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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科59巻2号

2024年02月発行

雑誌目次

特集 ここまで来た! 胸郭出口症候群の診断と治療

緒言 フリーアクセス

著者: 古島弘三

ページ範囲:P.129 - P.129

 胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome:TOS)は,整形外科の分野で広く知られているものの,依然として解決されていない神経・血管障害です.この症候群の診断と治療は複雑であり,症状は容易には改善されないことも多いのが事実です.手術治療もしばしば避けられる傾向にあります.そのため,多くの患者がさまざまな医療機関を転々としてしまうことも珍しくなく,場合によっては精神疾患と誤診されてしまうこともあります.

 TOSの歴史を振り返ると,以前は腕神経叢の圧迫が主な原因と考えられ,胸郭出口周囲の絞扼性末梢神経疾患と関連づけられてきました.これに基づき,多くの圧迫症候群が提唱され,診断方法に関する研究が進められてきました.しかし,圧迫だけではなく牽引刺激も症状に影響を与えます.つまり,圧迫と牽引という2つの物理的要因が症状を引き起こすという概念が以前から注目され,治療を困難にしています.圧迫因子が主なら手術治療による改善が期待できますが,牽引による症状の改善は難しいことが多いです.この牽引による症状の評価と治療方法の確立は,今後の課題と言えるでしょう.

胸郭出口症候群研究の推移と腕神経叢牽引の意義

著者: 北村歳男

ページ範囲:P.131 - P.135

胸郭出口症候群には未解決の領域が多く残存し,現在も研究過程にある.歴史的には腕神経叢の圧迫を原因とする部位同定の詳細を追究する時期があった.胸郭出口周囲の絞扼性末梢神経疾患として多くの圧迫症候群が提唱され,診察や診断法に関わる多くの研究がなされた.一方で,圧迫とは異なる牽引刺激があるという概念の提唱があった.圧迫と牽引の2つの物理要因により肩甲帯の動きの中で症状が惹起される考えは,臨床的特徴の見直しや診察方法,治療において大きな変化を与えた.研究の歴史的推移の中での牽引型の研究内容と意義について述べた.

解剖研究と文献から考える胸郭出口症候群の安全な治療

著者: 佐竹寛史 ,   仁藤敏哉

ページ範囲:P.137 - P.142

胸郭出口症候群を発症する部位は斜角筋間,肋鎖間隙,および小胸筋・烏口突起部であると言われており,当科では斜角筋間や肋鎖間隙の狭窄症例に手術を行ってきた.解剖研究や内視鏡補助下手術により,前方から鎖骨下静脈,前斜角筋,鎖骨下動脈,腕神経叢,および中斜角筋が走行していることがわかった.前斜角筋は第1肋骨上方に停止しているとされるが,ほとんどは第1肋骨後方に停止しており,中斜角筋は上方に停止していた.

CT,エコーを用いた胸郭出口症候群の診断

著者: 井上彰 ,   古島弘三

ページ範囲:P.143 - P.152

胸郭出口症候群は,肋鎖間隙や斜角筋間隙で神経血管束が圧迫や牽引されることによって症状が誘発される.その胸郭出口部には先天的な破格が多いことが知られており,頚肋や斜角筋三角底辺距離の狭小化,頚肋から起始する異常線維束などが挙げられる.胸郭出口症候群の治療を進めるうえで,これらの破格の可視化は極めて重要である.当院では,その破格の可視化にcomputed tomography(CT)やエコーを用いて診療を行っている.本稿では,当院におけるCTとエコー検査について解説する.

胸郭出口症候群の腕神経叢造影

著者: 森本友紀子 ,   髙松聖仁

ページ範囲:P.153 - P.159

胸郭出口症候群の大多数は神経性であり,その中にも圧迫型・牽引型・混合型とさまざまな病態がある.病態把握のために神経自体の評価である腕神経叢造影は有用である.特に圧迫型においては,われわれは肋鎖間隙における神経の圧迫を定量化することにより評価基準が明確になると考え,腕神経叢造影後に3D-CTを撮影し,肋鎖間隙の狭小化・腕神経叢の圧迫の程度を計測している.定量化を行うことは,病態の把握・診断ならびに手術加療をはじめとした治療に有用であると考える.

胸郭出口症候群のMRI診断

著者: 小川健

ページ範囲:P.161 - P.165

胸郭出口症候群という難しい病態に対して,単純にMRIのみで診断するということはできない.本稿では,最大値投射法を用い撮像条件や撮像方法を工夫することで,鎖骨下動静脈を視覚的に鮮明に描出させ,その診断の補助となり得たことを紹介する.この最大値投射法を用いたMRIであるが,あくまでも胸郭出口症候群の補助診断としての位置付けと考えており,広く普及し発展するにはさらなる検討が必要である.

神経磁界計測による胸郭出口症候群の神経機能障害部位の可視化

著者: 山田哲也 ,   川端茂徳 ,   佐々木亨

ページ範囲:P.167 - P.173

胸郭出口症候群において,深部に存在する腕神経叢の障害部位を可視化することは介在する骨,軟部組織のために困難である.神経磁界計測は神経の電気活動によって生じる磁界から電流を逆計算する検査法であり,骨,軟部組織の影響を受けにくい.既存の形態的検査と重畳することにより,無侵襲に高い空間分解能で従来困難であった胸郭出口症候群の神経機能の障害部位を可視化することができる.神経磁界計測が胸郭出口症候群の診療の発展に大きく寄与することが期待される.

当院での胸郭出口症候群の診断と治療の実際—Endoscopic Assisted Transaxillary Approach (EATA)

著者: 高橋啓 ,   古島弘三

ページ範囲:P.175 - P.182

当院での胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome:TOS)に対する手術は,経腋窩アプローチによる内視鏡アシスト下での第1肋骨切除および斜角筋切離術を施行している.内視鏡を併用する利点は,直視下法では確保しにくい手術野がモニターへ映し出されるため安全かつ確実に第1肋骨および斜角筋切離が可能な点である.当院は他院で診断に難渋する上肢痛やしびれを主訴とする症例も多く来院されるが,これまでTOSの術後に劇的に改善する症例を経験しており,われわれは最後の砦と考え手術を施行している.本稿では当院でのTOS治療を紹介する.

胸郭出口症候群に対する内視鏡補助下鎖骨下アプローチによる第1肋骨切除術

著者: 鈴木拓

ページ範囲:P.183 - P.189

胸郭出口症候群に対しては,これまでにさまざまな外科的アプローチが報告されてきた.近年では内視鏡を用いたアプローチも報告されており,外科手術の進歩によって,手術の侵襲や合併症のリスクは軽減されている.本稿では,筆者が報告した内視鏡補助下鎖骨下アプローチによる第1肋骨切除術について解説する.内視鏡補助下経鎖骨下アプローチは,比較的合併症は少なく,成績も良好で胸郭出口症候群の手術アプローチの選択肢として考慮してよいと思われる.

胸郭出口症候群に対するメディカルリハビリテーション(保存療法)

著者: 宇良田大悟

ページ範囲:P.191 - P.198

胸郭出口症候群のメディカルリハビリテーションを行ううえで,解剖と病態の把握は重要である.重要なポイントは,斜角筋間隙,肋鎖間隙,小胸筋下間隙での神経血管束の圧迫・牽引をいかに減ずることができるかということである.そのためには肩甲胸郭関節の機能が重要な鍵を握る.また,尺骨神経をはじめとする末梢神経の滑走不全・伸張性低下が症状に関与していることも多い.本稿では,胸郭出口症候群の保存療法について,肩甲胸郭機能不全と神経滑走性・伸張性に焦点を絞って概説する.

アスリートに対する胸郭出口症候群の治療

著者: 下河邉久雄

ページ範囲:P.199 - P.206

胸郭出口症候群(TOS)は,アスリートにとって競技動作のみならず日常生活動作にも支障を来す可能性がある障害である.主訴は肩・肘痛のことが多く,安易に「投球障害肩」や「野球肘」などと診断され漫然とリハビリテーション加療が行われ,症状が遷延・悪化することも少なくない.特に投擲動作を繰り返すオーバーヘッドスポーツ選手の診療ではTOSを鑑別におき診療にあたることが重要である.本稿ではアスリートに対するTOS治療を概説する.

視座

どうする! 研修制度と医師の働き方改革

著者: 出家正隆

ページ範囲:P.125 - P.125

 大学から市中病院に移って生活リズムも変わり,夜遅くまで働くことは少なくなった.これからの若い医師には,どんな生活が待っているのだろうか.

 35年前に医師になった.昭和の最後の頃である.当時は24時間戦えることが医師の美徳とされていた.同期には家が決まっていないと言って当直室に住み込んでいた者もいた.当然,当直明けでも休まずに仕事をしていた.それが当たり前だと思っていた.

最新基礎科学/知っておきたい

有限要素解析の基礎と臨床応用

著者: 東藤貢

ページ範囲:P.208 - P.213

はじめに

 正常な骨・関節の形状や構造は,日常生活や運動に関係する生体内の力学環境に適応するように構築されている.しかし,骨粗鬆症や変形性関節症などによる骨構造・形状の変化,剛性が異なるインプラントの挿入,転倒や衝突による過度な外力の作用,スポーツの過度な練習による繰り返し負荷の作用等により正常な力学状態が破綻すると,病状の進展や新たな疾患の発症を誘発することが懸念される.したがって,骨・関節の力に対する応答特性を定性的・定量的に把握し,疾患との関係を理解することが重要であるが,複雑な形状と構造を有する骨・関節の力学的挙動を知ることは容易ではない.

 一方,工業的に設計・製造された機械や構造物の力学的挙動を調べるための学術体系として変形体力学があり,コンピュータ技術の目覚ましい発展と有限要素法(finite element method:FEM)のような数値解析手法の開発により,変形体力学に基づく有限要素解析法(finite element analysis:FEA)は工業界において必要不可欠な存在となっている.FEAを実施することで外力が作用する複雑な構造体の内部での力学状態(応力やひずみの分布状態)を知ることができるために,整形外科の分野においても骨・関節の力学状態を調べるための研究用ツールとして,早くから注目されてきた.現在では,臨床用CT画像を利用して実構造に近い形状と力学特性を持つ骨・関節の3次元数値モデルを構築し,FEAを実施することが可能となっている1)

 本稿では,骨の力学解析に必要不可欠な変形体力学の基礎とCT画像を利用した有限要素法(CT-FEM)の概要を述べた後に,主に骨折を模擬した解析例を紹介する.

リアルハプティクス

著者: 八木満 ,   山之内健人

ページ範囲:P.214 - P.216

はじめに

 リアルハプティクスとは,物理的な感覚をデジタル技術を用いて再現する先端技術です.この技術は,人の動きや触感をデータ化し,その情報をリアルタイムでコンピュータシステムに伝送することで,実際に触れているかのような感覚を提供します1).その中でリアルハプティクスとは触覚を主とするユーザーインターフェースであるハプティクスのうち,現実の物体や周辺環境との接触情報を双方向に伝達し,対象の硬さや軟らかさ,弾力性,動きなどを力触覚として正しく再現する技術です.これにより,機械が人間の力加減を模倣し,遠隔地での操作や精密作業が可能になります1).現代の多くの産業では,熟練工の技術が重要ですが,リアルハプティクスはこれを技術で補完しようとしています.

症例報告

Condor GoldLine Retractorを使用した人工骨頭置換術の1例

著者: 伊藤昭裕

ページ範囲:P.217 - P.221

Condor GoldLine® Retractor(GoldLine)は,胸部外科や産婦人科などの手術時に使用され,少ない人数で安定した手術を可能とする.当科でGoldLineを使用したセメント人工骨頭置換術を行い,術中合併症を認めず,脆弱骨に使用しても問題はなく,導入に伴う弊害もなく,2人で容易に手術が行えたので,使用方法を中心に症例報告する.

書評

ケースで学ぶ抗菌薬選択の考え方—耐性と抗菌メカニズムの理解で深掘りする フリーアクセス

著者: 林俊誠

ページ範囲:P.207 - P.207

 感染症診療のマニュアル本は持っているし,一般的な感染症はだいたい治療できている.とは言え,もしも耐性菌やそれに対する抗菌薬選択について聞かれたら,スムーズに答えられるほど詳しいわけでもない.いっそ専門書を読んでみたいけど,読める自信もない.見慣れない・聞き慣れない菌は,微生物学の本を読んでもしっくりこない.そんなあなたがギャップを乗り越えステップアップするのにおすすめなのが本書である.

 第1章は薬剤耐性の総論である.「MICの数字を横読みする」「CEZを使用し続けても,そのMSSAはMRSAにはなりません」など,耐性菌に対する抗菌薬選択に欠かせない基礎知識が満載だ.続く第2章は臨床で主に使用される抗菌薬に対する耐性機序の解説で,ここまでをじっくり読んでも2時間程度で理解できるのが嬉しい.最もよく出合うβ-ラクタマーゼについては特に図が豊富なので,この分野について初めて読む場合でもイメージしやすい.また,AmpCの「心変わり」や複雑怪奇なカルバペネマーゼがわかりやすく解説されてもいる.

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.126 - P.127

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.128 - P.128

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.223 - P.223

あとがき フリーアクセス

著者: 山本卓明

ページ範囲:P.226 - P.226

 「The best way to escape from a problem is to solve it!」以前通っていた,ネーベン先の診察室に掲げてあった言葉です.そこは,文才・画才・写才にとても秀でておられた院長先生の診察室で,伺うたびにいろいろな文章・絵・写真を目にしていました.約15年前,当時医局長で,種々の課題・問題・難問が山積し,少々フラストレーションがたまっていた時でした.早速,それをコピーして自分の机の前に貼り付けました.

 人は誰しも処理すべき課題・問題・締め切り・人事・家庭のゴタゴタ等,さまざまかかえています.それらが溜まってくると,イライラしたり,寝付きが悪くなったり,放り出して逃げ出したくなったり,果ては逆ギレしたりします.1つずつコツコツ解決していくことが,自分が楽になる唯一の方法なのだと再認識させられ,その後の人生でも多いに役立っています.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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