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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科62巻10号

1990年10月発行

雑誌目次

症例特集 頭頸部腫瘍 I.頭部(聴器)

鼓室内へ進展した側頭骨錐体部髄膜腫の1例

著者: 村上信五 ,   高須賀信夫 ,   黒川浩伸 ,   善家喜一郎 ,   大田正博 ,   佐々木潮 ,   古谷敬三

ページ範囲:P.803 - P.808

緒言
 側頭骨内で顔面神経を障害する腫瘍性疾患には,顔面神経自身から発生するものと,周囲組織から発生し,同神経を圧迫,浸潤して障害するものがある。前者の代表的疾患は顔面神経鞘腫であり,後者には聴神経腫瘍,真珠腫,glomus juglare tumor,血管腫,髄膜腫,くも膜嚢胞,あるいは悪性腫瘍の側頭骨浸潤,転移などがある。
 今回,側頭骨錐体部に発生し,頭蓋内と鼓室内に浸潤,拍動性耳鳴,難聴などの聴器症状と顔面神経麻痺を主症状とした稀な髄膜腫の1症例を経験した。その病理診断には電顕的検索が必要であったので,症例の概要とともに病理診断法などに考察を加えて報告する。

突発難聴で発症した初期聴神経腫瘍の1例—前庭神経切断術時に偶然発見された

著者: 柳原尚明 ,   佐藤英光 ,   比野平恭之 ,   榎本雅夫 ,   寒川高男

ページ範囲:P.809 - P.812

はじめに
 聴神経腫瘍のなかには突発的に難聴が起こり,突発性難聴との鑑別が難しい場合があることは良く知られている。しかし,それがどのような機序で,どの位の頻度で起こり,またどのような場合に聴神経腫瘍を疑うべきであるか,などについては充分に知られていない。我々は突発性難聴の診断のもとに治療したが,めまいが持続するので,これをコントロールするために前庭神経切断術を行うべく,内耳道を開放したところ,偶然,極く初期の聴神経腫瘍を発見した珍しい症例を経験した。この症例は突発性難聴と聴神経腫瘍の鑑別の重要性と難しさを示唆する,価値ある症例と考えここに報告し,加えて聴神経腫瘍における突発難聴発症について考察することにする。

Neurofibromatosisタイプ1とタイプ2の分類からみた両側性聴神経腫瘍

著者: 喜多村健 ,   設楽信行

ページ範囲:P.813 - P.816

はじめに
 Neurofibromatosisは,聴神経腫瘍をはじめとした頭頸部に出現する腫瘍の合併から耳鼻咽喉科領域においても重要な疾患のひとつである。また,この疾患は単一疾患とするには多くの臨床的ならびに遺伝学的な異質性が存在することが知られている。すなわち,Neurofibromatosisは多くのタイプに分類されるが,最近の欧米の報告では古典的ならびに普遍的なタイプであるレックリングハウゼン病のNeurofibromatosisのタイプ1(以下,NF1),両側性聴神経腫瘍を主徴とするNeurofibro—matosisのタイプ2(以下,NF2)の2種は広く認められたものとなっている1)。また,興味深い点は,NF1は染色体17番,NF2は染色体22番上の遺伝子欠失と関連づけられ,遣伝学的にも全く異なった疾患の可能性が示唆されている点である2〜5)。ところが,両側性聴神経腫瘍の症例の中には,NF1の特徴とされている臨床症状を呈する例がみられ,NF1とNF2の分類に属さない症例あるいはNF1とNF2の重複した症例の存在の可能性が考えられている。今回の研究報告では30例の両側性聴神経腫瘍を対象として,これらの症例の臨床症状を検討してNF1とNF2のいずれに分類されるかを考案し,わが国の両側性聴神経腫瘍症例とNF1とNF2の分類について検討する。

Garcin症候群を呈した中耳癌症例の側頭骨病理所見

著者: 中村良博 ,   加我君孝

ページ範囲:P.817 - P.821

はじめに
 側頭骨に発生する癌種は,頭頸部領域の腫瘍のなかでもまれなものであり,その早期発見は困難なことが多く,予後不良の疾患である。治療法は,未だ十分に確立されていないため,腫瘍の原発部位と浸潤の様式を病理学的に知ることが,今後の治療法を立案するうえで重要であると考えられる。
 今回われわれは,外耳道,中耳,乳突蜂巣と広範に浸潤し,Garcin症候群を呈した扁平上皮癌症例を経験したので,本症例の側頭骨病理を中心に報告する。

II.鼻・副鼻腔

鼻腔に発生した平滑筋腫の1例

著者: 松本憲明 ,   中川文夫 ,   高塚ま由 ,   田村実 ,   永野稔明 ,   浜家一雄

ページ範囲:P.823 - P.825

緒言
 鼻腔原発の良性腫瘍としては血管腫,乳頭腫が多数を占め,その他,神経原性腫瘍,骨・軟骨原性腫瘍などが挙げられているが1),平滑筋腫(leio—myoma)の報告は稀である。
 今回我々は,下甲介より発生した平滑筋腫の症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。

慢性副鼻腔炎を伴った篩骨洞骨腫の1症例

著者: 宇山啓子 ,   館野秀樹

ページ範囲:P.827 - P.830

はじめに
 副鼻腔に発生する骨腫は,症状が出現していない潜在性の物も含めると,かなり多いとされている。われわれは今回,慢性副鼻腔炎を伴った篩骨洞骨腫症例を経験した。本例は,術中所見では鼻石が強く疑われたが,病理所見により骨腫と診断することができた。その経過を報告するとともに,副鼻腔骨腫と鼻石を比較し,若干の考察を加えて述べる。

上顎に発生した粘液腫の1症例

著者: 千田英二 ,   酒井昇 ,   石川和郎 ,   古田康 ,   犬山征夫 ,   野島孝之

ページ範囲:P.831 - P.834

緒言
 粘液腫は頭頸部領域では非常に稀な疾患で,幼児での発生はさらに稀である。今回,われわれは1歳8ヵ月の男児の右上顎に発生した粘液腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

高度視力障害をきたした脊索腫の1例

著者: 加瀬康弘 ,   飯沼壽孝 ,   矢野純 ,   唐沢克之

ページ範囲:P.835 - P.838

緒言
 脊索腫(chordoma)は胎生期脊索の遺残組織から発生する稀な腫瘍である。斜台に発生する腫瘍のなかでは最も頻度が高く1),しばしば両側視神経に障害を及ぼす。また頭蓋底脊索腫の約1/3は上咽頭へ進展することがあり2),耳鼻咽喉科医にとって上咽頭腫瘍の鑑別診断のひとつとして考慮すべき疾患である。
 しかし発生部位の解剖学的位置のため腫瘍の全摘が困難で,予後不良の疾患である1,3)。視神経の圧迫による高度視力障害をきたした場合,一般に視力予後も不良である4〜6)

上顎洞原発のColonic-type Adenocarcinomaの1症例

著者: 柳絵里子 ,   結縁晃治 ,   川上登史 ,   溝渕光一 ,   藤本明子

ページ範囲:P.839 - P.842

緒言
 わが国における頭頸部領域の悪性腫瘍のうち,鼻副鼻腔悪性腫瘍の発生頻度は約25%を占めるがそのほとんどは扁平上皮癌であり腺癌は少なく,特にColonic-type Adenocarcinomaは極めて稀である。
 われわれは,上顎洞原発の組織学的に大腸腺癌に類似した高分化型乳頭状腺癌を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

上顎に発生したAmeloblastic Carcinomaの1症例

著者: 田中寿一 ,   川井田政弘 ,   犬山征夫 ,   藤井正人 ,   高岡哲郎 ,   細田兵之助 ,   川浦光弘 ,   田路正夫 ,   田中一仁 ,   大熊敦子 ,   川崎和子

ページ範囲:P.843 - P.848

はじめに
 Amelobalstomaは,歯胚の上皮成分であるエナメル器ないし歯堤から発生した,分化度の高い細胞より構成される良性の腫瘍である。しかしながら非常に稀ではあるが,リンパ節や肺,椎骨等に転移巣を形成することがあり,World Health Or—ganization (WHO)は,腫瘍細胞の分化度が高く病理組織学的には良性であっても,転移を形成しているということを重視して,これをMalignant ameloblastoma (以下,MA)と定義した。すなわちWHOの定義によれば,細胞の分化度については言及せず,転移が存在すればすべてMAとして分類することになった。ところが,そうして分類されたMAの中には,原発部位や転移部位のどちらか,あるいは両方に分化度が低く異型性をもった細胞をもつものが存在することが判明し,また,たとえ転移がなくても,原発部位の細胞の分化度が低くかつ浸潤性に発育しているAmelobla上stomaも報告されている。このようにAmelobla—stomaの細胞の分化度や発育形態が実際には一様でないために,転移の有無についてしか言及していないWHOの定義では,病理組織学的に分類をしていく上では不都合が生じてきた。後に詳述するごとく,Slootwegら1)はこうしたWHOの定義の不明確さを訂正し,転移の有無に関係なく,その組織中に分化度の低い細胞のみられるAmelo—blastomaはすべてAmeloblastic carcinoma (以下,AC)という疾患に分類した。今回われわれは,上顎に発生したAmeloblastomaで,再発をくり返すうちに病理組織学的に悪性所見を認め,最終的にACと診断されるに至った症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

篩骨洞悪性リンパ腫の2症例

著者: 吉野友英 ,   長舩宏隆 ,   内藤丈士 ,   谷野徹 ,   浦野光永

ページ範囲:P.849 - P.853

はじめに
 悪性リンパ腫は,リンパ節,リンパ組織,細網内皮系などのリンパ組織に発生する悪性腫瘍の総称であり,頭頸部悪性リンパ腫は,全悪性リンパ腫の約半分を占めている1)
 悪性リンパ腫の中には,生理的なリンパ組織以外から発生することもある。これはリンパ節外悪性リンパ腫と呼ばれており,全悪性リンパ腫の10〜25%である2)

III.口腔・咽頭

下咽頭に限局した血管腫の2例

著者: 竹内洋介 ,   大谷地直樹 ,   三浦巧 ,   平賀幸弘 ,   宮崎三忠 ,   小松健祐 ,   林崎勝武 ,   金子敏郎

ページ範囲:P.855 - P.859

緒言
 下咽頭に限局した血管腫は稀な疾患である。我我は右梨状陥凹入口部に限局した海綿状血管種2例を経験し,いずれも咽頭側切開術を施行した。このうちの1例には,MR-CT,超音波カラードプラ法検査を術前に施行し,腫瘤の局在,血流の程度に関して,有益な情報を得ることができたので,文献的考察を加えて報告する。

血液希釈性自己輸血下に摘出した若年性血管線維腫の1症例

著者: 折田浩 ,   河田信 ,   山本英一 ,   折田洋浩 ,   石田博

ページ範囲:P.861 - P.866

はじめに
 鼻咽腔血管線維腫は,臨床的には年齢・性・現病歴および局所所見より比較的容易に診断されるが,手術に際して大量の出血が予想されるため,術前に腫瘍の進展範囲を充分に把握し,術前処置や摘出方法などを検討・工夫する必要がある。
 今回我々は,術前にホルモン療法を施行し,麻酔科医の協力により血液希釈性自己輸血(hemo—dylutional autotransfusion:HAT)下で摘出した症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

小児の上咽頭にみられた卵黄嚢腫瘍(Yolk-sac腫瘍)の1例

著者: 原田成信 ,   蔦佳尚 ,   細田泰男 ,   牛呂公一 ,   山下敏夫 ,   熊沢忠躬

ページ範囲:P.867 - P.870

はじめに
 卵黄嚢腫瘍,いわゆるYolk-sac腫瘍は,性腺由来の悪性腫瘍として知られているが,性腺外1〜6)にも稀に発生することが報告されている。今回我我は,上咽頭に発生し呼吸困難をきたし,緊急気管切開を要した極めて稀なYolk-sac腫瘍の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

舌血管腫の放射線治療後に発生した舌癌の1例

著者: 門前芳夫 ,   林邦昭 ,   佐々野利春 ,   池永弘二

ページ範囲:P.871 - P.873

はじめに
 今回,我々は舌血管腫に対する2回の放射線治療後15年4ヵ月を経て,照射野内に舌癌を認め再度の放射線治療によって制御できた症例を経験した。
 このような症例は稀で,かつ極めて貴重な症例と思われるので報告する。

軟口蓋原発Glycogen-rich Clear Cell Carcinomaの1例

著者: 川上登史 ,   西岡絵里子 ,   林一彦

ページ範囲:P.875 - P.880

はじめに
 唾液線腫瘍のWHO組織分類で,monomorphic adenomaの中に稀ではあるがclear cell tumorとして記載されているものがある。
 症例が少ないため,その生物学的性状に関しては不明であったが,近年,悪性腫瘍としての性格を持つという報告がみられるようになってきた。
 われわれは,35歳女性の軟口蓋小唾液腺に由来すると思われる極めて稀なglycogen rich clear cell carcinomaの1例を経験したので報告する。

198Auグレインによる口蓋垂癌の治療

著者: 門前芳夫 ,   平野康文 ,   菅喜郎

ページ範囲:P.881 - P.884

はじめに
 2例の原発性口蓋垂癌に198Auグレインを用いて組織内照射を行い,良好な治療効果を得た。本治療法の手技は簡便で,外照射による合併症の低下も期待できる有用な治療法と考えたので報告する。

IV.喉頭

甲状軟骨外に進展した喉頭脂肪腫症例

著者: 永沼正道 ,   末野康平 ,   山田洋一郎 ,   大成智洋 ,   馬場道忠 ,   木田亮紀

ページ範囲:P.885 - P.888

はじめに
 脂肪腫は通常全身の皮下組織に見られる良性腫瘍であり,これが喉頭に発生することは極めて稀である。
 今回我々は,本腫瘍を頸部外切開法により摘出し,病理組織学的にintramuscular lipomaと診断された症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

喉頭紡錘細胞癌症例—その免疫組織学的検討

著者: 斉藤優子 ,   久育男 ,   高木伸夫 ,   綾部裕子 ,   進藤昌彦 ,   安田範夫 ,   村上泰

ページ範囲:P.889 - P.893

緒言
 紡錘細胞癌は扁平上皮癌の稀な一亜型であり,口腔,咽頭,上気道などに比較的多くみられる。臨床的に腫瘍は一般に球状の有茎性腫瘤であることが多く,組織学的には紡錘形の細胞が充実性に増生し一見肉腫様を呈する。この紡錘形細胞のhis—togenesisに関しては種々の議論があるが一般に扁平上皮由来であると考えられている。我々は,喉頭ポリープの診断にて喉頭微細手術を施行し,病理診断にて紡錘細胞癌であった1例を経験したので,病理組織学的所見について検討し,併せて文献的考察を加えて報告する。

V.唾液腺

耳下腺内顔面神経鞘腫の1例

著者: 宮嶋佳世子 ,   大川靖弘 ,   黄川田徹

ページ範囲:P.899 - P.902

はじめに
 Neurinomaは,NeurilemmomaまたはSchwan—nomaとも呼ばれる,神経線維鞘に起原を持つ腫瘍である。中枢神経系に好発し,時に末梢神経にも見られる。耳鼻咽喉科領域では,聴神経に最も多く見られ,舌,頸部,咽頭,副鼻腔,喉頭などにも発生する。起原となる神経は,舌咽,迷走,副,舌下,交感神経などがあるが,確認できない例も少なくない。耳下腺のNeurinomaは極めて稀である。我々が調べた範囲では,本邦の報告例は本症例を含めて20例である。最近我々が経験した1症例を報告する。

同一耳下腺内に組織型の異なる2種の良性腫瘍が存在した1例

著者: 渋沢三伸 ,   坂本克也 ,   真栄田宗慶 ,   三宅一範 ,   寺田寿美子

ページ範囲:P.903 - P.907

はじめに
 良性多形腺腫(pleomorphic adenoma)とワルチン腫瘍(Warthin's tumor, papillary cystadenoma lymphomatosum)は,前者は耳下腺に発生する腫瘍のうち約60%を,後者は約10%を占め,それぞれ単独では比較的よく遭遇する腫瘍である。しかし両者が同一耳下腺に同時に存在したという報告は意外に少なく,著者らが渉猟しえた範囲1〜13)では本症例が13例目の報告であり,国内においては最初の報告である。本症例ではそれぞれの腫瘍が分離して2つの腫瘍塊を形成しており,耳下腺浅葉切除術により顔面神経を障害することなく両腫瘍ともに摘出できた。

耳下腺Dumb-bell型腫瘍の1例

著者: 宮嶋佳世子 ,   大川靖弘 ,   黄川田徹

ページ範囲:P.909 - P.911

はじめに
 耳下腺深葉腫瘍が,副咽頭間隙へと進展してできるdumb-bell型腫瘍は比較的稀である。また多形腺腫で99mTcシンチグラムが陽性になる例はあまり報告されていない。今回われわれは,dumb—bell型耳下腺多形腺腫の1例を経験したので報告する。

耳下腺Benign Lymphoepithelial Lesionの1例

著者: 吉原俊雄 ,   片桐仁一 ,   遊座潤 ,   広田恒子 ,   林崎勝武

ページ範囲:P.913 - P.916

はじめに
 日常診療において唾液腺の腫脹を主訴として来院する患者は比較的多くその原因としては急性,慢性炎症や良・悪性腫瘍によるものが多くを占めている。その他腫瘍性病変をきたす疾患として唾液腺benign lymphoepithelian lesionが挙げられるが,その病態は未だ不明である。本疾患はSjogren症候群やMikulicz病における唾液腺の組織学的所見と同様の所見を呈することから,同一の疾患とする意見もある。今回われわれは,65歳女性で左側耳下腺部腫脹を主訴とし,口内乾燥感,涙腺や顎下腺の腫脹,その他,自己免疫疾患などの全身症状を欠く1症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する。

顎下部病変の臨床的検討—顎下腺腫瘍11症例を中心に

著者: 高橋光明 ,   金井直樹 ,   海野徳二

ページ範囲:P.917 - P.923

はじめに
 顎下部は上頸部の大部分を構成し,リンパ節に富み,顔面,口腔,舌,歯牙疾患によるリンパ節炎や転移性リンパ節腫脹をしばしば来す。また,この部には顎下腺がその中心に位置し,顎下部の炎症性疾患,腫瘍性疾患に遭遇した時,病変が顎下腺の内か外か,また良性か悪性かの診断がしばしば問題となる。
 今回,当院開設以来12年間に外科的処置を行った顎下部病変76症例について顎下腺腫瘍11例を中心に臨床的な検討を行ったので報告する。

耳下腺転移性平滑筋肉腫の1症例

著者: 鈴木文雄 ,   坂口幸作 ,   奥田稔 ,   大西正樹 ,   坂井聡子

ページ範囲:P.925 - P.928

はじめに
 耳下腺の転移性腫瘍は稀である。今回我々は,耳下腺の転移性平滑筋肉腫の1症例を経験したので報告する。

VI.頸部

頸部横隔神経より発生した神経鞘腫の1例

著者: 沖田渉 ,   菊地茂 ,   岩沢俊三 ,   高橋敦

ページ範囲:P.931 - P.935

緒言
 神経原性腫瘍は頸部腫瘍の中でも比較的少ない疾患で,特に横隔神経に発生するものは極めて稀である。最近我々は,頸部横隔神経より発生した神経鞘腫の1例を経験したので報告する。

頸動脈小体腫瘍の1例

著者: 進藤昌彦 ,   竹上永祐 ,   八木正人 ,   河田了 ,   安田範夫 ,   久育男 ,   村上泰

ページ範囲:P.937 - P.941

はじめに
 頸動脈小体腫瘍は,頸動脈分岐部に存在する化学受容器である頸動脈小体より発生する比較的稀な腫瘍である。1988年Riegnerにより初めて摘出例が報告されて以来1,000余例が報告されており,また本邦では1924年阿部ら1)の報告以来約100例が報告されている。今回我々は,手術的に全摘し得た症例を経験したので,本症例の診断および治療について報告する。

頸部Castleman's Diseaseの1例

著者: 福永一郎 ,   黒田一三 ,   川上晋一郎 ,   岡野和美 ,   増田游

ページ範囲:P.943 - P.946

はじめに
 1954年Castleman1)が縦隔に発生した胸腺腫類似腫瘤をMediastinal Lymphnode Hyperplasiaと報告してから現在まで200例以上の報告2)がなされ,Castleman's Diseaseと称されている。その約2/3は胸郭内発生といわれ,残りは胸郭外発生であり,そのなかでは頸部に最も多く報告されている。我々はこのたびCastleman's Diseaseと考えられる左頸部腫瘤の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

頸部腫瘤が唯一の症状であった急性骨髄性白血病と悪性リンパ腫の同時合併症例

著者: 田中寿一 ,   犬山征夫 ,   藤井正人 ,   高岡哲郎 ,   細田兵之助 ,   川浦光弘 ,   田路正夫 ,   田中一仁 ,   大熊敦子 ,   川崎和子

ページ範囲:P.947 - P.951

はじめに
 悪性リンパ腫(Malignant lymphoma以下,ML)に対して化学療法や放射線療法を施行した後に急性骨髄性白血病(Acute myelocytic leukemia以下,AML)が発症してくることはそれ程稀ではないが,MLとAMLが同時に発症することは,後に述べるごとく極めて稀である。しかも,これまでの報告例では,診断が得られる前に発熱,倦怠感,全身リンパ節腫脹等の,MLやAMLの存在を示唆する症状がすでに発現しているのであるが,今回我々は,頸部リンパ節の腫脹が唯一の症状であり,そのために耳鼻咽喉科を受診し,そこでMLとAMLの合併と診断された症例を経験した。症例そのものが非常に稀であることに加え,耳鼻咽喉科だけでの診察からこうした症例が発見されたことも大変珍しいと思われたので,ここに報告する。

頸部郭清術と胸肋鎖関節肥大の関係について

著者: 滝元徹 ,   石川滋 ,   田中佐一良 ,   桝田耕 ,   梅田良三

ページ範囲:P.953 - P.955

はじめに
 全頸部郭清術は1906年Crile1)により提唱されて以来,頭頸部癌の頸部リンパ節転移に対する手術的治療の基本的術式として広く行われてきている。この術式において,胸鎖乳突筋と副神経を犠牲にするため術後合併症として僧帽筋を含む筋機能の運動障害によりshoulder droopが起こることがよく知られている2)。しかし,この頸部郭清術施行後のもう一つの合併症である胸肋鎖関節肥大の出現に関する報告は本邦において皆無である。
 我々は,最近約3年間において41例の頭頸部癌患者57側に頸部郭清術を施行後,11例に胸肋鎖関節肥大を認めたので,ここに報告する。

VII.甲状腺

甲状腺の偶発乳頭状腺癌—頸部リンパ節腫大の取り扱い方

著者: 山田弘之 ,   坂倉康夫 ,   金春順 ,   高橋志光

ページ範囲:P.957 - P.960

緒言
 最近UICCのTNM分類において甲状腺癌の分類に変更があり,腺内の直径1cm以下の癌をT1とするなどその大きさを重要視する方向にある。これは甲状腺に早期癌の概念がない現在,できるだけ癌そのものが小さいうちに早期発見・早期治療をせんとする傾向にあることに他ならない。
 直径1cm以下のいわゆるT1例は以前より小型癌とか微小癌と呼ばれ,触診のみでは発見することさえ難しく,しばしば頸部の転移リンパ節を認めた後に,その原発巣検索の際に初めて発見されることが多い。頸部リンパ節の転移巣が先に発見された甲状腺癌はoccult cancerと呼ばれることが多いが1),リンパ節生検材料から予期せぬ甲状腺癌が発見された場合はこれを特に偶発癌(inci—dental cancer)と呼ぶことがある1)

甲状腺分化癌の131I治療法に関する臨床的検討

著者: 山田弘之 ,   坂倉康夫 ,   中川毅 ,   豊田俊

ページ範囲:P.961 - P.964

緒言
 甲状腺分化癌の増殖は甲状腺刺激ホルモン(TSH)に依存性があると考えられ,病巣はヨードを摂取する性格を有し,場合により甲状腺ホルモン産生さえも行うとされている。一方,甲状腺分化癌はその増殖は遅いものの,治療は外科的治療が主体となり,化学療法や放射線外照射療法は適応外とさえ考えられている。しかし外科的治療のみでは根治性が得られない症例があることも確かである。そこでこのような根治不能もしくは再発した甲状腺分化癌に対し,その生物学的特性を生かして,1946年以後131I治療が諸施設において行われるようになった。131I治療は他臓器癌には見られない甲状腺癌に特異な治療法であり,かつ治療効果が高く評価されるものである。
 われわれの施設でも,放射線科において131I治療が行われており,1980年からは耳鼻咽喉科において外科的治療がなされた根治不能例,または再発例に対し同治療が選択され,症例数も11例を数えるに至った。今回この11例について検討を行ったので,若干の文献的考察を加え報告する。

目でみる耳鼻咽喉科

口腔病変の鑑別診断—早期癌について

著者: 高橋廣臣

ページ範囲:P.796 - P.797

 口腔病変の診療は,我々にとって日常的なもので特別な配慮を必要とするものは多くはないが,悪性腫瘍は早期に治療しないと極めて予後が悪い。しかし早期の癌は,鑑別が必ずしも容易でなく,いたずらに時を過ごしていると重篤な結果を招くことになる。

鏡下咡語

狂人的オージオロジストのたわごと

著者: 村上泰

ページ範囲:P.896 - P.897

 大方の想像を裏切って大変恐縮だが,この私だって聴覚医学にとても興味をもっているんです。立派に日本オージオロジー学会当時から聴覚医学会の正会員であるし,厚生省特定疾患研究班発足当時の突発性難聴調査研究三宅班の初代疫学分科会長として大活躍(?)したことだってあるんです。はたしてその進歩発展に貢献したか阻害したか(後者であるとの意見が有力)はさておいて,はじめての全国集計作業に大いに興奮し,今でこそよく分かるのだが,こんなにもお忙しい先生方からの返信がたった2-3日遅れたからといっては腹を立て,大教授からたったひとにぎりの症例しか報告がないといってはヤキモキし,世の中の不思議に戸惑った経験だってあるんです。驚くべきことに,JergerやSimmonsの研究施設を訪問したことだってあるんです。もっとも,立派な建物の薄暗い研究室にやたらと難しそうな測定器械が並んでいたのに,はなから圧倒されたのと,そこで立ち働くピチピチ(にみえた)ギャルのラボランチン達がところどころほつれて穴のあいた白衣をカッコよく(と思っているらしくみえた)着流して,かわいらしく無抵抗なラット達の中耳骨包を残酷にいじりまわしながら,10年選手のように自信たっぷりに,スラング混じりの早口で機械のように無機質に,相手の理解力を全く無視して説明してくれる,およそ耳鼻咽喉科学とは関係ないよと言いたくなるような魑魅魍魎の世界に呆れ果て,ついに最後まで向こうのペースから脱却しきれずに,内容については全く見て来なかったことに後で気付いたがすでに遅かった(見惚れて聴いていなかったとする意見もつよい)のです。もしあの時しっかり勉強して来ていたら,いっぱしのオージオロジストを気どり,偉そうに学会で質問の一つもできたであろうにと大変残念です。これが今日でも,聴覚医学にけなげにも興味を持ちながら,無意識のうちに自身を遠ざけてしまっている大きな要因になっているのです。
 しかし私は,もう一つのオージオロジーにも大いに興味を持ち,なけなしの財を叩いて(女房に言わせると狂人的に)のめり込んで来たんです。私にはどうしてもストレスでしかあり得ない聴覚医学の勉強ではなく,もちろんもっと人間臭く,しかもはるかに文化の香り高い(聴覚医学会の皆様,どうかお許しを),ストレスを解消する方の音楽的オージオのことなんです。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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増刊号 豊富な処方例でポイント解説! 耳鼻咽喉科・頭頸部外科処方マニュアル

95巻4号(2023年4月発行)

特集 睡眠時無呼吸症候群の診療エッセンシャル

95巻3号(2023年3月発行)

特集 内視鏡所見カラーアトラス—見極めポイントはここだ!

95巻2号(2023年2月発行)

特集 アレルギー疾患を広く深く診る

95巻1号(2023年1月発行)

特集 どこまで読める? MRI典型所見アトラス

94巻13号(2022年12月発行)

特集 見逃すな!緊急手術症例—いつ・どのように手術適応を見極めるか

94巻12号(2022年11月発行)

特集 この1冊でわかる遺伝学的検査—基礎知識と臨床応用

94巻11号(2022年10月発行)

特集 ここが変わった! 頭頸部癌診療ガイドライン2022

94巻10号(2022年9月発行)

特集 真珠腫まるわかり! あなたの疑問にお答えします

94巻9号(2022年8月発行)

特集 帰しちゃいけない! 外来診療のピットフォール

94巻8号(2022年7月発行)

特集 ウイルス感染症に強くなる!—予防・診断・治療のポイント

94巻7号(2022年6月発行)

特集 この1冊ですべてがわかる 頭頸部がんの支持療法と緩和ケア

94巻6号(2022年5月発行)

特集 外来診療のテクニック—匠に学ぶプロのコツ

94巻5号(2022年4月発行)

増刊号 結果の読み方がよくわかる! 耳鼻咽喉科検査ガイド

94巻4号(2022年4月発行)

特集 CT典型所見アトラス—まずはここを診る!

94巻3号(2022年3月発行)

特集 中耳・側頭骨手術のスキルアップ—耳科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻2号(2022年2月発行)

特集 鼻副鼻腔・頭蓋底手術のスキルアップ—鼻科手術指導医をめざして!〔特別付録Web動画〕

94巻1号(2022年1月発行)

特集 新たに薬事承認・保険収載された薬剤・医療資材・治療法ガイド

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