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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科60巻9号

1988年09月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

無汗性外胚葉形成不全

著者: 西嶌渡 ,   竹生田勝次 ,   小林憲明 ,   大柿徹 ,   長谷川誠 ,   斎藤洋三 ,   渡辺勈

ページ範囲:P.700 - P.701

 無汗性外胚葉形成不全(anhidrotic ectodermal dys—plasia)は,無汗症,乏毛症,乏歯症を三主徴とする先天異常と考えられる疾患である。この三主徴以外に鞍鼻,萎縮性鼻炎,前額部突出,口唇突出,歯牙発育異常,耳介変形など,さまざまな特微的所見を示す。本症は生下時より無汗,発汗低下を認め,そのため体温調節が困難となり,小児科や皮膚科を受診する場合が多いといわれている。少し長じて乳幼児期には歯牙の発育不全のため歯科を受診する場合も多く認められる。耳鼻咽喉科への受診は少なく,受診年齢も学童期以降がほとんどで,受診理由は萎縮性鼻炎や鞍鼻などを主訴とする場合が多い。この無汗性外胚葉形成不全症は,多彩な臨床的特徴を示す典型例から,注意しないとその臨床的特徴を見出せないものまで,発現形態はさまざまのようである。供覧する症例は14歳の少年に認められた典型例と考えられる1症例である。

原著

真珠腫性中耳炎の遺残再発

著者: 星野知之 ,   佐藤大三 ,   伊藤久子 ,   石崎久義 ,   野末道彦

ページ範囲:P.703 - P.708

I.はじめに
 真珠腫性中耳炎のために手術を受け長年月たってから再発したり,長い期間にわたって何度も再発を繰り返している症例を最近数例経験した。初回手術の例と違う点がいろいろあり,こうした症の検討は慢性中耳炎ことに真珠腫性中耳炎を手例の検討は慢性中耳炎ことに真珠腫性中耳炎を手術するものにとってさまざまな示唆を含んでいるので紹介したい。再発はすべて遺残によるもの(residual)で,再度陥凹して起こったもの(recur—rent)ではない。

迷路から中耳腔へ進展した聴神経腫瘍の1例—中耳炎を併発し治療に難渋した症例

著者: 暁清文 ,   柳原尚明 ,   横井隆司 ,   近森義則

ページ範囲:P.709 - P.713

I.はじめに
 聴神経腫瘍は内耳道に発生し内耳孔から小脳橋角部へと進展するのが普通であるが,まれに末稍方向に拡がって迷路内に進展したり,迷路内に原発性の腫瘍が発生することがある。このような迷路内聴神経腫瘍にはその存在を疑わせるような特徴的な臨床所見はなく,小さいうちはX線検査やCT検査によっても写し出されないので診断は難しい。とりわけ原発性の場合は一定の大きさに達するまで迷路や内耳道の画像に異常所見を呈さないので診断は非常に困難である。実際これまでの迷路内聴神経腫瘍の報告のほとんどは,迷路摘出術のさいに偶然に発見された1〜8)か,死後の側頭骨病理検査で発見された9〜13)ものである。
 今回報告するのは聴神経腫瘍が迷路からさらに中耳腔へと進展していた症例であるが,発見時すでにかなり大きくなっていたので原発部位が内耳道であるか迷路内か確定することは不可能であった。本例は中耳炎の合併がみられたことから3回に分けて摘出術を行ったが,手術後も再発して治療に難渋した。本例の手術所見ならびに治療経過について述べるとともに,迷路内聴神経腫瘍について文献的考察を行ったので報告する。

突発性難聴様発症後聴力の著明な回復を示した聴神経腫瘍の1症例

著者: 川上理郎 ,   貞岡達也 ,   上杉康夫 ,   東川雅彦 ,   越智真理 ,   川上友美 ,   奥村雅史 ,   牧本一男 ,   高橋宏明

ページ範囲:P.715 - P.719

I.はじめに
 近年CT scan, ABRなどの発達により聴神経腫瘍の診断は大きく進歩し,いわゆるear tumorや難聴のない聴神経腫瘍の報告も散見される。が一方,非典型的臨床経過をたどり診断が困難な症たのであるが,1年後再び同様の聴力低下を生じ,そのさいCT scanにて小脳橋角部腫瘍が発見されたものである。ここに症例を提示し,文献的考察を加えて報告する。

上顎洞aneurysmal bone cystの1例

著者: 加納晃 ,   滝元徹 ,   古川仭 ,   宮崎為夫 ,   梅田良三

ページ範囲:P.721 - P.725

I.はじめに
 頬部腫脹を主訴として受診した患者を診断するさいには,単なる嚢胞から悪性腫瘍まで幅広く疾患を考慮する必要がある。今同われわれは左頬部腫脹を主訴として受診し,穿刺により血性の液が吸引されたため当初はいわゆる上顎洞血瘤腫の疑いがもたれたが,精査を進めて最終的に病理にてancurysmal bone cyst(動脈瘤様骨嚢腫)という,鼻副鼻腔領域ではまれな組織診断を得た1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

慢性副鼻腔炎,上顎癌患者のNK細胞の検討

著者: 斉藤久樹 ,   朴沢二郎 ,   盛庸 ,   太田修司 ,   神均 ,   谷田次郎 ,   工藤肇 ,   高松秀悦

ページ範囲:P.727 - P.733

I.はじめに
 上顎癌患者に慢性副鼻腔炎の既往歴の多いことが報告1)されている。Burnet2)は発癌における免疫監視機構(immunological survcillance)の仮説を提唱したが,著者らは慢性副鼻腔炎患者の免疫監視機構に興味をもち,慢性副鼻腔炎ならびに上顎癌患者血清中,鼻汁中免疫抑制酸性蛋白(im—munosupprcssive acidic protein,以下IAPと略称)値が高値を示すことを報告3)した。今回はtwo-colorフローサイトメトリー分析4,5)を用いて慢性副鼻腔炎,上顎洞癌およびその他の鼻副鼻腔悪性腫瘍患者末稍血中のnatural killer (NK)活性細胞を測定し検討した。

超音波検査で指摘可能であった甲状腺微小癌の1例

著者: 山田弘之 ,   矢野原邦生 ,   宮本良生

ページ範囲:P.743 - P.746

I.緒言
 甲状腺癌においては現在のところ早期癌の臨床的概念はなく,従来のUICCのTNM分類のごとく腫瘍の大きさもその予後を考えるうえで重要視されなかった。その理由として甲状腺癌の予後が一般に良好でかつ臨床経過が長いことが挙げられる。また一方で甲状腺癌は無症状で経過し,また触診のみのスクリーニングに終始してしまうので,つい小さな癌を見逃してしまっていたためとも言えなくはない。
 最近甲状腺の微小病変の発見に超音波検査が多用され,機器の進歩もあり,甲状腺癌の発見率は上昇傾向にある。最大径10mmφ以下の小型癌,さらには5mmφ以上の微小癌の発見には超音波検査は必須であり,このような微小病変の発見がひいては早期癌の臨床的概念を確立するかもしれない。UICCの1985年案ではTNM分類中T分類を腫瘍径によって分けてはとの報告もあり,今後微小病変の発見はわれわれ甲状腺癌を扱う老にとってはより一層重要視せねばならない目的となりうるものと考えられる。

耳下腺腫瘍鑑別診断基準についての検討

著者: 林裕子 ,   山本英一

ページ範囲:P.747 - P.752

I.はじめに
 超音波診断装置の高性能化に伴い表在腫瘤の超音波検査の診断的意義も増し,件数も増加しつつある。現在表在腫瘤のうち乳腺については超音波診断基準が確立されている1)が,耳下腺腫瘍の超音波診断基準は提唱されている2,3)もののいまだ確立されたものではない。そこで今回私どもは耳下腺腫瘤を病理組織学的に分類して,その各群の超音波所見によるレーダーチャート図を作成し,それぞれの特徴についてまとめ,若干の検討を加えたので報告する。

外耳道良性腫瘍3症例—263症例の検討

著者: 内田利男 ,   高川直樹

ページ範囲:P.753 - P.756

I.緒言
 外耳道を原発とする腫瘍は他の部位から発生する腫瘍と同様に良性と悪性とに分類されるが,ともにその発生頻度は少ない。外耳道腫瘍の主訴は難聴,耳閉塞感,外耳道腫瘤形成,耳痛などである。良性腫瘍は症状の発現が遅れるために受診までの期間が長いことがしばしぼである。また社内・学校健康診断時に外耳道腫瘍を指摘され,耳鼻咽喉科の受診を勧められ,診断される症例もある。
 今回昭和60年から61年までに外耳道良性腫瘍3症例(唾液腺単一形腺腫,乳頭腫,母斑細胞母斑)を経験したので報告する。杉浦1)は1900年から1970年までの70年間に報告された159例を統計分析している。われわれは1971年から1987年までの17年間の104例を検討し,さらに両者の263例についても腫瘍の推移の検討を加えた。

鼻腔inverted papillomaの治療法

著者: 溝尻源太郎 ,   柴裕子 ,   蓼原東紅 ,   矢田恒雄 ,   井上健造

ページ範囲:P.757 - P.761

I.はじめに
 鼻腔に発生するinverted papillomaに関する報告は内外を問わず数多くみられ,論点は①悪性像を伴うあるいは悪性化するものがあること,②高い頻度で再発すること,の2点に集約される。
 悪性像あるいは悪性化の診断は術前の生検,術中の迅速診断,術後の摘出標本の検索などで病理医に委ねるべき事項であり,悪性像が確認されれば癌としての治療が必要になる。

二重染色法による頭頸部進行癌末梢血リンパ球サブセットの変動

著者: 佃守 ,   久保田彰 ,   吉田豊一 ,   宮田佳代子 ,   澤木修二

ページ範囲:P.763 - P.768

I.はじめに
 担癌患者の免疫能の測定は治療効果の判定,再発の早期発見,予後の推定など,癌治療の一翼として大切であることが判明している。
 免疫能の指標としてさまざまな免疫パラメーターが応用されているが,それぞれのパラメーターに特徴があるので,個々の意義を十分に把握するとともに異なった免疫パラメーターを組み合わせて総合的に判断することが大切であると考える。

鏡下咡語

私のアルバイト

著者: 石川哮

ページ範囲:P.736 - P.737

 私が大学2年生の時,下宿していた家の御主人が広島出身であった。当時,すでにその主人は読売新聞社のお偉方であったが,若い頃苦学して大学を卒業した話を時々聞かされた。この世代では〔苦学〕という経験をした人は沢山いたが,この人の稼ぎ方は独特であった。筆の軸に字を刻ることで生計を立てながら学校に通ったということであった。笨屋の店頭に並べてある筆の軸をみるとすぐわかるが,何文字かの字を入れその下に筆屋の銘が刻り込んである。安筆には焼き印か,印刷した紙が張ってある。刻師(ほりし)は筆の卸屋にとって必要な職人であり,1年を通して刻の仕事があり,年末には書初め用として沢山の筆が刻師のところに持ち込まれる。御主人の現在の仕事は全くそれと無縁であったため,実際に刻るところはなかなか見せてもらえず,手真似で覚えたその家の奥さんに見せてもらった。これは面白いと思った。それに加えて,私自身もアルバイトを必要としていたので,この技術を身につけようと思い立った。奥さんに頼んで1本の彫刻刀と穂先のない竹製の筆軸のみを沢山手に入れて,まず〔一〕の字を刻ることから始めた。見るとやるとは大違いで,刀が滑って竹軸に食い込ませることすらできなかった。刀を動かすというより軸を回しながら削るのが呼吸である。なんと1週間かかって〔一〕の字がやっと刻れるようになった。そして,縦棒,はね,点,等々,漢字のつくりすべてが自由に刻れるまでには大変なことだと自信がなくなった。奥さんの話では,数人の人たちに教え始めたが,今まで1人も最後までやる人はいなかったということであった。御主人は「どうせすぐ嫌になる」と思って口も手も出さなかったが,1か月ほどで字らしくみえる刻りを見せたところ,「よし,教えてやろう」といって腰を上げてくれた。広島出身の御主人が持っていた技術は〔広島刻り〕といって,肉太の楷書で,力強い字型であり,〔奈良刻り〕,〔江戸刻り〕は細い柔らかい字型であることを知った。それは彫刻刀の三角の角度が基木的な違いで,広島刻りは90°に近く,奈良刻りは60°ぐらいである。私は広島刻りを習ったことになる。広島の筆所は熊野であり,数年前,彫刻刀を買おうと思ったが,どこにもなく,この熊野まで行ってやっと手に入れたものである。字を刻るということだけでなく,当然のことながらその刀の刃を研ぐ方法も覚えなければならない。荒砥と仕上砥を使い,虫眼鏡で三角刀の先端を見ながら研ぎ上げる。大体100から150字刻るごとに研がなければならない。また刻り上がったあと色を入れるが,〔ふのり〕を煮て,そこへ〔泥絵具〕を入れて,一様になるまでよく混ぜたものを使う。今はふのりも泥絵具も簡単には手に入らない。泥絵県は〔群青〕〔緑青〕〔朱〕〔金粉〕などであった。神田へ買いに行ったものである。数年前その前を通ったが,店はなかった。その色で刻りを埋め,乾いたあと,しぼった手拭でまわりの色を拭き取る。この色つけをすると一段とよく見える時と,どうにも見られない字になる時と極端な差が出る。字になるようになってから,御主人が筆屋を紹介してくれたので,そこからお金になるようになった。何と習い始めてから3か月にもなってしまった。2年ほどするとかなり刻りのスピードも出て,1本の筆に五文字ぐらいの簡単なものなら1日で1,000木ぐらい刻ることができるようになった。当時いくら物価が安かったとはいえ,1字20銭では,1本5文字で1円,1,000本で1,000円で,これが精一杯であった。しかし〔二コ四〕の時代であったから決して悪い収入ではないといえよう。一番辛かったのは年末の書初め用の筆刻りであった。筆屋のおかみさんが筆を持って私の宿にやってきて,〔今,300本刻ってくれ,それまで待たしてもらう〕というようなことがよくあった。しかも,私が出入りしていた筆の卸屋は四軒で,私の宿でかち合って困ったこともあった。医者になってからも,時々東京の筆屋が高価な筆を持って千葉まで来て,刻ってくれと頼まれた。昭和36,7年頃のことだが,東京には5人の刻師しかいないという話であった。若い人はこの種の仕事はもうやらなくなるだろうとも言っていた。今はもうもちろん頼みには来ない。ともかく,学生時代にはそのお陰で生活にも学費にもあまり不自由はなくなった。とはいっても,いつも筆刻りばかりしているわけにはゆかない。アルバイトはあくまで本業あってのアルバイトである。レポートや試験の時には筆刻りをしない日が1〜2週も続いて,食べるのに窮することもしばしばあった。持ち込まれている筆をあわてて刻り,筆屋に走り,何ほどかの刻り賃をもらって,その帰りに魚市場へゆき,6〜7本のサンマの盛りを数十円で買って急場を凌いだこともある。Remingtonのタイプライターを質屋に入れ,2週間ほどアルバイトをせず,時間ができたところで一所懸命刻って,流れる寸前に質屋から下ろしたこともある。こんなせっぱ詰まった話も今思えば,なかなか面白い経験ではあった。神田の筆屋に仕上がった筆をとどけて帰りに,屋台でコップ1杯30円の焼酎とやきとり1本が,いかにおいしいものであったかも,年末の実入りで豪勢に,近所のトンカツ屋で200グラムのトンカツをあげてもらい,堪能したのも愉快な体験だと思っている。30年近く経った今,これらの経験を思い出として回想するだけでなく,現実にこの筆刻りの痕跡が,右手の中指に残っている。三角刀を中指で支えて刻るため,指先がひどく曲がってしまい,それが元に戻らなくなっている。異常な肩凝りも,このせいかもしれない。今の私は気が向くと,時に刻台に向かって般若心経でも刻るくらいのところである。刻り台といっても,坐って上腹部のところまでの高さで,幅50cmぐらいのものである。引出しがついていて,削りかすを受けるようになっている。太筆から細筆までの筆軸を支える溝を台縁に数個作り,そこに灯りが当たるようにスタンドを設置してある。最近,大学院を卒業し,博士号をとった数人の教室員が,記念にこの刻台を新しくしてくれた。道具が備えられた後は,刻るも刻らぬも私の気分次第ということになる。時間を作って趣味としてもう少しやってみたいと思っている。そのためには字を勉強しなければならない。私は隷書が好きである。もちろん見る方で,書くことはできないが,お手本は買い込んである。買っただけでほとんど手習いはしていない。いつになったら体がそちらに向くか心細い限りである。先日,奈良へ行った時,筆屋の店頭に並ぶ筆の中に隷書が刻ってあるのを見て感心した。私も試してみようと思っている。趣味で刻るとすると,もう一つ困ったことは,軸に字の刻っていない(無印)筆を手に入れることである。しかも上質の軸は上質の筆に使っているので,1本の値が高いことになる。熊本の筆屋で10本ほど無印の2号筆を仕入れてもらった。これで数万円になる。熊野にでも行って相談してみようと思っている。
 何人かの先生には私の刻った筆をもらっていただき,何人かの方々は大変喜んで下さった。職人の域を出ていないが,もう少し魂をつめていろいろな字を刻ってみたいと思っている。

私は知りたい

インターロイキン

著者: 澤木修二

ページ範囲:P.739 - P.741

I.はじめに
 癌の治療法として手術,放射線,化学療法に加えて,第四の治療法とでもいうべき免疫療法が登場し,その効果が期待されている。製剤は生物学的反応の見地からbiological response modifier(BRM)と総称される。すでに種々の製剤が出されており,それらは別の観点から非特異的免疫療法剤ともいわれる。
 その作用機序を点検すると,生体において腫瘍細胞傷害活性をもつキラーT細胞などを活性化し,それにより腫瘍に対応しようというものである。化学療法が直接腫瘍細胞を死滅させるのとは大いに異なっている。この種のもののうち最近インターロイキン(IL)がとくに注目されている。

CPC

頸部腫瘤の鑑別診断—54歳女性,上側頸部に3×4cm大の腫瘤

著者: 堀内正敏

ページ範囲:P.769 - P.772

 側頸部の腫瘤を主訴として訪れる症例の鑑別診断は,頸部腫瘤を生ずる疾患に多くのものが予想されるため,鑑別のための検査はそれら多くの疾患を対象として進められる。しかしそれらの諸検査を施行してもなお時には,術前に確診の得られないこともある。そのような場合,確診が得られた後に改めて初診から病理組織診断までの経過を見直すと,それらの症状や検査結果がその疾患に由来したものであったことが解明され,なるほどと納得されるのである。しかし確定診断後に納得,理解されても,残念ながら術前には確定診断に及ばなかったのが事実である。そのような症例に遭遇し,診断確定後に鑑別の過程を振り返り,何故に疾患を特定しえなかったかを検討することは,われわれ臨床医にとって貴重な経験となりうるものと考える。今回呈示する症例はそのような,術前診断で診断が確定されず,術後の病理組織診断で疾患が明らかとなった症例の一つである。

医療ガイドライン

電子内視鏡の現状

著者: 丘村煕 ,   稲木匠子 ,   森敏裕

ページ範囲:P.773 - P.777

I.はじめに
 電子内視鏡(electronic endoscope)とは先端部に超小型テレビカメラが組み込まれた新しい内視鏡で,硬性鏡,ファイバースコープにつぐ第三世代の内視鏡といわれている。電子内視鏡は1983年米国のWelch Allyn社からVideo Endoscopeの名称のもとに初めて紹介され,1985年には国産品が登場している。従来のファイバースコープはファイバー・バンドルにより画像を光のままで伝送するものであるが,電子内視鏡では先端部に内蔵された"新しい電子の眼"といわれる固体撮像素子で画像を電気信号に変換して伝送し,テレビモニター上に画像を再現するもので,従来の内視鏡とは全く異なっている。電子内視鏡は主に消化管用として開発されてきたが,すでに区域支まで観察できる気管支用も試作されている。
 この新しい電子内視鏡は登場してまだ5年にすぎないが,高解像力,高画質な画像が得られること,種々の画像処理や画像ファイリングが容易なことなどの理由により,内視鏡診断学に新しい時代を開くものとして期待されている。本稿では電子内視鏡の原理,特徴,問題点などについて,ファイバースコープと対比しながら述べることにする。

海外トピックス

Workshop on Inner Ear Biology—その歴史と存続の基盤

著者: 永原國彦

ページ範囲:P.779 - P.782

はじめに
 Workshop on Inner Ear Biology,確固たる組織をもたないままヨーロッパにおいて当初のアイデア通りに20年以上も生き続けているこの小さなグループは,中枢,前庭,ならびにオージオメトリーを切り離した内耳をその研究対象としている。そしてこの狭い分野において世界第一線の研究者たちがその最新の成果につき時に激しく討論しあう場でもある。今回,10年前に米国で発足したAROのモデルにもなったこのワークショップにつき報告せよとの依頼を受けたので,著者の連続10年の出席資料とこの活動的なグループの常連たちの意見を中心に,その歴史と存在意義ならびにオランダのナイメーヘンで開催された今年のトピックにつき報告する。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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