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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科62巻2号

1990年02月発行

雑誌目次

トピックス 音声外科

音声外科における喉頭マイクロサージャリー—その定義と概念

著者: 福田宏之

ページ範囲:P.103 - P.104

はじめに
 音声外科という名称はわが国では,平野1)が初めて用いており,その定義として『音声外科とは発声機能を取り扱う外科である』と述べている。相当する英語はPhonosurgeryと呼称される。
 また対象臓器が声帯であることから,声帯振動を正常に戻し,正常な発声機能を計るといういい方もできる。しかし現在では,早期声帯癌にたいしてレーザー手術を行ったり,声帯切除のうえ声門形成を計るのも音声を考慮した手術とすると,音声外科の範囲に入れてもおかしくなく,必ずしも声帯振動が第一義ではないと考えられている。すなわち狭義としては,声帯振動の正常化を計り音声を正常にするといえるが,広くは音声を考慮した手術といえる。

声帯ポリープの音声外科的治療

著者: 久育男

ページ範囲:P.105 - P.110

はじめに
 音声障害をきたす疾患のうち,声帯ポリープ,声帯結節,ポリープ様声帯は高頻度に認められ,多くの場合音声外科の適応となる。本項ではこれら3疾患の音声外科的治療について述べる。これらの疾患を鑑別するのは時に難しい場合があるものの,臨床的にはおよそ次のように区別されている1)。声帯ポリープは声帯膜様部(多くは中央部に)に発生する限局性腫瘤で,有茎,無茎のいずれもあり,色調も多様である。声帯結節は帽針頭大以下の無茎の腫瘤で,膜様部中央付近に好発し,両側性であることが多く,色調は声帯表面に等しい。一方,ポリープ様声帯は声帯の広い部分にわたるびまん性,浮腫状の腫脹を呈するものである。
 なお,声帯結節およびポリープ様声帯は上述のごとく両側性のほぼ対称的な病変であることが多いが,平野2)は外科的治療という立場からみると片側性でも外形によって分類する方が都合がよいとしている。

音声外科におけるレーザー・サージャリー

著者: 吉田哲二

ページ範囲:P.111 - P.115

はじめに
 レーザー手術が,耳鼻咽喉科,頭頸部外科領域において,初めて応用された部位は喉頭である。その後音声外科における有力な治療法の一つとしてレーザー手術を発展させたのは,StrongやJakoらのボストングループである。今日音声外科におけるレーザー手術の適応と限界,手術手技,術後の発声機能について,ほぼ確立されたといっても過言ではない。
 レーザー光は魔法の光ではない。その正しい適応や手術手技を知らなければ,術後の発声機能は悲惨なものとなる。そこで本稿では,音声外科におけるレーザー手術の適応と限界,正しい手術手技,術後の発声機能について述べる。なお音声外科におけるレーザー手術は通常ラリンゴマイク巨下に,炭酸ガスレーザーを用いて行われるので,以下ラリンゴマイクロサージャリー下のCO2レーザー手術について述べる。

音声外科とアテロコラーゲン注入療法

著者: 丘村煕 ,   岡本和憲 ,   河村裕二 ,   湯本英二

ページ範囲:P.117 - P.123

はじめに
 声門閉鎖不全症に対する声帯注入術は長い歴史をもつ音声治療法の一つである。この間,組織親和性が良好で,安定して局所にとどまる声帯注入剤を求めて多くの検討がなされてきた。
 注入用コラーゲンを軟部組織欠損への充填剤として初めて用いたのはKnapp(1977年)1)で,今日では生体への新しい注入剤として形成外科領域で広く利用されている。声帯への応用はFordが最初で2〜4),1984年に米国コラーゲン社のZydermコラーゲンインプラント®をイヌ声帯に注入し優れた組織親和性のあることを立証し,1986年には臨床応用にて良好な成績をえたことを報告している。著者らは高研から注入用コラーゲン(コーケンアテロコラーゲンインプラント®)が開発されたのを機会に成犬にて声帯注入剤としての有用性を確認した上で,臨床応用を行っている5,6)。本稿ではコラーゲン注入療法について,著者らの経験を中心にその概要を紹介する。

音声外科手術前後の音声評価について

著者: 笠誠一

ページ範囲:P.125 - P.128

はじめに
 音声外科のための特別な音声検査というものはない。音声検査のデータが術前は手術の適応の判断や手術手技決定の資料となり,術後は手術による治療効果の判定の資料となるのは他の外科治療の場合と同様である。
 近年,外科的に治療できる音声疾患はラリンゴマイクロサージャリーの発達により,だれでも簡単に手術することが可能となった。しかし,本手術を従来からある局所麻酔下に行う喉頭鉗子を用いた摘出と同じように,単なる腫瘍・腫瘤の摘出方法としてとらえ,音声障害の評価を十分に行うことなく,施行している施設もあるのは困ったことである。

目でみる耳鼻咽喉科

シェーグレン症候群耳下腺病変の悪性リンパ腫への変化

著者: 今野昭義 ,   伊藤永子 ,   寺田修久

ページ範囲:P.100 - P.101

 シェーグレン症候群(SjS)にみられる耳下腺腫脹はほとんど反復性腫脹であり,持続性腫脹がみられることは非常に稀である。しかしこの持続性腫脹は種々な治療に抵抗し,数年の経過の後に悪性リンパ腫に変化する可能性があり,治療上,大きな問題となる。
 組織学的には高度の小円形細胞浸潤,高度の腺房変性・消失,筋上皮島形成を認める。抗生物質,副腎皮質ホルモン剤による効果は一時的であり,照射療法はかえって将来の悪性リンパ腫の発生を促す危険がある。耳下腺の持続性腫脹を伴う症例では浸潤細胞の間に埋没残存し,本来の唾液分泌機能を喪失した末梢導管上皮細胞そのものが,炎症性または自己免疫疾患としての唾液腺病変の増悪因子となっている可能性がある。SjS耳下腺病変に対する手術療法の適応は一般的にはないが,種々の治療に抵抗して増悪する耳下腺病変に対しては顔面神経を保存した耳下腺全摘術の適応も考えてみる必要があろう。

原著

広範な外耳道真珠腫の1症例

著者: 矢部利江 ,   沖田渉 ,   栗山純一 ,   船井洋光 ,   飯沼壽孝 ,   小山和行

ページ範囲:P.129 - P.133

はじめに
 外耳道真珠腫はさほどに稀な疾患ではないが,骨破壊が広範になると,鑑別診断に苦慮する場合がある。また最近欧米ではkeratosis obturansとexternal auditory canal cholesteatomaの2つの概念が提唱されている。
 今回われわれは,外耳道真珠腫の広範な進展例を報告し,合わせてkeratosis obturansとexternal auditory canal cholesteatomaについても若干の考察を加えた。

腫瘍摘出後,聴覚誘発電位の進行性悪化を示した聴神経鞘腫の1例

著者: 関谷徹治 ,   岩淵隆 ,   滝口雅博 ,   佐々木均 ,   一条宏明

ページ範囲:P.135 - P.139

はじめに
 両側性小脳橋角部腫瘍の治療では,しばしば聴力温存が切実な問題となる。
 われわれは,手術を契機として聴覚誘発電位が進行性に悪化し,遂には消失した両側性小脳橋角部腫瘍の1例を経験し,聴力温存の観点から示唆に富む所見が得られたので報告する。

Bezold乳様突起炎の1症例

著者: 平賀幸弘 ,   林崎勝武

ページ範囲:P.141 - P.144

はじめに
 医療の発達および抗生剤の普及によって,中耳炎に伴う重篤な合併症に遭遇する機会は激減した。なかでも,Bezold乳様突起炎は教科書的には身近であるが,本邦において1960年以降の文献的報告は4症例のみであり,非常に稀な疾患となった。
 今回われわれは,慢性真珠腫性中耳炎に罹患しながらアルコール中毒性精神障害のため十分な治療を受けられず,Bezold乳様突起炎を引き起こした1症例を経験したので報告する。

扁桃病巣感染と考えられる側頭骨骨髄炎

著者: 古川仭 ,   坂下英雄 ,   大尾嘉宏巳 ,   木村恭之 ,   梅田良三

ページ範囲:P.145 - P.147

はじめに
 近年,扁桃を中心とする病巣性感染症の二次疾患で,骨変化を伴うものとして胸肋鎖骨間骨化症(ISCCO)が注目されている。病因についてはいまだ不明であるが,骨病変部の組織像では慢性骨髄炎または非特異的炎症を呈することが多い1〜3)。今回われわれは側頭骨に病変を伴った慢性扁桃炎の2症例に扁桃摘出術を施行し,側頭骨骨髄炎症状の改善を得たので,若干の考察を加えて報告する。

CPC

鼻中隔原発と考えられる軟骨肉腫症例

著者: 佃守 ,   吉田豊一 ,   久保田彰 ,   金子まどか ,   澤木修二 ,   平田佳代子 ,   古川滋

ページ範囲:P.149 - P.153

 頭頸部領域原発の肉腫の頻度は極めて低い。まれに脂肪肉腫,線維肉腫,血管肉腫などの軟部組織肉腫を経験するのみで,骨または軟骨肉腫となるとさらに稀である。そのため肉腫症例に関しては,的確な治療方針が立てられておらず,おおいに難渋する。手術で根治できると考えられる肉腫症例に対しては,外科的摘出が第一選択の治療である。しかし,広範に腫瘍が進展していたり,転移病巣がある場合には全く困惑させられる。もともとこの腫瘍は放射線や化学療法に感受性が低く,これらの手段に頼れないからである。
 今回頭蓋内進展によって不幸な転帰を辿った若年者の軟骨肉腫症例を経験したので,その経過に若干の考察を加えて報告する。

医療ガイドライン

耳鼻咽喉科における真菌検査—真菌の培養について

著者: 古内一郎

ページ範囲:P.155 - P.158

はじめに
 真菌培養は,臨床医でも比較的容易にできる検査法の一つである。それは簡易真菌分離用培地が市販されており,培養技術も簡単であるからである。室温培養が可能で,培地上に発育したコロニー(集落)の肉眼的所見から真菌の種類を容易に判別することができる。鏡検でも特に染色することなく,暗視野で観察,判定することが可能である。
 しかも耳鼻咽喉科領域では真菌が関与する疾患が多く,臨床医が直接真菌検査を行うことによって,診断ならびに治療面で大きなメリットを生ずる。ところで耳鼻咽喉科でみられる頻度の高い真菌症は口腔カンジダ症,外耳道真菌症であるが,副鼻腔真菌症なども稀に発症する。これらはいずれも浅在性真菌症であるが,合併症(糖尿病,免疫不全症,癌,白血病など)が併発すると深在性に発展することがある。

鏡下咡語

邦楽と喉頭

著者: 新美成二

ページ範囲:P.160 - P.161

 ある時アメリカからきたVoice Trainerと話をした。彼女は元は声楽家であったが,現在は自らは歌うことをやめて,発声法の指導者として活躍をしている。またこの分野では珍しく発声法を自然科学の手法を用いて明らかにしたいという希望を持った人である。そこで話題になったことは「伝統的歌唱法」と云うことである。
 一般的に,歌の様な舞台芸術であろうが,工芸のような造形美術であろうが各民族は独特な美的感覚を持っておりそれに見合った評価を下す。その評価に耐えたものは伝統として永続するし,しからざるものは一時的なはやりとして忘れ去られて行く。

私は知りたい

異常値の読み方(7)甲状腺機能検査

著者: 内村英正

ページ範囲:P.163 - P.166

はじめに
 甲状腺疾患は内分泌疾患の中でも最も多く,内科,外科の領域に限らず日常の診療で必ず経験するものである。自覚あるいは他覚症状から医師を訪れることもあるし,また偶然に行われた検査により異常値が出たことから発見されることもある。
 甲状腺機能関連の検査は検査センターに依頼すれば必要なものは殆ど全て行うことができるため,検査成績を正しく判断すれば疾患の診断に困難を感じることは少ない。

海外トピックス

欧米における内耳研究の動向とその学術集会

著者: 池田勝久

ページ範囲:P.167 - P.168

はじめに
 私は1987年7月より1989年6月までの2年間を米国ミネソタ大学耳鼻咽喉科へ留学する機会を得た。この2年間の米国生活では内耳の研究に専念することができたばかりでなく,学会で会った多くの研究者とその研究内容について親しく意見を交じわえることもできたのは非常に有意義であった。ここに私が体験してきた学会の内容について簡潔に報告するとともに,内耳の基礎研究者の情報交換の場として私なりに最適な学会と思われるものを推奨したい。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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