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外傷性頚部症候群の長期予後と頚椎MRI所見に関する縦断的研究
著者: 大門憲史1 渡辺航太1 松本守雄1
所属機関: 1慶應義塾大学医学部整形外科学教室
ページ範囲:P.101 - P.106
文献購入ページに移動外傷性頚部症候群(whiplash-associated disorders:WAD)は,一般には,交通事故,特に追突事故時の急激な加減速に起因する頚部の過伸展と過屈曲による同部の軟部組織(筋,靱帯,椎間板,血管,神経)の損傷とされており,頚部痛や上肢痛のみならず,頭痛,耳鳴り,吐き気など多彩な症状を呈し得る1).2021年度の自賠責保険請求のうち,頚部の軽度の傷害に区分される傷病名の割合は全体の約27%であり2),今日においても,WADは交通事故傷害の重要な位置を占めている.
われわれが日常診療で遭遇する,いわゆる“むち打ち損傷”は,1995年に発表されたQuebec Task Forceの臨床分類3)におけるWADのGradeⅠおよびⅡに該当する.Matsumotoら4)は頚椎に関連した症状のない健常群と急性期WAD群の頚椎MRI所見を比較した結果,両群間に頚椎変性所見の差はみられなかったことを報告している(初回研究).Quebec Task Forceの臨床分類や上記の報告などを踏まえると,急性期WADのGradeⅠおよびⅡに関しては,MRIなどの一般画像検査では特徴的所見はないということはコンセンサスが得られている.
一方で,WADの病態が筋や靱帯,椎間板などの頚椎軟部組織の損傷であることを考えると,健常群とWAD群のMRI所見の差が長期経過後に生じてくる可能性はあるか,という疑問が生じる.WAD受傷後の長期経過に関する報告は散見され,Bunketorpら5)は108例のWAD患者の17年後の症状を調査し,55%で頚部痛などの残存する症状がみられたと報告している.また,Rookerら6)は22例のWAD患者を30年間フォローした結果,30年時の頚椎関連の症状は15年時と比較し,改善していたことを報告している.しかしながら,これらの研究は質問票をもとに行われた長期の縦断的研究であり,MRIなど画像検査を用いた縦断的研究は,われわれの渉猟し得た限りでは行われていない.
われわれは,初回研究に引き続き,受傷10年後および20年後に同一の対象者に対してMRI撮影と診察を行い,WAD患者の長期経過後の症状および頚椎MRI所見の変化について明らかにした7,8).本稿では,われわれの行った縦断的研究に基づき,WADが受傷後長期経過後に及ぼす症状の変化と頚椎MRI所見の変化について概説する9).
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