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文献詳細

雑誌文献

臨床整形外科9巻11号

1974年11月発行

文献概要

視座

長命は善か

著者: 天児民和12

所属機関: 1九州大学 2九州労災病院

ページ範囲:P.877 - P.877

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 先日九州大学の池田学長にあつて雑談をしていたら学長がこんなことを言われた.「この間ある会合でお隣の文学部の先生が一体お医者さんは人間をいくつまで生かそうと考えているのですか」と質問せられた.さあ何と答えてよいか一瞬戸惑つたということである.
 現在の臨床医学の救命の技術はあらゆる可能性を動員して強力に行われている.そのために人間の寿命はたしかに長くなつた.私の父が40年前に亡くなつた.満60歳であつた.その時に60歳まで長生きせられたのだからという皆様の挨拶を聞いてそうかなあと思つたが,今日では60で死亡することは若死である.しかし人間の命を長くすることが果して善と言つていいのであろうか.私は折々その壁につきあたつて当惑する.今は分業の世の中である.医師はただ救命にだけ努力すればよいのである.あとの問題は社会科学者が処理するべきである.そう割り切れば甚だ簡単ではあるが,では誰が社会科学者にこの問題を提議するべきであろうか.飯野先生もこれと同じようなことをどこかに書いておられたが,科学の進歩と人類の福祉,幸福というものがどこかでくい違つてゆくのにローマクラブのメンバーではないが不安を感じざるを得ない.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1286

印刷版ISSN:0557-0433

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