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同種腱移植の臨床例
著者: 堀木篤1 前野岳敏1 江川常一2 土井照夫2
所属機関: 1大阪厚生年金病院整形外科 2大阪大学医学部整形外科学教室
ページ範囲:P.655 - P.663
文献購入ページに移動同種腱移植の歴史は,1916年Rehn12)の動物実験での報告にはじまる.そののち多くの研究がなされた結果,移植腱は処理方法などの条件による多少の差はあつても,排除されることなく徐々に宿主側細胞によつて置換され,新しい腱構造をとることが知られた.また免疫学的にも腱は抗原性の少ない組織とされ,移植を行なう場合ほとんど問題がないとされている.このように幾多の動物実験の報告により同種腱移植の可能性が確かめられてきたが,臨床的には1959年Peacock8)の報告が最初と考えられる.これは癒着の問題が関与しているためで,移植腱は周囲と癒着することなく滑動性を保つていなければならず,同種腱ではこれがより強く生じると予測されるためである.Peacock以後,臨床的な報告はIselin7)(1963),Herzog5)(1965),Peacockl11)(1967)らの報告を散見する程度で多用されているとは言い難い.
著者は犬を用いてCialit溶液に保存した同種腱移植実験を行ない,その修復過程を観察した結果,Cialit保存同種腱は周囲組織に対する影響が少なく,修復過程も円滑に行なわれ,癒着も少ないことを認めた6).臨床には昭和39年以来,28例43腱に使用している.Cialitを用いた理由は(1)蛋白の変性が少なく,したがつて腱組織を破壊することが少ない点.(2)殺菌作用が確実なこと.(3)保存方法が簡便なことである.昭和43年からはCialitとよく似た水銀製剤であるMersoninを使用して,15例24腱の同種腱移植を経験した.Cialit保存腱については第10回手の外科学会で発表したが,今回はそれらも含めて報告する.
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