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雑誌目次

雑誌文献

臨床整形外科9巻7号

1974年07月発行

雑誌目次

視座

延命努力と苦患総和とのジレンマ

著者: 飯野三郎

ページ範囲:P.537 - P.537

 人は己れの生命の1日も長からんことを欲する.これは直接人類自体の永劫本能の表われでもある.生れつき生きることの意欲を,意識的にしろ,無意識的にしろ,有しない生物は即日滅びるはずである.人間は自己保存本能でギリギリまで生きて,あとは種族維持本能にまかせて,無限に生殖細胞で生命を引継いで行く.ところが,種族保存すなわち人類永存目的へのバトンタッチを終えた人間でも,自己保存慾は依然として消え失せない.かくして,人は己れの生命の1日でも長からんことを欲する.カマキリの雄のごとく,性行為を終れば直ちに嬉々として雌に食われて,自ら次代の栄養源となるごとき殊勝な種族維持優先派で人間はない.老いも若きもいずれ劣らぬ自己保存優先派である.
 ところが一方で,人間にはさまざまな苦患—大ざつぱにいつて,肉体的,精神的な—が与えられており,一層悪いことに文化の進んだものほど,その感知度が高い.この苦患の受けとり方が自己保存本能を凌駕するときに,人は自らを殺しさえする.人間を「自殺し得る動物」とするのは定義付けの行き過ぎであろうが,この苦患感受度と自己保存欲との差引プラス・マイナスは次第に微妙になりつつあるように見える.文化の進歩は,社会的,経済的,個人意識的に苦患の量を相対的に増しつつあるに対し,自己保存欲は生物学的に不変で,ここに生命に対する負の出納への傾向が生じやすいのである.

シンポジウム 変形性股関節症の手術療法

変形性股関節症の手術療法—適応

著者: 伊藤鉄夫 ,   田中清介 ,   山本潔 ,   長井淳 ,   岡正典

ページ範囲:P.538 - P.550

 変形性股関節症の症例が非常に増加しているが,日本における股関節は先天性亜脱臼ないし臼蓋形成不全によるものが圧倒的に多いのが特徴である.発生原因が生来の股関節の構造的欠陥にあるのであるから,治療法の研究も出生直後から出発しなければならない.少くとも早期治療に重点を置かねばならない.
 現在,本症に対しては,疾患の状態に応じて,多くの力法が提唱されているが,これらを関節の構造的欠陥の力学の観点から批判し,これを整理して,適応を明確にしておくことが大切であると思う.この論文では,まず股関節の力学の概要について述べ,次いで疾患発生の力学とそれに基づく治療の力学と適応について記述してゆく.

変形性股関節症の手術療法—適応と術式

著者: 上野良三

ページ範囲:P.551 - P.556

いとぐち
 近年,高年齢層の増加や,労働年齢の上昇により関節症,とりわけ股関節症の治療が整形外科臨床のうえで重要性を増してきている.股関節症の治療の目的は,持続的に良好な機能を有する関節を再建することであり,長期間にわたつて優れた治療成績が保証された治療法を選択すべきであることはいうまでもない.10歳前後ですでに関節症性変化を有する場合や,70歳以上で治療を必要とする症例もあり,その半数近くが両側性であることから治療方針,手術の術式ならびに後療法が各症例によつて異なり,治療を開始するに当つて周到な計画と,予後に関して十分患者の諒解をえておくことが必要である.
 股関節に著明なレ線変化を有する場合には腰椎,膝関節などの検索が不十分になることが多いが,膝関節症—これは2次的変化である場合もあるが—を合併する場合もあり,膝関節との関連にも留意しなければならない,術前の骨盤傾斜や脚長差も考慮すべきで,罹患股関節の局所症状のみにとらわれるべきではない.股関節症は,疼痛以外に可動性制限が主訴である場合や,関節の不安定性が症状の中心をなしていることがあり,症状からみても術式を選択する必要がある.

筋解離術と骨切り術の手術成績の比較検討

著者: 奥山繁夫

ページ範囲:P.557 - P.569

はじめに
 股関節全置換術が広く行なわれるようになり,その効果が確実に期待しうるほど安定してきている現在,われわれは従来その治療に手をやいた老年者の重度の股関節症に対しては有力な武器を持つているといいうる.しかしながら新しい武器を持つと使つてみたくなるもので,次第にその適応がエスカレートし,最近の海外の報告をみてもきわめて短期間に驚くほど多数例に本手術が行なわれており,このような傾向は本邦においてもないとはいえず批判的な意見も既に出はじめている.一方われわれが取り扱う機会が多い臼蓋形成不全にもとづく青壮年期の股関節症に対しては種々新しい試みがなされてはいるが未だその評価の段階ではなく,その治療法の選択に苦慮しているのが現状であろう.このような背景のもとに,従来からの数多くの報告によつて確実な効果が立証されroutineな方法となつている転子間骨切り術ならびに筋解離術の手術成績を比較検討し,それぞれの特色を把握すると共に成績不良例について反省することも意味のあることと考え,さらにこれらの手術法が変形性股関節症に対する観血的治療体系においてどのような役割を担つているかについて見解を述べたい.

変形性股関節症に対する股関節固定術

著者: 伊藤惣一郎 ,   小野勝雄 ,   田中耿介

ページ範囲:P.570 - P.578

はじめに
 変形性股関節症に対する手術的療法は,大腿骨転子間骨切り術,筋解離術,股関節固定術および関節全置換術を主とする股関節形成術およびそれらの合併手術と近年大きな進歩をとげてはきたが,治療を担当する整形外科医によりその手術の適応についての考え方になお大きな差のあることはいなめない.
 このうち進行した片側性変形性股関節症に対する股関節固定術は1回の手術で確実な無痛性と支持性が得られることで,特に重労働者に対してすぐれた手術法であることは一般に認められているところである13,14,20).また,両側例でも症例によつては,その一側に起立支持性を獲得させることが反対側に免荷による好影響を与えることはRing9),Watson-Jones13),Alvik2),Ehalt4),Boos3)らも述べているところである.

変形性股関節症に対するカップ関節形成術

著者: 田中清介 ,   伊藤鉄夫 ,   山本潔 ,   長井淳 ,   大西紀夫

ページ範囲:P.579 - P.590

 1938年6月最初のバイタリウムカップによる股関節形成術がSmith-Petersen36)によつて行なわれて以来既に30有余年がすぎた.その間,Aufranc2〜4)やHarris15〜16)らの種々の改良により,今日では優れた成績がえられるようになつた.しかし,わが国ではカップ関節形成術は広く行なわれるに至つていない.バイタリウムカップ使用の報告は少なく28,44,47),むしろレジンカップやNAS84S鋼カップを使用した報告が多い1,17,27,35,53).しかし,これらのカップの強度は低く,カップが破損したために再手術が行なわれた例もある.また,カップ関節形成術の失敗例に関節全置換術を行なつた報告を多くみることからも,カップ関節形成術の正しい導入が非常にむづかしいことを痛感している.
 重症変形性股関節症に対する手術には,骨切り術,カップ関節形成術,筋解離術,関節固定術,骨頭切除術(Girdlestone, Milch)等があるが,近年関節全置換術が行なわれるようになつてからは,その成績の優秀さと,術後の機能訓練がほとんどいらないために,上記のような多くの有効な手術が次第に放棄されているのではないかと思われる.しかし,重症例でも若年者に対してはカップ関節形成術は依然として有効な手術である.

変形性股関節症に対する全人工股関節置換術の検討

著者: 小谷勉 ,   木下孟 ,   大西啓靖 ,   浅田莞爾

ページ範囲:P.591 - P.601

いとぐち
 人工関節の置換によって関節機能を再建しようとする発想が最初に導入されたのは膝関節であるが,現在もつとも華麗な発展をとげたのは股関節においてである.
 その理由として確実に除痛効果を得ることができること,そして関節の支持性・運動性の再建・獲得にもすぐれ,後療法に特別な配慮を必要としないこと,入院期間が大巾に短縮できることなどがあげられよう.

論述

肘関節リウマチに対する滑膜切除術および関節形成術について

著者: 三浪三千男 ,   石井清一 ,   浅井正大 ,   薄井正道

ページ範囲:P.603 - P.608

はじめに
 慢性関節リウマチ(以下リウマチと略す)に対する滑膜切除術は最近特に積極的に行われており,その有効性についても一般的に認められてきた.しかし滑膜切除術もリウマチの根本的治療にはなりえず術後の長期観察をみたとき必ずしも満足できる成績とはいえないのが現状である.
 上肢のリウマチに限つた場合,手関節および指関節に対する滑膜切除術の方法は一応確立されており術後成績についても数多くの報告をみることができる.一方肘関節リウマチに対する滑膜切除術の方法および術後成績についての報告は少ない.

重症慢性関節リウマチに対する免疫抑制剤動脈注入の試み

著者: 塚本行男

ページ範囲:P.609 - P.615

はじめに
 近年の慢性関節リウマチに対する治療手段の進歩はめざましいものがある.それは特に外科的治療の分野で著しい.
 保存的手段で効果の乏しい炎症関節に対しては,滑液膜切除術の有用性が再び主張され始めてよりかなりの年月を経過している.

臨床経験

上肢に発生せる神経鞘腫12例の経験

著者: 渡捷一 ,   槇坪宏之 ,   毛利知満 ,   津下健哉

ページ範囲:P.616 - P.619

 末梢神経に発生する腫瘍のうちでは,神経鞘腫がもつともよく知られている.ことに頭蓋内,脊椎管内に発生したものは,症状および予後の重篤さより注目され,多くの報告がなされているが,四肢に発生したものは重大な臨床症状をともなうことが少なく,単なる良性腫瘍としてとりあつかわれ,興味がうすいためかその報告例は比較的少ない.
 われわれが最近8年間に経験した上肢に発生せる本腫瘍は12例で,すべて手術的に摘出し,病理組織学的検査により神経鞘腫の診断が下された症例であり,その概略は第1表に示すごとくである(第1表).

Oral-Facial-Digital Syndromeの1例

著者: 八木知徳 ,   石井清一 ,   三浪三千男 ,   浅井正大 ,   薄井正道 ,   樋口政法 ,   本間純

ページ範囲:P.620 - P.622

はじめに
 手指に発生する合指症および短指症は比較的多い先天性奇形である.しかし,これに口腔および顔貌の奇形を伴い,主に女性に発生するoral-facial-digital syndromeはきわめて稀である.著者らは最近本症と思われる一例を経験したので報告する.

Paraplegia患者における"Mass reflex"の1例

著者: 糸満盛憲

ページ範囲:P.623 - P.628

はじめに
 脊髄疾患,なかんずく脊髄損傷等による脊髄完全横断障害の患者は,最初の脊髄のdamageに引き続いて,麻酔や神経外科的,整形外科的,泌尿器科的検査および手術,難治性褥創の治療,リハビリテーションにおける排尿排便の訓練等数多くの身体的侵襲を受ける.中でも高位胸髄レベル,頸髄レベルにおけるparaplegia,quadriplegiaにおいては,下位の脊髄損傷の持つhandicapに加えて5,4,17),さらに危険を伴うものである.そのもつとも危険な反射にMass reflexがある.これは1917年Riddoch & Headによつて概念が確立された広範な自律神経反射であり,autonomic hyperreflexiaとも呼ばれる7,12).わが国でも一部では頸髄損傷の尿路管理に伴う危険な反射として注目されているようであるが,整形外科領域ではほとんど言及されていない.最近mass reflexの一例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

上腕三頭筋短縮症の4例

著者: 上條正勝 ,   鈴木勝己 ,   高橋定雄 ,   中嶋寛之 ,   長野昭 ,   伊藤祥弘

ページ範囲:P.629 - P.633

 私共は,過去7年間に,頻回の筋肉内注射の既往があり,そのために生じたと思われる上腕三頭筋短縮症の4例を経験した.その内訳は両側三角筋短縮をともなつた両側上腕三頭筋短縮症の兄,妹例,反対側の三角筋短縮をともなつた1例,および左上腕三頭筋短縮症のみの1例,計4症例6上肢であつた(第1表).全例に観血的処置を施行し,比較的良好な結果を得たので若干の考察を加えて報告する.

カラーシリーズ

四肢の軟部腫瘍 25【最終回】—その他

著者: 金子仁

ページ範囲:P.532 - P.535

 最終回は,「その他」として腱鞘巨細胞腫,Granular cell myoblastoma, recurring digitalfibrous tumorを示説する.
 最後の例に関しては九大病理岩崎宏先生より戴いたもので珍しい例である.1965年Reyeが発表したもので他の結合織性腫瘍と異なり,腫瘍細胞内に好酸性封入体がある.(H. Battifora:Recurrent digital fibromas of childhood, Cancer, 27:1530, 1954).

基本情報

臨床整形外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1286

印刷版ISSN 0557-0433

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