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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科62巻8号

1990年08月発行

雑誌目次

トピックス 小児副鼻腔炎

小児の鼻腔粘液繊毛機能とその障害—慢性副鼻腔炎を中心として

著者: 坂倉康夫 ,   間島雄一 ,   服部雅彦

ページ範囲:P.625 - P.629

はじめに
 吸気中の異物は気道粘膜上の粘液層(mucous blanket)に捕捉され,粘液とともに繊毛運動によって上気道でも下気道でも咽頭に向かって運搬され,気道から食道へと排除される。この粘液繊毛輸送機能はかけがえのない最も基本となる気道防御機構の一つである。例えば,先天的に異常な繊毛構造をもつKartagener症候群患者ではそのため粘液繊毛輸送不全が生じ,全身的にも局所的にも免疫機能が正常であっても生後直ちに全気道に慢性の重篤な感染症が成立する。
 表1に示すように,鼻腔の粘液繊毛輸送機能不全には先天的に存在するものと,後天的続発性に発生するものとがある。小児の副鼻腔炎は極めて普遍的で,時には極めて難治な疾患であり,小児故の特殊性も存在する1,2)。小児においても成人の慢性副鼻腔炎のように鼻腔の粘液繊毛機能不全が炎症の遷延慢性化に重要な役割を果たしているものと考えられる。

小児副鼻腔炎の診断法—超音波診断を中心に(X線写真と対比)

著者: 北原伸郎

ページ範囲:P.631 - P.634

はじめに
 慢性副鼻腔炎の診断は一般的には病歴,鼻鏡所見および単純X線写真などで行われている。小児においても同様であるが,X線被曝への配慮,X線読影・撮影上の困難さなど,X線検査の問題点も少なくない。そのような背景から,安価で,安全性が高く,操作の簡単なAモード超音波検査法が1970年代後半よりドイツを中心に普及してきた。特に難治性の小児副鼻腔炎の長期にわたる診療において,その適応がある。

小児副鼻腔炎の治療(内服とネビュライザー)

著者: 笠原行喜

ページ範囲:P.635 - P.639

はじめに
 副鼻腔炎に対する内服薬投与とネビュライザー療法は,局所治療と並んで保存療法の主体を成している。小児副鼻腔炎においても治療の大綱は同じと言えようが,小児の特殊性からいささか異なる点も見られるので,小さい成人として扱うことは避けるべきである。

小児副鼻腔炎の治療—特にチュービング療法を中心として

著者: 窪田哲昭

ページ範囲:P.641 - P.646

はじめに
 近年わが国の副鼻腔炎の病態は大きく変化し,発生頻度の減少,病変の軽症化,アレルギーの関与などの特徴が指摘されており,その治療法も少しずつ変遷しつつある。
 中でも小児副鼻腔炎ではその病態が多彩で不安定かつ変動しやすいものであり,年齢的にも副鼻腔が発育途上にあることや,上顎洞開放による術後性頬部嚢胞の可能性などを考え合せると,当然保存的治療に重点がおかれるべきものと思われる。

小児副鼻腔炎に対する手術の術後結果—顕微鏡下拡大アントロストミー手術

著者: 杉田尚史 ,   篠田仲正 ,   浅井和康

ページ範囲:P.647 - P.651

はじめに
 小児副鼻腔炎は近年軽症化してきているといわれるが,高度病変を有する小児副鼻腔炎が無くなった訳ではなく,これらは保存的な外来治療に抵抗し改善しない事が多い。われわれは難治性小児副鼻腔炎症例に対し,拡大アントロストミーを中心とした手術治療を行っている。この拡大アントロストミーの意図するところは,上顎洞内に存在する犬歯の胚芽を損傷することなくでき得る限り大きな上顎洞の開窓を確保することにある。今回難治性小児副鼻腔炎に対する拡大アントロストミーを中心とした手術治療の成績につき検討したのでここに報告する。

目でみる耳鼻咽喉科

側頭骨好酸球肉芽腫

著者: 鰐渕伸子 ,   石塚洋一 ,   矢部多加夫

ページ範囲:P.622 - P.623

 好酸球肉芽腫は,Langerhans組織球の非腫瘍性増殖により,骨組織の広汎な融解像を示す原因不明の良性疾患である。小児の頭蓋骨,四肢骨,骨盤,肋骨に好発するが,頭頸部領域では側頭骨,下顎骨に好発する。

原著

内リンパ水腫を伴ったSystemic Lupus Erythematosus (SLE)の1症例

著者: 馬場俊吉 ,   山口潤 ,   佐久間文子 ,   上野博史 ,   顔真賢 ,   八木聰明 ,   関はるみ ,   近藤忠徳

ページ範囲:P.653 - P.657

はじめに
 メニエール病は,内リンパ水腫を代表する疾患で,めまいと難聴,耳鳴などの蝸牛症状を反復する。内リンパ水腫の原因として従来より,代謝障害説,アレルギー説,内分泌障害説,感染説など種々の原因が考えられている。さらに,近年自己免疫説が要因の一つとして加わってきており,McCabe1)が自己免疫性感音難聴と言う概念を述べて以来,短期間に進行する感音難聴や変動する感音難聴の原因の一つとして自己免疫疾患が考えられるようになってきた。また,膠原病に合併した,感音性難聴の報告が多数なされており,メニエール病の中にもアレルギーや膠原病がその発症に関与しているとの報告が認められるようになってきている2)
 今回,突発的に起こった難聴,めまいを主訴に耳鼻咽喉科を受診し,当初突発性難聴と診断し副腎皮質ホルモン治療により回復したが,その後,難聴,めまいを繰り返し諸検査の結果,内リンパ水腫(メニエール病)と診断した,Systemic lupus erythematosus (SLE)に内リンパ水腫を併発した症例を経験したので報告する。

13 trisomy症候群の側頭骨病理組織所見

著者: 丸山敬史 ,   加我君孝 ,   児玉章 ,   目黒英典

ページ範囲:P.659 - P.663

はじめに
 難聴を合併する頻度の高い染色体異常には,13trisomy,18trisomy,21trisomyなどが知られている。染色体異常による難聴の種類は感音性難聴が多いが,伝音性難聴,混合性難聴も報告されている。最近の他覚的聴力検査の進歩で,新生児期の難聴の有無が診断できるようになった。しかし,難聴の種類まで厳密に鑑別することは困難である。
 われわれは,小耳症などの外表奇形を伴った13trisomyの一新生児症例の側頭骨病理標本を検索する機会があり,その形態的な特徴から難聴の有無と種類について照合したので報告する。

60歳以上の鼓室形成術症例の受診動態と手術成績

著者: 櫻井尚夫 ,   加我君孝 ,   上房啓祐

ページ範囲:P.665 - P.668

はじめに
 高齢者の鼓室形成術に対しては,1970年代には技術的レベルを加味した鼓室形成術の禁忌のうち,無条件禁忌の項目の1つにあげられている1)。しかし平均余命の延長や老人保健制度の整備などの環境要因の他に老人の麻酔や全身管理などの医療の進歩などで,高齢者の鼓室形成術の適応は拡大されつつある。厚生省が発表した昭和61年度簡易生命表によると,平均余命は60歳で男性19.7年,女性23.6年,65歳で男性15.9年,女性19.3年となっている2)。同時に官公庁や企業の退職年齢は60歳前後へと延長している。このようなライフサイクルの変化を迎え,今後の高齢化社会における鼓室形成術の適応を考えるために,われわれが行った60歳以上の鼓室形成術症例について,その受診動態・術前術後の問題および手術成績を検討したので報告する。

ガス産生を伴った頸部蜂窩織炎の1例

著者: 梅村仁 ,   尾崎正義 ,   阿部能之 ,   原万里子

ページ範囲:P.669 - P.673

はじめに
 今回われわれは,非常に急速かつ重篤な症状を呈した頸部蜂窩織炎の1例を,抗生物質の投与,すみやかな排膿などで治癒せしめたので,本疾患における対処を含めて報告する。

Masticator Space Infectionと開口障害

著者: 伊藤修 ,   室伏利久 ,   丹生健一 ,   市村恵一

ページ範囲:P.675 - P.677

緒言
 開口障害を主訴に耳鼻咽喉科を受診する患者は稀である。しかし,頭頸部領域を扱う医師にとって,重要な症候のひとつであり正しい診断と治療が望まれる。今回我々は,開口障害をきたし,初診時に腫瘍性病変を疑わせたmasticator space infec—tionの1例を経験したので報告するとともに,炎症性開口障害の分類について考察してみる。

上顎洞発生癌肉腫の1症例

著者: 岡田博文 ,   大橋一博 ,   今井準 ,   関川進

ページ範囲:P.679 - P.684

はじめに
 上皮性悪性腫瘍である癌腫と非上皮性悪性腫瘍である肉腫が,同一器官内に,時を同じくして発生する病態は,癌肉腫と呼ばれ稀な疾患である。頭頸部領域においては,甲状腺,喉頭などに発生例が比較的多くみられているが1,2),上顎洞発生例は,数例をみるのみである。今回われわれは,極めて稀な上顎洞発生癌肉腫の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

両側口蓋扁桃に転移をみた大細胞型肺癌症例

著者: 後藤達也 ,   村上匡孝 ,   中江進

ページ範囲:P.685 - P.688

緒言
 口蓋扁桃に発生する悪性腫瘍は,そのほとんどが,原発性であり,転移性扁桃腫瘍は極めて稀で,本邦において文献上の検索できた範囲では,16例にすぎない。
 今回われわれは,肺癌(large cell carcinoma)より口蓋扁桃に転移した症例を経験したので,臨床経過並びに剖検所見を報告するとともに,口蓋扁桃への転移性腫瘍について若干の文献的考察を加える。

鏡下咡語

病院改築に思うこと—癌の病棟

著者: 河辺義孝

ページ範囲:P.690 - P.691

 平成2年3月まで勤めていた愛知県がんセンターでは,開院して25年を経過し,とくに近年のがんに対する医療技術の著しい進歩にともなって,機能的にも,また,今後ますます増加が見込まれているがん患者に対しても,十分に対応しきれなくなり,昭和61年度から8か年計画で病院の全面改築が進められている。
 改築の主旨は,新しい医療への対応,最新高度な医療技術・医療器械の導入,創造的研究,医学の国際交流を4つの柱としてかかげ,その計画の方針は,暖かみのある,機能的な,安全性の高い,経済的な,国際性豊かな病院造りを基本としている。

医療ガイドライン

耳鼻咽喉科におけるウイルス検査—特に市販検査キットについて

著者: 森田盛大

ページ範囲:P.693 - P.701

はじめに
 ウイルス感染症の病原診断方法の概略については,病原診断を行う際の一般的な注意点も含めて,前回1)紹介した。その骨子を繰り返すと,病原診断の基本はウイルス分離検査(またはウイルス抗原検出)と血清学的検査であり,これに各種の情報(患者由来,ウイルス疫学,ウイルス検査など)を加えて総合的に病原ウイルスを診断すべきであるということであった。しかし,これらのウイルス検査の大半はかなり高度な施設・設備や技術あるいは多くの費用や労力などを要する実験室に頼らざるを得ない。このことがウイルス検査の大きな隘駐路の1つであった。
 そこで今回は,このような隆路を少しでも打開するため,実地医家が臨床サイドで出来るもの,あるいは出来るだけ実験室の負担を軽減するものとして,市販されているウイルス検査キット—耳鼻咽喉科に関係の薄いものもあるが—を中心に紹介する。ただし,これらのウイルス検査キットをあらかじめ1つ1つテストした上で紹介するのが本来であるが,実際上極めて困難なことであるので,各メーカーの資料を参考として紹介することをあらかじめお断りしておきたい。また,各キットに用いられている検査方法の原理については前回1)紹介したが,各キットの実際の方法は,例えば同じEIA法でもそれぞれのキットによって部分的に異なっているので,資料や使用書を入手してご検討いただきたい。また,各ウイルス感染症の実験室内診断法の詳細については成書2,3)を参考にされたい。

海外トピックス

東ドイツの崩壊—その医療の現状と問題点

著者: 高橋佐知子

ページ範囲:P.703 - P.705

1.我々はこじきとしてではなく
 西ドイツのコール首相に高飛車な態度が目立つようになったのは,通貨統一問題が緊迫化してきた1990年2月に入ってからである。経済援助をもとめて2月中旬ボンにやってきた東ドイツのモドロウ首相をいとも冷たくあしらい,追い返したのはそれをよく物語る。193cmの巨漢コール氏の隣で苦虫を噛みつぶしたような顔の小柄なモドロウ氏の姿が繰り返し東ドイツのテレビに放映されていた。
 ボンから返った直後,モドロウ首相は東ドイツ人民議会でこのように述べた。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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