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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科62巻5号

1990年05月発行

雑誌目次

トピックス 嚥下障害

嚥下のメカニズムと嚥下障害

著者: 進武幹 ,   前山忠嗣 ,   森川郁郎 ,   梅崎俊郎 ,   松瀬敏章

ページ範囲:P.377 - P.381

はじめに
 食塊は口腔から咽頭,食道を通り,胃まで運搬される。この嚥下の通路では咽頭腔で気道と交差するため,嚥下圧を高めるために,口腔,後鼻腔,喉頭などを一時的に遮断し,食道入口部を開き食塊を移動させる。このような単純な印象をうける嚥下運動を演出する神経・筋機構は複雑である。しかし,ひとたび嚥下が惹起されると時間的にも空間的にもきわめて巧緻な反射系によって制限される。
 この働きは延髄の網様体を中心とした反射に加え,上位脳の指令が巧妙にからみ合っていると考えられる。これらのメカニズムのどこかにトラブルが生ずれば当然嚥下障害をきたすことになる。したがって病態の把握には嚥下第2期のメカニズムを理解しておく必要がある。これについてわれわれの研究成果を混じえながら現状と将来の展望について触れる。

嚥下障害の診断

著者: 丘村煕 ,   森敏裕 ,   稲木匠子

ページ範囲:P.383 - P.390

はじめに
 個々の嚥下障害症例に最も適した治療方針を立てるには,原因疾患の同定はもとより,嚥下障害の部位,程度を的確に把握する必要がある。本稿では,著者らの施設で行っている方法を中心に,嚥下障害診断法の現状について紹介する。

嚥下障害のリハビリテーション

著者: 伊藤裕之

ページ範囲:P.391 - P.396

はじめに
 身体障害者が増加するとともに,その障害も重度化していることが指摘されている1)。身体障害の重度化の一つは,一人の障害者が四肢運動機能障害以外に多くの障害を合併していることである。そのなかで,最も問題となる障害の一つが嚥下障害である。
 リハビリテーション(以下,リハと略す)を定義することは難しい。現在,リハは,狭義には,訓練の意味で使われることが多いが,広義にはリハは訓練だけではなく,社会的あるいは職業的障害の軽減もリハに含まれる。すなわち,リハは種種の障害による日常生活上の不自由度を最小限にすることを目的とする科学である。しかし,リハの歴史的経過から,リハには外科的な治療は含まれない。外科的治療をリハとするならば,鼓室形成術や鼻中隔矯正術もリハとなってしまうからである。ちなみに,整形外科の人工関節置換術はリハとは考えられていない。本稿では,上記の意味のもとで,神奈川リハビリテーション病院の経験より,嚥下障害のリハに関する一般的事項について述べる。

頭頸部手術時における嚥下障害の誤嚥防止術

著者: 吉田哲二

ページ範囲:P.397 - P.399

はじめに
 近年頭頸部疾患,特に癌に対する治癒率の上昇に伴い,術後の機能をできるだけ保存しようとする試みがなされている。嚥下機能もその一つである。
 一般に頭頸部領域の手術を行うと全ての術後に嚥下障害が起こるわけではない。この際問題となるのは切除範囲がより大きい癌の手術の場合に喉頭を保存したために生じる誤嚥が問題となることが多い。

内科的疾患に伴う嚥下障害の外科的治療法

著者: 古川浩三

ページ範囲:P.401 - P.405

はじめに
 嚥下は呼吸とともに生命維持のため最も重要な機能の一つとされている。嚥下機能の低下した症例は,診断や治療において耳鼻咽喉科医が関与せざるを得ないことが多い。
 特に重要である嚥下第2期は喉頭を含め多くの構造物が,複雑で精密なコントロール下に短時間に作動するため,その障害部位,程度についての診断は耳鼻咽喉科医でなければ不可能である。

目でみる耳鼻咽喉科

非典型部位に生じた悪性リンパ腫

著者: 浅井昌大 ,   水野正浩 ,   菅澤正

ページ範囲:P.374 - P.375

 悪性リンパ腫は,耳鼻咽喉・頭頸部領域に好発するが,主に頸部リンパ節・Waldeyer輪に発生し,他の部位に生ずることは比較的稀である。最近5年間の当科における悪性リンパ腫49症例のうち,頸部リンパ節・Waldeyer輪原発が36例であり,他の部位に生じたものは12例であった。その内訳は,鼻副鼻腔8例・耳下腺2例に今回呈示する2例である。鼻腔・口腔・喉頭に多発する病変を有する,稀な例であったが,各々の部位での発現形式は参考となるので以下に示す。

原著

糖尿病による突発難聴が疑われた小児心因性難聴の1例について

著者: 李雅次 ,   伊藤真郎 ,   細谷睦 ,   舩坂宗太郎

ページ範囲:P.407 - P.410

はじめに
 最近,難聴を訴えて来院する小児の中で,いわゆる機能性難聴ないし心因性難聴の症例が稀でなくなり,その傾向は年々増加しているように思われる1〜8)。したがって,これを少しでも疑う患児については一般聴力検査に加えて他覚的聴力検査も施行し,難聴の有無を確認する必要があるが,時として治療経過中に初めて本症と診断され,反省させられる難しい症例もある。今回,われわれは糖尿病による突発難聴と診断して治療を始め,その経過中の検査所見からようやく診断のついた心因性難聴の小児の1例を経験したので反省も含めて報告する。

閉経後に退縮傾向を示した頸部Extra-abdominal desmoid tumorの1例

著者: 和田公平 ,   山本祐三 ,   高橋宏明

ページ範囲:P.411 - P.414

緒言
 Extra-abdomillal desmoid tumorは病理組織学的には良性像を示すが,その腫瘍の性格は旺盛な浸潤性増殖を特徴とし,しばしば局所再発を繰り返すなど臨床的に悪性を思わせる経過をとることが知られている。他方desmcid tumorの発育に性ホルモンが関与することはすでにMusgrove1),Pack&Erhlich14)などの報告に述べられているが詳細については不明の点も多い。
 今回著者らは頸部に発症したextra-abdominaldesmoid tumorの1症例を経験した。本症例は計4回におよぶ切除術と再発を繰り返すなど著明な増殖力を示し,制御には困難を極めたが,閉経を境に腫瘍の増殖が緩慢となり部分的に退縮傾向も認められた。desmoid tumorと性ホルモンの関連を支持する貴重な症例と考え報告する。

熊咬傷による顔面外傷の治療経験

著者: 白倉真人 ,   朝比奈紀彦

ページ範囲:P.415 - P.418

はじめに
 最近,交通事故の増加とともに耳鼻咽喉科医が扱う顔面外傷も増加しており,その治療方法に関する報告が数多く見られる。また,ペットブームを反映して動物による顔面外傷の治療報告が,形成外科を中心にしてみられるようになった1)
 今回,われわれは野生熊咬傷による顔面外傷の1例を経験したので,その治療経過とともに動物による咬傷について若干の考察を加え報告する。

純音ならびに語音聴力検査と難聴の自覚程度との相関

著者: 小林謙 ,   石田祐子 ,   佐久間文子 ,   相原康孝 ,   神尾友和

ページ範囲:P.419 - P.423

はじめに
 難聴の程度を知る上で純音聴力検査が重要であることはいうまでもない。しかし,純音聴力検査の結果が患者の自覚的な難聴程度と合致しないことを時に経験する。この場合日常のことばの聴こえを調べる語音聴力検査がより患者の自覚と合致する可能性もある。一方,患者の自覚症状およびその程度を把握するのに質問表が有用とされ,しぼしば用いられる。難聴に関する質問表から得られた患者の自覚症状と,純音聴力検査および語音聴力検査の結果との間にどのような相関があるかを検討することは,難聴患老の自覚症状をより正確に把握するのに不可欠であり,質問表が適切なものであるかを知る上で重要であると考えられる。今回,純音聴力検査ならびに語音聴力検査の結果と難聴に関する質問表の結果を比較し,純音聴力および語音聴力と患者の難聴の自覚との相関について検討した。

小児歯性頬部眼瞼部膿瘍症例

著者: 大上研二 ,   関谷透 ,   猪熊哲彦 ,   本庶正一

ページ範囲:P.425 - P.428

はじめに
 小児の顔面疾患に対する治療,特に外科的治療は,当科の関谷1)が述べている通り,たとえ小さな侵襲でも術後に美容上の問題を大きく残すことがあり,手術に際しては術前の診断と手術法の慎重な選択が必要となる。
 今回われわれは,小児の歯性頬部眼瞼部膿瘍症例を経験したので,その術前診断と術式の選択について留意した点について若干の文献的考察を加えて報告する。

遊離植皮へのキチン膜(ベスキチン® W)の応用

著者: 大村正樹 ,   山本悦生 ,   磯野道夫 ,   広野喜信 ,   水上千佳司

ページ範囲:P.429 - P.432

はじめに
 遊離植皮を行う場合,植皮面を被覆する材料として,これまで多くのものが使用されてきた。しかし,いずれの材料を使用する場合でも,移植皮膚を確実に生着させるため,tie over sutureを必要とした。このため手術にかなりの時間を要するとともに,tie overの縫合糸による牽引のため,術後移植部の創痛を伴うことが多かった。
 今回,われわれは植皮面を被覆する材料としてキチン膜(ベスイチン® W ユニチカ㈱製)(ズワイガニ甲殻から抽出,精製されたキチンを繊維化して,不織布状としたものであり生体親和性,制菌性,吸水性などに優れているという特性がある)を用いることによって,このtie ovcr sutureをせずに移植皮膚を生着させることに成功したので,手術法を中心に報告する。

頭頸部外科領域におけるCH44の使用経験—頸部リンパ節郭清時の有用性について

著者: 西嶋信雄 ,   大島渉 ,   寺薗富朗 ,   大森敦子 ,   最上朗 ,   水越文和 ,   大川和春 ,   松本真吏子 ,   高田憲

ページ範囲:P.437 - P.440

はじめに
 頭頸部癌の転移は頸部リンパ節に生じやすく,頸部転移の有無は予後に大きく影響を与える。したがって,手術の際には個々の症例に応じて頸部郭清術の必要性および範囲を充分に検討しなければならない。外科領域においては所属リンパ節郭清の範囲決定にリンパ指向性の高い微粒子活性炭(CH44)を用いると有用であると報告されている1,2)。そこで,CH 44を頭頸部癌手術症例に使用し,頸部におけるリンパ節郭清の指標としての有用性について検討を行ったので報告する。

ボタン型電池による外耳道異物症の1例

著者: 近芳久 ,   伊藤俊也 ,   遠藤芳彦 ,   樋口明文 ,   笹森史朗 ,   立木孝

ページ範囲:P.441 - P.446

緒言
 補聴器用のボタン型アルカリ電池が外耳道に嵌入し,骨部外耳道の広範な皮膚剥脱と鼓膜穿孔をきたした1症例を経験したので文献的考察を加え報告する。

鏡下咡語

絶対音感と脳

著者: 宇野彰

ページ範囲:P.434 - P.435

 絶対音感とは,楽音の絶対音声を瞬間的に知覚し得る聴覚という説明がもっとも一般的と思われる。簡単に言えば,聞いた音の採譜(楽譜にすること)や再生ができることである。あらゆる音の絶対音を知覚し得るという説明もあるが,たとえば釘を金鎚で打つ音は,正確に知覚し得たとしても,知覚し得たことを表現しようがない。その上たくさんのフォルマントがあるので,音響学の専門家でも首をひねるのではないだろうか。また,音名を言い当てることができる知覚という説明もあるが,半音のさらに半分の音では音名での表現のしようがないのでふさわしくないと思われる。
 いつごろから私に絶対音感が身についたのか自覚的には明らかではない。けれども小学校の高学年ではバイオリンで聞いた曲を同じ音高で弾いていたというから,その頃には絶対音感をもっていたことになろう。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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