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雑誌目次

雑誌文献

耳鼻咽喉科・頭頸部外科63巻6号

1991年06月発行

雑誌目次

トピックス 耳鼻咽喉科医のための甲状腺疾患

甲状腺疾患診断の要点

著者: 高橋廣臣

ページ範囲:P.429 - P.435

 I.耳鼻咽喉科と甲状腺疾患
 甲状腺疾患は今まで主として内科と外科で扱われてきたが,頭頸部外科が耳鼻咽喉科に取り込まれるに及んで昨今では甲状腺の腫瘤性疾患がわれわれの外来を受診することは稀ではなくなった。表1にわれわれの病院におおる甲状腺腫瘍の手術件数を示す。約20%がわれわれのもとで手術が行われていることがわかる。またその比率が徐々に増加傾向にあるといえる。
 甲状腺疾患は4〜5対1の割合で女性に多く,また患者が自覚していないことが稀でない。耳,鼻,のどの訴えで来院した患者やのどの異常感を訴える患者でしばしば甲状腺腫瘍が見つかることがある。特に女性に多い。われわれのもとに通院していた患者がふと甲状腺の腫脹に気づき,内科や外科を受診するようなことになると耳鼻咽喉科の鼎の軽重を問われるので要注意である。訴えが何であろうとも殊に女性では念のために甲状腺を触診する習慣をつけておきたい。甲状腺腫瘍はすでに耳鼻咽喉科の疾患であるという自覚が必要である。

甲状腺機能亢進症と低下症

著者: 窪田哲昭

ページ範囲:P.437 - P.441

 I.甲状腺機能亢進症
 甲状腺機能亢進症は甲状腺でホルモンの合成分泌が亢進し,血中の甲状腺ホルモン濃度が高値となって甲状腺中毒症をきたす疾患である。また甲状腺中毒症とは甲状腺機能のいかんを問わず甲状腺ホルモンの過剰に対して末梢組織が反応した結果起こる病態のことをいい,これらの疾患を列挙すると表1のごとくとなる。
 一般臨床ではしばしばこの両者は混同して用いられるが厳密には同一のものを指しているわけではなく,甲状腺機能亢進症は中毒症に包含されることになり,表1の①に属するものである。

亜急性甲状腺炎と慢性甲状腺炎

著者: 真島一彦 ,   海老原敏

ページ範囲:P.443 - P.448

 はじめに
 亜急性甲状腺炎は発熱,咽頭痛,耳痛などを訴え慢性甲状腺炎は頸部腫瘤,前頸部不快感,嗄声を訴えて耳鼻科を訪れる可能性がある。したがって,耳鼻科医もその概要を知っておく必要がある。臨床症状を中心に診断および治療の要点を述べる。

甲状腺分化癌に関する最近の話題

著者: 村上泰

ページ範囲:P.451 - P.455

 はじめに
 甲状腺癌の大多数を占める分化癌は,自然史的にみれば非常に経過の長いslow growingな癌であるが,20〜30年という長い目でみればhighly malignantで,頸部リンパ節転移頻度も遠隔(肺,骨)転移頻度も高率であり,気道浸潤を生じてQuality of Lifeを阻害し,結局予後不良となりうる危険性をもっている。“おとなしい癌”という表現はわれわれ医師が勝手に用いているだけで,これに長期間悩まされ続ける患者の身になってみれば,まことに不適当である。“いい加減”な手術でも術創はきれいに治癒するし,5年くらいは全く問題なく経過するのが常であるから,この程度の“短期的”治療成果を云々することは意味がない。15〜20年後の成績改善へ向けてもっとはるかに遠視眼的に見直してみる必要が生じたことを出発点として,視点を変えた統計処理がなされ,基礎臨床両面から検討し直された結果,いくつかの問題点が浮き彫りにされてきている。
 ここでは詳しい理論は述べない。日常臨床で甲状腺癌を取り扱うしでの実地に即した問題点のいくつかを拾って現代に即した解説を試みることとする。

甲状腺手術のポイント

著者: 内田正興

ページ範囲:P.457 - P.462

 はじめに
 各種甲状腺疾患に対する手術は従来は一般外科で取り扱われており,耳鼻咽喉科医が行うことは比較的稀であった。しかしながら耳鼻咽喉科の枠を越えた頭頸部外科の急速な発展とともに,甲状腺の手術もまたわれわれの守備範囲となりつつある。このことは頸部手術に慣れているわれわれが手術を行うという意味で極めて良いことではあるが,ホルモン産生の臓器の手術という点で,まだ多少の躊躇があることも事実であろう。
 しかしながら実際には,甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に対する手術の場合を除けば,体内の甲状腺ホルモン量の変動に伴う緊急対処の必要性ははなはだ稀であるので,恐れずにもっと積極的に甲状腺手術に取り組んでもよいのではなかろうか。

目でみる耳鼻咽喉科

声帯嚢腫

著者: 古川浩三

ページ範囲:P.426 - P.427

 喉頭に発生する嚢腫は,多くは喉頭蓋付近にみられるものであるが,声帯に発生する声帯嚢腫も時々みられる。発生頻度はラリンゴマイクロサージェリーの約3%である。
 表面平滑な粘膜下に緊満する腫瘤を認めれば診断は容易である。色調は黄白色から白色,もしくは透明にみえるものもある。

原著

めまいを主訴に耳鼻咽喉科を初診した転移性脳腫瘍の1例

著者: 石塚洋一 ,   木村元俊 ,   前田秀彦 ,   賀古真

ページ範囲:P.463 - P.468

 はじめに
 耳鼻咽喉科領域で取り扱うめまいの原因疾患としては,末梢前庭性疾患が多くを占めている。しかし,めまいを訴える患者の中には,ときに中枢性障害による疾患も含まれており,末梢性,中相性の両面からのアプローチが常に必要になってくる。
 今回われわれは,回転性めまいを主訴に耳鼻咽喉科を受診し,末梢性疾患を考え,検査を進めたが,その後の眼振検査から中枢性疾患が疑われ,頭部CT scanを行ったところ多発性転移性脳腫瘍が発見され(原発巣:肺のadenocarcinoma),初診から3カ月半で死亡するという急激な転帰を示した1例を経験した。

嗄声を主訴としたWerner症候群の2例

著者: 太田豊 ,   高橋博文 ,   堀越秀典 ,   山本昌彦 ,   小田恂 ,   権丙浩 ,   廣瀬肇

ページ範囲:P.469 - P.473

 はじめに
 1904年にキール大学の眼科医,Werner1)は,早期老化現象を主徴とする,強皮症様皮膚変化などを合併した若年性白内障の症例を発表した。のちに1934年になって,Oppenheimerら2)がこれらの症候に骨粗鬆症,高血糖症,生殖器機能不全などの症候を加えWerner症候群の名を冠した報告を行った。さらに1945年にはThannhauser3)により,また,1953年にはIrwinら4)によってその主要徴候が詳細にまとめられた。このなかには高調嗄声(weak and high-pitched voice)が含まれているが,これは全身疾患であるWerner症候群の一部分症にすぎず,他科領域の症状が初発症状となることが多いため,患者が最初に耳鼻咽喉科を受診することは稀であると考えられる。
 Werner症候群は本邦でもすでに200例あまりが報告されているが,最近では老化現象解明の手掛かりとして注目されており,DNAレベルでの研究5,6),免疫能からの研究7)などが報告されている。

顎下腺摘出後の味覚性発汗症例

著者: 松山浩吉 ,   井野千代徳 ,   渡辺尚代 ,   川崎薫 ,   本田啓二 ,   牛呂公一 ,   山下敏夫 ,   熊沢忠躬

ページ範囲:P.475 - P.478

 はじめに
 味覚性発汗は一般的に耳下腺の手術や外傷の後でみられ,フライ症候群として知られている。摂食時に耳介前部と側頭部の発汗と紅潮,不快感を伴う。症状発現時期は,耳下腺の手術や外傷後数カ月より数年と種々であり,更にその原因として神経再生における皮膚神経と唾液腺支配の自律神経との誤短絡が考えられている。この味覚的発汗は普通耳下腺領域にみられ,同じ大唾液腺でも顎下腺領域にみられることは極めて稀で,本邦での報告はみあたらない。
 今回私達は顎下腺摘出後に同側顎下部皮膚に限局した味覚性発汗を経験したので,若手の文献的考察を加え報告する。

甲状軟骨の特異な破壊を示した炎症型悪性線維性組織球腫の1症例

著者: 沖田渉 ,   山根雅昭 ,   市村恵一 ,   飯沼壽孝 ,   田中利善 ,   小山和行

ページ範囲:P.479 - P.484

 緒言
 悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histio-cytoma,以下MFH)は1970年代までは組織球由来の稀な腫瘍とされていたが,今日では軟部組織由来の肉腫の中では最も頻度が高いものとして注目される1〜3)。最近われわれは特異な甲状軟骨の浸潤,破壊を呈し,診断,治療に苦慮したMFHの成人例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

落雷による聴器障害11例

著者: 加藤洋子 ,   飯野ゆき子 ,   鳥山稔 ,   新井景子 ,   馬場道忠 ,   田中正美 ,   田中博美

ページ範囲:P.485 - P.490

 はじめに
 落雷事故による障害には,電撃傷(感電して人体におこる障害),爆風で地面にたたきつけられるなどで生ずる頭部外傷,聴器外傷,事故のショックからの心因性影響などが挙げられる。今回われわれは,1990年5月15日埼玉県下で発生した落雷で受傷した11例の聴器外傷を経験した。11例のうち2例はいわゆる電撃傷を伴い,残り9例は電撃傷を伴わず聴器外傷だけであった。貴重な症例と思われるのでここに報告する。

咽頭アミロイドーシスの1症例

著者: 角田浩幸 ,   橋本循一 ,   千葉恭久 ,   加納有二

ページ範囲:P.497 - P.501

 はじめに
 アミロイドーシスはエオジンで均質に染まるアミロイドの細胞外沈着を本体とする疾患で,全身性と限局性に大別される8)。限局性アミロイドーシスのうち上気道に限局したアミロイドーシスは,1875年にZieglerやBurowによって報告されて以来いくつかの報告がある1)。ところが,咽頭に限局したアミロイドーシスの報告は少ない2〜5)。今回,われわれは咽頭に限局し,悪性腫瘍との鑑別が必要であったアミロイドーシスの1例を経験したので報告する。

鏡下咡語

世界難聴予防計画Global Ear Care巡礼—コーラン—カルバン—パゴダ

著者: 鈴木淳一

ページ範囲:P.494 - P.495

 トルコ・イスタンブールは,西洋史ではよく知られているが,訪れたことのある人は意外に少ないようである。黒海と地中海を結ぶBosphorus海峡とMarmara海が,アジアとヨーロッパを分けをている。ビザンチウム・コンスタンチノープル,そしてイスタンブールという名前の変遷は,地理的条件を反映した歴史の変遷をそのままに物語っている。イスタンブールは,とくに旧市街は,イスラム教のモスク,それにコーランの祈り声で満ち溢れている。
 この地で,1993年5月第15回世界耳鼻咽喉科会議が開催されるので,その2年前に恒例のIFOS(国際耳鼻咽喉科学会連合)の準備会議がもたれた。歴史的地理的景勝の地イスタンブールは,世界会議開催にまことにふさわしいのであるが,多くの参加者を常時会議場にひきつけることが出来るかどうか,これが学会組織委員会にとって最大の関心事と思われる。世界耳鼻咽喉科会議の会長はOhan Sunar教授,小柄で温厚,今年の日耳鼻総会に招かれているので,日耳鼻会員とおなじみになることであろう。日本から多くの参加者が学問的にも経済的にも求められるのは最近の国際会議の常であるが,トルコは,特別に親日的でもあり,2年先きの会議を彼我ともに楽しみにしていてよいであろう。

基本情報

耳鼻咽喉科・頭頸部外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1316

印刷版ISSN 0914-3491

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