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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科60巻3号

1988年03月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

交通外傷によりきぬた骨が鼓室外に脱出した1例

著者: 田山二朗 ,   市村恵一 ,   八木昌人 ,   村上泰

ページ範囲:P.186 - P.187

症例
患者:21歳男性。
主訴:左聴力低下。

原著

上咽頭癌治療における手術療法の役割

著者: 湯本英二 ,   丘村煕

ページ範囲:P.189 - P.194

I.はじめに
 上咽頭癌は,1)低分化型の扁平上皮癌やリンパ上皮腫といった放射線感受性の高い腫瘍が多い,2)発生部位が深部にあり解剖学的に複雑なために外科的治療の適応となりにくい,3)難聴,鼻出血など隣接臓器の症状を呈するまで無症状に経過することが多い,4)原疾患の早期から頸部リンパ節転移,遠隔転移がしばしばみられる,5)細胞性免疫能の低下が著しい,などの特徴がある。したがって現在では上咽頭癌の治療は放射線療法が主体となっているが,その5年生存率は30〜40%以下であり他の頭頸部癌と比較して極端に低い1〜4)。本疾患の治療成績の向上のために遠隔転移防止の観点から化学療法,免疫療法の重要性が強調されている。一方原発巣が深部にあるために従来の理学的診察では病巣の広がりを過小に評価しがちである5〜7)。また根治照射終了時の腫瘍の残存を診断しえない例も少なくない。しかし最近のCT検査の発達によって原発巣の診断および経過の追跡が正確に行えるようになった8,9)。その結果根治照射終了後上咽頭ファイバースコピーでは残存腫瘍を認めず従来なら治癒と判断された例でも,CT検査によって腫瘍の残存を見出しうる症例を少なからず経験した。このような症例に対し著者らは積極的に外科的治療を追加し治療成績の向上に努力してきた。本稿では過去4年間に当科で経験した9例の上咽頭癌の治療について報告し,併せて上咽頭癌治療における手術治療の役割について考察した。

滲出性中耳炎により生じた内耳および顔面神経障害例

著者: 北條和博 ,   遠藤泰介 ,   込田茂夫 ,   中野雄一

ページ範囲:P.195 - P.199

I.はじめに
 滲出性中耳炎は日常診療においてしばしぼ遭遇する疾患であり,時に合併症あるいは後遺症が問題となる。とくにコレステリン肉芽腫の形成は治癒を遷延させるばかりでなく,稀であるが側頭骨破壊をきたすことが報告されている。
 今回われわれは滲出性中耳炎により生じたと思われるコレステリン肉芽腫の側頭骨破壊で内耳障害および顔面神経麻痺をきたした1例を経験したので報告する。

神経耳科学的検査が診断の重要な手がかりとなった転移性小脳腫瘍症例

著者: 村田保博 ,   坂田英治 ,   伊藤彰紀 ,   大都京子

ページ範囲:P.201 - P.205

I.はじめに
 頭位性眩景を訴える疾患には末梢内耳障害による良性発作性頭位性眩暈がまず第一に挙げられるが,これに対して中枢性の障害によるものもあることを常に念頭に置いて日常臨床に当たらなければならない。
 すなわち仮性良性発作性眩暈1)と悪性発作性頭位性眩暈2)がそれであり,後者はその原因として後頭蓋窩の出血,腫瘍,血管障害などがある。今回われわれは頭位性眩景を訴える原発性肺癌患者で,神経耳科学的検査によって小脳転移が疑われCT scanでその存在が確認され,しかも化学療法の結果症状の軽快とともに腫瘍陰影の著明な縮小をみた興味ある症例を経験したので報告し,諸家の御参考に供する。

反回神経麻痺を初発症状とした不顕性肺癌の1例

著者: 山田弘之 ,   矢野原邦生 ,   磯島明徳 ,   倉田直彦 ,   大井逸 ,   福山守

ページ範囲:P.207 - P.211

I.緒言
 反回神経麻痺による嗄声を訴えて来診する患者は稀ではなく,さまざまな検査を行いながら原因を明確にできない症例も多い。このような症例は特発性反回神経麻痺として経過観察されやすいが,重要なのはその原因に悪性腫瘍の存在がないかを追うことであろう。さらに大切なのは,反回神経麻痺をきたす1因子が発見されたために以後の検索がついおろそかになり,隠れた因子を見逃し原疾患の治療時期を遅らせてしまうようなことを避けることであろう。
 最近われわれは反回神経麻痺の原因検索の過程で甲状腺腫瘍を見出したものの,真の原因が肺門部肺癌であった1例を経験した。反回神経麻痺の原囚検索において日常の臨床の参考にすべぎ1例と考え,反省を含めて若干の文献的考察を加え報告する。

タイ航空事故による航空性中耳炎症例

著者: 石丸幹夫 ,   石川元一

ページ範囲:P.213 - P.219

I.はじめに
 航空性中耳炎自体はとくに珍らしい疾患ではない。これまでにも諸家の報告にあるようにその発生のメカニズムはほとんど解明されており,耳管機能がきわめて重要な役割を果たし,それを取り巻くさまざまな因子,たとえば上気道炎,副鼻腔炎,鼻中隔彎曲症,睡眠,飲酒,慣れ等の影響が報告1,2)されている。しかし今回の症例はその発生のメカニズムが特殊な事故によるものであるだけに,中耳内気圧が外界に対して相対的に高圧に,そしてまた低圧になったという2相の変化を考えざるをえず,鼓膜所見をできるだけ詳細にみながら中耳障害の発生機転を検索してみた。
 事件は昭和61年10月26日に発生したタイ航空エアバスの圧力隔壁の破損劇故で,それにより発生した航空性中耳炎の5症例をみる機会を得たが,これは事故による機内の急激な減圧と続いてなされた急降下による加圧であり,通常の飛行では考えられないような気圧変動であっただけに意義深い症例と考えられた。

頭頸部領域における同時重複癌の2症例

著者: 井上耕 ,   宮田守 ,   森田守

ページ範囲:P.221 - P.226

I.はじめに
 1個体に同時または時間を異にして原発性悪性腫瘍が発生するいわゆる重複癌は,発癌機序の解明の上から興味をもたれ,さまざまな解析がなされている。今回われわれは頭頸部領域内同時重複癌の2症例を経験したので,文献的考察を加え報告する。

鼻中隔膿瘍を形成した鼻結核の1症例

著者: 花田武浩 ,   鰺坂孝二 ,   島哲也 ,   橋本真実

ページ範囲:P.227 - P.230

I.はじめに
 1950年以前には死因順位の1位を占めていた結核も,SM,INH,RFPをはじめとする抗結核薬の開発や結核対策の推進,あるいは国民の生活水準の向Lなどに伴い,罹患率,死亡率ともに著しく減少してきている。
 耳鼻咽喉科領域の結核症にも同様の傾向がみられている。したがって日常診療の場で本症に遭遇した場合にその診断に困惑させられることが少なくない。

頭頸部領域における大胸筋皮弁の二,三の応用

著者: 高橋正紘 ,   山本信和 ,   山本令子 ,   東さ織 ,   成田七美

ページ範囲:P.231 - P.235

I.はじめに
 大胸筋皮弁は生着の優秀性ならびに遠隔部の再建に有利な点から頭頸都領域で広く用いられている。われわれも男性の下咽頭・頸部食道再建に大胸筋全部を用いる方法1)で満足すべぎ結果を得ている。遊離植皮大胸筋皮弁(skin-quiltedPMMC)2,3)は女性の頸部食道再建に有用であるほかいくつかの用途が考えられる。一力本皮弁のbulkyな特徴は頭頸部の大きな組織欠損の修復にきわめて好都合である。
 今回はこれらの自験例を報告し,大胸筋皮弁の利用方法および使用に当たって注意すべぎ点を検討した。

頸部異所性胸腺の1例

著者: 井上美知子 ,   井上都子 ,   安部治彦

ページ範囲:P.247 - P.251

I.はじめに
 幼児の頸部腫瘤を主訴とする疾患では鰓性嚢胞,甲状舌管嚢胞,嚢胞状リンパ管腫などの発生頻度が高いが,非常にまれなものとして胸腺組織が頸部に腫瘤を形成することがある。著者らは1歳2か月の女児に頸部腫瘤を認め手術の結果胸腺組織と判明した症例を経験したので,ここに報告する。
 これまで頸部異所性胸腺が術前に診断された報告例は頸窩部に発生し胸腔内と連続していたものだけであり,本疾患は術前の診断が困難である。充実型の頸部異所件胸腺が術前に診断できれば摘出の必要はなく,胸腺機能は保存できる。この理由でどの程度まで他の頸部腫瘤との鑑別が可能であるかを検討した。

鏡下咡語

古本

著者: 飯沼壽孝

ページ範囲:P.238 - P.239

 その定義は定かではないが,俗に言い慣らわす古本には二つの種類がある。別に医書,文芸書と限らず,最近出版されたもので,一般の書店の棚にまだ並んでいる間に古本屋に出廻る古本と,大分以前に出版されて古本屋以外からは手に入らない古本とである。前者は『白っぽい』本で準新本とでもいおうか,すぐに役立つ本で,もっぱら経費の節約のためである。後者は年代の幅が人間の文字文化の幅と一致するので.ピンからキリまであって博物館の飾り戸棚に収まるものから,何処かの医局の書棚に転がっているものまである。ここでは後者を古本として扱い,われわれのごとくに教養が浅く漢籍,ラテン語,古代語を解さない連中でもまあ何とか読める古本に限ろう。具体的にいえば文明開化以降の古本である。

私は知りたい

免疫複合体

著者: 鬼澤信 ,   市村登寿

ページ範囲:P.241 - P.245

1.はじめに
 生体における抗体の本来の役割は,外来性または非自己の抗原と特異的に結合し,それを中和し除去することである。この場合,抗原とそれに対する抗体との結合物,すなわち免疫複合体(im—mune complex, ICと略す)の形成は生体にとって有利に働く。しかし今世紀初頭Von Pirquet1)によって抗原と抗休の相互作用により血清病が発症するという仮説が立てられ,1950年代以降血清病の動物実験モデルによりICは生体内で組織障害を生じ,生体にとって不利な役割を担いうることが判明した。さらに近年ICは免疫系を調節する機能を有する可能性も検討されている.
 臨床面からも生体に不利に働くICの側而が注目され,ICが血中および組織中に存在し,病因,病態に直接関与すると考えられる疾患が知られるようになってきた。臨床レベルでのICに関する業績は数多く積み上げられてきているが,実際のところ各IC検出法間でデータがバラツキを示し,その解釈がしばしば困難なこともあるために,その臨床的有用性に対する反省の声が出ている2,3)ことも事実である。ここで血中ICの検出法の原理とその限界に関する解説を中心にしてICについてまとめてみたい。

CPC

上顎洞原発の悪性線維性組織球腫

著者: 増田孝 ,   小宮山荘太郎 ,   中島格 ,   上村卓也

ページ範囲:P.253 - P.256

 今回われわれは上顎洞に原発した悪性線維性組織球踵(malignant fibrous histiocy—toma,以下MFHと略す)に対し,手術療法,化学療法,放射線療法,凍結療法を行ったが,頭蓋底,頭蓋内浸潤をきたし死亡した症例を経験し,その剖検を行いえたので報告する.

医療ガイドライン

身体障害者の診断書作成にあたって(とくに聴覚障害)

著者: 鳥山稔

ページ範囲:P.257 - P.263

I.はじめに
 近年わが国は急激な高年齢者の増加で社会構造も変化し,そのために医療の内容も変化してきた。耳鼻咽喉科領域においても老人性・混合性難聴や,中枢・末梢性の前庭障害,麻癖性構音障害,失語症などの患者が急増し,外来を子供から老人へと変化させつつある。事実厚生省社会局更生課の集計でも全国身体障害者実態調査で,全障害者数では昭和55年に197万人であったのが,62年には241万人と1.2倍になり,部位別では視覚障害者は33万人から30万人へと減少したのに対し,耳鼻咽喉科関係は31万人から35万人へと増加してきた。一方前記のごとく聾学校の生徒数は昭和49年の15,000人が現在では9,000人と減少し,また今回の調査でも聴覚・言語系身体障害者のうち65歳以上の高年齢者の198,000人(55.4%)に対して,65歳以下が146,000人(44.6%)と人口構成から考えても耳鼻咽喉科領域の身体障害者は高年齢者に頻度が多い。

海外トピックス

国際シンポジウム「滲出性中耳炎」

著者: 茂木五郎

ページ範囲:P.265 - P.267

シンポジウムの沿革
 本国際シンポジウムは米国オハイオ州立大学耳鼻咽喉科学教室耳科学研究室主任David J.Lim教授を中心に組織されスタートした。Lim教授については今日の耳鼻咽喉科医はわが国はもとより世界各国で誰一人知らない人はないほど高名で優れた耳科学研究者である。この国際シンポジウムを誕延生させ育ててきたことにより,それまで基礎的研究の対象としてはあまり関心が寄せられていなかった中耳を一躍research topicにもってぎた。このことは彼自身の数々の研究業績に匹敵するほどの耳科学研究に対する貢献といえる。
 滲出性中耳炎はかなり古くから知られた疾患であるが,その原因や病態が確定されていないにもかかわらず本症に対する基礎的研究は必ずしも活発であったとはいえなかった.もちろんわが国では東北大学河本(前)教授,関西医科大学熊沢教授はいち早く本症に関心をいだき,精力的に研究をすすめられていたことは申すまでもないが,今日ほど広く行われるようになったのはここ10年ぼかりの聞である.米国では1960年代ワシントン大学Senturia教授(当時Ann Otol Rhinol Laryngo1のeditor)が本症の成因と病態について地道な研究を続けていた。ちなみに当時Senturia教授は滲出性中耳炎発症の引金は感染であると提唱した。だが多くの支持が得られず,依然当時の見解は耳管狭窄に基づく無菌性中耳炎とするのが主流であった.しかし免疫学,細菌学,生化学等当時とくらべ著しく進歩した技法を用いた昨今の研究成果の多くは,Scnturia教授の主張を裏づけるところとなっている。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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