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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科59巻10号

2024年10月発行

雑誌目次

特集 整形外科医のための臨床研究の進め方—立案から実施まで

緒言 フリーアクセス

著者: 関口美穂

ページ範囲:P.1173 - P.1173

 人を対象とする生命科学・医学系研究は,社会的および学術的意義を有し,研究分野の特性に応じた科学的合理性を確保することが求められている.また,人間の尊厳および人権が守られ,研究の適正な推進が図られるようにすることを目的として,人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針が制定されている.研究開始前の倫理審査の必要性を含め,研究の立案と実施のポイント,およびデータの解釈を理解することで,適切な臨床研究の遂行につながることを期待し,本特集を企画させていただいた.

 まず,研究に求められる倫理的原則に関連し,小林孝巨先生には研究の種類とそれぞれの概要について,青木保親先生には臨床研究の倫理的原則と配慮について,藤田卓仙先生には個人情報保護に関連する用語とそれらを解説していただいた.小田剛紀先生には,倫理審査の手続きと,整形外科領域に関連する研究における適切な倫理的手続きについて,研究者への積極的な啓発の必要性をお示しいただいた.

人を対象とする研究の種類とその概要

著者: 小林孝巨 ,   嶋﨑貴文 ,   杉野晴章 ,   関口美穂 ,   森本忠嗣

ページ範囲:P.1175 - P.1179

人を対象とする医療系研究の倫理指針の内容に準ずる研究の種類として,法令の規定により実施される研究,法令の定める基準の適応範囲に含まれる研究,研究用として広く利用され,一般に入手可能な試料・情報,既に匿名化されている情報,および匿名加工情報又は非識別加工情報を用いる研究,症例報告,観察研究,侵襲研究,介入研究,ヒトゲノム・遺伝子解析研究,およびヒトES細胞,ヒトiPS細胞,ヒト組織幹細胞を利用した基礎研究/再生医療に関する臨床研究/ヒトの遺伝子治療に関する研究がある.それぞれの概要について解説する.

臨床研究の倫理的原則と配慮

著者: 青木保親

ページ範囲:P.1181 - P.1184

わが国における臨床研究は,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守して進めることが原則である.それにより研究対象者の生命,健康および人権を守りながら臨床研究を行うことができる.研究者は研究対象者の負担やリスクを最小となる形で科学的合理性のある研究を行う.研究の実行から研究成果の公表に至るまで,個人情報の保護や利益相反の管理にも配慮することが求められる.研究責任者は個人的に倫理的妥当性を判断するのではなく,倫理審査委員会による客観的評価を受けたうえで臨床研究を行う必要がある.

個人情報保護に関連する用語とその解釈

著者: 藤田卓仙

ページ範囲:P.1185 - P.1190

個人情報保護法は3年毎に改正の検討が行われる.その次回の見直しに向けての検討において,現在,複数の用語の定義が乱立している課題が指摘されている.個人情報保護法の用語は,研究倫理指針でも同じ定義で用いられるため,医学研究を行う研究者にも一定の理解が求められる.本稿では,「個人情報」「要配慮個人情報」等の重要なものに絞って解説を行う.また「同意」に関する考え方は,個人情報保護法におけるものと研究倫理指針や臨床現場におけるインフォームド・コンセントと異なる部分があると思われるため,留意が必要である.

臨床現場からのクリニカルクエスチョンの整理と構造化

著者: 小野玲

ページ範囲:P.1191 - P.1196

臨床研究は,目の前の患者の切実な課題を解決できる可能性がある.しかし,臨床での疑問であるクリニカルクエスチョン(CQ)をリサーチクエスチョン(RQ)に整理し,構造化するには一定のお作法が必要となる.CQをもつと,その疑問が「既知」なのか「未知」なのかについて,成書または論文を調べることで,自分のCQが研究するに値するか判断する必要がある.RQは研究で明らかにしたいことをPECOまたはPICOの形に構造化することで,漠然としていたCQをより具体的に,回答可能な形にすることができる.RQを作成する段階では,FIRM2NESSの観点から整理・構造化すると便利である.本稿では実例を通じて,CQからRQへのプロセスを紹介する.

臨床研究のデザイン

著者: 竹上未紗

ページ範囲:P.1197 - P.1202

臨床研究の実施において,リサーチクエスチョンの構造化の次の大きな山場はそれを研究デザインに落とし込む作業である.研究デザインにはさまざまな種類がある.現実の研究環境に照らし合わせたうえで,最も質の高い結果が得られる研究デザインが,自身の研究にとっての最適な研究デザインである.比較が目的の研究においては,要因と結果の関連をより確かにするために,偶然誤差,バイアス,交絡,原因と結果の時間的順序からの検討が必要となる.質の高い臨床研究となるか否かは,デザインの段階からの適切な対応にかかっている.

調査の留意点—アンケート調査を中心に

著者: 大谷晃司

ページ範囲:P.1203 - P.1207

倫理委員会に提出する計画書の作成と並行して,具体的に何を調査するのかを調査票の形で具現化しなければならない.既存の評価票を使う場合,版権について,使用前に確認しておく必要がある.また,アウトカムに関連する予後因子,要因やアウトカムに関連する交絡因子を過不足なく測定できるように,調査項目を厳選しなければならない.本稿では,調査票の作成や準備,実際の調査やデータシート作成の留意点について,筆者の経験を踏まえて概説する.

臨床研究におけるデータ解析

著者: 富永亮司

ページ範囲:P.1209 - P.1215

臨床研究におけるデータ解析は,研究結果の信頼性と精度を向上させ,エビデンスに基づく医療を実践するために不可欠である.整形外科医にとって,データ解析は専門外の領域かもしれないが,その理解と活用により,研究成果の真価を引き出すことができる.データ解析は「データの要約とクリーニング」「データの記述」,そして「単変量解析と多変量解析」という3つのステップに分かれており,それぞれが研究の質を左右する重要な役割を果たす.これらの技術を習得し,研究に積極的に活用することで,より質の高いエビデンスを得ることができるであろう.しかし,データ解析の結果を医学的に解釈する際には,臨床的な視点が不可欠であることを忘れてはならない.

臨床研究における効果の指標—効果の大きさを臨床的に伝え,解釈するための戦略

著者: 栗田宜明

ページ範囲:P.1217 - P.1223

本稿では,臨床研究の「効果の指標」にフォーカスして,結果の解釈に関する代表的なアプローチを説明する.そのためにまず,効果の指標はアウトカム指標の変数の型,臨床疫学研究のデザインの型,効果の指標の表示方法の組み合わせによって決まることを解説する.次に,連続変数の統計的な有意差の解釈を,アンカリングや臨床的に重要な最小限の差(MCID)によって説明する.最後に,改善の有無のような二値の治療効果の大きさの評価方法を説明する.

臨床研究における倫理的手続き

著者: 小田剛紀

ページ範囲:P.1225 - P.1231

医学系研究は,研究対象者の尊厳と人権を守ることが基本である.本稿では,臨床研究における倫理的手続きを概説する.新たな臨床研究開始の際には,倫理審査委員会での審査を受け,研究機関の長の承認を受ける必要がある.学術論文投稿では,当該研究の倫理審査委員会の承認に関する記載が求められる.承認を受けた倫理審査委員会の施設・承認番号の開示や倫理審査委員会からの文書提出を求める投稿規程もある.学術集会の演題応募においても倫理的手続きが求められるようになっている.2023(令和5)年に日本医学会連合がその指針を公開した.演題を研究の種類によりカテゴリーに分類し,分類に対応した倫理的手続きが明記されている.既存情報のみを扱う観察研究でも倫理的手続きが必要であることを認識しておかなければならない.

Lecture

整形外科領域のゲノム医療

著者: 小林寛

ページ範囲:P.1235 - P.1239

ゲノム医療とは?

 がんの発生は,遺伝子の異常によって蛋白質の機能が亢進して細胞増殖シグナルなどが活性化する,もしくは正常な蛋白質の機能が失活することが原因となる.単一の遺伝子異常によってがんが発生することは稀で,遺伝子異常が蓄積,または一気に多くの遺伝子異常が生じることによる.

 ゲノム医療とは,従来はがん種ごとに治療薬を決めていたのに対して,ゲノム検査を行うことによって,がん種にかかわらず,各患者さんの腫瘍に生じている遺伝子異常に応じた治療を行うことをいう(臓器横断的治療薬)(図1).

境界領域/知っておきたい

硬膜異常を伴う脳表ヘモジデリン沈着症

著者: 吉井俊貴 ,   橋本泉智

ページ範囲:P.1240 - P.1246

はじめに

 脳表ヘモジデリン沈着症(superficial siderosis:SS)は,くも膜下腔での持続的あるいは反復的な出血によりヘモジデリンが脳,脊髄表面に沈着して,酸化ストレスにより神経障害を引き起こす疾患である.特に脳幹部や小脳に沈着を起こしやすく,小脳失調や感音性難聴,錐体路障害などの中枢神経症状を進行性に引き起こす.40歳以降の男性に好発する.原因としては,脊髄腫瘍や動静脈奇形などの血管異常,頭部外傷でも起こり得るが,髄膜異常に起因するものがあり,近年注目されている.過去の報告では,SS患者48例中40例(83%)に頭蓋または脊髄硬膜異常を認め,48例中21例(44%)に硬膜欠損を認めた.その中でも,硬膜腹側欠損が9例であったと報告されている1).近年,このSSという疾患の認識が脳神経内科,整形外科,脳神経外科,放射線科の領域で広がっており,比較的早期に発見されるケースが増えてきている.当科では硬膜異常を伴うSS患者を多数治療しており,これまで60例近い症例を経験している.本稿では,硬膜腹側の「硬膜欠損」に伴うSSに関してその特徴,診断,治療について述べる.

臨床経験

Fracture Liaison Service(FLS)介入後の通院中断例の特徴とその関連因子の解明

著者: 山下真史 ,   山﨑久 ,   南瑠那 ,   沢辺一馬 ,   荒木雅人

ページ範囲:P.1247 - P.1251

背景:通院中断への関連因子を明らかにし,通院継続率を向上することが本研究の目的である.対象と方法:2021〜2022年に当院へ椎体骨折または大腿骨近位部骨折で入院した延べ150例を対象とし,退院1年後通院中断群・通院継続群の2群に分け検討を行った.結果:1年後通院中断群90例(60%)では比較的高齢であり,退院後骨粗鬆症に対して投薬されなかった例,認知症,独居例,要介護状態が多い傾向であった.まとめ:骨粗鬆症薬投与,特に注射薬が通院継続に関与しており,認知症,独居,要介護高齢者は特にサポートが必要である.

症例報告

橈骨遠位端骨折の抜釘術後に正中神経の神経剥離術を要した4例

著者: 本田宗一郎 ,   多田薫 ,   赤羽美香 ,   中村勇太 ,   森灯 ,   出村諭

ページ範囲:P.1253 - P.1256

橈骨遠位端骨折術後の抜釘術に伴う合併症の報告は少ないが,当科では抜釘術後に正中神経障害を発症し神経剥離術を要した4例を経験した.いずれの症例も神経剥離術により症状の改善を認めたが,最終経過観察時に症状が遺残していた.橈骨遠位端骨折術後の抜釘術の際は正中神経の走行に注意するとともに,組織に対する愛護的な操作を心掛けるべきである.

書評

—医学研究のための—因果推論レクチャー フリーアクセス

著者: 玉腰暁子

ページ範囲:P.1233 - P.1233

 近年,医学・公衆衛生学において因果推論の重要性が高まっています.因果推論によって,より適切な治療や保健指導法を選択できるようになるのはもちろん,医療資源の配分を検討する一助にもなるからです.本書『医学研究のための因果推論レクチャー』は,日本疫学会や日本公衆衛生学会でも活躍されている新進気鋭の研究者である井上浩輔先生(京大大学院特定准教授),杉山雄大先生(筑波大教授/国立国際医療研究センター研究室長),後藤温先生(横市大主任教授/日本疫学会理事)が,臨床疫学研究や疫学研究に携わる方々に向けて,因果推論の考え方と手法を解説した一冊です.

 医学研究の中でも特に治療や予後を扱う臨床研究や病因を扱う疫学研究の目的は,介入できる要因を見つけ,適切な治療法や予防法を見いだすことです.そのためには,単に統計学的な関連にとどまらず,因果にいかに迫るかが重要なのは,研究に携わる全ての研究者が認識している点でしょう.

運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学 第2版—徒手療法がわかるWeb動画付 フリーアクセス

著者: 面谷透

ページ範囲:P.1252 - P.1252

 本書は,整形外科医をはじめとする医師こそ読むべき書籍であると考えています.

 整形外科では,どうしても手術適応かそうでないかが焦点となりがちです.手術適応にならない場合には保存治療が行われますが,その一つとして適用される理学療法をあらかじめ想定し,実際に行われている内容を十分に把握している医師がどれだけいるでしょうか.

感染対策60のQ&A フリーアクセス

著者: 山田和範

ページ範囲:P.1257 - P.1257

 コロナ禍を経て,全ての医療従事者は以前にも増して,正しい知識に基づいた感染対策を実践することを求められるようになった.得てして,施設の感染対策では現場と管理側スタッフの行動が乖離していることがある.真面目な管理スタッフほど,無意識に正論を振りかざし,現場スタッフは「感染は現場で起きているんだ!」と言いたい気持ちをこらえ,独自のルールを運用してささやかな抵抗をしていたりする.両者がめざすゴールは同じで「感染から患者さんと医療スタッフを守りたい」はずなのだが…….そしてこの小さな綻びを突いて,感染症やアウトブイレクが発生したりする.このような「現場と管理側スタッフとの行動の乖離」は,突き詰めれば両者の視点がズレていることが原因である.このズレを解消する糸口の1つとなるのが本書である.

 一般的にHow to本の記載は,最新で充実した施設が前提となっていることが多く,そうではない(経年が目立ち設備面でも恵まれていない)施設では,「そこまでできないなぁ」と諦めがちである.しかし,本書は,充実した環境での対応のみならず,現在のセッティングでできることにも言及しており,どんな施設・環境であっても感染対策に取り組む上での羅針盤になる.そして,押さえるべきポイントはしっかりと押さえられており,妥協がない部分は小気味よい.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1170 - P.1171

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1172 - P.1172

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1259 - P.1259

あとがき フリーアクセス

著者: 松本守雄

ページ範囲:P.1262 - P.1262

 地球温暖化の影響を受けてのことと思いますが,毎日信じられないくらい熱い日が続き,亜熱帯かと思うような突然の豪雨に見舞われることもある8月初旬に本稿を書いています.テレビでは連日パリ2024オリンピック競技大会の放送が流れ,日本勢の活躍も大きくクローズアップされています.わずか3年前に東京2020大会がCOVID-19のパンデミック下に無観客で行われたのとは対称的に,会場は各国からの大勢の観客に埋め尽くされ,大声援の中で競技が行われ,選手の気持ちも自ら高揚していくものと思います.オリンピックにはさまざまな競技がありますが,いずれの競技にも基本動作があり,また定められたルールがあります.その上で選手は高揚する気持ちをコントロールしながらベストなパフォーマンスを追求していくことになるのだと思います.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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