ウイルス性耳下腺炎
著者:
今野昭義
,
伊藤永子
,
寺田修久
,
岡本美孝
ページ範囲:P.853 - P.857
I.ウイルス性耳下腺炎の病因ウイルス
ウイルス性耳下腺炎の大部分はムンプスウイルスによるものである。Meuermanら1)は臨床的にウイルス性耳下腺炎と考えられた100症例についてウイルス分離および抗体検索により病因ウイルスの同定を行ったが,95例ではムンプスであることを確定でき,1例はIgM抗体値の上昇からパラインフルエンザ3型耳下腺炎が考えられ,他の4例ではウイルスの関与を確認できなかったと述べている。われわれも臨床的にウイルス性耳下腺炎と考えられた年齢15歳以上の40症例を対象として,急性期および回復期のペア血清を用い,補体結合反応および赤血球凝集阻止試験を行い,11種のウイルス(ムンプス,パラインフルエンザ1,3型,コクサッキーA9およびB1型,単純ヘルペス,帯状ヘルペス,アデノ,エコー3,7,11型)の関与の有無を検討した。31例はムンプスと診断できたが,他の9例については病因ウイルスは不明であった。文献的にみるとサイトメガロウイルス2),コクサッキーウイルスA型2,3),エコーウイルス,パラインフルエンザ・ウイルス1,3型1,4,5)による急性耳下腺炎の報告もあり,とくに成人における急性非化膿性耳下腺炎においてムンプスウイルス以外のウイルスが関与しているであろうと考えられる症例は確かに存在する。しかし現在ムンプス以外のウイルス性耳下腺炎については不明な点が多い。これらは近年発達しつつある酵素抗体法(ELISA法)を中心とする抗体検査法によるさらに詳細な検索成績と症例の集積を待つことにして,本稿では日常臨床上最も問題となることが多いムンプスウイルスによるムンプス(おたふくかぜ,流行性耳下腺炎)について述べる。