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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科60巻12号

1988年12月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

口腔底皮様嚢腫

著者: 横山晴樹 ,   深澤収 ,   窪田志功 ,   梅垣油里

ページ範囲:P.1070 - P.1071

 口腔底に発生する嚢胞性疾患の最も代表的なものはガマ腫であるが,それと鑑別すべき疾患に皮様嚢腫があり,比較的まれな疾患とされている。われわれは2例の口腔底皮様嚢腫を経験する機会を得たのでここに供覧する。
 症例1(図1〜6)は成人例で32歳女性である。口腔底およびオトガイド部腫脹を主訴に来院した。

原著

Chlamydia trachomatisによる滲出性中耳炎

著者: 小川浩司 ,   橋口一弘 ,   都築達 ,   和山行正

ページ範囲:P.1073 - P.1077

I.はじめに
 Chlamydia trachomatisは性行為感染症(STDs;sex—ually transmitted diseases)の病原体として再び脚光を浴びるようになった。そしてC. trachomatisは感染した産道を通る時,こどもに感染し乳幼児のトラコーマや封入体結膜炎,そして無熱性肺炎の原因になることが報告されている。中耳炎に関しては,Tippleら1)がC. trachomatisによる無熱性肺炎で入院した生後5か月未満の患児37名について調べ,半数に中耳疾患があり,そのうち鼓膜切開を行った11名中3症例で中耳貯留液よりこの病原体が見つかったことを報告している。しかしHammerschlagら2)は9か月から8歳までの滲出性中耳炎児68名の中耳貯留液とアデノイド組織のC. trachomatisを検索したが,分離できたのはたった1例のアデノイドからで,1歳以上の子供ではC. trachomatisは滲出性中耳炎の病原体として大きな役割は演じていないのではないかと述べている。
 われわれは最近C. trachomatisが原因と思われる滲出性中耳炎を3例経験し,滲出性中耳炎の成因を考えるうえで興味ある知見を得たので報告し,クラミジア感染に関する問題点について考えてみた。

外耳道真珠腫手術における耳後部皮下茎皮弁の応用

著者: 山岨達也 ,   庄司稔 ,   小林武夫

ページ範囲:P.1079 - P.1083

I.緒言
 外耳道真珠腫の報告は1850年のToynbee1)が嚆失とされる。本邦では骨部外耳道に拡大があり耳垢の付着や栓塞を伴うものを外耳道真珠腫としている2)が,欧米ではこれをkeratosis obturans (以後KOと略す)とexternal auditory canal choles—teatoma (以後EACCと略す)に区別3,4)している。KOは保存的治療が勧められている3)が,EACCでは手術的治療を勧めるものが多く,とくに経外耳道的に病変が十分明視できず慢性の疼痛が持続するような骨破壊を伴う進展例が適応5)とされる。手術の要点は真珠腫の除去,炎症性骨の郭清,欠損部の再建6)であり,とくに欠損部が大きい場合その再建に工夫が必要である。今回われわれは耳後部皮膚を皮下茎皮弁として外耳道再建に用い,若干の知見を得たので報告する。

突発性難聴の予後判定—温度眼振検査成績を指標とする検討

著者: 平出文久 ,   三好俊二 ,   椿博幸 ,   石田孝

ページ範囲:P.1085 - P.1090

I.はじめに
 突発性難聴(以下突難と略す)は突発的に高度の感音難聴に陥った病態であり,鼻疾患における鼻出血と同じように症状が病名となっている代表的疾患の一つである。突発的に内耳に高度の器質的あるいは機能的障害を起こさせる原因にはいろいろある。野村1)は突難をその推察しうる病因から,①infectious sudden deafness,②vascular sud—den deafness,③metabolic sudden deafness,④mechanical sudden deafnessに分類しているが,現在はこのような内耳障害を起こさしめた原因が不明である場合のみ,特別に突難として取り扱われている。しかしどのような疾患でも必ず病因が存在するので,突難の病因が解明されれば,この病名もいつかは消えゆく運命にあるものと思われる。突難は病因の多様性にもかかわらず,その症状の発現様式,特徴的な病態や回復性などから,ほかの原因不明の感音難聴などと比較するときわめて特異的な興味ある疾患である。今回突難の予後判定の指標として,温度眼振検査による半規管の機能状態を取り上げ,聴力の回復との関係を検討してみた。また患者の訴えためまいの有無と聴力の回復度についても,同様に検討を加えた。

耳性脳膿瘍の2症例

著者: 田山二朗 ,   水野正浩 ,   菅澤正 ,   仙波哲雄 ,   鈴木康司 ,   増田成夫

ページ範囲:P.1091 - P.1095

I.はじめに
 耳性頭蓋内合併症は抗生剤の進歩とともに一見著しく減少してきたようであるが,山本ら1)の全国調査のように昭和48年より再び増加傾向があるとの報告もある。また近年の傾向として抗生剤の遮蔽現象により定型的な症状が出現せず診断が困難な例が多くなってきたとも警告2)されている。一方CT検査が導入されて以来,耳性頭蓋内合併症,とくに脳膿瘍の診断は侵襲も少なく正確に行われてきているのも事実である。さらに治療,予後についてもCT導入前後では大きく変化していると思われる。
 今回われわれはCT検査により診断された耳性小脳膿瘍1例と側頭葉膿瘍1例を経験したのでここに報告し,若干の考察を加えCT検査の有用性を強調した。

鼻副鼻腔多発結石と上顎癌の合併した1症例

著者: 田山二朗 ,   八木昌人 ,   市村恵一 ,   村上泰

ページ範囲:P.1097 - P.1100

I.はじめに
 鼻結石症例は欧米では400例以上1),本邦のみでも100例を越える報告2,3)がなされているが,その多くは固有鼻腔結石であり,副鼻腔内結石の報告例は比較的少ない。また多発鼻副鼻腔結石症例の報告例,また上顎癌との合併例も稀である。今回われわれは鼻腔および上顎洞に結石が多発したと同時に上顎癌を合併した,かなり稀と思われる症例を経験したのでここに報告する。

松果体腫瘍術後,聴覚障害,下方注視麻痺,輻輳眼振を呈した中脳障害の1例

著者: 山田勝士 ,   加我君孝 ,   進藤美津子 ,   田村晃 ,   佐野圭司

ページ範囲:P.1101 - P.1107

I.はじめに
 松果体腫瘍はわが国では全脳腫瘍の3〜4%と諸外国に比べて多く,若年者に好発する脳腫瘍の一つである。松果体はその存在する解剖学的位置のため,ここに腫瘍が生じると容易に中脳障害を惹き起こす。松果体腫瘍では稀に聴覚障害を呈することが知られており,実際に報告1〜5)があるが,その機序は明らかではない。中脳障害の神経症候は垂直性眼球運動系の障害として生じ,上方注視麻痺が下方注視麻痺よりも頻度が高い。また輻輳眼振もその神経症候の一つである6)。われわれは松果体腫瘍摘出術後,中枢性聴覚障害,下方注視麻痺および輻輳眼振を合併した1例を経験したので,MRIによる画像診断学的および神経耳科学的に検討し,報告する。

上皮小体嚢胞の1症例

著者: 中村雅一 ,   渡辺博紀 ,   加藤昌樹 ,   鈴木光也

ページ範囲:P.1109 - P.1112

はじめに
 頸部に認められる嚢胞性疾患のうち上皮小体嚢胞は比較的稀な疾患であり,特異的な症状に乏しいため診断がつきにくく,多くの症例で術後の病理組織標本検索によりはじめて診断が確定している。今回われわれは上皮小体嚢胞の1例を経験し穿刺吸引により術前に診断しえたので,本邦報告集計例の文献的考察を加えて報告する。

鏡下咡語

「駅ビルの先生!!」と言われて4年

著者: 古川雅子

ページ範囲:P.1114 - P.1115

 上野駅から上越新幹線に乗って40分,ここが上州高崎です。私の診療室は高崎駅ターミナルビルの7階にあり,坪数12坪という小さな診療室です。最近では駅前の整備工事が進み,そこここにビル建設が行われ,7階の窓からはクレーンがいくつも見られます。高崎は今まさに交通の要地として様変わりをしています。私はこの高崎の旧中心地の一開業医の娘として育ち,当然父の跡をつぐものとある程度自他ともに認めていました。しかし以前からビル開業への憧れを持っていましたので,機会があれば……,と少々の期待があり,ふとしたことからそれが実現することとなって現在に至っています。
 私は私なりの開業医としての夢があり,その夢を現実化するためにはビル開業が一番フィットしていると考えていました。開業医としての夢(言い換えれば条件といったほうがよいかもしれませんが…)とは,

私は知りたい

T細胞とB細胞

著者: 岩田力

ページ範囲:P.1117 - P.1121

I.T細胞とB細胞,その名前の由来と免疫系の仕組み1)
 免疫系は細胞性免疫と液性免疫の二つに大きく分けられる。細胞性免疫は遅延型皮膚反応や移植片の除去にその作用は代表される。液性免疫は抗体の産生を受け持つ。実際にはこの二つの系はお互いに作用しあって個体の免疫能を発現している。T細胞の名前の由来はthymus-derived (=thymus-processed, thymus-dependent) lymphocytesからである。すなわち胸腺から派生した,より正確には胸腺を経由したリンパ球という意味を持つ。B細胞の名前の由来は"bursa equivalent"—derived (non-thymus-processed, thymus-indepen—dent) lymphocytesからである。すなわちFabricius(ファブリキウス)嚢から派生した,またはFabri—cius嚢を経由したリンパ球という意味である。哺乳類には鳥類と違ってFabricius嚢がないため,漠然とFabricius嚢相同器官という概念が持ち出されるが,解剖学的に同定されているわけではない。すべての造血器官にその役割があると考えられている。
 歴史的にみれば,免疫系に二つの大きなシステムがあることが明らかとなったのはそう古いことではない。感染防御に関係する成分として初めに考慮されたのは貪食細胞(phagocytic cells)であった。この貪食作用を増す(オプソニン効果)ものが血清中にあることが知られ,いわゆる細胞性免疫と液性免疫の二つの概念が生まれたが,細胞性免疫に関してはより正確にいうと細胞伝達性免疫(cell-mediated immunity)であり,細胞を介して初めて伝達される免疫能,すなわち移植片の除去,遅延型皮膚反応などに代表されるもので,その主体はリンパ球であることが明らかとなった。液性免疫を担うものは各種の抗体であるが,抗体産生細胞である形質細胞はリンパ球より変化移行するものであることも明らかとなった。

CPC

鼻腔のamelanotic melanomaの1症例

著者: 西嶌渡 ,   竹生田勝次 ,   市川容子 ,   野崎信行 ,   上原敏敬 ,   志佐湍 ,   高山昇二郎 ,   柳川茂

ページ範囲:P.1123 - P.1126

 メラノーマは欧米人に比して日本人には少ない1)疾患である。しかしその悪性度が高いため,本邦でも専門領域を問わず臨床医からは常に注目を受けている。成書によると全悪性腫瘍の1.2%の頻度で発生する2))といわれている。その発生母地は大多数が皮膚であるが粘膜に発生するメラノーマもある。欧米の報告によると全メラノーマの0.4%〜14%14)に,本邦の報告ではそれよりももう少し頻度が高く,全メラノーマの13%3)〜27%4))粘膜に発生するメラノーマを認め,その予後は皮膚に由来するメラノーマよりもさらに悪い1)といわれている。またメラノーマでは必ずしも黒色を呈するとは限らず,色素沈着を認めないamelanotic melanomaが全メラノーマの10%〜30%4)に認められる。Conleyら6)は全メラノーマの10%が頭頸部に原発し,さらに頭頸部の粘膜に原発するものに着目すれば,その5.7%がamelanotic melanomaであると報告している。いずれにせよamelano—tic melanomaは少ない疾患といえる。供覧した症例は鼻腔の粘膜に発生したamelanoticmelanomaで,鼻腔内はメラノーマに通常認められるような黒色は呈さず,易出血性の灰白色病変を主体とし,加療中にもかかわらず頭蓋内への直接浸潤とともに消化管を中心とする遠隔転移により死亡した症例である。

医療ガイドライン

産業医と耳鼻咽喉科

著者: 岡本健

ページ範囲:P.1127 - P.1132

I.産業医学の歴史と背景
 約200年前,とくに欧米において盛んになった鉱業,工業の発展により,われわれは文化的な生活を送ることができるようになったが,同時に働く者にとっては健康の面で多くの問題が生じてきたことは周知の通りである。
 Bernardino Ramazzini (1633〜1714)はその著書「働く人々の病気,Morbis Artificum Diatriba(1700)」の中で,ある職業に従事する労働者がある特定の疾患に罹患することのあることを調査し,医師が患者にまず聞かなければならない大切な質問の一つは,その職業についてであると述べている。

海外トピックス

第19回国際オージオロジー学会(エルサレム)に出席して

著者: 立木孝

ページ範囲:P.1133 - P.1135

 第19回国際オージオロジー学会は1988年6月5日から9日までの5日間,イスラエル共和国の首都エルサレム市で開かれた。イスラエルといい,またエルサレムというと,われわれには常識の枠を外れたいくつかの際立った印象がある。たとえば,ユダヤ人のこと,ユダヤ人の歴史のこと,イエス・キリストのこと,ナチスによるユダヤ人虐殺のこと,中束戦争のこと,パレスチナ難民のこと,などなどである。しかし少なくとも私にとっては,これらの知識はあくまでもきわめて断片的なものであって,それらのいろいろの知識と現実にあるイスラエルという国とがどのようにかかわっているのか,全体的なイメージとしてはピントの合った像を結ばなかった。
 今回,国際オージオロジー学会出席のために実際に5日間をエルサレムで過してみて,ようやく今まで持っていたいくつかの常識を越えた断片的な知識が一つの像を結ぶと同時に,イスラエルという国,その現実,またその歴史,そのものがわれわれの常識を越えた特別なものであるということに気がついたのである。それは極東の島国という恵まれた環境に生まれ育ったわれわれ日本人にとってはきわめて特異なものと感ぜられるのであるが,しかし同時に人間の社会,人間の歴史としての基本的な構造はわれわれと共通するところがあるのだということがわかって,逆に特別な親近感をすら持つことができたのは嬉しいことであった。

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「耳鼻咽喉科・頭頸部外科」第60巻総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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