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延命努力と苦患総和とのジレンマ
著者: 飯野三郎1
所属機関: 1東北大学
ページ範囲:P.537 - P.537
文献購入ページに移動ところが一方で,人間にはさまざまな苦患—大ざつぱにいつて,肉体的,精神的な—が与えられており,一層悪いことに文化の進んだものほど,その感知度が高い.この苦患の受けとり方が自己保存本能を凌駕するときに,人は自らを殺しさえする.人間を「自殺し得る動物」とするのは定義付けの行き過ぎであろうが,この苦患感受度と自己保存欲との差引プラス・マイナスは次第に微妙になりつつあるように見える.文化の進歩は,社会的,経済的,個人意識的に苦患の量を相対的に増しつつあるに対し,自己保存欲は生物学的に不変で,ここに生命に対する負の出納への傾向が生じやすいのである.
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