書評
慢性痛のサイエンス 第2版—脳からみた痛みの機序と治療戦略
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著者:
小川節郎12
所属機関:
1日本大学
2総合東京病院ペイン緩和センター
ページ範囲:P.1057 - P.1057
慢性痛を理解するためのバイブルとされる半場道子氏の『慢性痛のサイエンス』が改訂された.本書は副題に「脳からみた痛みの機序と治療戦略」とあるように,慢性痛の謎解きに脳科学,神経科学の視点から迫った最初の本である(初版の序より).項目をみると,初版では,「第1章 慢性痛とは何か」,「第2章 慢性痛のメカニズム」,「第3章 侵害受容性の慢性痛」,「第4章 神経障害性の慢性痛」,「第5章 非器質性の慢性痛」,「第6章 慢性痛の治療法」,「第7章 神経変性疾患と慢性炎症」の7章であったが,第2版では,「第5章 非器質性の慢性痛」が「第5章 痛覚変調性の慢性痛」に変更され,さらに最近,大きな注目を集めている腸と脳の連関が第8章として追加されている.本書を改訂した大きな理由の一つとして,国際疼痛学会において「nociplastic pain」の概念が追加されたことを挙げている.わが国ではこれの日本語訳が「痛覚変調性疼痛」として承認され(日本痛み関連学会連合,2021年9月),本書の第5章として解説されている.
さて,慢性痛は単に急性痛が長引いたものではなく,脳回路網の変容による痛みが主体であるため,急性痛の機序と比べて非常に複雑で,かつ不明な点が多い.そのため治療に難渋するケースがほとんどである.しかし近年,機能的脳画像法の進歩によって脳内機構が解析されるようになり,痛みの概念に大きなパラダイムシフトが起きて,その脳内機構に合わせた治療法の開発が進んでいる(初版の序より).本書は各項目において脳内機構を基にした解説がなされ,これまで説明が困難であった痛みについて明快な紐解きがなされている.