咀嚼筋間隙の悪性腫瘍
著者:
市村恵一
,
北原伸郎
,
田中利善
,
飯沼壽孝
,
沖田渉
,
小川恵子
,
池田利昭
,
堀内康治
ページ範囲:P.935 - P.941
はじめに
咀嚼筋群,下顎骨(体部後部と下顎枝),関連する神経・血管が存在する領域は咀嚼筋間隙(masticator space)と呼ばれ,深頸筋膜浅層により覆われた構造である(図1)。この間隙は後〜内方で副咽頭間隙,後方で耳下腺間隙,前方で頬筋間隙,下方で顎下間隙と境される。下顎枝を境にして外側を浅咀嚼筋間隙,あるいは咬筋間隙,内側を深咀嚼間隙と分類する考え方もある1)。
従来から側頭下窩と呼ばれてきた部位がある。解剖学(骨学)的には確立した概念であるが,咀嚼筋間隙がどちらかというと画像診断や局所解剖学の側から出てきた概念であるのに対し,手術を中心とする外科学の立場により立った概念といえよう。頬骨弓より下方レベルで,上方は蝶形骨大翼の側頭下面,内方は翼突板,外方は下顎骨,前方は上顎洞後壁で境されるが,当然ながら下方境界がない。包含関係でいえば側頭下窩は咀嚼筋間隙の一部を占める。すなわち,深咀嚼筋間隙の上咽頭部がこれに当たる2)(図2)。同様に,側頭窩は咀嚼筋間隙の頬骨上部を指す概念2)とするととらえやすい。