上顎に発生したAmeloblastic Carcinomaの1症例
著者:
田中寿一
,
川井田政弘
,
犬山征夫
,
藤井正人
,
高岡哲郎
,
細田兵之助
,
川浦光弘
,
田路正夫
,
田中一仁
,
大熊敦子
,
川崎和子
ページ範囲:P.843 - P.848
はじめに
Amelobalstomaは,歯胚の上皮成分であるエナメル器ないし歯堤から発生した,分化度の高い細胞より構成される良性の腫瘍である。しかしながら非常に稀ではあるが,リンパ節や肺,椎骨等に転移巣を形成することがあり,World Health Or—ganization (WHO)は,腫瘍細胞の分化度が高く病理組織学的には良性であっても,転移を形成しているということを重視して,これをMalignant ameloblastoma (以下,MA)と定義した。すなわちWHOの定義によれば,細胞の分化度については言及せず,転移が存在すればすべてMAとして分類することになった。ところが,そうして分類されたMAの中には,原発部位や転移部位のどちらか,あるいは両方に分化度が低く異型性をもった細胞をもつものが存在することが判明し,また,たとえ転移がなくても,原発部位の細胞の分化度が低くかつ浸潤性に発育しているAmelobla上stomaも報告されている。このようにAmelobla—stomaの細胞の分化度や発育形態が実際には一様でないために,転移の有無についてしか言及していないWHOの定義では,病理組織学的に分類をしていく上では不都合が生じてきた。後に詳述するごとく,Slootwegら1)はこうしたWHOの定義の不明確さを訂正し,転移の有無に関係なく,その組織中に分化度の低い細胞のみられるAmelo—blastomaはすべてAmeloblastic carcinoma (以下,AC)という疾患に分類した。今回われわれは,上顎に発生したAmeloblastomaで,再発をくり返すうちに病理組織学的に悪性所見を認め,最終的にACと診断されるに至った症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。