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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科59巻6号

2024年06月発行

雑誌目次

特集 TKAにおける最新Topics

緒言 フリーアクセス

著者: 松田秀一

ページ範囲:P.751 - P.751

 今回「TKAにおける最新Topics」というテーマで特集を組ませていただきました.第一線でご活躍中の先生方に執筆いただいています.大変お忙しい中,ご寄稿いただいた先生方に厚く御礼申し上げます.

 人工膝関節置換術(TKA)は良好な長期耐用性が得られている手術の1つですが,すべての患者さんで高い満足度が得られているわけではありません.良好な成績を得るためには適切な手術目標の設定が必要になりますが,その1つがアライメントです.さまざまな概念が提唱されていますので,是非本特集の内容を参考にして知識の整理をしていただければと思います.

TKA Alignment,概念の変遷と用語の定義について

著者: 平中崇文

ページ範囲:P.753 - P.761

人工膝関節置換術が一般的となって約半世紀,いまかつてない大きなパラダイムシフトを迎えようとしている.これまでgold standardと考えられていた,機械的安定性を重視するmechanical alignment(MA)ばかりでなく,personalized alignment(PA)という患者個別に最適ゴールを目指す新しい方法が芽生えてきている.しかしPAには多種多様の方法が提唱されており,その目的とするところも微妙に異なる.その結果混乱がみられていることも事実である.各アライメント手法の目指すところを,正しい用語とともに使用し,おのおのの方法を理解したうえで建設的な議論が必要である.

Personalized Aligned TKAの最前線

著者: 松本知之

ページ範囲:P.763 - P.768

人工膝関節全置換術(TKA)において,個々の生理的膝関節の再現を目指したpersonalized alignmentという新たなアライメントの概念が提唱され,良好な臨床成績が報告されている.なかでもkinematically aligned TKA(KA-TKA)に関しては,その評価を含めたさまざまな報告に基づき,改変された手法が混在するようになってきており,日本人における解剖学的特徴を考慮した手術手技の選択・適応決定が極めて重要である.加えて,original full KA-TKAにおいて長期成績の報告が散見されるようになってきているが,それぞれの手技における報告はまだ少なく,慎重に経過を観察する必要がある.

TKA Sagittal Alignmentの重要性

著者: 西谷江平

ページ範囲:P.769 - P.773

大腿骨コンポーネントは軽度屈曲位設置が推奨され,過伸展や過屈曲設置は疼痛や臨床スコアの低下,異常なバイオメカニクスと関連する.また,前方皮質のノッチ形成は術後骨折と関連するため可能な限り避ける.脛骨コンポーネントの設置角は十字靱帯温存の有無により異なる.CR TKAでは可能な限り術前の後傾を温存するが,後傾を減じた場合はPCLの緊張に注意を要する.一方でPS TKAでは3〜5°程度の後傾が推奨され,通常後傾は減じられるがPCL切除により屈曲ギャップがきつくなりすぎることは少ない.

TKAの軟部組織バランス,目指すべきターゲット

著者: 上山秀樹

ページ範囲:P.775 - P.780

人工膝関節全置換術(TKA)において軟部組織バランスは重要な指標であるが,どのような状態が術後成績にとってよいのか不明瞭な点も多かった.過去の報告を渉猟し,術者が目指すべきターゲットとしての軟部組織バランスを模索した.さまざま機種があるが,「関節Gapは伸展位および屈曲位において同じくらい〜やや屈曲がゆるいくらい,バランスとしては内外側が平行〜外側がややゆるいくらいが良好な軟部組織バランスである」と現時点ではまとめることができる.術中にこのバランスを目指して手術を進めると最も術後成績にとってハズレが少なく安全であろうと考えられる.

手術手技が術後Kinematicsに与える影響

著者: 渡邊敏文

ページ範囲:P.781 - P.787

TKAの手術手技は術後kinematicsに大きく影響するが,詳細については不明な部分も多い.本稿ではアライメントや軟部組織バランスが術後kinematicsに与える影響を概説する.アライメントについては,キネマティックアライメント(KA)とメカニカルアライメント(MA)の比較,冠状面・矢状面・回旋アライメントについて考察する.軟部組織バランスについては,内外側バランス,伸展屈曲ギャップ,回旋軟部バランスについて概説する.また,その他の手術手技として,PCLの処理,モバイルベアリング,外側関節面置換が術後kinematicsに与える影響について,自験例を紹介する.

TKAはNormal Knee Kinematicsを目指すべきか

著者: 乾洋 ,   河野賢一 ,   鹿毛智文

ページ範囲:P.789 - P.794

膝関節は大腿骨および脛骨が内外側で異なる関節面形態をしており,屈曲動作においても一軸を支点とした回転運動ではなく捻じれ運動が生じるため,全体としてscrew home movement,medial pivot motion,bicondylar rollbackといった3つのフェーズが存在する.近年そのような膝関節動態を意識した手術手技やインプラントが数多く開発されており術後成績向上が期待されている.本稿ではTKA手術はそのような正常膝と同様の膝関節動態を目指すべきなのかどうかを,最新の知見を交え考察する.

Mid-Flexion Stabilityを得るための手術手技,インプラントデザイン

著者: 岡崎賢

ページ範囲:P.795 - P.799

Mid-flexion instabilityとは中間屈曲角度における内外反および前後の不安定性を指す.前十字靱帯の機能が失われている人工膝関節では,屈曲途中で大腿骨が脛骨上を前方に移動する非生理的な現象が起こりやすい.内外反の安定性を全可動域で得るには内側側副靱帯の等張性を保つ必要があり,手術手技としてはjoint lineの維持が重要である.前後安定性を得るためには関節面の拘束性も重要である.深い皿状のインサート,rotating platform型,medial pivot型などが選択肢に挙がる.関節面の拘束性が高くないposterior stabilized型では脛骨後方傾斜を3°程度にすることも有効である.

Medial Pivot TKA

著者: 佐藤卓

ページ範囲:P.801 - P.804

Medial pivot型TKA(MP TKA)は,その形状的特徴がもたらすポリエチレンの低摩耗性,関節安定性,回旋許容性によって,長期耐用性と高い患者満足度が期待できる機種である.また,適応が広く手技も容易であり,患者,術者いずれに対しても許容範囲の広い機種である.

両十字靱帯温存型TKAと両十字靱帯代償型TKA

著者: 浜田大輔

ページ範囲:P.805 - P.809

人工膝関節全置換術(TKA)では通常,前十字靱帯は切離され,前方制動性が失われることにより不安定性が生じ,臨床成績の低下につながることが危惧されている.両十字靱帯を温存するbicruciate-retaining (BCR) TKA,両十字靱帯機能を代償するbicruciate-stabilized (BCS) TKAは前方不安定性の解決を目指したユニークな機種である.本稿ではBCRおよびBCS TKAの概念,biomechanical data,臨床成績について概説する.

ロボット支援TKAの最前線

著者: 石田一成 ,   杜多昭彦 ,   木原伸介 ,   柴沼均 ,   壺坂正徳 ,   中野直樹 ,   松本知之 ,   黒田良祐

ページ範囲:P.811 - P.816

ロボット支援人工膝関節全置換術では,術中軟部組織バランス評価を加味して手術計画を決定し,ロボット技術によって高い再現性を目指す.その正確な設置精度を活かすべく,関節面傾斜,高位を維持しつつ,良好な軟部組織バランスを獲得するというコンセプトはfunctional alignmentと呼ばれる.今後は手術手段としてのロボットの発展のみならず,術前後の包括的な患者評価を通して手術計画が発展していくことで,手術成績の著しい改善が達成されることが期待される.

TKAの患者満足度を高める周術期管理

著者: 塚田幸行 ,   前田鉄之 ,   鈴木雄之 ,   齊藤昌愛 ,   小川博之 ,   平澤直之

ページ範囲:P.817 - P.821

エビデンスに基づいた周術期管理により,TKA後の合併症低減と患者の術後回復促進を実現することが可能となる.静脈血栓塞栓症の予防には抗凝固薬が第一選択であったが,近年は抗血小板薬であるアスピリンの有効性が多く報告されている.術前・術中低体温による感染率および出血量の増加,適切な術前炭水化物・アミノ酸投与による臨床経過の改善を証明する研究結果が蓄積されつつあり,これまでTKA領域で重視されてきた感染予防や疼痛対策のエビデンスと合わせた多角的な周術期管理を,多職種で連携して実施することが重要である.

TKA後のスポーツ活動

著者: 濵井敏 ,   村上剛史 ,   清原壮登 ,   川原伸也 ,   佐藤太志 ,   赤崎幸穂 ,   中島康晴

ページ範囲:P.823 - P.828

TKA後のスポーツ活動への関心が近年高まっており,本稿ではその概略に関してレビューする.術後のスポーツ復帰率は平均82%,復帰時期は平均20週間であり,ローインパクトなスポーツを中心にさまざまな種目が行われている.術前の経験者は,復帰へのモチベーションが高く,復帰率も高い.術後のスポーツ活動を妨げる理由は,TKA以外であることも多い.スポーツの種類や頻度が短中期成績に及ぼす影響に関しては,これまで複数の肯定的な報告がなされている.適切なスポーツ活動,定期的な経過観察によって,健康長寿への好循環を生み出すことが重要である.

視座

超高齢社会における運動器疾患の未病と医療

著者: 八木満

ページ範囲:P.745 - P.745

 未病とは,病気になる前の状態,つまり病気に至る前段階の身体や精神の不調を指します.この概念は,中国の伝統医学に起源を持ち,病気の予防や早期発見,早期治療に重点を置く考え方です.運動器疾患における未病の概念は,特に超高齢社会である日本において重要性が増しています.この段階での適切な対応は,重篤な運動器疾患の予防,高齢者の健康維持,そして生活の質(QOL)の向上に直結します.未病の早期発見と対策には,生活習慣の見直し,定期的な健康診断,そして自己管理の徹底が必要であり,これにより運動器に関する微小な変化や不調を早期に捉え,適切な介入が可能となります.

 未病の早期発見と予防には,ライフログの取得やAI,機械学習を用いた疾患予測モデルの研究の推進が非常に重要です.これらの技術を活用することで,個々人の健康状態や生活習慣から未病の段階でのリスクをより正確に,早期に識別することが可能になります.ライフログから得られるデータを分析し,AIと機械学習技術によって未病の状態や疾患のリスクを予測するモデルを開発することは,個人の健康維持・向上に寄与するだけでなく,医療費の削減や社会的負担の軽減にもつながります.AIと機械学習技術の進歩により,これらのデータから複雑なパターンや関連性を識別し,未病状態や疾患リスクを予測するモデルの開発が可能となります.これにより,従来の方法では見過ごされがちだったリスク要因を明らかにし,個別化された予防策を提案することができるようになります.

Lecture

腰痛のRed Flags

著者: 川口善治

ページ範囲:P.829 - P.832

はじめに

 腰痛のred flags(RFs)を文献検索すると,1994年に米国AHCPR(Agency for Health Care Policy and Research:医療政策研究機構)が策定した急性腰痛診療ガイドライン(以下,GL)において,その記載を初めてみることができる1).このGLには,“potentially serious spinal condition-tumor, infection, spinal fracture, or a major neurologic compromise, such as cauda equina syndrome, suggested by a red flag”とある.すなわち腰痛のred flagとは重篤な脊椎疾患(悪性腫瘍,感染,骨折,および急激に悪化する神経症状,馬尾症候群を有する脊椎疾患),これらを疑うべき一連の臨床症状および所見であると言える.本稿では,腰痛とred flagsについて,わが国の腰痛診療GLを紐解きながら解説する.

最新基礎科学/知っておきたい

アミロイドーシスに対する治療薬

著者: 植田光晴

ページ範囲:P.838 - P.841

はじめに

 アミロイドーシスは,通常は可溶性である蛋白質がさまざまな原因により不溶性のアミロイド線維を形成し,細胞外に沈着するとともに各臓器障害を生じる難治性の疾患群である.以前は治療法のない難病であったが,いくつかの病態では予後を改善する先進的な疾患修飾療法が開発され,早期診断・早期治療の重要性が高まっている.近年,手根管症候群,腰部脊柱管狭窄症などの整形外科領域の病態が,全身性アミロイドーシスの初発症状および部分症状として注目を集めている.

臨床経験

四肢骨関節・軟部組織感染症に対する術前評価としてのサーモグラフィーの使用経験

著者: 清水健太 ,   善家雄吉 ,   安藤恒平 ,   濱田大志 ,   佐藤直人 ,   酒井昭典

ページ範囲:P.843 - P.849

四肢骨関節・軟部組織感染症に対する術前評価としてサーモグラフィーを用いた症例を後ろ向きに調査し,実際に術前計画を行った代表症例を提示する.実施方法は,術前に目の高さから全体像を撮像し,体表温度に異変のある領域をspotする.結果,全例で熱感部位に一致して,サーマルカメラ上高温領域として高精度に検出できた.従来,熱感部位を他覚的に示すことは困難であったが,本ツールを用いることで,簡便に熱感部位の「見える化」が可能となる.今後は,検出できた熱感部位の臨床的意義やその信憑性を突き詰めることが課題である.

書評

プロメテウス解剖学エッセンシャルテキスト 第2版 フリーアクセス

著者: 川嶌眞人

ページ範囲:P.835 - P.835

 本書は,前野良沢らが『ターヘル・アナトミア』を翻訳して以来の画期的な解剖書ではないか.評者が居住している大分県中津市は,根来東叔,前野良沢,村上玄水,田原淳など,解剖に関する優れた学者を輩出してきた.日本のヘーゲルとも称される三浦梅園は「解剖なくしては人間と自然とのつながりや有機的な病気との関係は解明されてない」と述べ,また日本最初の人骨図「人身連骨真形図」を描いた根来東叔は「眼球の解剖を知らないで治療をするのは闇夜に光なくして歩くのと同じ」と,解剖の重要性を述べている.そのような中,前野良沢は杉田玄白らと蘭語の解剖書『ターヘル・アナトミア』の翻訳に着手した.翻訳の大半は良沢が担い,1774年には日本最初の本格的な解剖書として玄白が出版した.玄白は序文凡例で「解体は医学の基礎であり,外科では緊急欠くべからざるものである」と述べているが,本書を読むと,まさに玄白と同じ思いを抱くものである.この『解体新書』をきっかけに,解剖を中心とした蘭学の研究は日本全体に広がった.東京,築地の聖路加国際病院前の中津藩中屋敷跡には,良沢らの功績を称える碑が今でも残されている.

 あらためて,世界の解剖史を振り返ってみよう.元来解剖というものは,人体という未知のものへの好奇心,真理追求の熱情を持って,実証主義と科学への挑戦を行うことで医学・医療の発展に貢献してきた.しかしながら,古代ローマのガレノス,古代ギリシャのヒポクラテスも,解剖の重要性に気付いてはいたものの人体の解剖まではできなかった.13世紀初頭のイタリアでモンディーノが人体解剖を行い『解剖学』という著書を残したこと,またルネサンス期にレオナルド・ダ・ヴィンチが30体もの人体解剖を行い,779枚もの解剖図を残したことは極めて画期的なことであったが,正確な解剖書としてはアンドリアス・ヴェサリウスの解剖学書『ファブリカ』(1543年)を待つこととなった.評者はファブリカの実物を見た際に,その精密さが今日の人体解剖の水準と大きな差が無いことに驚いた.日本では山脇東洋が1754年に京都で初めて人体解剖を行い,1774年に『解体新書』が出版された.中津では,村上玄水や田原淳などが現在の心電図やペースメーカーの元となる刺激伝導系の発見に至ったことはよく知られている.

患者の意思決定にどう関わるか?—ロジックの統合と実践のための技法 フリーアクセス

著者: 秋山美紀

ページ範囲:P.837 - P.837

 「膵臓のがんが,肝臓のあちこちに転移してます」.今年7月,都内のがん専門病院で,母が宣告を受けた.説明を聞いた母の口から最初に出てきた言葉は,「先生,今年パスポートを10年更新したばかりなんですけど……」だった.説明した医師も,隣にいた私も意表を突かれ,しばしの沈黙となった.

 著者の尾藤誠司氏は,ロック魂を持った総合診療医であり,臨床現場の疑問に挑戦し続けるソリッドな研究者でもある.諸科学横断的な視座から探求し続けてきた研究テーマは,臨床における意思決定(注:医師決定ではなく意思決定)である.尾藤氏は約15年前に『医師アタマ—医師と患者はなぜすれ違うのか?』(医学書院,2007)を出版し,誤ったエビデンス至上主義がはびこりつつあった医学界へ一石を投じた.その数年後には一般向けに『「医師アタマ」との付き合い方—患者と医者はわかりあえるか』(中公新書クラレ,2010)という新書を出した.帯に「医師の取扱説明書」とあるとおり,患者・市民が医師の思考パターンを理解し,良好な関係を築けるような知恵が詰まったわかりやすい書籍だった.

INFORMATION

第15回日本仙腸関節研究会 フリーアクセス

ページ範囲:P.828 - P.828

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.746 - P.747

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.748 - P.748

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.851 - P.851

あとがき フリーアクセス

著者: 河野博隆

ページ範囲:P.854 - P.854

 本号では京都大学整形外科 松田秀一教授に企画をお願いし,目覚ましい発展を遂げている「TKAにおける最新Topics」を特集しました.

 工学的・力学的な理論体系が積み上げられ,それに基づく精緻なデザインが登場しています.さらに,術前計画を正確に実現するロボットが実用化されてきており,スポーツ活動にも及ぶ効果検証が進んでいます.各領域の第一人者の先生方のご寄稿によって,人工膝関節の医療水準が劇的に向上していることがお分かりいただけることと思います.

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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