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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科63巻11号

1991年11月発行

雑誌目次

特集 外来診療マニュアル—私はこうしている I.症状の診かた・とらえ方—鑑別のポイントと対処法

1.耳痛

著者: 星野知之

ページ範囲:P.9 - P.11

 耳痛は外耳か中耳に疾患がある場合にみられるものが大部分であるが,他部位からの放散痛(referred pain)が耳痛として感じられる場合がある(表1).放散痛をおこす病変は,中・外耳の主な知覚支配神経である舌咽・三叉神経の分布する領域の病変に多いが,耳介や外耳道の小さな範囲に知覚枝を出す顔面・迷走・頸神経(C2,3)の領域も関与する.

2.耳出血

著者: 牧嶋和見

ページ範囲:P.12 - P.14

 耳出血とは
 出血とは,血液の全成分が血管外に出ることをいい,血管壁の破綻と漏出がある.破綻性出血は,切創や裂創などの直接損傷により,また周囲組織の病変が血管壁を侵蝕することにより発現する.一方,濾出性出血は,循環不全,血管壁の変化,血圧亢進などにより発現する.
 出血には,動脈性出血,静脈性出血,毛細血管性出血があり,その結果としていわゆる大小の出血(bleeding),点状出血(petechia),斑状出血(ec-chymosis),出血浸潤(suggillation),血腫(hematoma)などとなる.
 したがって日常臨床で診る耳出血とは,耳の各解剖学的部位からの上述の出血であり,それに加えいわゆる血性耳漏を含んで取扱うこととなる.

3.耳閉塞感

著者: 新川敦

ページ範囲:P.15 - P.17

 耳閉塞感(耳閉感)は日常耳鼻咽喉科診療で患者が訴えることが比較的多い症状であるが,難聴,耳鳴,耳漏,耳痛などがあるとそれらの症状が強いため,耳閉感はそれらに付随する随伴症状であることが多い.また難聴,耳鳴などの程度が大きいと耳閉感を訴えないことも多い.しかし耳鳴がなかったり難聴の程度が軽度である場合には耳閉感を主訴として来院することが多く,そのなかには多くの耳疾患が含まれているので,その鑑別には慎重を要する.表1に耳閉感を症状とする疾患を示したが,症状出現の可能性を考えると耳科学全ての疾患において耳閉感が出現するといっても過言ではない.
 耳鼻咽喉科医にとって外耳道,鼓膜所見を把握することは日常のことであるため,外耳,鼓膜疾患のために耳閉感を訴える場合には2〜3の疾患を除いて,さほど診断に苦慮することは少ないと考える.一方,鼓膜に所見のない,かつ難聴,耳鳴などを訴えない患者が耳閉感を主訴に来院した場合には診断に苦慮することが少なくない.今回はこういった診断に苦慮する場合を中心に私見を述べる.

4.急性難聴

著者: 小田恂

ページ範囲:P.18 - P.20

 急性難聴という用語について
 どのような種類の難聴であれ,正常聴力の状態から自覚的に難聴を意識するようなときは,文字どおり急性難聴と考えてさしつかえないが,臨床的にみると聴力低下の程度が非常に軽微な場合には急激に聞こえが悪くなったという意識がないのが普通である.たとえば,老人性難聴のような例では始まりは急性難聴として発症するにもかかわらず,その程度が非常に軽いため自覚的にはほとんど難聴を意識せず,ある程度進行した段階で初めて難聴を自覚するので,臨床的には急性難聴と呼ばないのが一般的である.
 同様に,伝音性難聴症例の場合は,後に示すような例外はあるが,一般に難聴の進行速度が緩徐なためと難聴以外の症状が顕著なために急性難聴と呼ばれることはほとんどない.このように,急性難聴という用語はある程度限定された時間内に生じ,かつ明確な聴力低下(たとえば聴力図の上で明確に閾値上昇が認められるような)を示すような症例の場合に用いられる.

5.耳鳴

著者: 村井和夫

ページ範囲:P.21 - P.25

 耳鳴は外耳,中耳,内耳および後迷路を含む聴覚系を中心とした障害によって生ずる症状の一つと理解されている.しかし聴覚経路は非常に複雑な構造をもち,数多くの部分から構成されており,その障害部位を明らかにすることは容易ではない.また耳鳴を訴えて受診する患者の耳鳴の症状も多種多様で,音色,大きさ,苦痛度も一定ではない.同様に聴覚系の障害によってみられる難聴は,種々の聴覚検査法が確立されており,その障害部位あるいは病態をとらえることが可能であるが,耳鳴は未だその性状を測定する方法が確立しておらず,また耳鳴は痛みなどと同様に性格的,心理的要因などがその側面に少なからず関与していることが推測され,診断,治療の面で研究が遅れていることは多くの報告に見られるほぼ一致した意見である.したがって,他の多くの疾患にみられるように症状と原因疾患とが密接に関連した所見をとらえることは難しく,耳鳴の性状から原因疾患を直接関連づけて診断することは困難である.
 しかし耳鳴は何らかの疾患の一症状として現われてくるものであり,その背景にある重篤な疾患を見逃さないように慎重にしかも計画的に検索を進めることが重要である.
 以下に耳鳴の一般的臨床所見と診断手順の概略について述べる.

6.めまい・平衡障害

著者: 八木聰明

ページ範囲:P.26 - P.28

 めまい・平衡障害を訴える患者を診る場合,めまいが現在起こっている,すなわち急性期であるかそうでないかによってその対処は当然異なってくる.また,急性期でない場合も,それがめまいの間歇期であるのか,持続的な状態,その場合は大部分がめまいであることよりも平衡障害であることの方が多いが,であるかによってもやはり対処の仕方が異なっている.したがって,ここではめまいの急性期,間歇期,さらに持続性のめまい・平衡障害に対する診かた・とらえ方について,それぞれ別個に述べる(表1).

7.顔面神経麻痺

著者: 池田稔

ページ範囲:P.29 - P.33

 顔面神経麻痺をきたす疾患
 顔面神経麻痺とは,顔面神経の障害による表情筋の運動麻痺のことであり,表1に示すようにその原因は様々である.
 顔面神経麻痺はその障害部位により,通常は中枢性麻痺と末梢性麻痺に分けられるが,以下,障害部位をもう少し明確にして,核上性,核性,核下性麻痺に分けて述べる.また周産期麻痺は特殊と思われるので別に記すことにする.
 顔面神経麻痺患者が受診した際は,下記の疾患あるいは病態を想起して対応する.

8.鼻出血

著者: 調所廣之

ページ範囲:P.34 - P.36

 鼻出血は,外来患者総数の約2%である.患者全体では若年者に多いが,重症例は40歳以上の中高年者に多い.一般的に男性に多い.70〜80%はキーゼルバッハ部位より出血する.出血部位の確認には,ファイバースコープが優れている.機械的刺激,一過性の脈圧上昇による出血が70〜80%である.この他注意すべき疾患には血液疾患,悪性腫瘍,循環器疾患などがある.治療は,外科的処置(圧迫,焼灼)が中心である.
 表1に鼻出血の鑑別診断を,図1,2に鼻腔の血管を示した.

9.外鼻変形

著者: 今野昭義 ,   仲野広一

ページ範囲:P.37 - P.42

 外鼻変形をおこす基礎疾患は多彩であり,病変が外鼻,鼻腔に限局するものだけでなく,副鼻腔,頭蓋底,歯牙周囲の病変が外鼻,鼻腔に進展し,外鼻変形の原因となることがある.これらの基礎疾患は表1のように分類される.多くは外鼻変形の内容と病変の部位,進展範囲をもとに問診,視診,触診,単純X線検査,断層X線検査によって鑑別できるが,鑑別に難渋する2〜3の疾患がある.必要に応じX線CT,MRI,血清学的検査,生検を組合わせて診断する.
 実際には変形の内容に応じて鑑別すべき疾患は限られるために,本稿では変形の内容ごとに基礎疾患を整理し,鑑別と治療について述べる.

10.頬部腫脹

著者: 市村恵一

ページ範囲:P.43 - P.45

 われわれが頬部腫脹を呈した患者を診察する際に心すべきことが2つある.すなわち,①生命に関係する疾患を見落とさないことと,②機能障害を残すおそれのある疾患に対し,そうならないように適切に治療することである.代表的疾患である上顎癌をはじめとする悪性腫瘍や,頭蓋内や眼窩の合併症を引き起こす蜂窩織炎・膿瘍などはこの範疇にはいる.
 確定診断に至るまでの過程にも2通りの道がある.一つは,患者を見た瞬間に,(今までの経験,知識に裏づけられ,)こういう病態だと直感する方法である.ある疾患には典型的な症状,徴候があり,それは一度見て経験し,心に刻み込めば忘れるものではない.しかし,この面を強化するには実地で場数を踏むしかないのでここでは扱わない.もう一つは,筋道を立て,考え得る疾患を全て網羅した上で,鑑別のポイント毎に対象疾患の枠を狭めていき,鑑別診断を適切に完遂する方法である.われわれの日常診療においては,これら両者を適当にミックスしながら診断にたどりついているわけであり,それをスムースでスマートに行えるのが名医なのである.ここでは後者の方法から診断決定に至るまでの過程を示してみたい.

11.顔面疼痛

著者: 斎藤等

ページ範囲:P.47 - P.49

 ここで取り扱う顔面疼痛とは,前額部,鼻部,頬部,下顎部として考えてみる.眼窩部痛は除外した.また,いわゆる頭痛も除外した.

12.眼球突出

著者: 西村善彦

ページ範囲:P.50 - P.53

 眼球突出だけの症状を主訴とする患者は,まず眼科を受診する.耳鼻科には,以前に,あるいは始め鼻が悪くて,眼球の位置異常を生じてきた患者が送られてくる.後者の場合はすでに診断がある程度確定しているから,治療の方針が問題となる.前者では,眼科での種々の検査から,耳鼻科領域の疾患の併発症状として眼球が突出したと判断されたものが,追って耳鼻科に送られてくる.それならば,眼球を突出させる疾患についての大雑把な知識を耳鼻科医が持っていれば,われわれの治療の対象となりうるもの,他科(眼科,脳外科)との共同のもとに治療をするべきもの,治療のある時期を他科(放射線科)に依頼するものなど,この症状への対処の仕方はおのずから明かとなる.
 まず,どのような機転が眼球を突出させるのかをまとめてみた(表1).
 つぎに,視点をかえて,どのような疾患が眼球を突出させるのかを整理してみた(表2).

13.眼瞼腫脹

著者: 内田豊

ページ範囲:P.54 - P.55

 眼瞼腫脹を主訴として耳鼻科を受診する患者は,おそらく極めて少ないであろう.視器に異常があれば,まずあい対する者は眼科医である.したがって,ここで述べる事がらは,本誌の立場からはじめに耳鼻科領域に原疾患があってさらに眼瞼に腫脹をきたす疾患について述べ,ついで眼瞼固有の疾患を考えてみたいと思う.

14.視力・眼球運動障害

著者: 気賀沢一輝

ページ範囲:P.56 - P.58

 耳鼻科領域の疾患によって視力,眼球運動障害が生じることは,その解剖学的近接性から容易に推察される.眼窩内へ波及する病変の形は,炎症,嚢腫,腫瘍が主体である.眼球突出をともなう場合は診断は容易であるが,ともなわない場合は見逃されて,治療の時期を逸する場合も生じ得る.視力,眼球運動障害をみたら,まず隣接部位の異常の検索から始めなくてはならない.そのためには,眼科医と耳鼻科医はお互いの領域の基本的知識を身につけ,いつでも協力しあえる体制をとっておかなくてはならない.

15.咽頭痛

著者: 原田宏一

ページ範囲:P.59 - P.62

 咽頭痛は日常臨床でしばしば遭遇する症状のひとつであり,ともすれば咽頭炎や扁桃炎の病名で盲目的治療を施されることがある.確かに咽頭痛を主訴とする疾患の多くは炎症性疾患であるため抗生剤や消炎剤の投与により症状の改善を得ることが多く,原因追及を行うことなく安易な投薬が重大な疾患の見過しにつながることとなる.特に扁桃,咽頭の腫瘍や結核,梅毒等の特殊炎症性疾患は鑑別すべきものとして常に考えておく必要がある.
 咽頭痛は咽頭部における自発痛であるが,多くの場合嚥下運動によって疼痛は増強する.また病巣部位によって耳や喉頭に放散する痛みを伴う場合があり,咽頭痛をきたす疾患を診断するにあたって,痛みの経過,部位,性質,随伴症状の有無などの問診は重要である.また糖尿病等の基礎疾患の有無も必ず聞いておく必要がある.

16.口腔痛

著者: 石川和光 ,   山口晃

ページ範囲:P.63 - P.65

 疼痛は,口腔領域における主訴として最も頻度が高く,重要な症状のひとつである.これは,口腔には感覚・運動・自律神経のネットワークが密に張られており,刺激や痛みに対する感受性が強いうえに,口腔は種々の刺激を受けやすい部位であるためと考えられる.従って原因となる疾患の種類も多岐にわたり,いわゆる歯痛や炎症性疾患のみならず粘膜疾患や神経疾患にも比較的よく遭遇する.一方,器質的病変のない心因性の疼痛も少なからず見受けられ,また,頭部や頸部,四肢に関連痛を生ずることもあり,きわめて複雑で難治性の場合もまれではない.
 今回は口腔領域の疼痛の原因となる疾患のうち,疼痛を主訴とし,腫瘍を除いて臨床的に比較的よく遭遇する疾患を中心に解説する.

17.開口障害

著者: 荒牧元

ページ範囲:P.66 - P.68

 開口障害とは
 顎運動に関する顎関節や顎骨,咀嚼筋,口腔軟部組織,神経などが種々の原因により障害をつけ正常範囲にまで開口できない状態をいう.他の部位の疾患がこれらに波及した際にも生じる.開口時の上下歯列間の最大可動距離を開口度という(表1).バーケットは開口度3.5〜5.0mmを正常としている.

18.嚥下痛

著者: 小川浩司 ,   橋口一弘

ページ範囲:P.70 - P.71

 嚥下時に痛みを覚えるということは,口腔,咽喉頭,食道およびその周辺臓器に異常があることを疑わせる臨床上貴重な症状であり,疾患の存在を正しく判断することは外来診療における大事な項目である.
 嚥下痛はその発症のメカニズムを考えると,まず自発痛がある場合とない場合に分けられ,次に飲食物を嚥下することによって,その刺激で痛みが増強あるいは誘発される場合と,飲食物なしの空嚥下によっても痛みが増強あるいは誘発される場合とがあり,それぞれの組み合わせが考えられる.飲食物が通過した時のみに痛みがあるということは,飲食物が直接接触する表面,あるいはそれに近いところに病変があることを意味する.喉頭,咽頭,喉頭および食道のすべての炎症性,潰瘍性ならびに閉塞性病変と異物は,食物が通過したり狭窄部に貯留するときに種々の程度の痛みが生ずる.

19.唾液腺腫脹・疼痛

著者: 山下敏夫

ページ範囲:P.72 - P.74

 唾液腺の腫脹および疼痛をきたす疾患は,唾液腺本来の疾患に加えて,他の組織由来のものもあり,多種多彩で,その診断は必ずしも容易でない.診断のためにまず問診でその発症が急性か慢性か,さらには反復性かを知る.ついで片側か両側か,全身症状,疼痛の有無と性質,食事との関係など聴取する.視診では唾液腺部の皮膚の色調,唾液排泄管開口部の発赤や排膿,顔面神経麻痺の有無,上咽頭を含めた咽頭,口腔,歯の異常(腫瘍,乾燥)の有無,涙腺の腫脹や結膜の乾燥などをみる.また最も大切なものは触診で,唾液腺全体の腫脹か,唾液腺部の部分的腫脹(腫瘤)かを丁寧に診察する.さらに顎下腺部のものでは双指診による口腔底の触診が大切である.検査としては血液検査(白血球数,好酸球数,赤沈,CRP,アミラーゼ値,ウイルス抗体価,IgE値など),ツ反,シアログラフィー,RI(99mTC,67Ga)検査,超音波検査,穿針細胞診などがある.間・視・触診から疑われる疾患を想定し,必要に応じてこれらを組合せて診断の補助とする.

20.いびき・睡眠時無呼吸

著者: 今野昭義 ,   広瀬勝治 ,   仲野広一

ページ範囲:P.75 - P.79

 いびきは睡眠中の上気道に狭窄があることを示す異常呼吸音である.いびきを主訴として来院する患者はいびきの騒音そのものが治療対象となる場合と,上気道障害による換気障害が治療対象となる場合がある.睡眠中の上気道狭窄は筋弛緩による軟口蓋沈下,舌沈下などの一次的狭窄と,この気道狭窄が反射的に換気運動の亢進をおこし,一次的狭窄部より下方で吸気時の陰圧が著明に増大することによって中咽頭周囲の軟部組織が流れの方向に牽引されて生ずる二次的狭窄に分けられる(図1).上気道狭窄が比較的軽度な症例では二次的狭窄はみられない.
 いびきは持続性のいびきと周期的に無呼吸を伴う周期性いびきに分けられる.持続性いびきでは気道狭窄はあっても狭窄に打ち勝つ換気努力が持続し,血液ガス組織の変化はみられない.気道狭窄の程度は筒期性いびきと比較すると軽度である.また図1の低換気の時期にみられる吸気性の狭窄音と過換気の時期に軟口蓋を中心とする中咽頭組織粘膜の振動によって生ずる呼気性,吸気性の振動音に分けられる.いびきの種類と強さから上気道狭窄のおおよその程度を推察できる.

21.嗄声

著者: 福田宏之

ページ範囲:P.81 - P.84

 定義
 音声(発声)障害のカテゴリーに入るもので声の性質の障害である.一般的には声に雑音成分が含まれた状態を意味する.従ってけいれん性発声障害のように発声の仕方の障害などは含まない.ただし,雑音成分は顕著でなくともその年齢や性にそぐわない場合は嗄声として差し支えないだろう.たとえば女性における男性ホルモンによる男性化音声(androphonia),変声期障害などは広い意味で嗄声としてもよい.

22.喘鳴

著者: 川城信子

ページ範囲:P.85 - P.87

 喘鳴は上気道(咽頭から気管まで)に何らかの狭窄が生じた場合に,空気が細い部分を通過するため,乱流がおこり発生する雑音である.ゼーゼー,ヒューヒューという音が聞える.特に小児では気道そのものが細いので,喘鳴をおこしやすく,気道狭窄の重要な症状である.成人でも起こり得るが,成人の気道は太いので,小児ほど著明におこらないし,それ以前に呼吸困難を自ら訴えることが可能である.喘鳴が生じた場合,これが気道のどの部分で生じているか,どのような疾患で生じているかを正確にしかもできるだけ早急に診断し,重症度を把握し,疾患によっては早急に対処しなければならない.

23.音声障害

著者: 久育男

ページ範囲:P.88 - P.90

 音声障害とは
 音声障害は発声障害とも呼ばれ,元来声に異常がある病態を指す.そこで,音声障害を理解するためには声の異常とは何かを良く把握しておく必要がある.しかし,ある声が異常か正常かといった判断は非常に主観的なものであるということも事実である.たとえば声楽家が異常な声だと訴えても,医学的にはその声が異常といえないような場合をしばしば経験する.それでは臨床的に,声に異常がある病態とは何だろうか.それは声における4つの属性(高さ,強さ,音質,持続)のどれかに異常が生じた場合と考えられる.すなわち,声の高さの異常,声の強さの異常,音質の異常,そして声の持続の異常である.一般的に,喉頭の器質性疾患による異常は音質の異常として,一方,全身疾患に起因するものは声の高さの異常としてとらえられることが多い.声の強さの異常や声の持続の異常が音声障害の主症状となることは稀である.
 また,音声障害には,発声に際して伴う他の自覚症状(発声時の疼痛,声が出しにくいなど)をも含めて取り扱われることが多いことに留意する必要がある.

24.呼吸障害(上気道性)

著者: 長谷川誠

ページ範囲:P.91 - P.93

 耳鼻咽喉科領域の疾患がもたらす呼吸障害の原因部位は1.鼻腔・鼻咽腔,2.咽頭,3.喉頭,4.気管・気管支,に大別される.本稿においては特に喉頭領域(咽頭の一部も含める)の疾患によって生ずる呼吸障害についてその検査法,鑑別診断および特徴,さらにそれぞれの疾患に対する対処法について述べてみたいと思う.

25.喉頭痛

著者: 丘村煕

ページ範囲:P.94 - P.96

 喉頭痛とは本来喉頭に起因する疼痛を指すものと考えるべきであるが,患者は“のどの痛み”として来院してくるので咽頭痛と区別しがたい.したがって,その原因を喉頭のみならず,咽頭,食道,頸部にも求める必要がある.以上のことを念頭に入れた上で,本稿では喉頭および周辺組織の疾患に起因する喉頭痛のみを扱い,その臨床上の問題点を整理することにする.

26.構音障害

著者: 新美成二

ページ範囲:P.97 - P.99

 話し言葉の,音としての性質に異常のある状態を,構音障害という.つまり構音障害とは構音動作そのものの異常を意味するものではなく,その結果として生じた音の異常の有無によって判断される病態である.しかし,音の異常の原因を考えれば,構音障害は構音運動における正確さ,範囲,速さ,力,リズムなどに破綻をきたした状態である.この認識にたって耳鼻咽喉科の診療の場で構音障害患者を診た場合は,話し言葉の音としての異常を知ることも大切であるが,その音の異常をきたしている構音器官の形態あるいは運動性の異常をよく知る必要がある.

27.言語発達遅滞

著者: 鈴木恵子

ページ範囲:P.100 - P.102

 「ことばの遅れ」を訴えて耳鼻咽喉科を訪れる子どもは少なくない.ことばの遅れの要因として,まず聴力を疑う親が多いためである.また,音声表出のための器官としての「のど」や「くち」の重要性も,一般に認識されやすいようだ.このように,耳鼻咽喉科医は言語発達遅滞の診断にあたって,重要な役割を担う.

28.頸部腫瘤

著者: 北村溥之

ページ範囲:P.103 - P.105

 頸部にはいろいろの腫瘤が発生し,摘出して,はじめて診断されることも多い.しかし,腫瘤によっては特徴的な性質によって診断が容易な場合もある.
 一般的な耳鼻咽喉,口腔,甲状腺などの診察によって,頸部腫瘤が頭頸部癌のリンパ節転移と推定される場合は述べるまでもないであろう.

29.頸部腫脹

著者: 行木英生

ページ範囲:P.106 - P.109

 頸部腫脹と頸部腫瘤とを明確に区別することはなかなか難しいと思われるが,しいていえば,腫脹は表面的な瀰漫性の腫れであり,腫瘤は正常組織とは異なる組織が限局性に瘤を作っていると表現できる.したがって,腫瘤の上に厚い組織があると,表面的には腫脹と見なされることもある.このように,視診や触診では区別しにくいこともあるが,CTやMRIあるいは超音波の画像を利用することにより,腫脹と腫瘤とは鑑別することができる.本項では頸部腫脹の診かた・とらえ方とその対処法について述べる.頸部腫瘤については別項に詳述されているが,本項では鑑別診断として,その一部を取り上げる.

30.頸部痛

著者: 窪田哲昭

ページ範囲:P.110 - P.112

 頸部の痛みは「のどの痛み」から「肩こり,頸すじの痛み」までいろいろな表現で訴えられてくる.痛みの部位も必ずしも明確に限定できるとは限らないし,放散痛として頭や耳,肩や腕など他の部位に及ぶこともある.原因を考える場合,耳鼻咽喉科医は日頃扱っている頸部固有の諸臓器の病変を考えがちであるが,頸椎を中心とした整形外科疾患も含まれてくる.また内臓疾患や心因性の症状が頸部に反映してくることもある.
 このように頸部に疼痛性愁訴を起こす背景には多彩な疾患があることを念頭におき診断にあたらねばならない.

31.呼吸困難

著者: 山下公一

ページ範囲:P.113 - P.115

 呼吸困難は,「呼吸困難感の認識」という患者の自覚的症状に属する症候であるが,さらに,患者の意識の有無にかかわらず,客観的に呼吸困難ありと認められる他覚的所見から判定される面もあり,呼吸困難を客観的概念で定義することは難しい.一般的には,自覚症としての呼吸困難に,他覚的な異常呼吸をも含めて,「努力を伴った呼吸反応」という広義の解釈のもとに取り扱われる.臨床的には,労作時の軽い息切れから窒息までその範囲は広く,生命をおびやかす可能性もあり,迅速に適切な処置が要求されるプライマリーケアにおける重要な症候のひとつである.
 呼吸困難は,換気の要求度と換気能力の間に不均衡が起こった時に生じるとされるが,種々の異なる疾患の異なる病態によって引き起こされる.表1はそれを病態別にリストアップしたもので,大きく分類すると,呼吸器疾患,心疾患,血液疾患,その他心因性疾患,代謝性疾患,神経・筋疾患などが含まれる.
 耳鼻咽喉科で取り扱われる呼吸困難は,呼吸器疾患のうち上部気道の気道狭窄・閉塞によるものが多く,中には緊急性の高いものも含まれるので,他の原因による各種病態をも考慮して鑑別の上対処する必要がある.

32.嚥下困難

著者: 丘村煕 ,   森敏裕 ,   稲木匠子

ページ範囲:P.116 - P.119

 正常の嚥下運動は随意運動である口腔期(第I期),嚥下反射によって誘発される咽頭期(第II期),蠕動運動である食道期(第III期)の3期からなる.食塊が呑み込みにくいと訴える狭義の嚥下困難は口腔期と咽頭期の障害であり,呑み込むことができるが食道内を通りにくい場合には通過困難とよばれる.ここでは口腔期から食道期までを含めた広義の嚥下困難を扱うことにする.広義の嚥下困難には呑み込みにくい以外に,飲食物の気管内への誤嚥や鼻腔内への逆流も含まれる.なお,嚥下困難とは患者さんの愁訴で,嚥下障害とは客観的に嚥下運動の障害されていることが証明された場合に使う.

33.喀血

著者: 北原哲

ページ範囲:P.120 - P.121

 喀血とは下気道からの出血であり,咳嗽に伴って,泡状の気道分泌物を含んだ鮮紅色の血液を喀出する状態をいう.これに対して吐血は消化管からの出血で,暗赤色を呈し,食物残渣を含んでいることが多い.血痰や喀血を主訴として来院する患者には,つぎの三種類がある.
 1.昨日以前に血痰を認めたが,来院時には血痰はない 2.昨日以前に血痰を認め,来院時にも血痰を認める 3.咳嗽とともに血液を喀出する

II.外来治療の実際—私の処方

1.外耳掻痒感

著者: 二井一成

ページ範囲:P.126 - P.127

 はじめに
 耳がかゆいといって外来を訪れる患者は多い.そのほとんどが湿疹であり,耳垢であり,中耳炎の耳漏であり,さらにシャンプーその他の異物であったりと問診や耳鏡検査を含む視診で容易に診断がつく場合が多く,その原因に対する処置により治癒は一般的には容易である.
 しかし,なかには肉眼的にかゆみの原因と思われる異常が全くないにもかかわらず,頑固なかゆみを訴えて来科し,われわれを悩ませるケースも少なくない.原因がはっきりした病態に対する処置法については他項にゆずり,ここでは局所的に原因がはっきりしない,いわゆる皮膚掻痒症ともいうべき病態について述べる.

2.先天性外耳瘻孔

著者: 西田之昭

ページ範囲:P.128 - P.129

 概説
 外耳瘻孔は日常診察で比較的多く遭遇する外耳の先天奇形である.その頻度は3%前後,1側性のことが多く,開口部は耳前部,耳輪の前にあるものがほとんどである.ときに耳輪脚部にあり,その他の部位に開口することは稀である.胎生期の第1鰓弓と第2鰓弓の小隆起の癒合不全によって起こるとされており,遺伝傾向が認められるという.
 多くの患者は自覚しないが,分泌液が出ると気になる.感染を起こした場合に治療の対象となる.

3.鼓膜炎

著者: 飯野ゆき子

ページ範囲:P.130 - P.132

 概説
 鼓膜炎は,急性中耳炎の際に見られる急性水疱性鼓膜炎と,鼓膜にびらんや肉芽が生じる慢性鼓膜炎に大きく分類できる.前者は疼痛が強く,また中耳に貯留液を認めることが多い.水疱は鼓膜のいずれの箇所にも生じ得るが後上象限であることが多い.以前から水疱性鼓膜炎は,インフルエンザウイルスやマイコプラズマによる中耳炎の一つの鼓膜変化との指摘がなされているが,いまだ確立したものではない、しかしこの水疱性鼓膜炎に感音難聴を伴うことがあるため,難聴の訴えが強い際は,精密聴力検査が必要である.治療は一般の急性中耳炎に準ずる.
 慢性鼓膜炎は耳漏,耳閉感を主訴とすることが多い.難聴はあってもごく軽度である.鼓膜の表面に,一カ所から数カ所のびらんや肉芽が生じ,膿性の耳漏が鼓膜表面や外耳道底にみられる.以前から肉芽性鼓膜炎との名称で知られているが,肉芽性変化をともなわずびらんのみのこともあるため,近年は単に慢性鼓膜炎と呼ばれている.原因不明の一次性のものと,中耳腔の病変や鼓膜切開,チューブ留置によると考えられる二次性のものがある.二次性の鼓膜炎の治療では,原因となる因子の除去が必要である.一次性の慢性鼓膜炎は,難治性のものもあるが,ほとんどの場合,外来での保存的処置でコントロール可能である.鼓膜形成術などの外科的処置は必要ない.以下一次性慢性鼓膜炎に対する保存的療法に関して述べる.

4.補聴器の処方

著者: 杉内智子 ,   岡本途也

ページ範囲:P.134 - P.135

 概論
 補聴器の進歩に伴いそのフィッティング手法も発展をとげてきた.しかし難聴者が満足できる補聴器の設定にはやはり根気と時間が必要である.“補聴器の処方”とは単に補聴器を選ぶことではなく,“聴覚のリハビリテーション処方”に他ならない.

5.耳鳴治療の基本

著者: 清田隆二

ページ範囲:P.136 - P.137

 概説
 急性発症例や,発作性,進行性の耳鳴については,積極的な精査・治療を行うべきである.その詳細は別稿に委ねるとして,ここでは,比較的長期間持続している耳鳴,および原因の明らかでない耳鳴症例に対する治療方針を述べる.耳科医師は患者を見放すことなく,耳鳴に伴う苦痛や不安が軽減するまで,種々の治療法を試みながら見守ることが重要と考える.

6.外耳道湿疹

著者: 佐藤むつみ

ページ範囲:P.138 - P.140

 病態
 外耳道湿疹は,アレルギー体質,代謝異常などの素因に,種々の刺激が加わって発現する.掻痒が主症状で,ほかに灼熱感,漿液性耳漏,疼痛がみられることも多く,二次感染を起こすと疼痛が増す.急性湿疹状態では,外耳道から耳介が発赤腫脹し,丘疹,小水疱,小膿疱,びらん,漿液性耳漏,痂皮,落屑等の多様性の皮疹が混在している.慢性湿疹状態は皮膚が肥厚し苔癬化を示す.

7.耳介血腫

著者: 山田一美

ページ範囲:P.142 - P.144

 概説
 耳介は顔面の外側に聳立,突出しているのでスポーツや交通事故などで外傷を受けやすい部位である.耳介血腫は,耳介の打撲や反復する摩擦刺激のために皮下または軟骨膜下に出血するために生ずる例が多いが,受傷の原因が不明の特発例もある.受傷原因としてボクシングやレスリングなど格闘技を行う人によくみられ,boxer's ear,wrestler's earといった名称もある.
 血腫発生部位(図1,2)は,耳介の形態上舟状窩から対輪前脚にかけて生じやすく,限局性の腫脹で比較的軟らかく波動を触れるが,時間がたったものや反復するものでは硬いこともある.痛みを伴うこともあるが一般に強くはない.

8.外傷性鼓膜裂傷

著者: 湯浅涼

ページ範囲:P.146 - P.148

 概説
 径8mm×10mm,厚さ0.1mmの鼓膜は外耳孔の奥3.5cmに位置し,外傷から保護されている.しかし,時に,平手打ち,スポーツ競技中の事故などによる介達性外力,耳掻きなどによる直達性の外傷,鼓膜切開,通気療法,耳処置など医原性の外力等により,外傷性鼓膜裂傷が生じる.
 一般には,これらの外傷性鼓膜裂傷は感染を予防すれば自然に閉鎖し治癒する.従って,外傷性鼓膜裂傷の治療の原則は顕微鏡下の正確な観察・記録,感染予防,定期的追跡観察であり,受傷間もない時期にパッチ,あるいは鼓膜形成術などを行うべきではない.初診時にオージオメトリーは必ず行い内耳に対する障害の有無を確かめることが必要である.また証拠の確保のためチンパノメトリー,出来れば鼓膜撮影を行い,証拠提出など後に起こりうる法的要請にも対処する心構えが必要である.二次感染,内耳傷害などがなければ1〜2週間に1回程度の定期検診を行い穿孔の大きさなどをチェック,記録する.1カ月経過しても穿孔が閉鎖傾向になければ,鼓膜形成術の可能性を説明し,さらに2カ月経過観察を行う.受傷後3ヵ月間閉鎖傾向が見られなければ鼓膜形成術を考慮する.まず外来での鼓膜形成術(接着法,湯浅1989)を試みる.以下,本法について詳細に述べる.

9.小生物の外耳道迷入(外耳道異物)

著者: 小林武夫

ページ範囲:P.150 - P.152

 概説
 外耳道異物で治療に困惑を覚えるものに小生物によるもの(有生異物)がある.以前は夏期に,戸外でキャンプなどをしているとき蟻や小昆虫,ムカデなどが耳に迷入することが多く,季節と場所が決っていたように思う.しかし,最近,一番多くみられるようになったのはゴキブリである.日本の家屋も,サッシュで密封し,エアコンをきかせてあるので一年中ゴキブリが繁殖しているのである.ここではゴキブリなどの小昆虫異物を中心に述べる.

10.急性感音難聴

著者: 萩原啓二

ページ範囲:P.154 - P.156

 概説
 「急性感音難聴」は突然発症する感音難聴の総称で,独立した疾患ではなく一つの症候群である.したがって,これには原因の明らかなものもそうでないものも含まれる(表1参照).
 感音難聴は一般に治療効果の望めないものがほとんどであるが,例外として急性感音難聴では早期に治療を開始すれば聴力の回復ないし改善の期待できるものもある.そこで,急性感音難聴の中でも比較的治癒率の高い突発性難聴や低音障害型急性感音難聴を中心にその診断上の留意点や最も一般的な治療法について概説する.

11.耳介炎症(ピアスなどによる)

著者: 児玉章

ページ範囲:P.158 - P.159

 概要
 イヤリング,イヤホーン,メガネなどが原因で耳介に炎症がおきることがある.特に最近,若い女性の間で耳垂に小孔をあけ,金属の針金を通す,いわゆるピアス型イヤリングの装着が流行っているが,金属が皮膚や皮下組織に直接触れることにより誘発される皮膚のかぶれ(接触性皮膚炎)の問題がふえている(図1).ピアス型イヤリング装着者の30〜40%に何らかの問題がみられたとの報告もある.
 金属イヤリングの大部分には,ニッケル,コバルトなどが含まれているため,いったん金属による感作が成立すると,ニッケルやコバルトはこういった金属アクセサリーだけでなく,腕時計,ベルト,ファスナー,ホックなどの日常生活でさけがたいものにも含まれているため,このような物に触れた身体の他の部位にも皮膚炎をおこすようになる.

12.外耳道狭窄症

著者: 今井昭雄

ページ範囲:P.160 - P.161

 概説
 外耳道狭窄症は軟骨部のみの場合,骨部のみの場合,両者にわたっている場合とある.外耳道の狭窄は一見して分かることが多い.原因を診断したうえで,治療を行う.原因に対する治療で狭窄が改善するものと,狭窄に対する手術を要するものがある.原因は大きく分けて先天性奇形,炎症もしくは瘢痕による狭窄,それに良性・悪性腫瘍である.

13.ステロイド依存性感音難聴

著者: 大内利昭

ページ範囲:P.162 - P.163

 概説
 一般に感音難聴の大部分は薬物療法に反応しないといわれているが,ステロイド依存性感音難聴は薬物療法に反応する数少ない感音難聴の1つである.その病態として自己免疫疾患あるいは免疫複合体病である可能性が示唆されており,ステロイドの投与量に対応して聴力変動を示すという特徴を有する.

14.蝸牛型メニエール

著者: 猪忠彦

ページ範囲:P.164 - P.166

 臨床症状
 メニエール病は,反復するめまい発作・めまいと消長をともにする難聴および耳鳴の三徴候よりなる疾患である.しかし,その初回発作である発症時にはこの三徴候全てが揃わずに前庭症状や蝸牛症状だけが先行する場合がある.これらはやがては三徴候を備える典型的なメニエール病に移行する場合と,そのままメニエール病の類型として留まるものとがある.蝸牛型メニエールとは,メニエール病の一類型であって,メニエール病診断基準のうちの第1項目である「回転性めまい発作を反復すること」が欠落した病像を呈するものである.低音障害型突発性難聴あるいは急性低音障害型感音難聴と呼ばれる疾患も症状が極めて類似しているので,発症時のみ診察して以後経過を追えなかったもののなかには,蝸牛型メニエールが混在していると思われる.
 メニエール病の病理組織は,1938年山川によって内リンパ水腫であることが報告されており,蝸牛型メニエールの場合も,その病態として内リンパ水腫が考えられている.内リンパ水腫の原因としては①内リンパ液の産生あるいは吸収機転の異常②内リンパ管壁の突発的破裂による内耳液電解質バランスの破綻,③迷路動脈領域の血栓・栓塞・出血・攣縮などによる血流障害およびそのための酸欠状態の加担,などが推察されている.蝸牛,前庭ともに障害されるが,一側性のことが多く,主として蝸牛に障害の顕われたものが蝸牛型メニエールということになる.聴力障害は特徴的で,初期には低音部障害を示し,閾値が変動する.補充現象陽性であることが多い.発作を反復するうちに難聴が進行する.蝸牛型メニエールはメニエール病に比べ両耳罹患例が多く,約10%とみられている.好発年齢は壮年期で,心身の過労,自律神経不安定状態が症状発現を誘発しやすい.

15.遅発性内リンパ水腫

著者: 竹森節子

ページ範囲:P.168 - P.169

 遅発性内リンパ水腫とは
 陳旧性の高度な内耳性難聴があり,数年たってその続発症として,内耳の膜迷路に次第に2次的に進行性内リンパ水腫が生じ,その結果,メニエール病様の前庭症状が発現する疾患である.1976年,Schuknecht HFにより疾患概念が確立された.

16.外耳道真菌症

著者: 馬場俊吉

ページ範囲:P.170 - P.171

 概説
 外耳道真菌症は表在性皮膚真菌症と仮性外耳道真菌症に大別することが出来る.
 外耳道(皮膚)真菌症は骨部外耳道から鼓膜にかけて真菌が寄生し,掻痒感,耳閉感,難聴などの症状が出現する.本邦では外耳道に寄生する真菌はAspergillus属が多く,欧米諸国ではCan-dida属の寄生が多い.

17.サーファーズ・イァ

著者: 梅田悦生 ,   植松美紀子

ページ範囲:P.172 - P.174

 概説
 職業的に潜水する人(海女・漁師・潜水夫),水中スポーツ(水泳・ヨット・ダイビング等)をする人たちの外耳道に,骨性の狭窄がしばしばみられることは古くから知られている.その本態は,頻繁に冷水刺激を受けることによる反応性の骨部外耳道の外骨腫“exostosis”とされるが,この現象が特にサーファーに好発することが明らかになり,サーファーズ・イァと命名されるに至っている.ダイバーの25%,ヨットマンの37%に見られたとの報告があるほか,われわれが1986年に行った検診では,プロ・サーファーの80%に,アマチュア・サーファーの53%に外耳道狭窄が認められた.
 外耳道の狭窄はサーフィンを始めて4年目頃から認められるようになり,その後もサーフィンを続けると徐々に進行していく.個体差も,サーフィンをする頻度にもよるが,10年で8割程度の狭窄に至ることが多い.また,平均水温の低い海岸をホームグラウンドとするサーファーほどサーファーズ・イァになりやすく,その進行も早い.

18.滲出性中耳炎

著者: 菅家元

ページ範囲:P.176 - P.177

 概説
 古典的な概念によれば,「中耳腔に無菌的に貯溜液がたまり,難聴・耳閉感・耳鳴などの障害をもたらす」とされているが,最近の考え方では,中耳腔に貯溜液を生ずる中耳炎を一括して貯溜液性中耳炎とし菌の有無は問わない.滲出性中耳炎はその一状態としてとらえる訳である.

19.鼻腔異物

著者: 赤木成子

ページ範囲:P.180 - P.181

 鼻腔異物の大部分は,意識的に患者本人により挿入された物である.幼小児では手に解れた物を鼻内に押し込む性癖があり,鼻腔異物症例の大部分は幼小児である.異物には,プラスチック,ガラスや金属性の品,例えば玩具,磁石等,その他に紙,消しゴム,豆類などさまざまな物がある.ただし意識的に挿入されるため,疼痛が少なくて挿入できる.比較的表面平滑で形や大きさの似かよった物が多い.成人では鼻内をきれいにしようとして挿入されたティッシュペーパーや綿が異物となることがある.また稀に医原性異物として綿,ガーゼ等が見られる.
 鼻腔異物の挿入直後の症状は異物感,一側性鼻閉であるが,時間が経過すると炎症をきたし,一側性鼻漏,悪臭,疼痛等が出現してくる.幼小児では,異物挿入の事実を隠して発見が遅れることがある.

20.鼻出血

著者: 大島渉

ページ範囲:P.182 - P.184

 はじめに
 耳鼻咽喉科外来患者総数の数%が鼻出血患者であるといわれるほど,耳鼻科医にとって鼻出血は良く遭遇する疾患のひとつである.しかしながら,ひとつの疾患であっても時によりいろいろな状況が作り出され,各段階での適切な判断が要求されるので,興味ある疾患でもある.緊急時には耳鼻科のプロ医師らしく迅速な止血処置が要求され,麻酔科的な全身管理も必要になってくる.恒常的な止血を考えるならば外科医師として手術的加療も考えなければならない.出血が落ち着けば,基礎疾患や全身疾患の検索・加療という内科的発想も持ち合わせなければならない.すなわち,各時点で思考過程の基本を耳鼻科・麻酔科・外科・内科と振り分けなければならない(図1).

21.鼻骨骨折

著者: 三邊武幸

ページ範囲:P.186 - P.188

 概説
1.顔面骨骨折の2/3が鼻骨骨折である.
2.原因は交通事故,スポーツが多い.
3.鼻骨骨折は単独の場合,受傷後見落されることが多い.
4.性別では男性に多い.
5.年齢は10代〜20代に多い.
6.診断は,視診,触診,鼻骨単純X線撮影,CTが有用である.
7.早期治療が主要である.

22.急性副鼻腔炎

著者: 野村俊之

ページ範囲:P.190 - P.191

 概説
 急性副鼻腔炎は,鼻腔の急性炎症から引き続き細菌感染となって起こる.また,口腔や歯牙の疾患の2次感染としても発症する.
 副鼻腔からの検出菌では肺炎球菌,インフルエンザ菌,黄色ブドウ球菌,溶連菌が多く,歯性のものでは嫌気性菌も少なくない.
 主な症状では鼻漏,後鼻漏,鼻閉,頬部・鼻根部・前頭部痛,眼痛,頭重感である.

23.鼻アレルギー(治療開始の時期)

著者: 飯塚啓介

ページ範囲:P.192 - P.193

 “先んずればアレルギーを制す”
 学童検診で血液検査,皮内反応,鼻内所見,問診等から鼻アレルギーと診断されるものは10%前後と報告されている.そのうち治療が必要な症例は全体の数%というのが概ね一致した数値である.治療を必要とする基準は,通年性であれば重症度分類で中等症以上,季節性であればシーズン前でも昨年までの既往が参考になる.
 さて.治療が必要となった段階でどういう治療計画を立てるか.これが本論のポイントであり,上記の“先んずればアレルギーを制す”が結論である.治療を早く開始すればそれだけ少ない投薬で症状をコントロールできる.季節性のものではシーズン前からの予防投薬が大切であり、通年性のものでもまず朝の発作を抑えることが,その日一日の日常生活支障度を最小にするポイントである.

24.鼻閉(鼻茸を含む)の治療

著者: 大塚護

ページ範囲:P.194 - P.195

 鼻閉には局所性と全身性に起因するものがある.表1は原因別に,閉鎖型と開放型(粘膜の萎縮による)の分類を示す.

25.急激な視力障害を伴う副鼻腔嚢胞

著者: 山根雅昭

ページ範囲:P.196 - P.197

 概説
 副鼻腔嚢胞の存在によって数時間〜数日のうちに視力低下や視野障害をきたす場合,嚢胞の存在部位は圧倒的に後部副鼻腔が多い.視神経の機械的圧迫によるものが多いが,とくに視力低下が短時間に出現する場合は,感染をも伴っていると考えたほうがよい.視力の予後は,障害発現後の時間経過に左右されるから,出来るだけ速やかに嚢胞の開放と感染消褪を図るべきである.診断にあたって内視鏡下を含む鼻内所見は重要であるが,これのみで診断出来ることは少なく,また危険である.少なくとも単純X線撮影によって副鼻腔およびこれに接する眼窩内側壁,視神経管,頭蓋窩底の状態を確認すべきである.この点CTは極めて有用である.嚢胞の鼻内穿刺排液は外来で容易に行えるが,強い陰圧をかけることは禁忌であり必ず嚢胞壁の一部切除を行い自然排液を促す.抗生物質は嫌気性菌も考慮して投与する.治療は眼科ときには脳外科とも連携して行う.視力回復が得られても外来での嚢胞開放は不十分になり易いため再閉鎖の確率が高い.早期に根治術を計画する.

26.顔面外傷

著者: 調所廣之

ページ範囲:P.198 - P.199

 概説
 原因には交通事故,スポーツ,けんか,不慮の事故などがある.顔面外傷は,機能の修復だけでなく美容的な修復も重要である.耳鼻咽喉科のみならず眼科,歯科・口腔外科,形成外科,脳神経外科などとの協力が必要となることが多い.

27.鼻前庭嚢胞

著者: 坂本裕

ページ範囲:P.200 - P.201

 鼻前庭嚢胞は鼻前庭部に発生する嚢胞性疾患の総称と考えてよい.部位的には大部分が下鼻道前端の鼻前庭粘膜下に存在し,左右いずれかに偏することが多いが正中例,両側例も時に見られる.発見時年齢は20〜50歳台が大多数である.鑑別すべき疾患としては歯性嚢胞(歯根嚢胞,濾胞性歯牙嚢胞)術後性上顎嚢胞等があるが部位,性状などから比較的容易に鑑別可能である.治療としては嚢胞壁全体を含めた摘出が望ましい.

28.扁桃周囲膿瘍

著者: 田中克彦

ページ範囲:P.202 - P.203

 概説
 扁桃周囲膿瘍とは,扁桃の急性炎症が扁桃被膜をこえて進展して扁桃周囲炎となり,膿瘍を形成し,扁桃被膜とその外側にある咽頭収縮筋との間に膿の貯留をみる状態をいう.通常,一側性に起こる.
 扁桃上極の陰窩はとくに深く発達しているため,この部の炎症は被膜と咽頭収縮筋に及び易い.したがって,膿瘍形成は扁桃上窩に多いが,稀に膿瘍が扁桃後部に形成されることもある.本症は成人に多くみられ,小児ではほとんどみられない.

29.反復するアフタ性口内炎(再発性アフタ)

著者: 高橋廣臣

ページ範囲:P.204 - P.205

 概説
 アフタ(aphtha)とは,粘膜における円形ないし楕円系,大きは扁豆大までの境界鮮明な炎症局面で,周辺に潮紅と,表面に白色ないし黄色の偽膜を有する病変をいう1).扁豆大以上のもの,または広範囲に広がったものはびらん性口内炎といい,また深くえぐれた病変は潰瘍と呼び,原則としてアフタから除外する.したがってアフタは一つの症状であって疾患単位ではない.原因として外からの刺激,細菌の播種,アレルギー,白血球減少,ウイルス,原因不明のものなどがある.
 ここで述べる反復するアフタ性口内炎は原因不明の再発性アフタと呼ばれるものを指すと理解することとする.本疾患をアフタ性口内炎とするか,再発性アフタと命名するかは意見の異なるところであるが,同一疾患と御理解願いたい.したがって耳鼻咽喉科医がときに経験するヘルペスウイルス性(単純性または帯状疱疹ウイルス性)のものやヘルパンギーナは含まれない.

30.舌小帯短縮症の手術の可否

著者: 川城信子

ページ範囲:P.206 - P.208

 概説
 舌小帯は舌側歯槽粘膜中央から舌の裏側中央に向かってのびる薄い鎌状のヒダである.この粘膜ヒダが短いときに舌小帯短縮症あるいは舌小帯短小症と呼ぶ.手術は耳鼻咽喉科医によって長い間行われてきたが,最近,短い舌小帯を本当に切る必要があるかどうかについての疑問が小児科医によって出された.そのため,改めて耳鼻咽喉科医の中でも舌小帯の手術について検討され,手術をみなおされなければならないという考え方がでてきた.現在でも舌小帯短縮症の分類,ひきおこされる障害,手術の適応,手術方法については意見がわかれており,産婦人科医,小児科医,助産婦,保健婦,看護婦,耳鼻咽喉科医,口腔外科歯科医がそれぞれの立場から意見が異なっている状態である.われわれの病院で経験した舌小帯短縮症についての調査結果をもとに手術についていかに対処するかについて私見を述べたい.

31.口腔底蜂窩織炎

著者: 中田將風

ページ範囲:P.210 - P.211

 口腔底とは臨床解剖では舌と口底粘膜の下方で,顎舌骨筋より上方の部位である.したがって口腔底蜂窩織炎とは,顎舌骨筋の上方に存在する舌下隙の炎症をいう.顎舌骨筋より下方の顎下隙に炎症があれば,厳密には顎下部蜂窩織炎というべきである.しかし舌下隙の炎症は急激に顎下隙に波及するし,顎下隙から舌下隙にも炎症は容易に進展するので,両者を区別して考える必要はない.したがって舌下隙と顎下隙の両隙の炎症を,臨床上は口腔底蜂窩織炎として取り扱っている.口腔底蜂窩織炎は別名ルードウイッヒ・アンギーナ(Ludwig's angina)とも呼ばれている.

32.唾液腺腫脹

著者: 鈴木晴彦

ページ範囲:P.212 - P.213

 唾液腺の腫脹をきたす疾患内容はさまざまで,治療方針は疾患ごとに異なる.また小児と成人とでもその疾患頻度は異なる.ここではいくつかの代表的な疾患の治療方針について述べる.

33.開口障害

著者: 坂本裕

ページ範囲:P.214 - P.215

 概説
 顎関節の運動障害をきたす要因としては1)急性因子,2)慢性因子に大別し得る.急性のものとしては外傷,感染などで顎関節や側頭窩,翼口蓋窩の筋群に傷害や炎症が及んだ場合で,智歯周囲炎,扁桃周囲膿瘍などでしばしばみられる.稀ではあるが破傷風による急性の開口障害,嚥下障害も忘れてはならない.扁桃摘出術,上顎洞根治手術などの際開口器で過度の開口を強いた後にみられる開口障害もこのような要因による.慢性のものとしては顎関節症として一括される慢性,非炎症性顎関節障害をはじめ腫瘍性(上顎癌の後壁浸潤など)のもの,RAなど膠原病による顎関節障害などがある.頭頸部癌などに対する放射線療法で照射野が咬筋群周辺にかかっていると筋の線維化をきたし開口障害の一因になる.

34.急性喉頭蓋炎

著者: 山本悦生

ページ範囲:P.216 - P.217

 本疾患は,喉頭の急性炎症の一つで,声門に主病変のある急性喉頭炎(図1—b),声門下に主病変のある急性声門下喉頭炎(仮性クループ)(図1—c)に対して,声門上(喉頭蓋)に主病変がある(図1—a)ものである.前2者ほど頻度は高くないが,時々救急外来でお目にかかるものである.

35.声門下喉頭炎

著者: 吉田哲二

ページ範囲:P.218 - P.219

 はじめに
 後天性で喉頭に主在する急激な上気道狭窄を呈する疾患は,一般的に「クループ」と呼ばれていた.その中でジフテリアによるものを真性クループ,非ジフテリア性のものを仮性クループとして区別するようになった.また以前は仮性クループの中には,急性喉頭蓋炎などの声門上部の病変に対しても用いられてきたが,現在ジフテリアを除く声門下の炎症性病変を“いわゆる仮性クループ”として取り扱われている.
 しかし仮性クループに含まれる各疾患は,現在教科書でも統一されていない.ここでは最も一般的に仮性クループとして広く呼ばれている急性声門下喉頭炎について主に述べ,最後に鑑別疾患として急性喉頭気管気管支炎と急性声門下浮腫(アレルギー性声門下喉頭炎)について触れる.

36.咽喉頭異常感

著者: 鈴木理文

ページ範囲:P.220 - P.221

 概説
 咽喉頭異常は主として下咽頭,喉頭付近に自覚される異常な感覚で,局所の異常や,全身疾患における症状の一つとして,異物感,狭窄感,乾燥感,掻痒感,灼熱感などが訴えられる.症状を訴えているにもかかわらず諸検査を行っても,頭頸部はもちろんのこと全身的にも何ら異常を認められない状態を咽喉頭異常感症と呼び,40〜50歳代の成人に多い.
 また本症状は頭頸部悪性腫瘍の初期症状の一つとして発現することも多く,原因となる疾患の有無についての精査および経過観察が大切である.

37.扁桃炎の手術適応

著者: 松元一郎

ページ範囲:P.222 - P.223

 概説
 扁桃炎の手術には 1)咽頭扁桃切除術(アデノトミー),2)口蓋扁桃摘出術,3)口蓋扁桃切除術,4)舌扁桃切除術,がある.
 これらの手術の中で最も頻繁に行われるのは口蓋扁桃摘出術であり,つづいて咽頭扁桃切除術,口蓋扁桃切除術の順に少なくなる.舌扁桃切除術は当院ではほとんど行っていない.

38.手足口病

著者: 伊藤節子

ページ範囲:P.224 - P.225

 手足口病とは英語病名Hand,foot and mouth diseaseの直訳によるが,その名の通り,手,足,口腔粘膜の水疱性発疹を主症状とするウイルス感染症である.

39.クインケ浮腫

著者: 馬場実

ページ範囲:P.226 - P.227

 クインケ浮腫(Quincke edema)は血管神経性浮腫ともよばれ,血管性浮腫の一つと考えられる.クインケ浮腫は蕁麻疹ときわめて近い関係にあり,両者が併存してみられることが少なくない.Quincke (1882年)が“On acute localized edema of the skin”なる論文にて報告して以来,いくつかの報告がみられが,蕁麻疹との病態的,また臨床的な面での異同については,未だ確立された基準はない.

40.咽後膿瘍

著者: 深谷卓

ページ範囲:P.228 - P.229

 解剖
 椎骨前筋膜(prevertebral fascia)と咽頭・食道後壁の筋膜(buccopharyngeal fascia)に挾まれた空間をretropharyngeal space, space of Gilletteと呼ぶ.幼少時期には,この空間に多くのリンパ節が存在し,感染の場となり易い(図1).

41.伝染性単核球症

著者: 柳内統

ページ範囲:P.230 - P.231

 概説
 伝染性単核球症はEbstein-Barr Virusによる急性感染症で,一般に予後は良好といわれている.耳鼻科医を訪れる場合は,他科より急性扁桃炎として加療しているが熱が下らず食事もできなくなってきていると紹介されることが多い.小児の場合は比較的症状が軽く経過することが多く,気づかれないで過ごされる場合もあるが,20歳前後で羅患すると重症感が強くまた合併症を引きおこす率も高いとされている.

42.喉頭ポリープ

著者: 矢島洋

ページ範囲:P.232 - P.234

 喉頭ポリープには声帯結節,声帯ポリープ,ポリープ様声帯がある(図1).声帯結節(特に小児結節)は嗄声の程度が比較的軽く結節もそれほど大きくない場合は音声治療を指導するのみで積極的な治療は行わない.声帯ポリープ,ポリープ様声帯も軽い場合はまずVoice Rest,ステロイドやボスミンの吸入療法を試みる.手術は最近はマイクロサージェリーの発達もあり声帯結節,ポリープ様声帯に対しては主として入院の上,全身麻酔下にラリンゴマイクロサージェリーで摘出しており,外来治療としては有茎性の声帯ポリープに対して局所麻酔下に,間接喉頭鏡を使用してカールライネル型喉頭鉗子で摘出している(図2).

43.頸部腫瘤と対策

著者: 夜陣紘治 ,   高橋宏幸

ページ範囲:P.236 - P.237

 概説
 頸部に腫瘤を認めた場合,それが悪性腫瘍あるいは悪性腫瘍のリンパ節転移でないことを証明するための精査をまず行う.
 悪性腫瘍またはそのリンパ節転移でないことが判明したら,炎症性腫瘤か良性腫瘍かの鑑別を行う.

44.舌辺縁の白色病変

著者: 宮川晃一

ページ範囲:P.238 - P.239

 概説
 舌,口腔粘膜の白色病変は日常診療でしばしば遭遇するものであるが,舌辺縁は舌癌の好発部位でもあることからこの部位の白色病変に対してはより慎重に対応してゆく必要がある.また白色病変の病因は多様であるため治療に対する反応を見ながら検索をすすめていかざるを得ぬ場合が少なくない.

45.声帯白色病変

著者: 金子功

ページ範囲:P.242 - P.243

 声帯白色病変は臨床的には角化症,ロイコプラキー,パヒデルミーなど声帯粘膜の上皮の増生,肥厚を主体とする症変で,前癌状態として扱われている.教科書的にはこれらを総括して上皮性肥厚症と呼ばれるのが一般的になってきている様である.

46.甲状腺腫瘤

著者: 嶋田文之

ページ範囲:P.244 - P.245

 甲状腺腫瘤には,び漫性病変を示すものと,結節性病変を示すものとがある.前者にはバセドウ病,慢性・亜急性炎症などがあり,後者には炎症性疾患(急性,亜急性,慢性)や良・悪性腫瘍がある.内科的治療の対象となるもの(バセドウ病,亜急性・慢性炎症)と,外科的治療の対象となるもの(バセドウ病,急性化膿性炎症,良・悪性腫瘍)があり,またときには放射線治療の対象(バセドウ病や悪性腫瘍)となることもある.

47.声変わり障害

著者: 米川紘子

ページ範囲:P.246 - P.247

 声変わり(変声) mutation of voiceは思春期における第二次性徴の一つである.男子では12〜13歳頃からおこり3カ月から1年以内に完了する.声の変化は男子に著明で,声域の下限,話声位が約1オクターブ下がる.女子では音色の変化が主で,声域は上下にやや拡大し話声位が約2音半下がる程度である.変声期間に嗄声や,喉頭部異常感を伴う場合が多い.これらは,変声期が過ぎれば自然に消失する.
 声変わり障害とは声変わりの経過が異常で種々の音声症状があらわれる場合をいう.喉頭の急激な発育に機能調節がうまくついていけない状態で,いわゆる機能的音声障害と考えられる.変声期の声の乱用,心理的な不安定さも関与しているという.治療は裏声発声を地声に戻してやる発声訓練を行う.予後は良好である.

48.頸部放線菌症

著者: 吉田幸夫

ページ範囲:P.248 - P.249

 放線菌症は,口腔内常在菌の一つであるActinomices israeliiの感染によって起こる慢性化膿性・肉芽性疾患であり,本菌の生息場所から多くは顔面・頸部に発生する.その中でも最もよくみられるのは歯根膜炎や抜歯部位の下顎部,外傷創などである.臨床的には緩慢に板状硬結を作り,炎症が表面に及ぶと皮膚の発赤をきたし硬度を増す.やがて軟化して多発性小膿瘍を形成し,ついで瘻孔を通して膿汁を排出する.病巣内あるいは膿汁中に菌塊(Druse)が認められることが特徴とされる.以前は難治性の疾患といわれていたが,抗生物質の出現以来予後良好となり,症例数も急速に減少した反面,定型的な病像を示すものが少なくなり,かえって診断が困難になった.

49.壊死性リンパ節炎

著者: 甲能直幸 ,   有輪六朗 ,   川井田政弘 ,   中村有邦

ページ範囲:P.250 - P.251

 壊死性リンパ節炎とは病理組織学的に定義された概念である.したがって,その診断も生検リンパ節の組織像において確定される.臨床症状の特徴としては,発熱と疼痛をともなう多発性の頸部リンパ節腫脹である.春から夏にかけて若い女性に好発する.検査成績では,白血球減少,GOT,GPT,LDH,LAPの上昇および血沈の亢進を認めることが多い.病因は感染説,アレルギー説などがあるが,いまだ確立されていない.予後は一般に良好で約1〜4カ月の経過で自然治癒する.

50.喉頭マレーシア

著者: 岩村忍

ページ範囲:P.252 - P.253

 喘鳴を主訴に,耳鼻咽喉科外来を訪れる乳幼児の診察にあたっては,疾患として咽頭軟弱症la-ryngomalaciaを筆頭に考えてゆく.先天性喘鳴患者の60%〜70%が咽頭軟弱症だからである(Holinger,1980).母親から話しを聞く前に,患児が0歳か,1歳以上かという年齢を認知し,顔色が青いか,青くないか,喘鳴が吸気性か,呼気性か,それとも吸呼気の両相か,をうかがう.吸気性喘鳴で顔色も比較的よく,元気そうな乳児(0歳)なれば,喉頭軟弱症としての診断予想は高い.これらの臨床的印象を基盤にして母親から病歴を聴取する.

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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