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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科61巻5号

1989年05月発行

雑誌目次

目でみる耳鼻咽喉科

真珠腫後遺症

著者: 中野雄一 ,   佐藤弥生 ,   高橋姿

ページ範囲:P.338 - P.339

 慢性化膿性中耳炎の後遺症として乾燥性鼓膜穿孔(鼓膜穿孔症)があるように,中耳真珠腫にも真珠腫病変が完全に排除され,それによる形態変化を残したまま治癒した状態,いわば真珠腫後遺症ともいうべき骨壁変形耳がある。これをどう呼ぶかは別として,これにはX線上,乳突部に含気蜂巣の認められるものと,ほとんど認められないものがある。後者での特徴を述べると,上鼓室側壁から一部外耳道後壁にかけて骨壁が大きく半円形状に欠けており,耳小骨もその輸郭を浮き彫りにしている。すなわち全体として半球状の組織欠損を示し,乳突方向への深い内陥はない。同様な所見は反対側にもみられ,多くはそこに真珠腫病変がなお残存している。両耳を比較すると,病変残存耳では一般に後壁方向への骨欠損が少なく,それだけ乳突方向への内陥が深くて広い。しかしまれには浅い内陥のみということもある。この場合含気蜂巣のみられることが多い。

原著

無難聴性耳鳴の検討—感音難聴性耳鳴との比較

著者: 市川恭介 ,   鶴窪一行 ,   中嶋慶則 ,   梶本正子 ,   服部康夫 ,   中村賢二

ページ範囲:P.341 - P.345

I.はじめに
 耳鳴の研究にさいして,これまでいくつもの分類が考えられてきた。まず他人に聴取可能か否かによって他覚的耳鳴と自覚的耳鳴にご分類される。他覚的耳鳴とは耳鳴を有する患者自身だけでなく周囲にいる人にも聴取できる耳鳴であり,反対に自覚的耳鳴とは患者自身にしか聞くことができない耳鳴である。他覚的耳鳴の症例は自覚的耳鳴に比べるとわずかであり,一般的に耳鳴という時には自覚的耳鳴を指している。そしてこの自覚的耳鳴を永浜1)は聴力型により分類し,伝音性耳鳴,感音性耳鳴,混合性耳鳴,および無難聴性耳鳴に分類した。前三者の耳鳴は聴力障害を伴う耳鳴であるが,無難聴性耳鳴は聴力障害を伴わない耳鳴であることが特徴であるとした。以前より一般的には難聴と耳鳴は発生原因が同一であると考えられており,どちらか一方しかみられない場合は奇異であるともいえる。これについて安田ら2)は,耳鳴と難聴の発生原因が同一なものだという立場に立つと,どちらか一方しかみられないことは全く奇異なことであるが,この事実を説明するのにつぎの二つを想定している。1)耳鳴と難聴の原因は病変がそれぞれ異なっている。したがって必ずしも同時期に発生するとは限らない。2)耳鳴と難聴の原因となる病変は同一のものである。しかし患者の心理的傾向によって,同じ大きさの耳鳴の病変も気づかれなかったりあるいは過大に感じられたりすると述べている。著者らは無難聴性耳鳴についてその発生要因を検索するために,一般的な耳鼻咽喉科的な検査に加えて心身医学的な検査も施行し,これらの成績について聴力障害を有する感音難聴性耳鳴のそれらと比較検討し,興味ある結果を得た。また無難聴性耳鳴の診断基準についてはさまざまな基準4,5)があるが,著者らの基準は125Hzから8kHzまでのすべての周波数で聴力レベルが20dB以内で大きなdipを認めないものとした。また持続性か断続性かにこついては今回はすべて含めた。

聴神経腫瘍手術と聴力保存—聴力保存手術適応症例の選択と術前検査所見

著者: 小川郁 ,   神崎仁 ,   塩原隆造 ,   戸谷重雄

ページ範囲:P.347 - P.353

I.はじめに
 近年,神経耳科学的検査や画像診断技術の進歩に伴い早期聴神経腫瘍の診断が可能にこなり,また術中モニタリング技術の導入などにより聴神経腫瘍(以下,ANと略す)の聴力保存手術も可能になってきている。しかし聴力の保存はいまだに容易ではなく,とくに日常生活に有用な聴力の保存はきわめて難しいのが現状である。また聴力の保存と腫瘍の全摘は時に相反するものとなり,聴力の保存を目標とする場合腫瘍の全摘が困難となることも少なくない1)。こうしたことから術前に聴力保存の可能性を予想しうるかどうかは今後明らかにすべき聴神経腫瘍手術上の問題点のひとつと考えられる。今回われわれはこれまでに聴力の保存を目標として中頭蓋窩経由法または拡大中頭蓋窩経由法—慶大変法により手術を行ったANの術前検査所見について検討し,術前検査所見より聴力保存手術の適応症例をいかに選択すべきかについて考察したので報告する。

補聴器使用が奏功した高度難聴者の1例

著者: 暁清文 ,   小林泰輔

ページ範囲:P.355 - P.358

I.はじめに
 高度難聴者の中には聴力が極度に悪いにもかかわらずわずかの聴覚を頼りに補聴器を使用して社会生活に不自由ないコミュニケーションを行っている例がある。今回中耳炎を伴う聾患者に鼓室形成術を行ったところ,低音域でわずかながらも聴覚がみられるようにこなり,さらにこ補聴器の使用で日常生活に不自由のない程度にこまでコミュニケーション能力の改善した症例を経験した。このような症例は実地臨床では必ずしも稀ではないと思われるが,高度難聴者の治療を考えるうえで参考になると思われるので,その詳細について報告する。

抗腫瘍剤carmofurによる平衡障害症例の検討

著者: 室伏利久 ,   水野正浩 ,   二木隆

ページ範囲:P.359 - P.363

I.緒言
 近年,悪性腫瘍の化学療法の発展には著しいものがあるが,一部には平衡障害をはじめとする神経障害を副作用として惹起する薬剤も存在する。carmofur (1—hexylcarbamoyl−5—fluorouracil, HCFU)はOzakiら1)によって合成された5—FUのmasked compoundで,体内で徐々に5—FUを放出する経口の抗腫瘍剤であるが,中枢神経障害を惹起することが知られるようになってきた。われわれはcarmofurによると考えられた平衡障害3症例を経験したので,神経耳科学的所見を中心に報告する。

嗅神経芽細胞腫の2症例

著者: 佐久間信行 ,   沖田渉 ,   堀内康治 ,   船井洋光 ,   飯沼壽孝 ,   小山和行

ページ範囲:P.365 - P.369

I.はじめに
 嗅神経芽細胞腫は比較的稀に発生する腫瘍1)で,1924年のBergerら2)による報告が最初である。症例として原著に報告された数は諸外国で約200症例,本邦では23症例3〜17)である。本邦の報告によれば,諸外国と比較してその予後は不良16)である。われわれは比較的早期に発見され現在までは良好な経過を示す嗅神経芽細胞腫の2症例を経験したので報告する。

全盲より視力の著明改善が得られた蝶形骨洞嚢胞の1症例

著者: 伊藤修 ,   市村恵一 ,   丹生健一 ,   八木昌人

ページ範囲:P.371 - P.373

I.緒言
 蝶形骨洞嚢胞はその解剖学的位置から視力障害をきたすことが多く,また嚢胞の開放により視力の回復が期待できる疾患1)である。しかし全盲をはじめとする高度視力障害例の予後は不良とされ正常視力への回復は稀1,2)である。今回われわれは失明後9日目に開放術を施行し著明な視力同復を呈した症例を経験したので報告する。

篩骨洞に原発した腺房細胞癌の1例

著者: 鈴木正治 ,   中村英生 ,   山岸益夫 ,   五十嵐文夫 ,   中野雄一

ページ範囲:P.375 - P.379

I.はじめに
 腺房細胞癌(acinic cell carcinoma)は一般に唾液腺に発生する腫瘍で,悪性腫瘍の中では比較的予後のよいものである。発生部位は大多数が耳下腺であり,そのほかでは口蓋,口唇,臼後部などに発生したとの報告がみられる。本腫瘍が鼻副鼻腔に発生することはきわめてまれであり,著者らの渉猟しえた範囲では本邦には篩骨洞に発生したという報告はない。われわれは右篩骨洞に発生した腺房細胞癌症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

下顎埋伏智歯による傍咽頭間隙膿瘍の1例

著者: 塩野博己 ,   山岨達也 ,   田中利善

ページ範囲:P.389 - P.393

I.はじめに
 傍咽頭間隙(parapharyngeal space)は局所解剖学的に複雑であり,血管,神経が走行する重要な場所である。埋伏歯が原因で生じた傍咽頭間隙膿瘍の1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する。

舌骨骨折の2例

著者: 森川浩史 ,   石田正人 ,   岩崎幸司 ,   梅村和夫

ページ範囲:P.395 - P.400

I.はじめに
 舌骨は周囲を軟部組織に囲まれ,可動性があり,さらに下顎骨により保護されているため外力の影響を受けにくく,損傷されにくい。喉頭外傷にさいしても舌骨の損傷を合併することは少ない。われわれは最近,舌骨骨折2例を経験したので報告する。

鏡下咡語

種子島耳鼻科医の独り言

著者: 河内一郎

ページ範囲:P.382 - P.383

 今年の梅雨は,梅雨あけ宣言が報道されてから大雨,大風が種子島にも多く,島の生活が不況なのに,作物に影響を与え,せめてもの心のゆとりと植えた庭の「夢待草」のピンクも,一夜にして地にひしがれた6月でした。
 梅雨が終りあじさいの咲く頃,初蝉がジイジイと鳴き,夏休みが来て盆が訪れ,それから,ネンツーネンと鳴く「ひぐらし」に似た蝉が鳴く頃,島には秋がやって来るのです。

私は知りたい

異常値の読み方(3)腎機能検査

著者: 山田敏生 ,   丸茂文昭

ページ範囲:P.385 - P.387

I.腎機能検査結果の評価
 臨床で常用される腎機能検査法には尿検査と血液生化学検査と負荷試験がある。

CPC

進行性鼻壊疽の1剖検例

著者: 藤原久郎

ページ範囲:P.401 - P.404

 進行性鼻壊疽(進行性壊疽性鼻炎)の各称は臨床的に類似した複数の疾患の臨床的総称にすぎない。壊死を伴う肉芽組織が主体であるが,異型細胞浸潤もみられやすいことから炎症か腫瘍かで迷うことが多く,malignantgranuloma, lethal midline granulomaといった病名に,診断する病理側の苦悩が表わされている。実に多くの病名がつけられているが,切替1)はその分類を行い,①細網肉腫,②Wegener肉芽腫症,③悪性肉芽腫の三つに分け,三番目の悪性肉芽腫の解明を課題とした。種々の概念が導入されたが,渡部ら2)はその発生には網内系のhistiocyteが関与しており,malignant his—tiocytosisとして報告している。1977年,砂金ら3)の発表した鼻細網肉腫の免疫学的手技を用いたマーカー検索は悪性肉芽腫に対する一つの突破口をひらいたものであった。鼻における壊疽性鼻炎と診断されたケースで,腫大した頸部リンパ節で細網肉腫と診断され,しかも異型細胞表面マーカーの検索で,鼻,リンパ節ともT cellを証明し,T cellの関与を強く示唆したのである。以来,鼻性T cell lymphomaとしての報告が続いているが,われわれもその検索を行う機会を得たので報告する。

医療ガイドライン

高度先進医療(3)顔面骨,頭蓋骨の観血的移動術

著者: 上石弘 ,   坂本善哉

ページ範囲:P.405 - P.411

I.はじめに
 顔面骨,頭蓋骨の観血的移動術とは広義には顔面や頭蓋領域の骨を移動する手術全体を指すが,狭義には眼窩をen blocに移動する手術や前頭骨を前方に移動する手術,頭蓋の広汎な骨切り術などを指し,高度先進医療としての性格は後者に認められるものである。1967年にTessierが頭蓋内アプローチを用いた眼窩隔離の報告以来飛躍的に発展し,顔面骨のみならず頭蓋骨の観血的移動術へと拡大され,この10年間に一つの完成をみた分野である。
 本稿では顔面骨,頭蓋骨の観血的移動術についての高度先進性を中心としてその現況を報告してみたい。

海外トピックス

第2回頭頸部癌カンファレンス

著者: 堀内正敏

ページ範囲:P.413 - P.415

 International Conference on Head and Neck Cancerと称する会議が4年に1度開催されている。第1回が1984年にBaltimoreで開かれ,今回が2回目である。1988年7月31日より8月5日までBostonのSheratonHotelを会場として催された。わが国からも10数人の出席者があり,それぞれに内容豊かな研究成果を発表されていた。筆者は第1回に続いてこの会議に出席する機会を得たので,大体の内容を紹介して会の印象を述べる。
 この会議を主催したのは米国の頭頸部外科学会(Mi—chigan大学のKrause教授が会長)であった。4年前のBaltimoreのときから頭頸部癌のrescarch workを討議するため国際的な会議を開き,積極的に米国以外の国の意見を聞きたいという米国の姿勢がうかがえた。第1回のconferenceにも約28か国が参加していたが,今回は22か国からの参加者がみられた。会場はホテルのballroomが主会場として使用されていたが,会議を運営するための講演の会場としてホテルに隣接した建てられた会議場(Hynes Convention Center)の中の数多くのmeeting roomが使われた。100〜300人を収容する部屋を数室使用して一度に5〜6会場で講演が同時進行した。この施設には20数室の会議室が用意されており,多くの分科会が進行可能である。参加するわれわれも会場の間を渡り歩きやすい。日本でも最近大きな会議や各種催しが可能な設備が準備され始めており,幕張,横浜,丸の内都庁跡地など全国10数の都市で会議場の計画がされているという。願わくばホテルと隣接したmeetinghallを作って欲しいものである。

学会トピックス

日本耳鼻咽喉科学会専門医講習会について

著者: 上村卓也

ページ範囲:P.417 - P.419

 昭和58年(1983年)の日本耳鼻咽喉科学会(日耳鼻)専門医制度の発足以来懸案となっていた,専門医のための講習会が始まったのは一昨年からである。
 専門医としての生涯研修の目標は,その診療内容を最新の診療水準(標準のレベル)に向上,維持させることに加えて,医療をめぐる社会のニーズを理解し,それに積極的に答えうる能力を身につけることにあるといえる。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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