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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科59巻12号

2024年12月発行

雑誌目次

特集 初療対応からきれいな指再建まで 指尖部切断に対する治療

緒言 フリーアクセス

著者: 四宮陸雄

ページ範囲:P.1369 - P.1369

 指尖部切断は整形外科医であれば,遭遇する機会の多い外傷である.昨今のDIYブームもあり,指切断全体に占める頻度は増加傾向のように感じる.治療方針は損傷形態や本人の社会的背景などを考慮しながら決めていく必要があるが,保存治療,断端形成,再接着,皮弁形成,足趾移植など多岐にわたる.指尖部切断に詳しい手外科専門医であれば迅速な診断と意思決定がなされるであろうが,一般整形外科医には難しいことも多い.一方,私を含めた実際の治療に従事する医師は少しでも成績を向上させるためのコツやテクニックを知りたい.そこで,今回の特集では指尖部切断の初療を行う可能性のある一般整形外科医から実際の手術加療を行う医師まで幅広く役立つ内容となることを目指した.

 林 悠太先生には初療時の対応について,専門施設に緊急搬送できない場合の対処方法など一般的にはあまり語られていない内容について触れていただいた.長谷川健二郎先生には自施設で施行されている指尖部切断の保存療法をご紹介いただいた.整容と機能を意識した手技であり大変興味深い内容である.実際の手術治療に関しては,再接着と皮弁の適応と実際について松井裕帝先生,河村健二先生,宇佐美 聡先生,日比野直仁先生,太田英之先生,山内大輔先生,金城養典先生に執筆いただいた.特に血管の探し方から縫合前までのセッティング,使用する器具や縫合時のポイント,術後管理に至る細かいコツやテクニックに配慮いただいた.第一線でご活躍されている先生方のこだわりが垣間見え,実践書として役立つ内容が満載である.最後に形成外科医である石河利広先生と松末武雄先生には指尖部損傷の中でも爪を含めたきれいな指をつくることへのこだわりを執筆いただいた.手は顔についで人目に曝される部位であり,整容を意識した再建について,本特集に必ず組み込みたかった内容である.大変わかりやすくまとめていただいており,整形外科医には一読していただきたい.

一般整形外科医が初療を行う場合に考えること

著者: 林悠太 ,   四宮陸雄

ページ範囲:P.1371 - P.1376

手指再接着は石川分類subzoneⅡ以上が適応であり,指尖部損傷治療の第一選択は再接着であるが,切断形態,患者背景や希望により一次縫合,断端形成,保存療法,皮弁形成という選択肢もある.初療では十分な鎮痛処置の下で損傷評価と洗浄を行う.再接着の適応があれば遠位断端を冷却保存した状態で速やかに専門施設へ転送するが,その他治療はwet dressingを行った後,日を改めて治療してもよい.

指尖部切断に対する保存療法の適応と限界

著者: 長谷川健二郎 ,   新井理恵

ページ範囲:P.1377 - P.1382

切断指,特に玉井分類zoneⅠ指尖部切断における治療のポイントは①治療により関節可動域制限を起こさないこと,②健側に近い知覚を獲得すること,③爪を含めた指尖部の良好な形態を再建すること,である.指・手の陰圧閉鎖療法においては,早期運動療法を治療開始時から始めることが大切であり,残された機能を最大限に温存する必要がある.1本の切断指に対してはわれわれの考案した指用陰圧閉鎖療法を用い,zoneⅣ〜Ⅴの切断指や複数指切断に対しては袋型陰圧閉鎖療法を用いている.

専門施設での指尖部切断に対する治療戦略×マイ・ルール

Sapporo Tokushukai Orthopedic Trauma Center式指尖部切断成功の秘訣

著者: 松井裕帝

ページ範囲:P.1383 - P.1389

本稿では,指尖部切断の治療方針について,札幌徳洲会病院整形外科外傷センターの治療戦略を述べる.特に再接着か皮弁再建(graft on flap法)かの選択において議論の分かれる玉井zoneⅠ石川subzoneⅡでの治療選択の判断について,代表的な症例を紹介しながら各ケースに応じた治療法を示す.また,再接着術を選択する症例では,確実な動脈吻合が成功への鍵となる.われわれが実践している切断指の術前preparation時の吻合血管を見つけるコツ,動脈吻合の成功率を上げるために吻合時に試みている工夫を紹介する.

指尖部切断に対する皮弁形成術

著者: 河村健二

ページ範囲:P.1391 - P.1395

指尖部切断において再接着術が困難な症例に対しては,皮弁形成術が有用である.皮弁形成術は習得が容易であり,機能的に再接着術と同等の結果を得ることが可能である.皮弁の種類は切断面の形状と大きさにより掌側前進皮弁か逆行性指動脈皮弁を選択する.石川分類subzone IIの指尖部切断は,皮弁形成術単独よりもgraft on flap法を行うことで整容的に優れた結果が得られる.皮弁形成術後にはPIP関節の屈曲拘縮を来さないように,早期にリハビリテーションを開始する.

整容面と機能面を両立する指尖部切断の治療

著者: 宇佐美聡

ページ範囲:P.1397 - P.1402

指尖部の掌側は厚く耐久性があり,かつ神経終末器官を含む皮膚で覆われ,背側には爪甲や爪床といった特殊な組織を有する.機能的な手指に戻すには整容性にも配慮が必要で,整容的に受け入れられないと使用頻度が減り,機能的な損失にもつながることがある.切断指の第一選択は再接着術であるが,再接着が不可能な指尖に関しては各種皮弁を用いて再建を行う.その際重要なのはできるだけ類似した組織を用いることである.基本的に長軸10〜12mm以下の欠損には前進皮弁,それ以上の大きさの欠損には逆行性指動脈皮弁や遊離皮弁を用いている.

—指尖部切断 マイルール—基本,断端があれば再接合をお勧めしています.

著者: 日比野直仁

ページ範囲:P.1403 - P.1408

当院での指尖部切断治療は,断端が存在し,約3週間の入院,1週間の床上安静を受け入れ可能な患者さんに対して,断端に最低でも吻合可能な動脈があれば,断端の状態によらず再接合を試みている.断端があるにもかかわらず上記を受け入れられない患者さんに関しては,graft on flap(GOF)を提案している.筆者はマイクロサージャリーの技術習得については,ラットでの血管吻合練習後,切断指再接合に取り組むようになり,研修先の施設の先輩方のアドバイスを受けながら自分のなかのルールを形づくってきた.この経験をもとにした知恵が皆様の臨床の一助となれば幸いである.

指尖部切断に対する指尖部再建の実際

著者: 太田英之 ,   藤原祐樹 ,   丹羽智史 ,   張萌雄 ,   爲本智行 ,   高見英臣 ,   稲垣慶之

ページ範囲:P.1409 - P.1418

指切断は手外科医が遭遇する外傷のひとつであるが,近年,基節レベルや手部での切断は減少し指尖部切断が増加している.切断指が再接着可能な状態であれば再接着術を選択するのが望ましいが,指尖部切断の場合,切断指が圧挫されていたり,失われていたりして再接着が不可能な症例も多い.今回,われわれの施設で行っている指尖部再建について,皮弁による再建を中心に治療の実際を述べる.

私の行っている指尖部再接着術

著者: 山内大輔

ページ範囲:P.1419 - P.1426

指尖部再接着術は,手術の適応,血管の探し方,セッティング,実際の吻合,静脈移植の適応と手技,術中・術後の管理など,一般の整形外科医が行っている手術とは全く異なるが,それでも一定の手順があり,多くやっていればルーチンの手術になる.その一助となるように私の行っている指尖部再接着術について詳細に述べた.

指尖部再接着—手術手技と治療成績

著者: 金城養典

ページ範囲:P.1427 - P.1432

指尖部切断は整容および機能の良好な回復が期待できるため,切断指再接着術のよい適応である.高倍率顕微鏡や手術機器・技術の進歩により0.5mm以下の血管吻合(ultramicrosurgery)が可能になり,指尖部再接着術の良好な治療成績が報告されている.本稿では指尖部再接着術について,適応と分類,手術手技,術後管理および後療法,治療成績について述べる.

きれいな指再建へのこだわり

外傷性爪変形の治療

著者: 石河利広

ページ範囲:P.1433 - P.1440

外傷性爪変形の治療は,爪母,爪床,末節骨,指尖部軟部組織が傷害されることにより生じる断端痛と爪の整容性の治療である.皮弁と骨移植を組み合わせれば指尖部切断後に生じることが多い鉤爪変形の治療は可能である.局所皮弁,遊離皮弁,遊離複合組織移植,それぞれの長所短所を理解し,患者の愁訴,傷害されたおのおのの組織の状態,皮弁採取部の犠牲を勘案して再建方法を決定する.

足趾を用いたきれいな指再建へのこだわり—10の要素を満たすアプローチ

著者: 松末武雄

ページ範囲:P.1441 - P.1449

部分足趾移植術にはhemipulp flap,osteo-onychocutaneous flap,wrap-around flapなどの方法があり,指尖部組織欠損の形態に合わせた方法が選択される.本稿では,きれいな指の要素として10の要素を提示し,それぞれの要素を満たすためにどのような手技を行えばよいのかを解説する.そして,各種部分足趾移植におけるきれいな指再建に必要な手技や考え方は共通であり,それらの組み合わせでさまざまな欠損パターンに対応できることを示す.

境界領域/知っておきたい

メノポハンド(Menopausal Hand,更年期手)

著者: 平瀬雄一

ページ範囲:P.1452 - P.1456

はじめに

 手指の不定愁訴は,更年期あるいは更年期以降,さらに産後授乳期に多くみられる.主な手指の変性疾患は更年期以降に集中して発症しており,実際の臨床でもよく経験する.患者の多くが発する質問は「私の手はなぜ痛いのか,どうして私だけが痛いのか」といったものであるが,返答が難しい疑問であった.最近,こうした手指の不調は女性ホルモン,特にエストロゲンの変化と濃厚に関連しているのではないかという指摘がされるようになってきている1).エストロゲンの急激な変化はいわゆる更年期(女性であれば40歳以降,男性であれば60歳前後)に起こるため,その時期にみられる手指の不調を更年期手(menopausal hand,以下メノポハンド)と呼ぶようになった.最近の研究成果を踏まえて,手指不調の発症の背景について考察したい.

臨床経験

新規脊椎内視鏡システムSYNCHAを用いた経椎間孔的腰椎椎体間固定術

著者: 岡田基宏 ,   𠮷田宗人 ,   野村和教 ,   中村陽介 ,   矢渡健一 ,   岡田紗枝

ページ範囲:P.1459 - P.1468

背景:腰椎不安定症に対する従来の固定術は低侵襲手術とは言いがたく,近年導入された側方進入椎体間固定術(LLIF)も重大な合併症の危険性があった.当院では2022年3月にSYNCHA®を用いた腰椎内視鏡下経椎間孔的椎体間固定術に着手した.対象と方法:1年以上経過観察を行った9例を対象とした.手術時間,術中出血量,JOAスコア,改善率,椎間板高・すべり度の変化,在院日数,骨癒合率,合併症を調査した.結果:手技の習熟とともに手術時間は短縮し,出血量も減少していた.臨床成績も良好であり,周術期合併症を認めなかった.まとめ:本法は低侵襲かつ安全な手術手技である.

書評

手の構造 Structures of the Hand フリーアクセス

著者: 水関隆也

ページ範囲:P.1451 - P.1451

 「何だこの本は?」誰もがこの本を手に取ると感じるに違いない第一印象.本書の帯に「医学か,芸術か.」とある.興味津々,本書を開いてみると,1ページ目から人の手の皮膚を剥いだモノクロ写真が飛び込んでくる.手外科を生業にしているわれわれには見慣れた画像ではあるが,機能的に配置された手指の構築物をあらためて俯瞰すると,それは確かに芸術作品にも見えてくる.

 解剖経験者であれば容易に想像できるが,一見簡単そうに見える解剖写真の見栄えを整えることはそう簡単ではない.著者が序章で書いているようにホルマリン防腐処理を受けた屍体は変質して,とても観賞に耐える写真はつくりえない.冷凍屍体は時間とともに乾燥して新鮮さを失う.実際の手術時の所見に近づけるため,著者は繰り返し水に浸し標本の湿気を維持している.この段階ですでに標本作成の苦労は想像に難くない.仮に標本の保存がうまく行われたとしても,解剖を進める際に組織を間違って切りつけたり,切除したりして思うような標本ができないと最初から解剖をやり直すはめになる.標本が完成したら次なる課題は写真撮影である.本書には,写真家としても知られる著者であればこそ撮影できる写真が随所に見られる.素晴らしいクオリティの写真である.

こどもの入院管理ゴールデンルール フリーアクセス

著者: 山下由理子

ページ範囲:P.1457 - P.1457

 小児科の世界に足を踏み入れた後に,網羅すべき範囲の広さに絶望したことがある人はきっと少なくない.皮膚疾患から先天性心疾患まで,風邪っぴきから最重症患者まで,専門家の力を借りるとはいえども主治医として対峙しなくてはならない.成書を熟読すべきなのはわかっているが,次々に訪れる患者の対応をしながらではとても勉強が追いつかない.すがる思いで白衣のポケットに入れた“あんちょこ本”は助けてくれはすれど,書いてあるのは初手のみ.その後の“診かた”はローカルルールかフィーリングに任せる.後に上級医に「ちゃんと診なさい」と叱られることになるが,「その“ちゃんと”がわからないのよ?」と心の中で呟いたことがあるのは私だけではないだろう.

 本書は紛れもなく,その“ちゃんと”を具体的に教えてくれる指南書である.

ジェネラリストのための内科診断リファレンス 第2版 フリーアクセス

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.1469 - P.1469

 10年前にも本書の書評を書いた.本書を読んだ感想をまとめると,本書はシステム2的な分析的推論を行うための当時最強のツールであり,EBM実践のためのクイックなデータブックである,であった.臨床疫学の各論必携本と呼んでもよい.

 あれから10年,われわれジェネラリストが待っていた第2版がついに出た.待ちこがれていた理由は,医学は日進月歩で変化し発展するからだ.新たな疾患概念や病歴,身体所見,そして診断検査のデータを供給する論文が無数に出版されている.3万もの論文の中から新しくかつ重要な情報を追加してくれている.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1366 - P.1367

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1368 - P.1368

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1471 - P.1471

あとがき フリーアクセス

著者: 黒田良祐

ページ範囲:P.1474 - P.1474

 10月に入り,暦では秋ですが,今日も東京は最高気温が30℃を超えました.来週から少しずつ涼しくなるとかならないとか.最近の日本の四季は,夏が超長く,秋が極端に短くなっています.地球温暖化がどんどん加速しているようですが,今冬は冬型の気圧配置が強まり,随分寒くなるようで,ウィンター・スポーツ好きの私には朗報です.本号が発刊される12月にはきっと冬が到来していることでしょう.

 今年下半期はいろいろ新しくなります.20年ぶりにお札が新しくなり,一万円は渋沢栄一,五千円は津田梅子,千円は北里柴三郎になりました.日本の近代化に貢献した,世界に誇るべき人物であることから選定されたそうです.日本の総理大臣が石破 茂になりました.「地方創生2.0」再起動宣言があり,地方に住む私としましては大いに期待をしています.米国の大統領が間もなく交代します.数カ月前は「もしトラ」(もしドナルド・トランプが米国大統領になったら)という意味のネットスラング)でしたが,今は「ほぼトラ」が現実味を帯びてきました.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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