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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科61巻2号

1989年02月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

舌白色病変のレーザー切除

著者: 村上泰

ページ範囲:P.88 - P.89

 舌に白色病変をみる機会は多い。肉眼的には同じようにみえるから一括してleukoplakiaと呼ぶが,病理組織学的には単純肥厚,hyperkeratosis (図1),dysplasia(図2),癌(図3)が含まれていて,その鑑別は臨床的に難しいことが多い。癌では切除が必須だが,dysplasiaでも良い治療法はなく,機能障害をきたさないレーザー切除が最も安全確実である。
 その場合の切除範囲の決定にはLugol生体染色法によるのがよい。経鼻挿管全麻下舌を引き出し,よく乾燥させてから,あやしいところ全体に咽頭塗布用Lugolを塗布する。5〜6分経つと,正常粘膜は黒褐色に染まるのに対して,糖代謝に異常があってヨード反応のない癌では白色のままである。dysplasiaも同様に白色となるから,正常粘膜と識別することができる。白色のところを残さないように切除すればよいことになる(図4〜7)。粘膜下に拡がる癌(図8)でも白色となるから,取り残す危険は少ないが,切除の深さを決めることはできないので,切除標本をよく調べておくことが大切である。

原著

鼓室型先天性真珠腫—アブミ骨周囲に限局し,耳小骨奇形と合併していると考えられる3症例

著者: 今井昭雄 ,   中野雄一

ページ範囲:P.91 - P.96

I.はじめに
 先天性真珠腫は真珠腫の存在部位により大きく錐体部型と鼓室・乳突部型に分けられる。錐体部型は脳神経外科領域で取り扱われることが多く,内耳孔付近に発生し種々の脳神経症状を現わす。錐体上面の中頭蓋底にある場合は,顔面神経の膝神経節周辺に発生して進行性の顔面神経麻痺が初発症状になっていることが多い。
 一方鼓室型あるいは乳突部型においては,真珠腫は手術時にすでにある程度の大きさに増大していて,鼓室を充満し,時には乳突洞へと進展し,しぼしば鼓膜を裏面から押し上げるようになっていることが多い。はたしてこれが先天性なのか後天性なのか確診がつかない例もある。

進行性鼻壊疽—T細胞リンパ腫の1例

著者: 隈上秀高 ,   吉見龍一郎 ,   浜崎潤

ページ範囲:P.97 - P.99

I.はじめに
 鼻中隔,鼻根部ならびに硬口蓋に穿孔をきたし,病理組織学的にlethal midline granulomaと診断された,いわゆる進行性鼻壊疽の症例の鼻腔腫瘍組織をモノクローナル抗体を用いた免疫組織学的手法により検索し,T細胞リンパ腫と診断した症例を経験したので報告する。

Contact YAG laserによる声門下瘢痕性狭窄症の1治験例

著者: 加藤薫 ,   松下隆 ,   伊藤博隆 ,   馬場駿吉

ページ範囲:P.101 - P.105

I.はじめに
 近年気管内挿管は全身麻酔,救急蘇生,長期の呼吸管理の目的で多用されているが,それによる合併症としてチューブ,あるいはカフの気管粘膜刺激が肉芽を発生させて,気道狭窄を招来することが知られるようになった。Topkinら1)によれば経鼻および経口挿管症例の約4%が気管チューブ抜去困難症となり,その中の0.5〜1%は気管切開などの手術的治療を必要とするという。気道狭窄は小児の声門下に発生しやすく治療に難渋することが多く,数回の手術の必要性が生じたり治療経過が数年に及ぶことが少なくない2)
 一方1960年にMaiman3)がルビーレーザーの発振に成功して以来,医学の各方面において種々のレーザーが応用されてきた。耳鼻咽喉科領域ではStrongら4)が1972年に炭酸ガスレーザーによる喉頭内手術を行い,種々の喉頭内疾患に対して良好な成績を得ている。1973年にNathら5)は弾力性のある石英ファイバーを開発し,これを使用して内視鏡の生検鉗子孔からレーザーを体腔内に導くことを可能とした。これにより体内深部臓器に対する小外科的治療が行われるようになってきた。気管支ファイバースコープ下にNd-YAG(Neodymium-Yitrium-Alminium-Garnetの略)laserを初めて臨床に応用したのは1979年Godardら6)である。内視鏡的Nd-YAG laser治療は侵襲の大きい観血的手術に代わり短時間に効果を挙げうる点が注目され,近年広く使用されるようになった。

コルメラ固定の一工夫—つち骨柄と鼓膜の間にコルメラの一端を挿入して固定する方法

著者: 山岨達也

ページ範囲:P.107 - P.112

I.緒言
 Wullstein1)により提唱された鼓室形成術はさまざまな進歩を遂げてきた。しかし術後の聴力改善には種々の要因が関与し,思ったほど聴力改善の得られないことがある。この原因には患者側の要因,すなわち手術の既往,病変の状態,耳管機能,年齢などとともに,どのような術式を選択するかによるのも大であろう。耳小骨連鎖にのみ限れば,耳小骨連鎖を保存するI型が改善度または改善率においてIII型変法,IV型変法より優れている2)。これはI型症例においては病変が軽いということだけではなく,III型変法,IV型変法におけるコルメラの安定性にも問題があるためと推察される。
 今回耳珠軟骨,耳介軟骨,鼻中隔保存軟骨をコルメラとして用い,その一端をつち骨柄と鼓膜との間に挿入して安定させる方法を試み,良好な成績を得たので報告する。

von Recklinghausen病に合併した頭頸部malignant schwannomaの1例

著者: 中山正基 ,   朝倉哲彦 ,   西沢輝彦 ,   松田一巳 ,   粟博志

ページ範囲:P.113 - P.119

I.はじめに
 schwannomaは代表的な良性腫瘍の一つであるが時に悪性転化することも知られており,その頻度は2.0〜15%1〜3)といわれている。一方malig—nant schwannoma (以下MSと略記)はその約10%が頭頸部に発生4〜8)し,さらにvon Reckling—hausen病(以下R病と略記)に合併することが多い9,10)とされる。今回われわれはR病の患者で幼少時より頭頸部腫瘤を有し,約8年を経過した後,悪性転化し急速に増大したMSの1剖検例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

鼻腔内へ進展した嗅溝部髄膜腫の1症例

著者: 坂倉淳 ,   山本祐三 ,   高橋宏明 ,   麻田保英 ,   三野章呉

ページ範囲:P.121 - P.124

I.緒言
 髄膜腫は成人に好発する代表的な脳腫瘍で,その発生頻度は全脳腫瘍中の13〜18%を占める1)とされている。しかしこの腫瘍が頭蓋外,ことに鼻・副鼻腔領域に発育する例はきわめて稀である。最近著者らは右鼻腔内へポリープの形態をとって出現し,精査の結果,嗅溝原発の髄膜腫と判明した稀な症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

小唾液腺由来舌悪性腫瘍の2症例

著者: 大槻晃直 ,   中江進 ,   村上匡孝 ,   山道至

ページ範囲:P.125 - P.129

I.はじめに
 大唾液腺腫瘍に較べて口腔内小唾液腺腫瘍の報告例は比較的少なく,なかでも舌に発生するものは稀である。われわれは最近小唾液腺由来と思われる舌悪性腫瘍(adenocarcinoma,mucoepider—moid carcinoma)の2症例を経験したので,先賢の報告に追加したい。

上顎洞悪性腫瘍を疑ったいわゆる血瘤腫2症例

著者: 鶴田至宏 ,   宮原裕 ,   佐藤武男 ,   吉野邦俊 ,   馬谷克則

ページ範囲:P.131 - P.136

はじめに
 鼻・副鼻腔に発生する腫瘍は悪性腫瘍が約70%を占め,良性腫瘍は比較的少なく,しかもそのうち約1/4が血管に由来した腫瘍である。いわゆる血瘤腫は1917年田所1)によって命名された臨床的な診断名で良性疾患を意味するが,現在でもその本態は明確ではなく,臨床的に悪性腫瘍との鑑別が困難な症例もある。そこで最近経験した血瘤腫の症例を報告するとともに,その成因と治療について若干の考察を述べる。

上咽頭異物の1症例

著者: 宮嶋佳世子 ,   浅井美洋 ,   野末道彦

ページ範囲:P.137 - P.138

I.はじめに
 上咽頭異物症例の報告は少ないが見逃すことのできない疾患である。経口的に異物を誤嚥した場合,咽頭喉頭のみ精査され上咽頭の精査を怠りがちである。われわれは一度見逃されたが偶然にも発見できた上咽頭異物の症例を経験したので報告する。

鏡下咡語

本邦最初の耳科教科書「耳科約説」について

著者: 原田康夫

ページ範囲:P.140 - P.141

 広島大学医学資料館に吉田顕三講述の「耳科約説」(図1)という,今から100年前の古い本が現存する。この本がどれだけわが国の耳鼻咽喉科学にとって大切なものか,知らないままに数年が過ぎた。ところが最近,吉田顕三先生の「天僕随筆」なるもののコピーを入手し,先生の人となりに興味を覚え,先生の生きてこられた頃の時代背景について少々調べてみたくなった。今回はそれはさておき,この「耳科約説」は現在ではなかなか入手できない珍本で,また耳科教科書としては日本で最も古い本の一つである。
 わが国の初期の耳鼻咽喉科学の本としては4種の耳科書があることが,久保猪之吉編の「日本耳鼻咽喉科学全書」の第一巻の一(昭和8年4月刊)の年表に記されている。

私は知りたい

異常値の読み方(1)梅毒血清反応

著者: 水岡慶二

ページ範囲:P.143 - P.145

はじめに
 梅毒患者を診断し駆梅療法を行っていくうえに梅毒の血清学的検査(梅毒血清反応)は欠かすことのできない臨床検査法である。梅毒血清反応に関してはWassermann反応以来過去に数多くの方法が発表されたが,その多くは姿を消し今ではごく限られた方法のみが使われているにすぎない。
 現在わが国で日常検査に利用されているものは数種類で,それらを大別すると二つの系統に分けられる。その一つは古くより実施されていたWassermann反応の系統に属するもので,抗原はカルジオライピンという脂質である。カルジオライピンは単独では梅毒抗原としての活性が弱いので,同じく脂質の一種であるレシチンを適当量まぜたものが抗原として用いられる。この脂質抗原を使う反応は通常STS (serologic tests for syphilisの略)と略称される習慣になっている。もう一つの系統は病原体である梅毒トレポネーマを抗原として使う反応である。

CPC

原発巣不明の頸部リンパ節転移の1例

著者: 斉川雅久 ,   小野勇 ,   海老原敏 ,   渡辺寛 ,   日月裕司

ページ範囲:P.147 - P.151

 原発巣不明の頸部リンパ節転移を主訴として来院する患者は癌の臨床においてはとくに珍しいものではない。当然種々の検査により原発巣を探すこととなるが,多くの場合その原発巣は頭頸部領域に発見される。しかし一般の病院ではこれらの症例の原発巣を検索するさい,なぜか頭頸部領域よりも胃・肺・食道なと頭頸部領域以外の検査を優先させる傾向があるようである。
 頸部リンパ節転移を主訴とする患者で,たまたま食道癌が発見されたために,本当の原発巣が見落とされそうになった症例を経験したので報告する。

医療ガイドライン

高度先進医療(2)頭頸部癌の温熱療法

著者: 中間昌博 ,   森田守 ,   菅原正

ページ範囲:P.153 - P.158

I.はじめに
 今日,さまざまな基礎的研究,臨床結果などから癌治療における温熱療法の有用性は疑いのないものとなっている。しかし温熱療法単独による治療効果には限界があり,その生物学的利点などから,現在ではほとんどの施設で放射線治療を主に併用療法が行われている。すなわち温熱には,①有酸素細胞より低酸素細胞のほうが熱に対する感受性が高い。②細胞周期でS期の細胞が熱感受性が高い。③放射線による細胞の障害一亜致死障害sublethal damageや潜在致死障害potential lethaldamage—からの回復を阻害する,などの特徴をもち’放射線治療との併用効果を示唆する研究成果を基盤としている。また臨床面でもそれを実証する多くの報告がみられている。
 近年,加温装置,加温技術の進歩も相俟って,温熱療法は癌の治療法の一つとして急激な発展を遂げてきている。

海外トピックス

バラニー学会

著者: 松永亨

ページ範囲:P.159 - P.161

はじめに
 Bárány Societyは1960年C.S.HallpikeおよびC.O.Nylén教授を発起人とし,ノーベル賞受賞者,ウプサラ大学耳鼻咽喉科教授であったR.Bárányを記念して称えるため設立された。R.Bárány教授の略歴については鈴木淳一教授が記載(耳鼻臨床68巻8号,1975年)しておられる。
 その目的は国際的に平衡神経科学の研究に従事する科学者の間の交流を密にし,神経耳科学の研究を推進することにあった。1961年パリでの国際耳鼻咽喉科学会開催中の非公式の集まりで,この目的を遂行するための方法が討議され,1926年発足したCollegium Otorhinolaryn—gologicum amicitae sacrum (国際耳鼻咽喉科学コレギウム)と同様,現在のclosed member systemとしての会合(以下バラニー学会と記載する)が採用されるに至った。その事務局はウプサラ大学耳鼻咽喉科にあり,C.O.Nylén,A.Sjöberg,H.Engströmの3教授のあとを受け,1978年よりJ.Stahle教授が会長である。

学会トピックス

「日本オージオロジー学会」から「日本聴覚医学会」へ

著者: 立木孝

ページ範囲:P.163 - P.164

 昭和63年10月21日,日本オージオロジー学会は,その第33回総会において会名を変更し,「日本聴覚医学会」と改称しました。その理由や経緯については,会員には種々の方法でインフォーメーションがなされましたが,会員でない方々には,唐突な印象を受けられた方も少なくないと思います。本誌編集部からのおすすめもありましたので,その経緯について簡単に述べ,関係ある多くの方々の御理解を得たいと思います。
 日本オージオロジー学会の発足は,昭和30年11月27日,名古屋大学で行われた第5回難聴研究会の席で決まりました。戦後わが国における,いわゆるaudiologyの研究活動は,日本耳鼻咽喉科学会会員の中の,特に難聴に興味を持つ人の集りとして昭和26年に始まりました。その会は難聴研究会という名称で,年1回研究発表会を持って5年間続きましたが,年を追うごとに会員数も演題数も飛躍的に増加していったので,上記第5回目にあたる名古屋大学での研究会の席上,これを次回から学会とするという考えが提示され,会員の賛同を得て決まったものです。その時,学会名をどうするかが論議の的となりいろいろの案が出ましたが,全員が納得するような良い会名がみつからず,とりあえず研究分野であるaudi—ologyをそのままカナ文字で書いて学会名とすることになりました。この会の終了後に,当時難聴研究会の会長をしておられた颯田琴次先生が,会員全員に送られた挨拶状の中で「……このように発展した会を研究会にとどめておくよりも更に視野を広めて,オージオロジーの学会にするのがよいという声がおこり,御参加の皆様におはかりいたしましたところ多数の御賛同を得ました。それで今後は当分の間,オージオロジー学会(仮称)という名称のもとに今までの会をつづけて行きたいと存じます。.……」と書いておられます。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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