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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科62巻6号

1990年06月発行

雑誌目次

トピックス 人工中耳・人工内耳

人工中耳の原理と適応

著者: 小寺一興 ,   鈴木淳一

ページ範囲:P.457 - P.461

はじめに
 人工中耳は,圧電セラミックを材料とした振動子を用いて耳小骨に直接に音を伝達する,現時点では半植え込み型の補聴器である1〜3)。人工中耳では,中耳の鼓膜—耳小骨の機能をマイクロホン—増幅器—圧電セラミックの振動子が行う。
 人工中耳は音の増幅を行うので,新しい難聴の治療法であり,鼓室形成術や補聴器とともに中等度難聴に対する治療法としてその有用性が確認されつつある4)

人工中耳の実際

著者: 暁清文 ,   柳原尚明

ページ範囲:P.463 - P.468

はじめに
 人工中耳は「音を振動エネルギーに変換して内耳に伝える」という中耳の機能を代行する機器である。補聴器が増幅した音をイヤホンから聞かせるのに対し,人工中耳は直接耳小骨を駆動して音を聞かせるため,音質が良好でハウリングが起こらず,外耳道を塞ぐイヤホンも不用である。人工中耳にはいくつかの方式が考按されているが,本邦で開発されたのはセラミック振動子でアブミ骨を駆動する直接駆動方式と呼ぼれる装置である。この方式の人工中耳の概要や動作原理の詳細については先に述べられているので,本稿では当科における適応症例の選択基準,手術法の実際ならびに手術成績について概説する。

人工内耳の原理と適応

著者: 伊藤壽一

ページ範囲:P.469 - P.475

I.人工内耳の原理
 音は外耳道からはいり,中耳,内耳を経て聴神経の活動を促し,大脳の聴皮質に伝えられるが,この聴覚経路のどこに障害が起きても難聴になる。これまでは,内耳障害にて生じた高度感音難聴や聾に対しては適切な方法はなかった。しかし1970年代から実用段階に入った「人工内耳」は,特殊な電極を内耳に挿入し,音を電気刺激に変換し,生存している聴神経を刺激して音感を認知させようとするものである。この人工内耳の原理を図1に模式的に示めす。現在の人工内耳はいろいろな方式のものがあるが,基本的には図2のブロックダイヤグラムの如くになる。患者は耳かけ式のマイクロフォンとスピーチプロセッサー(SP)を携帯する。このSPはマイクロフォンからの入力信号を分析し,高周波刺激信号として蝸牛内に埋め込んだ人工内耳電極に情報を伝える役目を果たす。このSPの作用を制御し,患者各自の情報をSP内のメモリーに書き込む装置がマイクロコンピューター(MC)とそれに接続されたスピーチプロセッサーインターフェイス(SPI)である。
 MCには特性テストプログラム作製システム(DPS)のソフトウェアパッケージが組み込まれており,種々のプログラムはこのDPSにより遂行される。このプログラムは人工内耳の方式により,比較的単純なものから複雑なものまで種々のものがある。

単チャンネル方式人工内耳の実際

著者: 神尾友和 ,   八木聰明

ページ範囲:P.477 - P.482

はじめに
 人工内耳は,1957年フランスのDjournoによって最初の報告がなされた1)。次いで,1961年に米国Los AngelesのHouse Ear InstituteのW.Houseが3例の単チャンネル方式の人工内耳について報告した。
 以後,単チャンネル方式の人工内耳はW.Houseを中心としたHouseグループの共同研究階らによって精力的に推進され,1980代中頃まで単チャンネル方式の人工内耳は,人工内耳の開発の主流であったと共に今世紀における耳鼻咽喉科学の最大のトピックスとして位置づけられてきた。

22チャンネル人工内耳患者の音声・言語聴取の実際

著者: 舩坂宗太郎 ,   本多清志 ,   初鹿信一 ,   湯川久美子 ,   城間将江

ページ範囲:P.483 - P.488

はじめに
 人工内耳は,蝸牛の機能すなわち音の分析とそれに基づいた刺激電流の発生を代行するもので,音波を振動板の振動に変えてアブミ骨に伝える人工中耳とは全く別の人工臓器である。世界で10種類以上の人工内耳が臨床実用あるいは試用されているが,どのように音を分析し,どのように刺激電流を発生するかは,それぞれの人工内耳で異なっている4)。しかし大勢として,音声情報を複数の電極(multichannel)によりtemporal-spatialpatternで送り込むのがよいとのコンセンサスが得られつつある。また,人工臓器であるからには,埋め込のあと長期にわたって副損傷のないことが当然要求される。コクレア社の22チャンネル人工内耳が世界各国で急速に普及しているのは,このような条件を具えているのに他ならない。
 しかしながら,コクレア社の22チャンネル人工内耳といえども,音声情報処理の精密さは蝸牛には及ぼない。これまで東京医大で手術を受けたすべての聾患者が日常的使用者(regular user)となり,会話聴取がほぼ可能となってはいるが,蝸牛機能が完全に代行されているおけではない。具体的には聴取困難な状況も存在する。がともかくも,この人工内耳は聾の医学的治療が可能となったという点で画期的な医療技術である。

目でみる耳鼻咽喉科

上顎癌動注療法における皮下埋め込み式リザーバーの使用経験

著者: 川名正博 ,   五十嵐文雄 ,   中野雄一 ,   荒井辰彦

ページ範囲:P.454 - P.455

 浅側頭動脈からの動注療法は上顎癌に対する重要な治療法のひとつである。われわれは動脈留置材料として硬膜外カテーテルを使用してきたが,皮下埋め込み式リザーバーを4症例に使用し,良好な結果を得たので報告する。
 皮下埋め込み式リザーバーの構造は簡単で,動脈に留置するカテーテルと,ヘパリンなどを貯留し皮膚より注射針を刺入するリザーバーに分かれている(図1)。

原著

顔面外傷による眼窩眼瞼気腫の1症例

著者: 米田智明 ,   小倉義郎 ,   井石昭比古 ,   藤本政明 ,   古川勝朗 ,   岡田聡子 ,   砂山恵子

ページ範囲:P.489 - P.492

緒言
 眼窩眼瞼気腫は主として眼科領域で報告されるが,耳鼻咽喉科領域では比較的稀な疾患とされる。今回我々は,顔面外傷による眼窩眼瞼気腫の1症例を経験したので報告する。

頬部平滑筋肉腫の1例

著者: 塔之岡彰子 ,   立本圭吾 ,   只木信尚 ,   豊田健司 ,   久育男 ,   日向誠

ページ範囲:P.493 - P.497

はじめに
 平滑筋肉腫はその発生由来として,血管中膜,間葉系未分化細胞および腺組織筋上皮細胞などが挙げられる。その発生部位も体内のすべての領域にわたっている。比較的発生頻度が高い器官としては子宮および消化管が挙げられているが,頭頸部領域原発のものは稀である1〜4)。今回,我々は頬部に発生した平滑筋肉腫の1例を経験する機会を得たので頭頸部領域における平滑筋肉腫の文献的考察を加えて報告する。

めまい・平衡障害を伴う突発性難聴の1症例—特に眼振所見を中心とする観察と文献的考按

著者: 池田元久 ,   渡辺勈 ,   武藤二郎

ページ範囲:P.499 - P.506

はじめに
 めまい・平衡障害を伴う突発性難聴は,厚生省研究班によって報告された,突発性難聴診断の手引き(診断基準)1)によって定義される突発性難聴に,原則として1回のみのめまい発作を伴う内耳障害疾患であるとされている。厚生省前庭機能異常調査研究班によると,メニエール病,良性発作性頭位めまい症に次いで多いとされている前庭機能異常疾患でもある2)
 しかし,本疾患の難聴・耳鳴などの蝸牛症状が難治性であるのに対して,大きなめまい発作は通常1回であり,平衡障害も,中枢神経系の代償作用により多くの症例では1ヵ月以内に自覚症状が軽快するので,本疾患の前庭症状については蝸牛症状ほど詳細に研究されていない。

小脳膿瘍を併発した口腔底嚢胞の1症例—甲状舌管嚢胞の診断に関する考察

著者: 小山内龍一 ,   山根雅昭

ページ範囲:P.507 - P.511

はじめに
 甲状舌管嚢胞は胎児期の甲状舌管の遺残物であり,正中頸嚢胞という臨床診断名が示すとおり,前頸部正中に存在することが多いが,時には口腔底腫瘤として臨床症状をあらわして診断上問題になることがある。今回我々は小脳膿瘍を併発した口腔底嚢胞の1症例を経験したが,嚢胞壁の病理学的所見からは類表皮嚢胞の診断が妥当と思おれたものの,手術所見として嚢胞から舌骨につながる索状物があったため甲状舌管嚢胞の可能性もあると考えられたので,ここに甲状舌管嚢胞の診断に関する考察を含め,症例を報告する。

咽喉頭異常感症とドクターショッピング

著者: 白幡雄一 ,   山崎可夫 ,   関哲郎

ページ範囲:P.517 - P.521

はじめに
 全快していないにもかかわらず,いつしか姿を消す患者は,医師にとって気になる存在である。患者は提供された医療に満足できずに転医していったかもしれない。去って行った患者の行方は,去られた医師の側からは知りえない。しかし,患者を受け止めた側からは,患者の来し方は良く判る。
 一般に「心身症患者は転医経験が多い」と指摘されている1)。そこで,私どもはここに心身相関が高い咽喉頭異常感症でのドクターショッピングの実態を知るために実施したアンケート調査と心理テストの結果を報告する。本報告のねらいとしては,転医を重ねる理由を患者に即した具体的な体験から知り,咽喉頭異常感症の診療のあり方を考えてみることにある。

鏡下咡語

幻のPuck

著者: 川端五十鈴

ページ範囲:P.514 - P.515

1.発端
 数年前のこと,耳介のDarwin結節は進化論のDarwinのことですかときかれた。つづいてその命名の由来を質問されるのではと内心びくびくしながらもちろんですと答えた。Darwin結節は耳介結節ともいい,耳輪の内側の遊離縁に突出した小結節である。その後,この命名由来を調べてゆくうちにわかったことは,結節の発見者は実はDarwinでなく,同時代の彫刻家Woolnerであり,結節の発見にかかわっているのが表題の妖精Puckである。

私は知りたい

異常値の読み方(8)呼吸機能検査

著者: 井上洋西

ページ範囲:P.523 - P.528

はじめに
 肺機能検査は肺の障害を機能的に検査しようとするものである。
 高血圧が疑われたら,胸部X線写真と血圧が必ず測定されるように,呼吸器疾患が疑われたら胸部X線写真とスパイログラフィーが必ずとられる必要がある。またこのとき血流ガス分析をしておくと病歴と合わせて多くの肺疾患のおおよその診断はつくと同時に,その重症度についても大体の判断はつく。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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