厚生労働省は2020年の平均寿命で,川崎市麻生区が全国の市区町村で,男女とも最も長寿だった(男性84.0歳,女性89.2歳)と発表しました.15年の調査では男性83.1歳(2位),女性88.6歳(4位)でしたが,ともに延びています.川崎市麻生区は私が所属する聖マリアンナ医科大学のある川崎市宮前区の隣の区で大学の医療圏です.多摩丘陵の里山が連なる坂道の多い街で,新聞には「足腰が鍛えられて健康な人が多いのかも」と書かれていました.「15分くらい続けて歩いていますか」の問いでは,最も高い88.2%が「できるし,している」と回答しています.また,川崎市が昨秋に実施した高齢者実態調査(65歳以上対象)でも,麻生区民の健康意識は高い傾向がみられ,川崎市7区のうち,がん検診を定期的に受診している割合は34.9%で,宮前区の35.7%に次ぐ高さだったとのことです.

 こうした誇らしいデータとは裏腹に,川崎市には1つの課題が浮き上がってきています.人口が減らない,あるいは増えている地区の行政は,来年4月からの医師の働き方改革によって中小病院が夜間の一,二次救急体制を維持できなくなる可能性があると推測しています.夜間の救急医療の崩壊を避けるために,大学病院を筆頭とした大病院に一,二次救急の受け入れ体制の強化,具体的には救急車受け入れを現在の6,000件から10,000件にするように要請してきています.今のシステムのままで一,二次救急受け入れが増えれば,整形外科はますます繁忙となり壊滅します.これまでの概念にとらわれず,病院全体,全科で対応するシステムを構築することが求められています.1年後,吉と出るか凶と出るか結果が出ていると思いますので,機会があればご報告させていただきます.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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