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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科58巻8号

2023年08月発行

雑誌目次

特集 小児の上肢をいかに診るか—よくわかる,先天性障害・外傷の診察と治療の進め方

緒言 フリーアクセス

著者: 堀井恵美子

ページ範囲:P.953 - P.953

 小児医療センターが各地に開設されて,一般の整形外科外来で小児の姿をみることが少なくなったように感じます.小児病院へ患者が集中することは,専門家が診療に当たるというメリットはありますが,すべての小児に,専門病院への窓口が開かれているわけではありません.また,一方では,整形外科医の多くが,小児を診療する機会が少なくなり,教育を受ける機会も減少しているように感じます.

 若い先生方に,小児の特性を理解して,恐れることなく小児を診ていただきたいと強く願って,今回,“小児の上肢をいかに診るか”という企画をさせていただきました.

小児の上肢障害に対するエコーの活用法

著者: 橘田綾菜 ,   西須孝

ページ範囲:P.955 - P.961

小児は関節軟骨が豊富であるため,軟骨の輪郭を想像しながら単純X線を読影する必要がある.MRIを撮影できれば軟骨の評価が可能だが,撮影できる施設は限られ,低年齢では鎮静を要する.超音波検査(以下,エコー)は,被曝もなく鎮静不要であるため,小児整形外科診療における重要な画像診断ツールである.本稿では,小児の上肢障害で,特にエコーが威力を発揮すると筆者が考える,「肘内障」,「骨端線損傷」,「化膿性関節炎」について解説する.

幼小児の手指機能評価

著者: 射場浩介

ページ範囲:P.963 - P.968

幼小児の手指機能を客観的かつ定量的に評価できる検査法は少ない.Functional dexterity test(FDT)や巻きメジャーを用いた方法(メジャー法)は簡便な検査法であり,幼小児の把持やつまみ機能評価が可能である.これらの検査方法は,母指形成不全患者の母指対立再建術前後の手指機能評価や,握りやつまみ障害を認めるほかの先天異常手を有する患者の術後機能評価に使用可能と考える.一方,その評価内容や対象疾患には限界があることに留意する必要がある.

スプリント治療の活用

著者: 佐竹寛史

ページ範囲:P.969 - P.974

握り母指症,強剛母指,伸筋腱欠損,橈側列形成障害による内反手,風車翼手,屈指症など手指の屈曲や手関節撓屈変形を来している先天性疾患に対して,スプリント治療が行われることがある.これらの疾患の診断とスプリント治療の工夫について説明する.

分娩麻痺

著者: 川端秀彦

ページ範囲:P.975 - P.979

分娩麻痺は分娩時に新生児に生じる腕神経叢の牽引損傷である.一般に予後は良好と考えられているが,重度の麻痺を残した場合は運動麻痺,知覚麻痺にとどまらないさまざまな機能障害を残すことがある.新生児期には自然回復を期待して保存的治療を行うが,乳児期には重度の症例を選別し,それらに対して神経修復術を行う必要がある.麻痺が遺残した場合は二期的に筋腱移行術を就学期前後に行う.保存的治療では関節拘縮の予防,患側上肢への意識付けと使用の励行,幼児期以降にはADL訓練が大切である.

母指多指症・合指症

著者: 上里涼子 ,   藤田有紀 ,   市川奈菜

ページ範囲:P.981 - P.987

母指多指症は手の先天異常の中で最も頻度が高い.母指は手の機能において重要であり適切な治療を選択する必要がある.治療法は分類や形態に応じて選択する.手術の基本は低形成な母指を切除し,軟部組織の再建を要することが多い.合指症は本邦では母指多指症ほど多くはないものの,手外科外来ではしばしば遭遇する.完全合指症,不完全合指症のみならず,裂手症の合併や絞扼輪症候群に合併するものがあり,ほとんどは手術治療の適応となる.本稿では手の先天異常として一般的な,2疾患について経験症例を呈示して述べる.

—上肢先天障害をいかに診るか—指の欠損を呈する疾患(母指形成不全・裂手症・横軸形成障害)

著者: 福本恵三

ページ範囲:P.989 - P.995

専門家でなければ上肢先天障害を診察することは稀であり,実際に治療することはさらに少ない.本稿では指の欠損を呈する先天障害(母指形成不全・裂手症・横軸形成障害)について,上肢先天障害を専門とする医師でなくとも知っていてほしい,初診時に観察すべきポイント,保護者へのIC,治療計画の立て方,follow-upについて解説する.

小児肘周辺外傷に対する急性期の対処方法

著者: 小林由香 ,   齋藤育雄

ページ範囲:P.997 - P.1004

小児の肘関節周辺骨折の中で最も頻度が高いのは,上腕骨顆上骨折である.急性期に注意すべきポイントは,神経血管損傷とコンパートメント症候群である.Pulseless pink hand(PPH)は,橈骨動脈の拍動が消失しても上腕深動脈や上尺側側副動脈の側副血行路により手指の色調が保たれている状態である.このとき手術で上腕動脈を確認する必要性については,コンセンサスは得られていない.筆者は,観血的整復固定と同時に神経血管を確認している.コンパートメント症候群は頻度が低いが,前腕骨折や高エネルギー外傷を合併しているときには特に注意が必要である.

小児肘関節周辺骨折—変形治癒・拘縮の治療

著者: 中川敬介

ページ範囲:P.1005 - P.1012

小児の肘関節周辺骨折は,基本的には変形治癒や拘縮を生じにくい.しかし,誤った診断や不適切な初期対応を行えば,変形治癒や拘縮を生じてしまう.いったん,これらが生じてしまうと,治療適応やそのタイミングなどについて判断が難しい.また,根本的な治療法がなく,対症療法しかない病態もある.それぞれの病態について,治療適応やタイミングなどを解説する.生じてしまった変形治癒・拘縮に対して最善の対処を行い,少しでも骨折前の健常な状態に戻ってもらえるように注力することも,われわれの務めである.

小児前腕骨骨折

著者: 大塚純子 ,   洪淑貴

ページ範囲:P.1013 - P.1019

小児前腕骨骨折は小児全年齢層の骨折中40%を占め,日常診療でよく遭遇する.治療成績はおおむね良好だが,変形治癒すると可動域制限や再骨折の原因となるため,年齢・性別や骨折部位によってリモデリング能力に差があることに留意しつつ治療する.本稿では,橈骨遠位部骨折(骨端離開,骨幹端骨折)と前腕骨幹部骨折の診断,治療,リモデリング,合併症に関して概説する.

小児の手指骨折

著者: 柿崎潤

ページ範囲:P.1021 - P.1027

小児の手指骨折の治療は徒手整復と外固定の保存治療を原則的に行う.整復位の許容範囲内は,リモデリングが期待できる変形であり,許容範囲内の整復位を外固定で維持するように努める.整復が許容できない場合や整復位を保持できない場合に手術治療を選択する.手術治療の場合でも,整復は徒手整復や経皮的な整復を中心に行い,内固定はピンニングで行うことを第一とする.これらで整復できない場合に観血的整復固定を行う.

最新基礎科学/知っておきたい

汗乳酸値の連続モニタリングを用いた新しい運動評価法

著者: 勝俣良紀

ページ範囲:P.1030 - P.1034

はじめに

 心血管疾患患者における心臓リハビリテーションは心血管イベントの抑制に寄与し重要である1).心臓リハビリテーションを行う際には心肺運動負荷検査(cardiopulmonary exercise test:CPX)を施行し,得られた結果をもとに運動処方する.CPXでは呼気ガス分析で求めた換気性代謝閾値(ventilatory threshold:VT)で嫌気性代謝閾値(anaerobic threshold:AT)を推定する.ATを超えた強度の運動ではアシドーシスが進行するとともにカテコラミンの分泌が亢進するため,心機能の低下した症例では特にATの範囲内で運動処方する必要がある.しかし,CPXには高価な機器を要するため施行できる施設は限られる.また,VTの決定に際しては指標が多く専門的知識を要する.Oscillatory ventilationを呈する症例も存在するため,しばしば判定が困難である2)

 ATを決定する他の手法として,運動中に血液乳酸値を断続的に測定する手法がある3).嫌気性代謝に切り替わるタイミングで血液乳酸値は上昇する.上昇地点は乳酸閾値(lactate threshold:LT)と定義され,LTにおける運動強度を指標にATを推定することができる3).しかし,このような方法は侵襲的であり汎用性に乏しく,日常臨床でも用いられていない.

 近年,汗中の乳酸値を測定するデバイスの開発が進み,運動強度の増加に伴い汗乳酸値は上昇することが示されている4).しかし,汗乳酸値の上昇地点[汗乳酸性作業閾値(sweat lactate threshold:sLT)]と嫌気性代謝閾値の関連性は検討されていない.今回,われわれは株式会社グレースイメージングと共同開発した汗乳酸センサ(図1)を用いて,汗乳酸性作業閾値と嫌気性代謝閾値の関連性を検討した5)

臨床経験

成人脊柱変形手術におけるSagittal Age-adjusted Scoreの検討

著者: 檜山明彦 ,   渡辺雅彦

ページ範囲:P.1035 - P.1041

目的:成人脊柱変形(ASD)患者におけるSagittal age-adjusted score(SAAS)と近位隣接椎間後弯障害(PJF)について解析した.対象と方法:ASDの診断にて二期的前後方矯正固定手術を行った60症例を対象とした.Pelvic incidence(PI)-lumbar lordosis(LL)とSAASから,under-corrected群,matched群,over-corrected群に分類し,PJFの有無を比較した.結果:SAASでは52例(86.7%)がover-corrected群であった.Matched群とover-corrected群でPJFの有無は有意差がなかった.結語:SAASでは多くの症例で過矯正であったが,PJFの有無には統計学的有意差はなく,アライメント以外の評価が必要である.

Tubular Retractor(Φ18mm)留置下で行う顕微鏡下低侵襲経椎間孔腰椎椎体間固定術の手術手技の紹介と手術侵襲の検討

著者: 小倉卓 ,   林田達郎 ,   梅田浩市 ,   琴浦義浩 ,   大友彩加 ,   夏井純平 ,   四方巽 ,   藤原靖大

ページ範囲:P.1043 - P.1047

背景:現在,低侵襲経椎間孔腰椎椎体間固定術(MIS-TLIF)は標準的治療法となったが,より低侵襲化を目指し,椎体間ケージと椎弓根(PS)サイズに適合した小さなnon-expanding tubular retractor留置下に行うMIS-TLIFが手術侵襲に与える影響を検討した.対象:Tubular retractor(Φ18mm)を用いた腰椎変性疾患患者12例(Tr群)とX-tube®を用いた57例(X群)である.方法:Tubular retractor(Φ18mm)留置下MIS-TLIFの手術手技を紹介し,2群間で手術侵襲の指標である8項目の周術期所見を比較検討した.結果:Tr群で皮切は平均21.0mmと短く,術後独歩開始時期が平均1.6日に短縮した.結語:手術手技を工夫し,できるだけ小切開で行うTr群で手術侵襲は軽減した.

症例報告

下肢感染性軟部組織欠損創に対するPerifascial Areolar Tissue(PAT)移植の治療経験

著者: 内藤東一郎 ,   善家雄吉 ,   濱田大志 ,   佐藤直人 ,   酒井昭典

ページ範囲:P.1049 - P.1055

骨軟部組織感染により腱・骨が露出した創傷に対する治療は難渋することが少なくない.その原因として,細菌感染による局所環境の悪化がある.今回,われわれは感染による下腿難治性皮膚潰瘍に対して,perifascial areolar tissue(PAT)移植を行った2例の治療経験を報告する.症例は2020年4月〜10月に,軟部組織欠損を伴う下腿感染症に対して治療した2症例とした.手術は徹底的に洗浄・デブリドマンを行い,注入路として皮下にダブルルーメンチューブを留置,排液路として皮下ドレーンもしくは一部を開放創として陰圧閉鎖療法(NPWT)を使用する持続的局所抗菌薬灌流(CLAP)を行った.局所所見やCRPの陰性化を目標に治療効果を判定し,手術室で創部の確認(2nd look)を行い,鼠径部より外腹斜筋上のPATを採取して,欠損創へ移植を行った.全例で感染は制御でき,PATは肉芽増生を促し,追加の植皮術のよい母床を提供した.欠損サイズや局所の状況にもよるが,PAT移植は有用な選択肢といえる.

書評

弱さの倫理学—不完全な存在である私たちについて フリーアクセス

著者: 山内志朗

ページ範囲:P.1029 - P.1029

 著者は倫理を次のように宣言する.倫理とは,「弱い存在を前にした人間が,自らの振る舞いについて考えるもの」であると.

 倫理学は正義とは何か,善とは何か,幸せとは何か,そういったことを考える学問だと考えられている.ただ,そういった問題設定は強い者目線での思考に染まりがちだ.強さは戦いを招き寄せる.だからこそ,世界的な宗教は,キリスト教も仏教も徹底的に弱者の地平から人間の救済を考えてきた.本質的に人間は弱く不完全であり,不完全なまま生き続けるものであるという事態を前にして,私たちは絶望に陥らず希望を語ることが求められている.

慢性痛のサイエンス 第2版—脳からみた痛みの機序と治療戦略 フリーアクセス

著者: 小川節郎

ページ範囲:P.1057 - P.1057

 慢性痛を理解するためのバイブルとされる半場道子氏の『慢性痛のサイエンス』が改訂された.本書は副題に「脳からみた痛みの機序と治療戦略」とあるように,慢性痛の謎解きに脳科学,神経科学の視点から迫った最初の本である(初版の序より).項目をみると,初版では,「第1章 慢性痛とは何か」,「第2章 慢性痛のメカニズム」,「第3章 侵害受容性の慢性痛」,「第4章 神経障害性の慢性痛」,「第5章 非器質性の慢性痛」,「第6章 慢性痛の治療法」,「第7章 神経変性疾患と慢性炎症」の7章であったが,第2版では,「第5章 非器質性の慢性痛」が「第5章 痛覚変調性の慢性痛」に変更され,さらに最近,大きな注目を集めている腸と脳の連関が第8章として追加されている.本書を改訂した大きな理由の一つとして,国際疼痛学会において「nociplastic pain」の概念が追加されたことを挙げている.わが国ではこれの日本語訳が「痛覚変調性疼痛」として承認され(日本痛み関連学会連合,2021年9月),本書の第5章として解説されている.

 さて,慢性痛は単に急性痛が長引いたものではなく,脳回路網の変容による痛みが主体であるため,急性痛の機序と比べて非常に複雑で,かつ不明な点が多い.そのため治療に難渋するケースがほとんどである.しかし近年,機能的脳画像法の進歩によって脳内機構が解析されるようになり,痛みの概念に大きなパラダイムシフトが起きて,その脳内機構に合わせた治療法の開発が進んでいる(初版の序より).本書は各項目において脳内機構を基にした解説がなされ,これまで説明が困難であった痛みについて明快な紐解きがなされている.

解剖学カラーアトラス 第9版 フリーアクセス

著者: 大塚愛二

ページ範囲:P.1059 - P.1059

 「ローエン&横地」の愛称で親しまれる『解剖学カラーアトラス』が7年ぶりに改訂され,第9版が出版された.これまでも解剖実習室でよく使われてきた人体解剖アトラスである.このアトラスの最大の特長は,初版以来変わらず,精密に解剖された人体解剖標本を極めてクリアに撮影した写真にある.ここまで精緻に剖出するためには,高度な技術に裏付けられた多大な労力と時間を費やしているはずで,写真による解剖アトラスとして他の追随を許さない.

 通常の解剖アトラスは,伝統的な手描きの解剖図または近年主流となったコンピュータグラフィックス(CG)である.これらは理解しやすく,立体感のあるものも多い.基本的に著者の意図に沿って描かれていて,一般的な教科書の記載とマッチしていてわかりやすい.しかしながら,時に小さいものや細いものも多少強調されて大きく太く描かれている場合がある.これは,理解するためにはよいのだが,解剖実習でどのようなものを目印にして剖出すればいいのかを見当づけるためには,時として混乱を招くこともある.一方,写真は著者の意図とは無関係に,そこに存在するものをそのままのサイズ感で写し出す.細い神経は細く,太いものは太く写る.学習者は,解剖実習のときにどの程度の大きさのものをどこで探せばよいのかをあらかじめイメージできる.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.950 - P.951

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.952 - P.952

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1061 - P.1061

あとがき フリーアクセス

著者: 山本卓明

ページ範囲:P.1064 - P.1064

 本原稿を書いているのは6月下旬です.初々しく4月から勤務を始めた新教室員も,ずいぶん環境に慣れ,カンファでもかなり自信を持って発表できるようになってきました.

 当教室では,後期研修プログラムの最初の1年目は原則として大学で研修をしてもらい,整形外科の各分野を2カ月ごとにローテーションして,1年間で全領域をカバーできるようにしています.併せて,研究マインドもしっかり養ってもらうべく,全員が秋の学会で発表をするため,各人に研究テーマを与え,研究も頑張ってもらっています.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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