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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科62巻11号

1990年10月発行

雑誌目次

トピックス 心因性難聴

心因性難聴の病態

著者: 古賀慶次郎

ページ範囲:P.975 - P.978

I.心因性難聴か機能性難聴か
 学童の学校健診によって日常会話には支障はないが聴覚検査上異常を示す一群の増加に伴い,それらを含めての異常所見群を心因性難聴と呼ぶ報告が多くなった。しかし一方で学童にplay audio—metryを用いて検査するなど検査を工夫すると異常所見ではなくなる症例があることが明らかになったり1),また著者の経験では異常所見のあった学童に聴力検査室内で玩具のピアノで遊ばせた後に再検査したところ異常のない結果が得られたなど,実際には聴力閾値に異常はないが気導,骨導閾値に異常を示すのは検査に対する説明が不十分な場合,検査に不慣れな場合,病院に恐怖心を持ったり,緊張する小児の場合等に心因性難聴と診断される可能性がある。特に恐怖心がある場合,検査法を工夫しても早急には問題は解決されないことも考えられる。
 その他に意識的に病を偽る詐病も含まれている可能性がある。成人と異なり小児の詐病はその動機が理解し難いため心因性難聴と鑑別出来ない可能性がある。更に一層問題になるのは学校健診における検査で,十分学童が検査の意味を理解していなければ異常の結果が得られるのは当然なことである。

心因性難聴(機能性難聴)の検査と診断—検査法に関する2,3の試み

著者: 細井裕司 ,   戸所道子 ,   石川雅洋 ,   村田清高 ,   太田文彦

ページ範囲:P.979 - P.983

はじめに
 心因性難聴は,機能性難聴または非器質性難聴と呼ばれる疾患群の一病型と考えられているが,厳密な定義や類似疾患の名称については研究者によって種々な見解がある。従来,機能性難聴の検査法は,詐聴検査法として述べられている場合が多かった。しかし聴力検査法としては,機能性難聴の検査法として存在し,心因性か詐聴か等の判断は,他の因子によって決定されることが多い。従って心因性難聴の検査の目的は,器質性難聴か,機能性難聴かの鑑別と,真の聴力閾値(この場合は器質性難聴の部分の聴力閾値)の確定が主となる。本稿では,従来から行われている検査法とともに,我々が施行している検査法上の工夫について述べる。

小児心因性難聴の治療

著者: 大迫茂人

ページ範囲:P.985 - P.990

はじめに
 最近,おしゃべりをしているときの友達の声や授業中の先生の声が小さくて聞こえにくいとか,黒板の字が見えにくいとか,耳が痛い,耳鳴がするとか,目が痛い,二重に見えるとか,あるいは全くこれらの自覚がないのに聴力検査や視力検査をすると異常所見が出てくるといった子どもが増えて来ている。
 これらの症状はその子どもを取り巻く環境のストレスや人々の気持や反応をその子どもが気にし始めることなどに関係しているものと考えられる。

学校健診の立場からみた心因性難聴

著者: 沖津卓二 ,   堀富美子 ,   佐藤直子

ページ範囲:P.991 - P.995

はじめに
 最近,小児の心因性難聴が増加していると言われている。その主要原因として,学校健診の聴力スクリーニング検査で発見される症例が多いことが指摘されている1)。確かに,学校健診ではじめて難聴を指摘され,純音聴力検査を通常の方法で行うと50〜60dBの感音難聴を示すが,本人は難聴を訴えず,日常の会話も普通の大きさの声で可能なことから,心因性難聴を疑われる子供が散見される(図1)。これらの子供の中にはいわゆる心因性難聴も存在し得るが,大部分は問診で原因が見当たらないもので,聴力検査の技術的な問題に起因している場合が多い。
 また,最近はABR検査が容易に行われるようになったため,上述のような子供にABR検査を施行し,反応閾値と純音閾値が一致しないと言うだけで,安易に心因性難聴と診断する傾向があるように思う。

目でみる耳鼻咽喉科

鼻閉塞や鼻出血をきたす鼻疾患

著者: 長舩宏隆 ,   内藤丈士 ,   小田恂

ページ範囲:P.972 - P.973

 鼻閉塞,鼻出血を主訴として来院した成人の場合には,一般的に悪性腫瘍を第一に考慮する必要がある。しかし鼻内所見のみでは,良性,悪性の判定に迷う様な症例も多く経験するところである。今回はこの様な症例の鼻内写真を供覧する。

原著

閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者における頭部X線写真上の顔面頭蓋骨計測値の検討

著者: 朝倉光司 ,   中野勇治 ,   新谷朋子 ,   秋田信人 ,   松田史明 ,   形浦昭克

ページ範囲:P.997 - P.1001

はじめに
 睡眠時無呼吸症候群は,無呼吸の起こり方から中枢型,混合型および閉塞型の3型に分類される。そのうち後2者は,睡眠時の上気道呼吸補助筋の筋緊張の低下に加えて,上気道の解剖学的狭窄が大きな要因であると考えられている。すなわち,小児の閉塞型睡眠時無呼吸症候群(Obstruc—tive sleep apnea syndrome, OSAS)の多くがアデノイドや口蓋扁桃肥大を伴い,それらの手術的摘出によりOSASの症状が改善することは古くより知られていた1,2)
 成人症例の場合には,従来気管切開術が唯一有効な手術法であったが,1981年にFujita博士によって,軟口蓋咽頭形成術(Uvulopalatopharyngo—plasty, UPPP)が有効なことが報告されて以来,小児と同様に上気道の解剖学的狭窄がその原因の一つとして注目されるようになった3)。一方,「いびき」やOSASは,人間に特有な疾患であり,これには進化に伴った顔面頭蓋骨の形態学的な変化が関係していると考えられる。そこで今回,OSASを含めた「いびき」患者を対象にして頭部X線写真上の特徴を検索した。

耳鼻咽喉科を初診した破傷風症例

著者: 郭宗佐 ,   洲崎春海

ページ範囲:P.1003 - P.1007

はじめに
 破傷風は抗生物質の進歩,三種混合ワクチン,トキソイドの普及などにより,近年では発生率が激減傾向を示しているものの,いったん発生した場合には経過が急速で,適切な処置を行わないと半日以内に死亡することもある重篤な疾患である。したがって,破傷風は早期診断や早期治療が重要であるが,その発病初期の症状が患者によってかなり異なっている。耳鼻咽喉科医が破傷風患者に遭遇する機会は稀であるが,その初期症状を見のがすと手遅れとなりやすいので十分な注意が必要である。
 最近,筆者らは開口障害を主訴として耳鼻咽喉科を初診した破傷風の1症例を経験したので,診療上心がけなければならない問題点などについて若干の考察を加えて報告する。

頭蓋内進展の見られた蝶形骨洞篩骨洞嚢腫の1例—磁気共鳴映像法(MRI)所見について

著者: 太田修司 ,   宮野和夫

ページ範囲:P.1009 - P.1012

はじめに
 上顎洞をはじめとする副鼻腔は自然口によって鼻腔,すなわち外界と交通しているが,何らかの原因によって換気,排泄能が障害されると死腔となり,嚢胞化して隣接臓器の機能障害に発展することがある。術後性上顎嚢胞が過半数を占めるが,原発性嚢胞の発生部位は3分の2が前頭洞であり,次いで篩骨洞,後部篩骨洞と蝶形骨洞を合わせた後部副鼻腔の順となる。蝶形骨洞篩骨洞嚢胞(以下,後部副鼻腔嚢胞)の発生頻度は前頭洞嚢胞の約1/10程度といわれ稀であり,解剖学的に視力障害を主とした視器障害を起こす可能性が高く,鼻症状を欠くことが多い。原因不明の球後視神経炎として長期間保存的治療を受けている間に頭痛などの症状が伴い,脳外科を経由して耳鼻科受診となる場合が文献上もしばしばみられる。現在では断層写真の他にX線CTや磁気共鳴映像法(以下,MRIと略)の画像診断技術により診断は比較的容易となってきているが,確定診断が得られないままの症例も多いものと考えられる。
 今回,約2年半の視力障害が主症状であり,頭蓋内進展の見られた蝶形骨洞篩骨洞嚢胞の1例を経験したので,同疾患では本邦初のMRI所見と共に文献的考察を加えて報告する。

術後性上顎嚢胞術式の考察(第2報)

著者: 塩野博己 ,   北原伸郎 ,   田中利善 ,   栗山純一 ,   飯沼壽孝

ページ範囲:P.1013 - P.1017

はじめに
 術後性上顎嚢胞の手術法では上顎洞根本手術が一般に行われてきたが,画像診断の進歩により術後性上顎嚢胞がより精密に把握できるようになって,経鼻的手術も行われるようになった。本疾患の術式には定説はないが,本疾患がすでに術後性であることや好発年齢を考えると,再発を防ぐことは第一の課題である。今回は術後性上顎嚢胞のX線CT画像を検討し,嚢胞の性状による鼻内開窓術(下鼻道側壁)の適応について検討する。

包丁による頸部自傷の1例

著者: 宇山啓子 ,   館野秀樹

ページ範囲:P.1019 - P.1023

はじめに
 頸部の開放性損傷は,ナイフなどの刃物やガラスなどの先の尖ったもの,銃弾によるものなどが知られている。諸外国の統計にくらべ1〜4),本邦では,銃刀類の所持の規制が厳しいという理由などから,症例報告は極めて少ない。
 我々は,自殺の目的で包丁を頸部に刺し,頸椎に刃先が残存していた1例を経験したので報告する。

良性壊死性外耳道骨炎の1例

著者: 永井みどり ,   牧野浩二 ,   森満保

ページ範囲:P.1025 - P.1027

はじめに
 良性壊死性外耳道骨炎(Benign necrotizing os—teitis of the external auditory meatus)という疾患名は耳慣れたものではなく,渉猟し得たかぎり本邦にその報告はない。欧米においても現在までに5編の論文を見るのみである。われわれは外耳道底部に骨破壊を伴う肉芽性炎症をきたした症例を経験した。特異な局所所見を呈し,診断が困難であったが最終的に良性壊死性外耳道骨炎に該当すると考えられた。ここにその症例について若干の考察を加えて報告する。

頭頸部癌動注合併症と対策

著者: 山本英一 ,   折田浩 ,   飯尾和子 ,   大内芳春 ,   山川純至 ,   折田洋造

ページ範囲:P.1029 - P.1034

はじめに
 外頸動脈系に灌流されることの多い頭頸部癌は,制癌剤の動脈内注入療法(以下,動注と略す)が行い易く,その治療効果には時として驚かされるものがある。浅側頭動脈経由で逆行性に動注することが一般的で,時に上甲状腺動脈経由でも行うが,いずれの場合も清潔操作が要求される。しかし,長期間になると原因不明の発熱が認められたり,制癌剤の血管外漏出や内腔閉塞による中止を余儀なくされることもあり,無理に続行すると,敗血症,脳梗塞,局所壊死などの合併症をきたしかねない。また,灌流域に一致して強く生じる口内炎や脱毛も悩まされるもののひとつである。これらの臨床例を示し,当科におけるその対策を述べ,若干の文献的考察を加える。

学会トピックス

第16回バラニー学会

著者: 徳増厚二

ページ範囲:P.1035 - P.1037

はじめに
 偉大な業績により耳鼻咽喉科医で最初にノーベル賞を受賞したR.Baranyを記念して1960年に創立されたパラニー学会が,平成2年5月28日より30日まで3日間,東京で開催された。本学会の現況については,松永亨教授が既に記載(本誌61巻2号,1989年)しておられる。
 1975年森本正紀名誉教授が日本で初めて開催された第8回京都学会より既に15年が経過し,わが国では第2回目の開催にあたる。1985年アンナーバーの学会で,多くの会員の期待のもとに第16回学会は,会長松永享教授,事務局長鈴木淳一教授,開催地は東東と決定された。それから5年間,日本平衡神経科学会後援で,松永学会会長,鈴木事務局長のもと,わが国の平衡神経科学に関係する方々の総力を挙げて東京学会を成功させるための準備が行われた。

鏡下咡語

めまい語源学雑感

著者: 二木隆

ページ範囲:P.1040 - P.1041

 本年3月「めまいの医学」なる一般読者向けの雑学的単行本を出版したが(中央書院),この本の第1章は,「目は『舞う』のか,回るのか」というタイトルで,めまいの語源学的なことを扱ってみた。こういった章からはじめてみようと考えた背景には三人の方の影響があったので,その辺を書いてみたい。
 森本正紀先生が新潟大学から京都大学に戻られたのが昭和38年で,今の本庄教授が助手のころ,出席者に「感想」なるアンケートをとり,出席をとっていた。耳鼻科の講義そのものが月曜の第一時限であるのに加えて,私は「出席とり」に反発を感じたので,一学期出席しなかった。そうしたら教授室に呼び出されて,秋からのポリクリを受けさせないと叱られた。やむなく夏休みにどこかで耳鼻科の実習ということで勘弁してもらった。どうやら,このあたりの縁で耳鼻科入局ということになるのだが,おかげで,入局後も先生の講義のシュライバーでじっくりつき合わされた。耳鼻咽喉科学百般を御一人で講義されたが,今おもうにこういうことが出来る方は少ないのではないだろうか。その講義の中でも,めまいのくだりでは熱も一段と入り,バラニーの逸話など大変面白かった。この中で,源順の「和名類聚抄」,第二巻の「眩,懸也,目所視動乱如物。揺々然不定也」(眩ハ懸ナリ。目ノ視ルトコロ動乱シ,物ヲ懸ケタルガ如ク,揺々トシテ定マラザルナリ)934年。というスライドも示された。またラテン語vcrtere=to turnということも示され,また,英語圏の患者はたとえvertigoであってもdizzinessまたはI'm dizzyというとも教えて下さった。そして一段と声を上げ「諸君,目は実際舞うのである。めまいをおこしている人の目をのぞけば,眼球振盪という特有の動きが観察できるのである」といわれた。この「舞う」ということばは,関西弁のニュアンスがあるので,この辺がかわりにくく,後出の村主博士のように語源学的に苦労しなければならなくなる。舞うは舞い踊りというように旋律又は拍子に合せての体の動きを示す意味もあるが,「ほんに忙しうて口がまいそうや」とか「ひゃーっ,めがまう!」とか,日常的に「まわる」という意味と重なり合って用いられている。森本先生御退官の折,平衡神経科学の処だけ,講義用スライド一式をコピーさせていただき,東大での講義にそれを用いたが,説明も「めは舞うのである」とやった。今思うに1/4近い灘高出身者には,スンナリのみこめたことであろうが,あとの諸君らはどうだったのであろうか。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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