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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科62巻13号

1990年12月発行

雑誌目次

トピックス 鼻茸

鼻茸の研究と臨床の流れ

著者: 佐々木好久

ページ範囲:P.1135 - P.1140

はじめに
 鼻茸は嚢胞形成性,線維性または浮腫性のものにも,好酸球の浸潤しているものが多い。また肥満細胞,形質細胞,好中球,リンパ球が多く存在している。鼻茸中には鼻茸内で形成したと考えられるIgEが存在し,ヒスタミン量も他の鼻粘膜組織に較べて圧倒的に多い。これらの特徴は鼻茸がアレルギー反応によって発生し,アレルギー反応の場となっているとの印象を受ける。
 しかし臨床的にアレルギー性鼻炎に合併している鼻茸は極めて少ない。むしろ多くの鼻茸は副鼻腔炎に合併している。またアレルギー性鼻炎よりも喘息患者での鼻茸合併率が有意に多い。この喘息でもアレルギーテスト陰性者の方にテスト陽性者よりも鼻茸合併率が多い。

形態面からみた鼻茸の病態について

著者: 高坂知節

ページ範囲:P.1141 - P.1147

はじめに
 鼻茸の成因とその治療法に関する研究テーマは,ヒポクラテスの時代に遡るといわれるほどに古典的なテーマのひとつであるが,近代免疫アレルギー学の進歩した現在に至っても,なお不詳の部分が残されていて,臨床的にも鼻茸が完全にコントロールされているとは云い難い。かつて慢性副鼻腔炎が全盛であった昭和40年代前半までは,我々の領域では鼻副鼻腔根本手術が最も頻繁に行われた手術のひとつであり,そのほとんどの症例で鼻茸を伴うのが慣例であった。従って鼻茸は慢性炎症に付随するもので当然の帰結と理解されていたが,今日,慢性副鼻腔炎の軽症化がすすみ,手術件数が著しく減少したにもかかわらず,依然として再発性の鼻茸は減少せず,若い年齢層にも発症するものがあり,鼻茸の成因病態に関してもう一度検討してみようという機運が盛り上がってきた。このような歴史的背景には,とりもなおさず鼻茸病態の多様性が示されているものと考え,本稿では,特に微細構造レベルでの形態変化を中心に鼻茸の病理を検討し,その成因についての見解を述べたい。

鼻茸の病態からみた治療法

著者: 大山勝 ,   福田勝則 ,   島哲也 ,   松崎勉 ,   金春順

ページ範囲:P.1149 - P.1155

はじめに
 鼻茸の病因は単純でなく,地域や社会的要因で異なり,鼻副鼻腔の粘膜病態と密接に関係している1,3,4)。近年,欧米を中心にアレルギーの関与する鼻茸が増加し,感染型が激減していることにもみられる。また,いわゆる“アスピリン喘息Aspirin induced asthma (AIA)性”の鼻茸が成因や治療をめぐって注目されている2)。わが国においても,これらに類似した傾向がみられ,病因別の鼻茸発生頻度でも欧米型に近づいている。そこで,ここでは鼻茸の今日的な病態と治療を中心に解説する。

鼻茸の再発と難治性副鼻腔炎

著者: 斎藤等 ,   山田武千代 ,   森繁人

ページ範囲:P.1157 - P.1162

はじめに
 鼻茸は再発しやすい。したがって鼻茸を伴う副鼻腔炎は難治性である。しかし,それらの実態というか,再発の頻度や間隔などについては,あまり公表したくない面もあって報告も少ない。今回,それらについて調査したので,あえてそれらの結果を発表する。

鼻茸治療上の問題点

著者: 吉見充徳

ページ範囲:P.1163 - P.1167

はじめに
 鼻茸治療上最も問題となる点は,手術の必要性を患者に説明し,かえって来る言葉が,『鼻茸は手術してもまた出て来るんでしょ』であろう。これは私共耳鼻科医にとって本当に残念なことでありまた反省しなければならない点である。
 そこで私共は過去11年間の当院の手術例を反省の材料とするべく集例を行い,再発が本当に多いのか,どのような症例が再発しやすいのかを実態調査を行い,その結果から如何にしたら再発を防げるのか,鼻茸の治療成績を上げられるかという点の追究を行い,いささかの考察を加え,今後の鼻茸治療の一助になればと考える次第である。

目でみる耳鼻咽喉科

上気道の狭窄と小児の漏斗胸

著者: 隈上秀伯 ,   神田幸彦

ページ範囲:P.1132 - P.1133

 外科学の教科書によると,漏斗胸は遺伝関係の強い先天奇形であり,胸骨,肋軟骨の異常発育により発症すると記載されている。
 発症頻度は圧倒的に男性に多く,外科的手術所見より病因について種々の説があげられているが定説はない。全く遺伝関係のない症例も多いといわれている。

原著

外傷性両側性顔面神経麻痺の1例

著者: 中野俊久 ,   磯野光夫 ,   堀重昭 ,   川内秀之

ページ範囲:P.1169 - P.1173

はじめに
 両側性顔面神経麻痺は,糖尿病,リウマチなどの膠原病,あるいはギランーバレ症候群,サルコイドーシスなどの全身性疾患の部分的な症状として発現することが多いが,頻度は末梢性顔面神経麻痺の5%以下と低い10)。外傷に起因するものは,さらにまれである。
 われわれは,頭部外傷後,両側性顔面神経麻痺をきたした成人男子の1例を経験したが,受傷直後には意識障害や顔面の腫脹を伴い,さらには顔面神経麻痺が両側性であるために,顔面の運動障害が見落とされ易く,診断や治療が遅れることが考えられたので,その特徴や問題点について,文献的考察を加えて報告する。

先天性耳瘻孔の手術例について

著者: 八木一記 ,   西端慎一 ,   八尾和雄 ,   高橋廣臣

ページ範囲:P.1175 - P.1178

はじめに
 先天性耳瘻孔は,耳鼻咽喉科医が日常臨床においてしぼしば遭遇する疾患の一つである。通常は放置して差し支えない場合が多く,日常あまり注目される疾患ではない。しかしながら,感染を起こし膿瘍状に腫脹した場合,比較的容易に切開排膿治療が行われることがあるが,これでは,自然の排膿路が塞がれ,再発が繰り返されることが多くなる。このような場合には,耳瘻孔摘出術が必要となる1)
 今回,摘出術を要した先天性耳瘻孔につき,臨床統計を行い,さらに,瘻孔開口部と耳介軟骨との関係,および,耳瘻孔の形状との関係について検討した。また,再発例についてこれらの関係からみた考察を行った。

甲状軟骨の変形を伴った混合型Laryngoceleの1症例

著者: 田島文司 ,   皿井靖長 ,   小林武夫 ,   崎川清秀

ページ範囲:P.1179 - P.1183

はじめに
 Laryngoceleは,喉頭室前端に存在するモルガニー小嚢が空気を含み,嚢状に拡張した状態である。病因は,先天性にモルガニー小嚢の拡大に由来するもの,後天性に喉頭内圧の上昇によってモルガニー小嚢が拡大するものがある。海外での報告は比較的多いが,本邦では稀な疾患である。従って,日本語名は統一されておらず,ラリンゴケーレ,喉頭気腫,喉頭憩室,咽頭粘膜腫など種々な名称で呼ばれている。しかし,laryngoceleとそのまま述べている論文が圧倒的に多いため本論文もこれに従った。嚢胞の進展範囲により3型に分類される1)。すなわち,甲状舌骨膜を貫いて側頸部嚢胞を形成する外側型,喉頭内内腔で嚢胞形成する内側型,およびそれらの混合型である。
 今回われわれは,反対側の甲状軟骨板の変形を伴った混合型laryngoceleを経験したので若干の文献的考察を加え,術中の嚢胞剥離時の工夫も試みたので併せて報告する。

耳介部分欠損の修復

著者: 田原真也 ,   天津睦郎

ページ範囲:P.1185 - P.1188

はじめに
 外傷や腫瘍などのために耳介の部分欠損が生ずることは稀ではない。耳介は側頭部という目立つ部位に存在し,その再建は整容上重要である。しかし複雑な形態の耳介軟骨を薄い皮膚が包むという特殊なサンドウィッチ構造のため,その再建は困難であることが多い。1967年に報告されたAntia法1)は,耳介の組織欠損を同じ耳介内の組織で修復でき,比較的簡単な手技で整容的に優れた結果を得ることができる。本法による耳介再建症例を報告する。

舌筋内異物の2症例

著者: 熊井恵美 ,   林達哉 ,   林浩

ページ範囲:P.1189 - P.1192

はじめに
 日常診療において,咽頭および食道の異物症をみる機会は多い。また口腔内異物も多く口蓋扁桃・舌根扁桃に多くみられる1〜6)。しかし,舌筋内異物は非常に稀である。今回,左舌縁潰瘍を主訴に受診した66歳女性の舌筋内魚骨異物と,18歳男性の約13年間経過した舌筋内う歯異物の2症例を経験したので報告する。

上咽頭アミロイドーシスの1症例

著者: 大前由紀雄 ,   北原哲 ,   西沢伸志 ,   池田真 ,   小倉雅実 ,   飯塚啓介 ,   井上鐵三

ページ範囲:P.1193 - P.1196

はじめに
 アミロイドーシスは,本来生体には存在しない糖蛋白を主とするアミロイド物質が,細胞間隙に沈着する原因不明の代謝性疾患であり,現在一般に用いられているCohenの分類によれば全身性アミロイドーシスと,限局性アミロイドーシスに大別される。全身性アミロイドーシスは,肝臓,腎臓などの重要臓器に多発し,極めて予後不良の疾患であるが,限局性アミロイドーシスは,頻度も少なく,ある特定の器官に限られ,再発を見ることも少ない比較的良性の疾患である。頭頸部領域におけるアミロイドーシスとしては,喉頭アミロイドーシスがよく知られているが,報告されているものは比較的少数であり,鼻腔・咽頭のアミロイドーシスはさらに少ない。今回,われわれは,上咽頭に限局した,腫瘤形成型アミロイドーシスを経験したので報告する。

高齢者非ホジキンリンパ腫の治療成績について—ワルダイエル輪原発

著者: 石川滋 ,   古川仭 ,   加藤千維子 ,   山本環 ,   大尾嘉宏巳

ページ範囲:P.1197 - P.1201

はじめに
 近年,人口の高齢化現象に伴い,非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin's lymphoma, NHL)は他の悪性腫瘍と同様,高齢者の増加傾向を示している1)。しかし高齢者NHLを対象とした研究は少なく2),治療と予後因子との関係においては未だ不明の点がある。
 著者らは1983年9月から金沢大学医学部附属病院内で,内科,放射線科,耳鼻咽喉科,病理を中心とした悪性リンパ腫の検討会を発足させ,共通のプロトコールで診断ならびに治療法検討を行っているが3〜5),今回ここに登録されたNHLのうち,ワルダイエル輪原発33例中,高齢者(75歳以上)10例の治療成績を中心に検討を加えたので報告する。

海外トピックス

デンマーク耳鼻咽喉科頭頸部外科医療事情

著者: 新川郭

ページ範囲:P.1203 - P.1205

 今回大学からサバチカル(sab—batical)なる休暇をいただき欧州鼻科学会の出席も兼ねて,デンマークに3ヵ月間滞在する機会を得,コペンハーゲンのRigshospital,GelltofteHospitalなどで耳鼻咽喉科の臨床,研究,教育の現場を視察してきた。そこでデンマークの耳鼻咽喉科の医療事情について報告する。
 デンマークは人口約550万人,グリーンランドを除くと,その面積は北海道と殆ど同じであるが,全土が有効面積であり,町以外は全て畑である,そのなかに住む人はバイキングの血をひく大きくて力持ちの多い,気のいい人達の集団である。こよなく自然を愛し,ゆったりと生活している人々である。

鏡下咡語

いはんや犬をや

著者: 馬場廣太郎

ページ範囲:P.1208 - P.1209

 わが家の愛犬,柴犬の“チビ太”が死んだ。平成2年9月29日(金)のことで,教室で担当した第29回日本鼻科学会の最中であり,看取ってやることはできなかった。ほんの数分対面した亡骸は,日溜りで気持ち良さそうに,手足を伸ばして眠っている姿そのままであった。
 チビ太がわが家にきたのは,今,中学3年生の息子が小学校に入学した年の秋で,悪戯ざかりの子犬であった。ぬいぐるみの犬に吠えついて恥ずかしそうにしていたのが第1日目で,たちまちにして家中が犬のトイレと化し,外に出されて以後,忠実なお庭番であった。気が荒く,吠えだしたら止まらなくなり,植木職人が入った後などは,疲れ果てて眠り込んでいた。また,持ちなれない財産(食べきれない程の骨など)があると,夜も寝ないで見張っている小心者で,飼い主によく似るものだと笑ったものであった。

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科 第62巻総目次

ページ範囲:P. - P.

人名索引

ページ範囲:P. - P.

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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