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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科60巻11号

1988年11月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

脂漏性角化症

著者: 岡田真由美 ,   新井寧子 ,   古内一郎 ,   岡田孝一

ページ範囲:P.986 - P.987

 脂漏性角化症(scborrheic keratosis;SK)は良性の上皮性腫瘍で,老人性疣贅ともいう。60歳代の男性の86%,女性の71%に認められるほど高齢者に多い病態である。しかし臨床病態が多様で,図1の症例のように耳介に発生し,かつ図2の症例のごとく大きく腫大する例もあり,耳鼻咽喉科医として診断が困難な場合がある。一般的にSKの人きさは半米粒大から豌豆大まで,色調はメラニンの量を反映して正常皮膚色から黒褐色まで,表面は平滑または顆粒状で毛孔性角栓を認め,周囲との境界は明瞭でかつ隆起している.好発部位は顔面,胸背部で,耳介や外耳道に発生するSKは比較的少ない(図3)。図4〜6にSKの典型例と,SKの鑑別疾患(表1)のうち臨床像の近い基底細胞種および悪性黒色腫の症例を供覧する。SKの組織像は臨床病態と対応して多様でありさまざまな分類がなされているが,基本的には皮膚上方への異塑性のない腫瘍細胞の増殖である(図7,8)。治療としてはSKは放置しておいて支障ないが,悪性腫瘍との鑑別が困難な時や美容上問題がある時は切除する。またSKが数か月中に急速に多発し掻痒感を伴う時は,内臓の悪性腫瘍の合併(Leser-Trélat syndrome)を疑い全身の精査をする必要がある。

原著

染色体異常(46,XY,t(5;6),ins(7))による中耳奇形の1症例

著者: 加藤洋子 ,   飯野ゆき子 ,   鳥山稔 ,   山田清美

ページ範囲:P.989 - P.993

I.はじめに
 中耳奇形をはじめ先天奇形の成因は複雑である。奇形の原因としては遺伝子,染色体,胎生環境(薬剤,感染),あるいは遺伝的要因と環境要因の相互作用などが挙げられる。今回私たちは染色体異常が認められた外耳・中耳奇形および顎,顔面の発育不全,精神発達遅滞を呈する1症例を経験したので,ここに報告する。

体位変化により聴力変動を示した外リンパ瘻が疑われた5症例

著者: 渋谷知子 ,   麻生伸 ,   水越鉄理

ページ範囲:P.995 - P.1000

I.はじめに
 近年突発性難聴やメニエール病と診断された症例の中に,内耳窓が破裂し外リンパ液が漏出するのが原因と考えられる疾患があることが広く認識されてきており,多数の症例が検討1〜4)されている。しかし外リンパ瘻における蝸牛前庭障害はきわめて多様であり,確定診断は試験的鼓室開放によるしかないのが現状である。
 私たちは昭和60年に頭部打撲後の外リンパ瘻が疑われた症例で初めて体位変化による聴力変動を認め,手術的に外リンパ瘻を確認,閉鎖して聴力の改善をみた。このような聴力変動は1982年Fraserら5)が報告しているが,この経験以後当科では外リンパ瘻の疑いのある症例に対し,体位を変えて聴力検査を施行している。今回はその中でも著明な変動を示した5症例の結果を中心に,外リンパ瘻について若干の考察を加えて報告する。

内耳の高分解能MRイメージング

著者: 熊川孝三

ページ範囲:P.1001 - P.1007

I.はじめに
 核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging:MRI)の高性能化は目覚ましく,最近では微細な脳病変や聴神経腫瘍の診断上きわめて有用である,という報告1〜3)が多数みられるようになってきている。しかしながらさらに微細な構造である内耳を描出するためにはさらに高い空間分解能とS/N比の改善が要求され,これまでの静磁場強度の低いMRI装置では困難であった。この点を補い空間分解能を上げるためには特別の耳用の表面コイルの使用が必須4)であった。
 筆者は高い静磁場強度の装置を用いることによって,通常の頭部用コイルを用いて2.5mmという薄いスライス幅で高分解能CTの画像に匹敵する内耳のMRI像を得ることができた。そしてこのいわば高分解能MRIによって,内耳膜迷路のリンパ液信号を描出し軟部組織による閉塞との鑑別診断が可能であること,膜迷路内にある程度の長さを有する電極を挿入することが可能か否かを術前に予測できること,しかもこの点は高分解能CTでも診断困難であることから,MRIがコクレアインプラントの適応決定上きわめて有用な内耳病態の診断法であることを報告5)した。本論文では現時点での高分解能MRIによる正常内耳の描出能および内耳の描出能を高めるための技術的な問題点を中心に報告する。

内腔上皮下にリンパ組織を伴う喉頭蓋嚢胞の2例—鰓性嚢胞との関連について

著者: 川井田政弘 ,   福田宏之 ,   加納滋 ,   大木和明 ,   紀太康一 ,   川崎順久 ,   蓼原東紅

ページ範囲:P.1009 - P.1012

I.はじめに
 喉頭蓋嚢胞は稀なものではなく,喉頭嚢胞の中で最も多く,主にその舌面に生じる。またその多くは病理組織学的に貯留嚢胞や類表皮嚢胞であることはよく知られている。最近われわれは喉頭蓋嚢胞の臨床診断のもとに手術を行い,病理組織学的に内腔を覆う上皮は重層扁平上皮で,その上皮下にリンパ組織を有する症例を2例経験した。これらの症例を報告するとともに,文献的考察を加えてその成因や診断に関する問題点などについて検討した。

当科における最近の甲状腺手術例の検討(第1報)

著者: 山田弘之 ,   矢野原邦生 ,   宮木良生

ページ範囲:P.1013 - P.1017

I.緒言
 一般にわれわれ耳鼻咽喉科医が取り扱う甲状腺疾患は,結節性病変を有し手術的治療を要するものが多い。一方で甲状腺が頭頸部領域にありながら一般外科との境界領域であることから,施設によっては手術症例数の減少を余儀なくされているところがあるのが現状である。さらに超音波検査をはじめとして,術前画像検査の普及.進歩と診断技術の向上により微細病変の発見率が向上するとともに,良・悪性の鑑別能も向上し,手術症例数はむしろ減少傾向にある。
 当科が現体制になった1986年4月から1987年8月までの1年5か月間で手術的治療(open biopsyを含む)を施行した甲状腺疾患例は31例である。短期間ではあるが全例について臨床的考察を行ったので,若干の文献的考察も加え報告する。

嚢胞を思わせた前頭洞癌症例

著者: 小西孝彦 ,   飯沼壽孝 ,   矢野純 ,   北原伸郎

ページ範囲:P.1019 - P.1021

I.はじめに
 鼻副鼻腔悪性腫瘍の中で前頭洞癌の占める比率はきわめて低く,しばしば問題となるのは他の前頭洞疾患,ことに前頭洞嚢胞との鑑別である。われわれは術前の諸検査により前頭洞嚢胞を疑い,手術によって前頭洞癌と判明した症例を経験したので報告し,併せて文献的考察を加えた。

小児のbronchial castの1例

著者: 重野浩一郎 ,   隈上秀伯 ,   吉国裕文 ,   早田篤

ページ範囲:P.1023 - P.1027

I.はじめに
 特徴的症状と胸部X線写真により気管支異物が疑われた小児に硬性気管支鏡検査を実施し,大きな気管支に沿って枝分かれした気管支鋳型(bron—chial cast)を摘出した。今回bronchial castを形成する疾患および成因について考察し,また近年本症例と酷似した小児のbronchial cast症例の報告がみられるので,15症例について文献的検討を加えた。

耳下腺腫脹で発症したWeber-Christian病の1症例

著者: 西岡絵里子 ,   川上登史 ,   林一彦 ,   小野和彦

ページ範囲:P.1037 - P.1041

I.緒言
 Weber-Christian病は別名relapsing febrilenodular non-suppurative panniculitisとも呼ばれ,発熱と多発性皮下硬結を主徴とする全身性の脂肪織炎であり,原因不明のまれな疾患である。
 今回,われわれは左耳下腺腫脹,頬部腫脹を主訴とし,諸検査の結果Weber-Christian病と考えられる症例を経験したので報告する。

頸動脈海綿静脈洞動静脈瘻の1例

著者: 古川仭 ,   加納美樹子 ,   上出文博 ,   梅田良三

ページ範囲:P.1043 - P.1047

I.はじめに
 副鼻腔と眼球の解剖学的関係から副鼻腔疾患に由来する眼症状の合併はよく知られている。とくに副鼻腔手術既往患者における眼球突出の症状は真っ先に副鼻腔嚢胞が疑われて当然であろう。しかし蝶形骨洞・後部篩骨洞領域を侵す血管性病変の一つとして,また血管性他覚的耳鳴の一因として頸動脈海綿静脈洞動静脈瘻(carotid-cavernoussinus fistula,以下CCFと略)が存在することに注意しなければならない、、最近われわれは眼球突出を主訴に来科した副鼻腔炎手術既往患者がCCFであった1例を経験したので,ここにその詳細を報告する。

鏡下咡語

株式会社エフエム山陰発足を顧みて

著者: 坂口幸雄

ページ範囲:P.1030 - P.1031

 山陰(島根・鳥取両県に1局)初の民間FM放送局として昭和61年10月に「エフエム山陰」が開局しました。従来,中波放送は夜間になると遠距離まで電波が届く特性があり,このため島根県西部では特に外国電波による雑音・混信という障害があります。FM放送はその障害も全くなく,スピーカーから流れる音は左右多少の異なったステレオ放送です。そのために番組のほとんどは音楽を生かした番組になっています。音楽もあえてジャンル別に分けるとすると,クラシック,ポピュラー,ロック,歌謡曲などに分けられ,それぞれの歌手,演奏者の持ち味を充分に生かしてゆっくりと楽しく聴くことができ,心の安定や情緒を養うために求められるのが特長ということができます。聴取者にはもちろん音楽に対する好みがあり,放送聴取時間への変化も多種多様になってきていますが,今一度,FM山陰から流れるたくさんの音楽を耳にして,歌手,演奏者の心を感じとってもらえればと思います。そこには必ず,日本人の唄ならば日本人の心が,外国の唄ならば人類として過去の生きてきた道のり,また生きる方法の変化を感じとることができると思います。
 「あなたの耳は今,健康ですか?」という質問をしてみたいと思います。耳に関する知識は普通の方はあまり持っていないのが現状のような気がします。風呂で耳を洗う。耳垢を耳掻きでホジクリだす。でも汚い話ですが,多少耳垢が溜まっていても気づかないでいる時もあります。しかし反面,「耳学問」という言葉があります。われわれが頭の中に情報を組み入れる一つの手段として,「耳」は重要な役目を担っているといえます。FM放送は繊細な音を送り続けられる媒体ですから,健康な耳を通して,「耳学問」にとどまらず「耳で音楽の心」を感じとってもらえればと思います。それが私の本業とFM放送との関わり合いであると思っていただいても結構です。

私は知りたい

免疫反応

著者: 矢田純一

ページ範囲:P.1033 - P.1035

I.免疫反応とは
 免疫系の生体における役割分担は,生体を構成している組織(自己)をその正常な機能を損う異質な存在(非自己)から護って機能を全うさせるということである。生体を護るべき相手として微生物が最も重要であることはいうまでもないが,その他の異物,他の個体の細胞や組織,生体内に生じた老廃組織,変異細胞なども排除すべき不都合な存在として対象となる。
 そのような役割を遂行するためには二つの仕事をしなければならない。まず生体にとって異質であり排除すべき相手(非自己)と保全すべき自らの生体組織(自己)とを明確に区別することである。これを"認識"という。第二は非自己を生体から排除することである。すなわち非自己を認識して,その排除に必要な細胞や物質を増殖させたり作り出したりして準備をととのえ,それによって次に実際に非自己を取り除くという作業をするのである。この二つのステップのうち,前者のほうを応答相(responder phase),後者を効果相(effector phase)という。この二つを合わせて免疫反応というが,前者を免疫反応の求心経路(af—ferent limb),後者を遠心経路(efferent limb)といういい方もする。

CPC

扁桃原発悪性リンパ腫の1症例

著者: 平良晋一 ,   奥田稔 ,   山野辺滋晴 ,   羽田達正

ページ範囲:P.1049 - P.1053

 頭頸部領域の悪性リンパ腫のなかで,Waldeyer輪原発のものは他の頭頸部領域のそれより予後がよいといわれている一方,腹部の再燃がしばしばみられる。
 今回われわれは初回治療後約2年を経て胃に再発したが,その後も比較的緩やかに経過し,初発後6年9か月で全身転移死亡した症例を経験したので提示する。

医療ガイドライン

高度先進医療(1)内耳窓閉鎖術

著者: 新川敦 ,   坂井真 ,   三宅浩郷

ページ範囲:P.1055 - P.1060

はじめに
 内耳窓破裂症は従来から気圧外傷,頭部外傷によって起こる病態であることが知られていた。1968年Simmons1)が突発性難聴のなかにも,なんら重大な外傷の既往のない症例でも内耳窓が破裂し,外リンパ漏が存在することを報告した。それ以来,従来は突発性難聴,変動性感音難聴,メニエール病,進行性感音難聴,原因不明めまい,として扱われていた症例の中にもこの疾患が存在するとの報告2〜8)が多くなされている。しかしこの疾患には特徴的な症状がなく,積極的に本疾患が存在することを念頭に置かない限り,他の疾患として保存的に取り扱うことが多いものと考えられる。またその手術治療も試験的鼓室開放術を行って初めて,外リンパ液の漏出することが判明する例がほとんどであり,いまだその手術適応については試行錯誤的な面が少なくない。
 しかし本症に対する手術成績は従来までの保存的治療では難治であったものが,手術治療を行うことで完治または改善させることができるといった点で,積極的に取り組むべき問題と考えられる。

海外トピックス

第3回国際真珠腫学会

著者: 中野雄一

ページ範囲:P.1061 - P.1063

 本年6月5日から9日までデンマーク,コペンハーゲンで開催された第3回国際真珠腫学会は,いろんな面で大変勉強になり,また参考にもなった。会長は第14回日本臨床耳科学会で講演されたコペンハーゲン大学Gen—tofte病院のTos教授で,日本でも顔なじみの人が多い。最近はティンパノメトリーを用いた乳幼児から学童期までの一連の調査で,中耳動態に関するすぐれた研究を発表している。気さくで,かつきわめて研究熱心な人である。ただしTos教授のスタッフに聞いたところやはりこわいといっていた。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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